[×日前]





―損得抜きの関係なんてありえねぇ


それが、俺なりの持論で経験則だ





大概のモンは金で何とでもなる


命も時間も、目に見えない感情やらも
相応の労力や対価さえあれば 手に入る





買い手と売り手がいるなら当事者同士
求めあうってーのは自然の摂理っつーヤツで





慈善家にしろ親子にしろ そう言った連中も


自分より力のない　好き勝手出来る対象を
保護してやる事で

自尊心やら地位やら 満足感やら得てやがるワケだ





まあ…そいつは別に悪い事じゃあない


弱い奴はそうやって強い奴を利用して護られる事で
相応の見返りを得られる


いわば利害関係の一致ってヤツだ







まったくもってこのクソッたれな世界を
よーく表してると思わねぇか？どっかの誰かさんよ







「ようモール！
今度の仕事（ヤマ）、少しは歯ごたえあんだろうな？」


『ペンタゴン並みのウォールを現在進行形で攻略してて
そいつぁ傑作だな！』


「あ゛ー？あんなチャチなガキくせぇダミーで
客寄せやってる五角形を引き合いに出すんじゃねーよ」





口の端で上下に動かしてたタバコを灰皿に押しつけ


専用ラインでの通話の片手間


両手はキーをひたすら叩き、厳重にガードされた
最後のロックを解除していく





「今やってんのももうすぐ終わるから
アンタは金と次のステージの用意を頼むぜ？ヒヒッ」


『あいよ、ついでにお前さんのビッグマウスに合う
故郷のコメやスシでも送ってやるよ』


「いらねぇよそんなモン　ガラでもねぇ」


ため息交じりに吐き捨てて通話を切る





血の半分がそうでも、あの平和ボケした上に
あちこち腐った国を恋しいとは思わねぇ





…まあ国なんてもんは大概どっかしら腐ってるもんだが


それはそれで利用できるから

俺が損するんじゃあなけりゃ最終的にどーでもいい







無事にデータを抜き出し終えたし


新たに一服しつつ後始末をして

依頼主にデータを暗号化して送って、一息





「さーてと…栄養剤でも注文しときますかね」





その前に寝んのが先…いやまず便所だ


無駄に面倒なシステムだったから、ほぼ五日
ぶっ通しで画面から目ぇ放せなかったしな





ひとまず出すもん出しきっちまって


座りっぱなしで痛むケツと肩を揉みながら
なんとなく部屋を見渡す







薄暗い室内をぼんやり照らすモニターの光





デスクはパソコン機器と吸い殻の山で埋まりかけた
灰皿代わりの空き缶と栄養剤のビンで占拠され


床にはそこかしこに転がるビンや缶や

食いカスがついたデリバリーのゴミ山だらけ


でもって更におなじみの黒い虫どもがファミリー単位で
それらの合間を我が物顔で這い回り

今日も命を繋いでいる





うーん、いつも通りの光景だ





「しっかしそろそろ捨てるかな…」





いい加減クセーしゴキどものコロニーが出来つつあるし
ネズミまで出たら配線かじられかねねぇし





…そろそろ俺もシャワー浴びとかねぇとかじられるかも







まあ、まだ時間はあるしひと眠りしてからにするか











【 ＧＡＭＥ　ＳＴＡＲＴ 】