「そこで銀時たちと共に私も果敢な動きで」
「ほうほう、それは大活躍でありんすな」
寝間着に身を包んで話し続けるへ
月詠…にしか見えない看護師姿の女性が
笑顔で相槌を打っています
血液を採取されながらも話す少女は
とてもとても楽しそうな様子でありながら
どこか、夢心地な緑色の瞳をしています
…それもそのはず
「また"万事屋銀ちゃん"の話かい?」
白衣姿でカルテを片手にやって来た、全蔵に
よく似ている男も看護師も
「おお、月詠殿だけでなくお主と会えるとは
奇遇だな全蔵殿!」
「…そうだな、それで何してるトコだ?」
が今まで口にしていた話は
"全くの絵空事"だと知っていました
検査と問診を終えて、二人は口調を
本来のモノへと戻して言います
「アレから2年ですか…早いものですね」
「ああ、しかしい
まだ治療の見込みはない
おまけに今度発作が起きたら…」
"服部"のプレートをつけた医師は深刻な顔で
カルテの数値を見つめています
痛ましい事故によって、は兄を含めた
親しい家族をすべて失ってしまいました
自身も…とても大きな傷跡を負って
治療は施されたものの目を覚ましたのは
奇跡と言えるほどでした
だけど……
その後遺症は、大きかったのです
「
兄上は?私は、兄上を探さねば」
家族を失ったショックと死の淵から生還した
事実が心身ともに負担をかけたため彼女は
"罪を犯し、生き別れた兄を探しに
裏稼業をしながら江戸に流れ着いて
何でも屋の坂田 銀時たちへ依頼をする"
という空想の世界へと閉じこもってしまいました
「そんな人達が、本当にいたら
…よかったんですけどね」
看護師は どこか辛そうに笑っています
奇想天外で破天荒で、けれどもどこか温かな
その世界はの中で膨らみ続け
そして その世界を頼りに彼女は生きています
本人は特に暴れたりなどはせず、主に空想を
担当医や看護師 患者に聞かせるだけですが
他の人がいくらやんわり現実を諭そうとしても
は聞く耳を持たず、どころかその現実を
空想へと織りこんでしまうのです
「この間も次郎長さんをヤクザの親分さんと
勘違いして話しかけてて…」
「それも頭の痛い話だが、目下の問題は
臓器の移植だ…
どうなっている?」
ずっと空想の世界から戻らない少女の身体は
確実に病に蝕まれ、衰えていたのですが
「さんのご親戚の方や血縁を探しては
いるんですが 中々見つからないみたいで」
現状維持すら許されない現実も
忍び寄る重く暗い影も…担当医や
看護師たちしか知りません
「保護者代理となってるあの人にも、いずれ
話をしなければならないな…」
遠からず 何らかの措置を取らなくてはいけない
責任と重圧に悩む彼らの苦労も知らず
「はいさ…じゃなかった
槍ムスメ、部屋に戻るぞ」
「分かっておる、お主は偉そうだな」
"土方"のプレートをつけた介護師が呼びかけて
うなづいた少女が廊下を歩きます
けど…数歩も行かぬ内に胸を抑えて
その場に崩れ落ちてしまいました
「先生!」
「くそっ、とうとう来たか!」
白衣をひるがえした医師が 彼女の元へ
駆けつけ、看護士と協力して処置を行いますが
倒れたは激しいケイレンを続けながら
苦しみと痛みの中、ただただ空ろな瞳で
必死に呼びかけ続ける人々を見ていました
でも…彼らの呼びかけや治療の甲斐なく
のまぶたは力なく閉じられ…
目を覚ますことは二度とありませんでした
【ED 自身の檻に囚われて】