最北端にポツリと点在する無人島 リーム
立ち寄る者のほとんどいない、島の森の中には
石榴とルーデメラ そしてカルロスの三名がいた
「気をつけてよ船長さん その実は千年に一度
一つしか生らない貴重なモノなんだから」
「分かっている」
彼の手には、側の木からもぎとったばかりの
妙な形をした木の実がある
それを見つめるルーデメラの声に
普段にはない気の高ぶりが伺える
「ふーん、これがリスタの実ねぇ」
見やすいように下げられた手から、石榴が
木の実を手にとって まじまじ見つめる
「そんな珍妙な実の為にワザワザこんな
魔物だらけの島に寄ったのかよ」
「半分はね、けどまだ半分残ってるんだから
気を引き締めないように まずは洞窟を」
唐突に響いた銃声と、石榴の手の中にあった
リスタの実が砕けたのはほぼ同時
零れ落ちた実の残骸を唖然と見つめる三人の前に
「あっゴメンねぇ〜、もしかして弾当たった?」
「だから言ったじゃないですかさん!
試し撃ちは範囲に人の有無を確認してからの方がいいって」
言い合いながら二人の人影が近づく
一人は桃色の髪をひとくくりにし、黒い服と
淡い色のズボンの上に茶色のコートをまとっており
笑う彼女の右手に握られた銃から煙が尾を引いている
諌めるもう片方は、ゆったりとした上着と首元にマフラー
背に負う荷物とは他に 腰に刀を差していて
目の色も、右が緑で左が青 少し青みがかった黒髪の少年
彼らに視線を向けて、微笑みながら進みでて
「君 意外といい腕前をしてるねぇ」
ルーデメラが言うと、立ち止まった二人のうち
桃色髪の女が紫色の目を光らせて言う
「でしょ〜、アンタけっこういい人だね〜」
「でも、運はここで切れたみたいだよ」
続くその言葉に、二人が首を傾げるが
背後に佇んでいた石榴とカルロスは
ルーデメラから滲み出る途方もない殺気に
少しずつ後退さりを始めていた
「永遠に眠る覚悟は出来てるかい?」
「「そこの二人 逃げろぉぉ!!」」
攻撃呪文の爆音と悲鳴が、しばし森中を駆け抜けた
〜No'n Future A 番外 「幻の魚 発見記」〜
「ゴメンなさいゴメンなさいもうカンベンしてください」
あちこちを焦げ付かせた二人のうち、桃色髪の女は
地面に倒れ伏したままピクリとも動かず
隣の黒髪は地面でデコを削るように平身低頭
徹頭徹尾の土下座と謝罪を繰り返していた
もちろん、その相手はルーデメラだ
「いくら謝っても許さないよ?僕の貴重な研究材料を
ダメにしてくれた罪は身体で死ぬまで償ってよ」
本人の表情は笑顔で、声音も普段と変わらぬ
落ち着いたモノのハズなのに
もはや収まり切らぬほど零れ出ているどす黒いオーラが
二人を恐怖のどん底に叩き込み 巻き添えを
喰らったらしい石榴とカルロスをも怯ませている
…だが 流石に二人を哀れと思ったか
石榴が、ルーデメラにこう言った
「その辺でいいだろ、何もワザとやったって
ワケじゃねぇんだからよ」
「そんな事はどうでもいいんだよクリス君
僕の気がこんなもので治まるとでも?」
「ルーデメラ…お前の気持ちもわかるが
十分な制裁は受けたと思うぞ」
石榴だけでなく、カルロスも助勢に入り
流石に分が悪いと思ったのか
「…まだ僕は許してないんだけど
君らがそういうなら今は一旦引いてあげるよ」
そう呟いて、ルーデメラは口を閉ざした
その途端、
どうにか最悪の目に会うことを免れたらしいと悟って
桃色髪は ひょっこりと身を起こす
「いや〜ありがとう、君らのおかげで
僕ら死ななくてすんだみたいで」
「さん!アンタ気絶したフリしてたんですか!!
ズルイですよ!!」
「ふっふっふ、時には死んだフリをすることも
ピンチを免れるに必要なのだよ」
「何を偉そうに!
