【 ― チャプター1 ― 】








強烈な胸の痛みで 目が覚めた





「っつ…」





まず視界に入って来たのは、手の平サイズの眩しい円と
そいつを囲むやたら険しい土の壁


てーかデケェ穴か?今いるのは


身体を起こしつつ状況確認





やたらと高い穴ぐらに落ちて 下敷きにしてんのは
黄色い花畑…クッションにしちゃ頼りねぇな


目の前にはぽっかりと開いた横穴が一つ

なんとも現実味のねぇ空間だ





しかも、おかしいのはそこだけじゃあねぇ





着ていたTシャツもボーダーじゃあなかったし

ジーンズも半ズボンに変わってやがる


見える腕も足もやけに短いっつーか小さい


視界だっていつもより格段に低い あと何か見づらい





「なんだこれ」





立ち上がって辺りをうろつくついでに壁を触ると
中々にリアルなざらつきが手に伝わってくる







上から差し込む光は地上のモノらしいが


かなりの高さがあるせいか、這い上がるのは
この身体でなくても不可能だ





通信器具の一つでもありゃSOSでも入れて
救助を待つのが無難なんだが…


どうも俺は手ぶららしく 何一つ持ってねぇ





こりゃアレか?夢ってヤツか


実はアナタは異世界から呼び出された救世主なのです!
ってか?

ワーオ、三流ライターの殴り書きみてぇな展開だー







…一度ばかり元の位置で寝直しちゃあみたが


寝付けるワケもなく ただただ時間だけが過ぎた





「じっとしてても始まらねぇな」





現状把握にしろ食料探しにしろ脱出にしろ
まずは動かねぇとラチが明かない


もう一回起き上がって横穴へと移動して





どん詰まりに付けられてた、どことなく見覚えのある
扉を開けてみた直後





「ハロー!ぼくはフラウィー
お花のフラウィーさ!」



顔がついた黄色い花に話しかけてきやがった







一体どんなファンタジーだよ?疲れからの幻覚か?
ヤクをキメた覚えはねぇハズだが





「キミは…この ちていのs、てちょっと!
なんでトビラ閉めてんのさ!?


「あー悪いなんとなく」





改めて扉を開けると、妙な風が吹いて花のいる方へ
押し出されてちょいとコケそうになった


すぐさま後ろの方で扉が閉まる音





ったく手間取らせんなよこほん!
キミは…この ちていのセカイにおちてきたばかりだね?」





ほんの一瞬 ファンシーなツラに似合わねぇ毒を
吐き出して花はうねりながら言葉を続ける


…ってコイツ、どっかで見たコトあんぞ?





「そっか じゃあ さぞかしとまどってるだろうね
このセカイのルールもしらないでしょ?」





ああ思い出した、あのゲームのど初っ端に出て来る
あのクソったれ花じゃあねぇか


相変わらずべらべらムカつくしゃべり方しやがって





「それなら ボクがおしえてあげよ「結構でーす」





ワザと遮るように言ってやると


あからさまに"何言ってんだコイツ"ってツラに変わる





「まったくレイギしらずなヒトだなぁ、でも
エンリョしなくていいよボクのシンセツってヤ
「丁重にお断りしまーす」





おいおいファンシーっぽいキャラはどうした?

赤ん坊も泣くコワーいツラになってんぞ





「いちいち余計なクチはさみやがって…
とにかく!ジュンビは いい?いくよ!





苛立ち交じりにクソ花がそう告げて


予想通り、米粒だか弾だか分からんもんを
俺に向けて吐き出してきやがった





数はやたら多かったが速度はそう早くもなかったんで


方向を予測して横に動きゃラクに回避できた







「おまえ やっぱり知らないフリしてるだけだな?」


いや、お前みてぇなのを初っ端から信じるなんて
それこそ頭ん中が花畑なヤツぐらいだろ


一応はクソ花の動きに気を付けつつ横を通って先の扉に





ちょっ、ムシすんな!バカなの?

まだまだ本番はこれからだよっ!くらえ!!


