いい具合に日が陰った夕暮れ時に





「本日はみなさんお集まりいただき、真に
ありがとうございます」





様々な面子が並ぶとある一室を前にして


ロウソクを微妙な位置に手にして山崎が
淡々と言葉を紡ぐ





「それでは早速、第一回真撰組主催
百物語大会をここに始めたいと思います!!」


『おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!』





彼らの声が空気を震わせて


床で揺らめく無数のロウソクの炎が
妖しげな黒い影を壁や天井に浮かび上がらせる







どこか儀式めいた空間の中で





「何でこんなのに参加してるんだろ俺…」





やや沈んだ面持ちのが呟くと





「あに言ってんだ、元はと言えばテメーらが
原因だろーがよぉ」


「お前が言うか万事屋」





負けず劣らず暗い顔の銀時と土方も続く











「怪談の怖さは中身より語りの上手さ」











「ちょっと黙っとけこのヘタレマヨラー!」


あんだと!ならテメェはウンコたれだ!!」







一週間前 路上にもかかわらず火花散る口ゲンカを
繰り広げた銀時と土方の姿を見かね





「小学生かよあんたら…」





呆れ混じりにが声をかけた







「んだよ、相変わらずお手々繋いで
デートってかバカップル」


「全くうらやましい身分だなオィ」


「機嫌悪いからってモテないジェラシー
こっちにぶつけるの止めてもらえます?」


ちゃーん、それ言うの止めてくんない?
少なくともこのマヨ狂よりはモテるからオレ」


「寝言言ってんじゃねぇぞ天パ教!







