石榴とルーデメラ、そしてシュドの三人は
木々に囲まれた小規模の町 リソコラに来ていた







「あ…ふ、流石に徹夜明けは眠いなぁ」





欠伸交じりに目をこすりつ呟くルーデメラ







「え ルーデメラさん夜中起きてたんですか!?
全然気付かなかった…」


「そりゃそうだろ」





驚いたシュドに答えたのは、これまた
眠そうな目をした石榴







「音を消す道具かなんか使ってまでして
俺の叫び声まで消してやがったからな」


「そ、それで今朝起きた時 石榴さんが
何故か傷だらけだったんですね…」


「おう この緑頭のせいでな」





睨みつける石榴の視線を屁とも思わず





「仕方ないだろう 研究と実験には多少なりとも
犠牲は必要なんだか…おっと」


「だ、大丈夫ですかルーデメラさん!」







ふらついたルーデメラを シュドが寄り添って支える









「ちょっとそこの小娘!ルーデメラ様にベタベタ
くっついてんじゃないよ!!」






そこに 乱暴な口調と共に横手から現れたのは一人の少女







木漏れ日に輝く短い金髪に、猫を思わせるような眼差し





袖から手が出ない上着を羽織った短めのスカートは
辺りを歩く町の人達と変わらぬ服装だ





しかし、着ている衣服の縁に施された魔法文字の縫い取り


そしてサイケ…いや極彩色の色合いが
彼女を周囲から確立した存在たらしめていた







「ってお前誰だよ!」


「な、何で異界人がこっちのコトバをしゃべれんのよ!」


「質問に質問で返してんじゃねぇっ!!」


うるさいよ!用があんのは そこの金髪女さ!」







指差され、おずおずとシュドが申し出る





「あのう…僕は男なんですけど」


「ウソつくならもっとマシなウソつきな!
どう見たってその顔は女だろ!?」






言い切られ、ショックを受けてへこむシュド







「落ち込むことは無いよ天使君、君には
いい所が一杯あるじゃないか」


「ルーデメラさん…」





優しく彼を励ますルーデメラに、少女が割って入る





「る、ルーデメラ様…アタクシを差し置いて
その女がそんなに大事ですか!?







先程の口調とはうってかわった言い方





端から見ると、どこぞの少女マンガ昼ドラから
抜け出してきたような展開だ







だーうるせぇ!どー言うことか説明しろルデ!!」





騒々しさに ついに石榴までも掴みかかってきたのだった











〜No'n Future A 番外 「勝負という名のイジメ」〜











とりあえず全員を落ち着かせて整列させ、







「…というわけで、僕は現在この二人と旅をしてるわけ」





簡単にまとめた説明を少女へ行ってから
ルーデメラが少女を手で指して続ける







彼女の名前は、珍しい術を覚えてる呪術師でね」













以前立ち寄った町の魔導師協会で、


評議長と会話を交わしながら、廊下からふと
外の庭を覗いたルーデメラが見たものは







「よし、そんなもんでいいよ
後はアタイの為に食える果物と焼き魚を持ってきな」







何かの実と枝を集めてきた魔物に、命令を下す









彼の視線の先に気付いてか 評議長も
外の方を眺めながら困ったように呟いた







め またどこぞから呼んだ魔物を使役しおって」


「評議長、彼女は…?」


「15になるワシの姪っ子で、呪術を学んでおっての
気の強い跳ねっ返りですじゃ」





苦笑交じりで話す言葉に、適当に相槌を打ってから





「それで先程のお言葉ですが
呼んだ魔物を使役、というのは?」







更に尋ねたルーデメラに対し 評議長は顔を曇らせる







「…が覚えている唯一つの術で 強制的
魔物を配下に置ける術ですじゃ」


傀儡(くぐつ)の術ということですか?」


「それとはまた少し毛色が違うのじゃが…」









口ごもる評議長の様子に、これ以上の追求は
出来なさそうだと判断し







協会での用事を終えてから





「アドベント モ゛ライム!」





超低級魔物のモ゛ライムを呼び出し、
近くの切り株に腰掛けるの側に行くよう命令した









「…あん?何見てんだいモ゛ライムふぜいが
ダレのか知らないが主人の下に帰らせてやるよ」







自信満々に彼女が術を発動させ





モ゛ライムが光に包まれると同時に、ルーデメラに
引っ張られるような感覚が襲いかかる







「…驚いた、召還者の契約を上書きできる力
あるってわけか」





言って笑うと ルーデメラはモ゛ライムに意識を注ぐ









「さぁ 主人の下へ帰りな」







命令にモ゛ライムは従うようなそぶりを見せる







しかし、しばらく戸惑ったように蠢いてから
液状の身体を激しく振るわせた





モ゛ライムを包む光が消え、同時にルーデメラを
襲っていた感覚も消えた









はぁ!?ど、どういうことだい!!」







が何度も同じ術を試すも、モ゛ライムは
彼女の命令を聞こうとはせず











「ちっきしょー!なんでモ゛ライムごときに
アタイの術が効かないんだい!!」






苛立ち混じりに拾った石をモ゛ライムへ投げつけようとした所で







「ああゴメンゴメン、そのモ゛ライム僕のなんだ」







笑みを浮かべてルーデメラが現れ、彼女の動きが止まる







「る、ルーデメラ様!!