【*たくさんの カプセル状の白い弾丸
際限なく現れてはアナタへ向かって襲いかかる】





うっひゃーアブね、インドア派にゃキツい洗礼だぜ


なんでゲームみたいな展開になってんのか知らんが

どうにかあの弾幕をやり過ごせる方法はねーもんか


出来ればこう、弾跳ね返すか打ち返して
クソ花にぶち当てる方向希望





「って!」


【*足元を掠めた弾が アナタの足を転ばせる】


あはは!足元に注意しないとダメだよぉ?」





くっそ腹立つ

どっかにバットか代わりになりそうなもんでも







…と何気なく地面を探ってた指先に 何か当たった





「マジかよ」





そこには何でか知らないが
ガキ用のバット(プラスチック製)が転がっていた


迷わず拾うと懲りず俺へ向かう弾幕に狙いを定め―





「かっ…飛べぇぇぇ!!





【*スレスレで弾をかわしながらアナタは
飛んできた数発の弾を バットで打ち返した





どぇえぇ!?
ウソだろタマを打ち返すなん…ふぎゃっ!


よっし!クソ花の顔面ど真ん中に
お返ししてやったぜ ざまあみろ!!





【*ニヤリと笑ったアナタが その場を後にしようとする】


「それじゃーもう行ってもいいかな?
チュートリアルご苦労さん





そう言ってやった直後





「ボクのコト、バカにしやがって…」


プルプルと震えたクソ花が 気色悪い顔で俺を睨む





「死ね」







【*強いプレッシャーが アナタの動きを鈍くする】





うーわ、何だこりゃ


妙な動きづらさに加えて、みっちり囲んだ白い弾丸が
こっちを押し潰そうと迫って来やがる





展開自体は知っちゃあいても平面とVRじゃ
見え方が変わるな いやVRでもねぇが





「おいおい、大人げねぇヤツだな…」





弾のわずかな隙間越しに見えるクソ花が
勝ち誇ったようにゲラゲラ笑っていやがる


あのツラにバットでもお見舞いしてや…

ん?何だこりゃっ!





【*アナタが手にしていた;。@・:$&%は
不可思議にうねっている】






夢だからってそりゃねえだろ、まさかモニター無しで
リアルモザイクの実在を確認する羽目になるとは


いやそれより弾丸がもう目と鼻の先だ


こうなったらイチかバチかこのモザイク物体投げつけるか?