放っておけばまたぞろケンカを再開しそうなので







「ハイハイ…で、今回は何でまた
ケンカしてんだ?」





宥めながらもは理由を問いかける







…要約して話すと ケンカの原因は普段と
ほぼ代わりが無いので割愛させていただくが







そこから発展した口論の論点が


"どちらが肝が据わっているか"になり





互いに意地を張り合って、ああなったそうな







「騒ぎん時ビビリ倒してたお前よかオレの方が
確実に肝は据わってると思うけどな!」


あん?あん時テメェの方がビビってたろ!
オレぁ知ってんだぞ!!」


「すいません、それって…」





上げかけたの手を、やんわり掴んで
首を振る





「聞かないでやれ あの二人は
その件の事を気にしてんだから」


「どうして?」


「それはな…」







こっそりと彼女に聞き取れるレベルで
伝えられたのは







以前、ちょうど今くらいの時期に





屯所で起こった怪事件の概要と顛末


…及び、二人のヘタレっぷりだった







「何それ いい年してお化けが怖いなんて
情けないわね、二人とも」







がそう呟いた途端





銀時と土方の表情が臨戦態勢になる





「んだとぉ!そーいうお前の彼氏もいい年して
ドラキュラ苦手のダメ大人だろーがぁぁ!」


「は、あんなモンが怖いたぁ
大層なアメリカの英雄じゃねぇかよぉ」


のこと悪く言わないでよヘタレ侍達!
言っとくけど彼が本気出したらドラキュラだって
お化けだって一撃必殺なんだからね!!」


「いやいやいやちょっ待てっ!!」







彼も巻き込んでのケンカが白熱しかけた所で







「ほーそいつぁ面白ぇや、どうです旦那方
ここは一度 互いの肝を試すってなぁ?」





ひょっこり現れた沖田が百物語の開催を提案した







「お、オレぁ別にそーいう催し嫌ぇじゃねぇよ?
むしろ千物語でもいい位だぜ」


「あああ甘いなオレは一万物語でも構わねぇよ」


「どれだけ物語増えるのよ…私達もやり方を
教えてもらえれば特に依存は無いわ」


「え、俺の意思は?完全無視?」





その場のノリと互いへの意地で三人は話を呑み







それから、どういう手回しをしたのかは
分からないけれども


とにかく屯所の広い一室を借り切っての
百物語が開催される事になり





各自が適当な参加者を募って







……現状と相成るわけである









「みなさん確認してはいると思いますが
もう一度簡単にルールを説明させていただきます」







司会兼解説の山崎が語るには





やり方は通例の百物語と変わらず


一人が怖い話を語り、終わったら置いてある
人数分のロウソクを一つとって吹き消すやり方だ







但し 沖田がワザワザ絡むくらいだから
それだけで済むはずも無い







話に悲鳴を上げたり恐怖を感じた人間を
大体の基準で司会者が計測し…







「その人数によって順列をつけさせていただき
一番怖い話をした人へ、ドベの人が望みのものを
プレゼントする形式にさせていただきます」





とまぁ、そーいう一種ありがた迷惑な特典が
ルールに追加されている









「それにしても…こんなのに結構人が
集まるもんなんですね」





ほぼ見慣れたメンバーで構成された会場を
見回しながら、新八は言う





「ったくヒマな奴等が多いもんだ…
そういや、の奴がいねぇな?」


あら?ちゃんも誘ったんですか?」


「こないだ道で会った時に誘ったネ!」





アイツ目ぇ輝かせたネ!ととても楽しげに
妙へと告げる神楽と裏腹に


が重苦しい顔で眉根を寄せた





「…心配だ アイツの事だから
今頃一足先に三途に行ってたりして」


「やだ、わざわざ雰囲気を盛り上げるのに
そんな冗談言わなくたって」


さん それは多分冗談じゃない」


「え…九兵衛さん、それってどういう」





訊ねた彼女の言葉を遮って







ちゃんはお兄さんの用事が終わり次第
こっちに来るから遅れるってさ」







やけにあっさりと 長谷川が答える





「何で知ってるねマダオ」


「や、ちょーど会場来る途中で顔合わせたからさ」


「てーかさ、オレ長谷川さん招待した覚え
全然無いんだけど…新八が呼んだのか?」


「いえ 僕は姉上にしか話してません」


「私も知らないネ、誰アル呼んだの」


「…あれ?何そのみんなの視線?
オジさん目から汗が出てきたよ」







半泣きになる長谷川を他所に、
少し離れた所にいた海賊姿の桂に気付いた





「ちょ…桂さんは誰に招待されたんだよ!?」


「桂じゃない、キャプテン・カツーラだ
何…オレも怪談の一つや二つ心当たりがあってな」


「もしかして 長谷川さんを誘ったのも?」


「……いや、それは覚えがない」





瞬間 彼は改めて涙目の長谷川に同情した











何はともあれ百物語大会が始まると







「さて、まずはこの歌舞伎町に伝わっている
ある都市伝説を教えようかねぇ…」





ガヤガヤと騒々しかった雰囲気も


トップバッターのお登勢から順に参加者が
話を語る内 徐々に不気味な静けさへ取って変わる







「おや土方さん、顔色が悪ぃようで?」


あ?こここんなモンだろ元々 それよりここ
隙間風が寒いらしいな…万事屋が震えてるぜ」


「こここコレはちょっと足痺れただけだっての
ロウソクだらけで暑いから隙間風上等!
返って涼しいくらいだよオレぁ?」


「今夜は熱帯夜だそうですよ銀さん」







語りに何人かが顔を青ざめさせたり小さく悲鳴を
上げたりとそれらしい反応を見せ







「こういう話も…かなり怖いものがあるんだな」


「そ、そうね…侮ってたわ」





もまた、話の内容によって
僅かに反応を見せたりしていた









「私はそこで、聞いたんですよ…すると
男は何と言ったと思います?」





かなり久方振りの登場になる
稲○淳二似の隊士による情感たっぷりの語りに


会場の空気に息を呑むような緊迫感が漂い…







「…それから毎年 変わらずに岬に男は
現れて呟くそうです「迎えに来たよ、遅れて」







言葉半ばでいきなり襖が勢いよく開かれ





「遅れてすまなんだぁぁぁぁ!」


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』





響いた声に全員が悲鳴を上げて飛び退いた







ってかよ!
なななななな何驚かせてんだバーロー!」


「何を言う お主らが勝手に驚いただけだ」







声を裏返らせた銀時に対し無表情で返すだが





「いや、今のは僕らが悪いからね」


「そうか…すまなんだ皆の者」





後ろから現れた兄の一言に、あっさりと
態度を翻して謝った







「しかし、さんがこういうモノに
参加するなんて珍しいな」


「僕は興味なかったんですけど、
どうしてもって言うので…」


「あら、怖いんでしたらお帰りになったら?」


「ちょっお妙さん…」


「とんでもない 僕はお化けや怪物なんて
信じないので平気ですよ?」









妙の皮肉を笑顔でさらりと受け流しながら
まだ怯える銀時や土方、達を一瞥し





「逆にそちらの方こそ僕の持ちネタに
卒倒したりする前に退散した方がいいんじゃ…


ああ失礼、お妙さんやさんなら
そこで怯えてる殿方達より神経が丈夫そうですね」







くすりと優雅に笑ったの一言に





血管が切れた音がしたのは気のせいではないだろう







「あん?ケンカ売ってんのかこのカマ男がぁ!
上等じゃコルアァァァァ!!」



「そっちこそや私の話に怯えて
夜眠れなくなっても知らないわよ!!」



「面白い…久々にとっておきのネタで
勝負してあげますよ!!」








激烈な女二人と強かな乙面の間で





まさに性別を越えた闘いが幕を開けた









「おお、やる気満々ですな兄上!
私も負けてはおられぬ!!」







険悪さすら垣間見える波乱たっぷりの空気を
まったく読めないその発言に





「「うん お前もうしゃべるな」」





銀時とがシンクロでツッコんだ








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