てゆうか全然通用してませんでしたけどね」
陽気に笑う""にまなじり吊り上げ怒鳴る""
二人の口ゲンカを止めたのは、石榴の一言だった
「…で、お前ら 何者なんだ?」
訝しげな石榴に黒髪は姿勢を正して口を開いた
「申し遅れました 私はと言いまして
こちらの・さんの相方です」
「巷じゃ"二丁銃の"で通ってるよ」
ああ、とカルロスが声を漏らす
「聞いたことがある、そこそこ腕がいい冒険者だとか」
「いかにも」
石榴が眉間にしわを寄せ を指差す
「冒険者って…宝を探したりして
ワザワザ危険な所に行くアレか?」
「そうそう そんな感じ」
「時には人のエモノまで奪う、強盗まがいの連中でしょ?」
ボソリと呟くルーデメラの言葉に反応し
が顔を真っ赤にして反論する
「その言い方は語弊があるので訂正してください!」
「それで?有名な冒険家の…だっけか
お前らが何でこんな島にいるんだよ」
石榴の問いに、が良くぞ聞いてくれました!と
言わんばかりに胸を張って 言った
「実はねぇ、この島の洞窟の奥にスッゴイものがあって
僕らはそれを捕獲しに来たのさ」
「…ルーデメラも確か、この島の洞窟に
用があると言っていたな」
「そうなんですか?アナタがたもアレを?」
「なぁ、もしかしてコイツら お前の探してるモンの
場所を知ってるかもしれねぇぞ?」
ふと口をついた石榴の言葉をきっかけに、
「…実は私達、目的の品物まで後一歩の所まで来てるんです
なのでお詫びも兼ねて 洞窟を案内しましょう」
は場所の案内を申し出た
途端にが露骨に嫌そうな顔をする
「嫌だよ僕は 面倒くさい」
「元はと言えばさんのせいでしょ!!」
やる気の無さそうなを叱咤するを
ルーデメラはしばらく横目で見ていたが
どうやら自己決着したらしく 微笑んでこう言った
「なるほど、じゃあ目的地までの案内と露払い
それと品物の捕獲に全面協力するのなら
君らの罪 チャラにしてあげようじゃないか」
「ええぇぇぇ!何で僕らが」
「別に死ぬまで実験台コースでも
僕は構わないんだよ二丁君」
「…や、やります 協力します」
こうして冒険者のとの案内により、
三人は密集する木々に隠されるように開いていた
洞窟への入り口らしき場所から 内部へ入っていった
五人は松明と魔法の明かりを掲げて進んでいく
洞窟内は入り組み、時折魔物が襲ってくることがあった
しかし の二丁銃が火を噴き、の刀が
鮮やかに閃いて襲い掛かる魔物を無に帰す
「中の様子に詳しいんだな お前ら」
「ええ、しばらく洞窟を行き来して
内部の地図を作ってましたから」
聞くと とはしばらく前に何とか
島へと上陸し、洞窟を見つけたのだが
内部が予想以上に入り組んでいるため
洞窟の中で野営をしながら、少しずつ進み
内部の地図を作っていったらしい
が、ついに目的地へたどり着く寸前
が外の光を見たいとしつこくごねた為
地上まで引き上げ
「あーやっぱ外の光はいいわ!ずっと地中にいて
腕がなまってないか 試し撃ちしよっと」
「ちょっとさん!もしかしたら人がいるかも
しれないし 辺りを確認してから」
の話を全く聞かずに試し撃ちをして
あの現状になったようだ
「本当スイマセン…さん、悪い人じゃないんですが
ワガママな部分が多くって」
「あーもう過ぎた事はいいからさ それより
石榴やカルロスやルーデメラは、なんでここに?」
誤魔化すようなの言葉に、カルロスが答える
「私は元々海賊をしていて "コンクーアン"を
退治する為にこの海域にいた」
カルロスの言葉を引き継ぐように、ルーデメラが続ける
「僕らと船長さんは"コンクーアン"退治で利害一致して、
同行してるってワケ…もう倒したけどね」
「倒したんですか!?"コンクーアン"のことは
噂には聞いてましたが…お強いんですね」
「で、どうせだから近くの島まで連れてってもらおうと
船に同乗してたら リームが近くに見えたからさ」
「てゆうかお前が無理やりこの島に舵を取れって」
ため息交じりの石榴の言葉は、
ルーデメラの黒い笑みによって閉ざされる
納得したようにが声を上げた
「そりゃー 魔導師の人が幻の魚を
手に入れたがるのは当然だからねぇ」
「は?魚?」
「私達が探しているのは"氷魚"と呼ばれるモノなんです」
道中で石榴達のある程度の素性は聞いていたため
は補足するようにそう言った
しかし 彼はいまだにピンと来ていないようだ
「こおりざかなぁ?そっちで有名なモンなのかよ?」
ルーデメラは石榴と、達の持ち物を
値踏みするように見て 口を開いた
「まあクリス君が何も知らないのはともかくとして
君達は"氷魚"がどんなものか、わかってるのかい?」
指摘され は困ったようにうつむく
「お恥ずかしながら 姿形と生息場所ぐらいしか…」
「え、は魚の姿知ってたの?」
「ちょ…さん!何も知らなかったんですか!?」
「うん だって依頼を成功させて金がもらえりゃ
後は何だっていいもん」