の頬は赤く染まり、投げようとした石を
そこら辺へと捨てて 姿勢を正した













「そう それがアタクシたちの出会いでしたわね
ルーデメラ様もお人が悪いんだからぁ」


「ゴメンねドラ猫ちゃん 君の術がどんなものか見たくてさ」


「そんなスゴイ術を使える方なんですか、スゴイです」


ふん、ほめられたってアタイはアンタを認めないよ」







口調はそっけないが、の頬は少し朱を帯びている







石榴が眉をしかめてルーデメラに言う





「なぁ 俺にはいまいちスゴさが伝わんねぇんだけど」


「複数の命令に術者の有無を問わない傀儡の術…
これがどんなに画期的だが分からないとはね」


「しょせんは異界人ですから仕方ありませんわ
それよりもルーデメラ様、こんな女じゃなくて
アタクシをお供させてくださいませ」


「勝手なこと言うんじゃねぇよ、シュドだって
ちゃんとした目的があって俺達と旅してんだぞ」


さん…四人でではダメですか?」





シュドの提案を、彼女は即座に蹴る





お断りだよ、アタイはルーデメラ様に近づく女は
ダレ一人としてヨウシャしないからね」


「僕は男です!」





ライトグリーンの目から、じわりと涙が滲み出す







二人の顔をじっと見て、ルーデメラが
何かを思いつくと 口を開いた





「じゃあ天使君とドラ猫ちゃんとで、どっちが
僕らの仲間として相応しいか戦って決めようか」


「望む所ですわ!」


「「ええっ!?」」











かくして町の広場でルーデメラの独断による
仲間入りを賭けた三番勝負が始まったのだった









「旅は野宿になることも珍しくない、僕らの仲間となるなら
食事の仕度もそれなりに出来なきゃ話にならないね」





もっともらしい事を言い、彼はどこからか
用意したテーブルと椅子に座った石榴を指差して





「始めの勝負は 彼のお腹を満足させた方が勝ち」


ちょっと待てぇぇぇ!何で俺だぁ!?」


「勝負の審判は公平でなくちゃダメだろう?
君が一番適任なのさ クリス君♪」







目の前でニッコリと笑う相手に 苦々しげに
石榴はこう返した







「…ここに座れば今日の実験はチャラって
言ってたのはこーいうワケかよ」









町の人達の視線を集める中、





近くの民家の設備を借りて料理を作り
先に戻ってきたのはだった







捲くった袖からスラリとした腕と、
少し大きめの古めかしい腕輪を見せながら





彼女はテーブルに自作の料理を並べて宣言した







「まずはアタイの料理から食べてもらうよ」


「無理」







石榴が即答したのも あながち分からぬことではない







原型はシチューか何かだっただろうそれは、


呪われた沼地のような色をし 何故かカエルイモリが浮いている





付け合せのパンにも、妙な色の粉末がかかっているし
食虫植物っぽいものが隠そうともせず見えるサラダ





コップの中の飲み物もマグマのように煮え立っており


全体的にキッツイ臭いを放ち、周囲にいた野次馬達も
ものすごい顔で鼻を摘んでそれを見ている







これを食べろというは ぶっちゃけ拷問だ







「アタイの料理が食えないってーのかいこのトウヘンボク!」


「しょうがないなぁ、僕がクリス君を抑えとくね」


「うわっちょやめろルデ!!」







背後から羽交い絞めにされ、彼の口にの料理が詰め込まれ





「むぐむがぁぁ!!」





強制的に平らげさせられ、石榴の顔色が
青を通り越して黒に近いものになった頃







「遅くなりました!」





シュドが出来上がった料理を手に戻ってきた







テーブルに並んだメニューは先程と同じくシチューと
パンとサラダに飲み物 それにデザートが追加されている





しかしの作ったそれらとは違い、色鮮やかな見た目に
食欲をそそる匂いが辺りの空気を和ませる









「い、いただきます……おおっうまい!」







シュドの料理を食べている内に、石榴の調子も
見る見るうちに元へと戻っていく







悔しげにがテーブルを見やる中 彼の手は
キレイに盛り付けられたフルーツのタルトに伸びる





それを切り 口に運び…


石榴が顔をこわばらせた





辛っ!苦辛っっ!!」


「ええっ そんな!?」





飲み物で口に残る味を流し込み 石榴は見た







側にいたルーデメラが、フルーツのタルトを食べているのを







「お前…それ、何食ってんだ?」


ああこれ?天使君のデザート 甘さの按配も
流石に最高だよね」





彼は悪びれも無くさらっと続ける





「ゴメンね〜美味しそうで我慢できなくてさ
代わりに僕が作った奴を置いといたからいいでしょ?」







どうやら、デザートだけいつの間にか
すりかえられていたようだ









料理勝負の軍配は、当然シュドに上がった








―――――――――――――――――――――――


次のページへ