と覚悟を決めた次の瞬間





「うわぁぁっ!?」





横から飛んできた火の玉がクソ花を吹っ飛ばした


俺に迫ってた弾丸も一斉に消える





なさけけないわね
罪もない子供をいじめるなんて…」





【*アナタの目の前には 山羊のようなツノを持ち
白い体毛と不思議な衣装が目立つ人型のモンスターがいた】


「こわがらなくても大丈夫よ
わたしはトリエル この遺跡の管理人です」






お、お助けキャラにしてチュートリアルその2
過保護な山羊ママご登場だ


あとどっちかってーとおちょくってたの俺だけど





「毎日 ここを見回って
落ちてきた子がいないか確認しているの」


「子供ってアンタ…まあ助かったよ」


どういたしまして
それにしても人間がこの世界に来たのは本当に久しぶり」





そうそう このセリフも伏線なんだよな
こうして聞くと案外思い出して来るもんだ





さ、行きましょう!遺跡を案内してあげるわ」





言いつつ奥の方へと歩き出す山羊ママに
ひとまず付いて行きながら


あのクソ花にトドメ刺しとくか、と

降ろしてた手を見て…ギョッとした





【*アナタの手にあるのは 何の変哲もない
一本の木の棒だった】






どっからどう見ても ただの木の棒にしか見えねぇ







…まあいい、クソ花もどっか逃げちまってるし
こうなりゃ起きるまで成り行きに任せますか





「こっちよ…大丈夫?なんだかフラフラしているわ」


「ああ、うん大丈夫大丈夫
ちょっとビックリすることが多かったから」







【*アナタの目の前には そびえ立つ遺跡がある】





「さあ、あなたは今日からここで暮らすのよ」


うれしいねぇ〜夢だってのに頭がクラクラしそうだぜ





「遺跡の仕掛けについて教えておくわね」





遺跡お馴染みの侵入者撃退用トラップ…もといパズル
行く先々の部屋で仕込まれてて


一々解いていかねぇと通れないそうだが





ご丁寧にもヒントが同じ部屋に堂々とあるわ





「この先へ進むには正しいスイッチを押さないといけないの
でも大丈夫、ちゃあんと印をつけておいたから


これでもか!ってぐらいマーキングされてるわで台無しだ





「…楽だから助かるけどな」





呟きつつ次の部屋へ行くと


モンスターに襲われた時の対処法として
そこにあるマネキンへ話しかけろと言われた





大丈夫!とっても簡単ですからね」





ひとまず頷いて マネキンへ話しかけるだけの
簡単なお仕事を始め―







【*アナタの視界が 一瞬だけ捻じれる


目の前のマネキンが

その捻じれに巻き込まれたように見えた








何だ今の


…まばたきしても、俺の他にはニコニコした山羊ママと
マヌケなツラしたマネキンだけが突っ立ってる





さっきのバットといい 相当疲れがキてるらしい


こないだのヤマ、そんなデカかったっけか?





「気まずいのかしら?それならとっておきのダジャレ
あるから、それを言ってみたらいいわ」


「いいよ 話しかけてみる…はじめまして?」





【*会話は 弾まなかった】





マネキン相手じゃ当たり前だが、それでも
山羊ママは満足したらしく次の部屋へ引っ込んでった









【*アナタは 長い通路の端までたどり着いた】


よく出来ました!安心してちょうだい
置いて行ったりしないわ

この柱のカゲに隠れて見ていたのよ

…私を信じてくれてありがとう」





第一村人ならぬモンスターのカエルを眼力で追っ払い

トゲ床パズルも手を引いた山羊ママの
唐突なテストに合格し





「ワタシはちょっと用事があるから
お留守番していてね」





危ないからここで待て、と言われて

俺の手に渡されたのは携帯だった





「用がある時はそれで電話するのよ?」


【*トリエルは それだけを言うと
そそくさと通路の奥へと消えていった】







形としちゃガラケーか?にしても長い夢だな





こういう時こそタバコが欲しいが


都合よくタバコとライターが転がってねぇもんかなー
どうせ夢なんだし





…んで、ちょいと先に進むと左右に分かれ道で


すぐ左手側は部屋になってて行き止まり





「ケロケロ…ケロケロ…
右上の>>は文章のスキップ、ケロ…」





すぐ側にいるカエルっぽいのが意味不明なコト
呟きつつひょこひょこ動いてんのを
横目に右側へ首を動かしゃ これまた長い通路と


【*道を確認した直後 アナタの携帯が鳴った】





もしもしトリエルです
お部屋から出たりしていないわよね?』


「うん」


『その先には、まだ説明していないパズルがあるの
一人で行くと危ないですからね お利口さんに』


【*受話器の向こうから 犬の鳴き声が聞こえる】


あ!コラそれ持って行っちゃダメでしょ!帰しなさい!
…とにかく、大人しく待っているのよ?』


そこで通話がプツリ…向こうはお取込み中ってトコか





あっちの都合に動いてやる義理もないワケだし、と

カエル無視して まずは左の部屋へ





【*深く大きな両側の溝には たくさんの水が流れている


部屋の奥にある台座には「おひとつ どうぞ」と書いてある

キャンディをひとつもらう?】





ガキんちょが楽々手を伸ばせそうな台座に
山盛りの棒付きキャンディー


罠クサさ満点なんだが ねぇよりマシか





【*アナタはキャンディーを持てるだけ握りしめた

おぎょうぎもへったくれもない…】





一つを咥える…思ったよりクセがある変わった風味だ


中々面白い味だが どうせなら甘味より辛みだな

悪魔の舌は流石にキツいが せめてハバネロぐらいは
辛みがねーと物足りねぇわ





【*物思いにふけりつつ アナタはふと
台座の近くを流れている水へ目を向ける】





「誰だこれ!?」





危うく口に入れてるアメを落としかけるトコだった





水に映る俺の顔は糸目で
目の下のクマがきれいさっぱり消えちまっている


髪も伸ばしっぱなしの金髪じゃあなく茶色っぽいおかっぱ







…なるほど、あの山羊ママの台詞も納得だ


ここじゃ俺の姿はあのゲームのプレイキャラ
そのままになっちまってるらしい





まあ夢とはいえVR越えのリアル感が味わえる
なりきり体験は貴重だ、ここは楽しんどくとするか












[     LV1   ■■■■


    遺跡の入口  ]