キッパリ言い切るに は頭を抱えて
ガックリとヒザをついた
「ああもう…この人と組むのもうヤダ…」
「失礼な言い方だな〜行き場のなかった君を
引き取ってここまで育てたのは僕だぞう」
「ええそうですね、その恩を返して有り余るぐらいは
さんの大雑把さに苦労させられてますけど!」
皮肉の通じぬの笑顔が、よく知る友人に重なり
石榴はため息混じりにの肩を叩く
「…、お前 大変だな」
「わかっていただけて嬉しいです 石榴さん」
「で"氷魚"ってのは」
「なるほどね、道理でお粗末な運搬道具だと思った」
ルーデメラのそのセリフで、石榴の問いかけは邪魔される
「これでも一般的には優れてる捕獲道具と
運搬道具を吟味したんですけどね」
「それは一般的なレベルでしかないさ
まあ、捕獲の時くらいは僕の道具を貸してあげるさ」
「有名なアンタの道具をか〜それは助かるなぁ」
「だから"氷魚"ってのはなんなんだよ!!」
四人は叫ぶ石榴に視線を向けて
はぁ、とルーデメラがわざとらしいため息をついた
「じゃあ、無知で飲み込みの悪いクリス君の為に
"氷魚"がどんなものかを教えようじゃないか」
森に囲まれた洞窟の最深部にあるとされる一番冷たい湖
ダイアオプソマイにのみ生息する魚―
その姿は氷のように透き通りBR>
目玉は まるで美しい宝玉のように蒼い生物
低温と特殊なヒカリゴケのみを食べて生き
魚の周囲の温度が摂氏零度から一度でも上がると
たちまち氷の様に解けることからその名がついた
「…見た目の美しさ、生体の珍しさで
好事家や収集家 魔導師などの注目の高い魚だ」
「けど 先に言った魚の性質上、持ち帰るのが難しく
洞窟内部は入り組んでいる上に そこや島の森に
住み着いた魔物達も手強い奴らが多い
そもそも、この辺りは元々怪物の多い海域だから
容易に島へ上陸できないって知られてる」
「それで、ついたあだ名が 幻の魚ってわけです」
カルロスとルーデメラ、そしてに代わる代わる
懇々と説明をされて
「…なるほどな よーく分かったよ」
石榴は 苦々しくそう言った
洞窟を進んでいくうち魔物に遭遇することが
徐々になくなってきたのだが
「ひゃわっ!?い、今の何!」
「ただの風だろ?落ち着けよ」
時折、妙に生温かな風が吹き付けてきたり
五人の周囲にまとわりつくような気配が漂い始め
「…なぁ、誰かに見られてるような感じがするんだが」
「そんなの 言わなくても全員気付いてるさ」
眉をしかめる石榴に、ルーデメラは振り向きもせずに答える
さして害になってはいないものの
それらが途切れる事はなく 奥に進むにつれ頻度がじわりと
増してさえいる感覚に自然と五人の口数が減り
中でも、特にが怯えを露わにしていた
「何か出そうで怖いんだけど…」
「我慢してください てゆうか袖引っ張んないで下さいよ
さんいくつだと思ってるんですか」
「27でもお化けは怖いんだよ!悪いか!」
の発言に石榴とカルロスが目をむいた
「そ、そのツラで27ぁ!?」
「私の一つ上とは…てっきりの一つ二つ上かと」
「二丁君はずいぶん童顔なんだねぇ
顔もお子様だからお化けも怖いのかな?」
クスクスとルーデメラが笑った瞬間
五人の携えていた明かりが 一斉に消えた
いきなり視界が闇に閉ざされ、彼らの間に動揺が走る
「オイ 何だイキナリ!?」
「分からないけど…何かいるみたいだ」
ルーデメラは 先程の気配が
強くなったことに気付いていた
「うっうわぁ!何も見えない!真っ暗だ!!
!?石榴っカルロス どこ―!?」
闇の中で、少し先へ駆ける音が響き その場に止まる
「ちょ…さん!勝手に動かないで下さい!」
「とにかく明かりが先だ」
それぞれが松明や術で明かりを付け直す
「…見たところ 何もいねぇな」
「けど…気配はあるみたいだよ」
辺りを見回す石榴に、ルーデメラが告げる
見た所、洞窟内には先程同様闇が広がるばかり
しかし一瞬だけ 気配と熱気が強まった事を
感知しているのか彼は油断なく気を配っている
「全員無事か?」
「…さんがいない!」
の叫びに 全員はの姿が無いことに気付く
「おい!どこにいったんだ!?」
離れた通路の闇に、明かりが生まれた
赤々と燃える松明の炎に照らされ の顔が
ゆらりと浮かび上がる
「そんな所にいたんですか!
勝手に行動しないで下さい 心配したんですから」
「ゴメンゴメン、ちょっとビックリしちゃってさ
もう大丈夫だから」
駆け寄ったに 彼女はニコリと微笑を浮かべる
「ったく、人騒がせだなの奴」
「まあ 無事だったならよかったじゃないか」
石榴とカルロスも安堵して二人の方へ歩み寄る
そんな中、ルーデメラだけがその場に佇んでいた
「妙だな…さっきまで感じてた気配が消えた…?」
「何やってんだよルデ!」
「ああ 今行くよ」
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