梗子の自宅に通され、お礼代わりに
夕食をごちそうになった後に





「今日はもう遅いですし、よろしければ
一晩お過ごしくださいな?」



なし崩しに提案されたその言葉に甘えるように
銀時たちは一泊することになりまして







開いている部屋に敷き詰められた寝具の上で





「…いくらなんでも僕らが一度死んでるだなんて
信じられないし、信じたくないですよ」


話を聞き終えた新八が 神妙な顔で言いました





「いくら原作が大概何でもアリだからって
主人公殺したら元も子もないアル」


「お主らの気持ちも分かるが、事実だ」


「確かにさんの話を聞いてて、何でか
知らないけどしっくり来る部分はありましたが…」


時間が巻き戻るとかゲームやマンガの設定でも
相当無茶な類アル、それが聞き耳だけで
どーにかなるとか到底思えないヨ」





かなりの暴論だけども、神楽の言い分は正しいです





「…不服か?なら納得の行く説明してみ?
どういう原理でオレらが無事だったかを」











第七訓 文書いていると一度はやりたいよね
こういう仕掛け












銀時に促され こくりと頷いてから





『簡単さ、観測誤差を利用したんだ』





その一言を封切りに、は道すがら
正直から聞いた話を正確に伝えていきます





『例えば朝シャンしてタンスからお気に入りの
レースの白パンツを選んで出かけたとするだろ?』


「何それ、どこのモテカワガール気取り?」


『途中で好きな彼に会って、勝負下着つければ
よかったー!って後悔したとする』


「色々と論点ズレてる気がするんですけど」


『で、ここでもしもタンスからパンツを選ぶ時点で
勝負用の大人仕様パンツを選んでいたら
好きな彼の見る目が違っていたかもしれない』


「パンツ一つで変わると思えないアル」


「一理あるが一旦置いておいてだ、そこで
正直殿の力と誤差が関わるとか何とか」


「肝心なとこあやふやなんですけど!?」







進まない説明を見かねてか、小さな晴明が
ため息まじりに彼女の説明を補足しました





「つまりワシらの介入と、"主人公"としての
ぬしらの運命力によって出来た観測誤差を利用して
"死へ分岐する前"の世界線へと移動したのじゃろう」


そゆ事!まぁ僕はゴムがゆるんでても
子供パンツでも、どんなパンツであろうとも
平等に愛することを神に誓っているけどな!』


「あんたパンツって言いたいだけでしょ!?」





通訳した越しにツッコんだ新八でしたが


あまりにも声が大きすぎたのか、聞きつけた
梗子が部屋のドアを開けました





ウチの子が風邪で寝てますから、あまり
騒がないようにしてくださいね?」







やんわりと忠告して、梗子が扉を閉めると





見つかるギリギリ前に隠れた晴明と
四人のため息が辺りに響きます





「どこに雲隠れしてたアルか妹燃え」


「すまぬな、ぬしらが角を曲がった瞬間
強制的に"本"から閉めだされてたんじゃ」





当人が言うには、あの後 不本意ながら道満と
連絡をとって両家で協力して陣を組んで


ようやく式神を送れるようになったそうです





「…が、恐らくそれも時間の問題じゃろう」


「そこまで呪力が強くなってるんですか?」


「それもあるが、この世界は非常に
危ういバランスで成り立っておる」





本来は独自の記憶によって形成(つく)られた
世界に囚われて、末路をたどるのですが





境目を破ってみんなが合流してしまい


更に"外からの介入者"が現れたせいで


本の中の世界が不安定になり…結果として


全員の記憶が混在した "不確定の世界"
出来てしまったのです





「なるほど、それで奇妙な事になっておるのか
種が分かればそう不思議でもないな」


「だとしてもちょっとは動じろよ可愛げのねぇ」





小気味いい音を立てて、の頭が叩かれます





「こうしてワシと会話している記憶すらも
定かである保証はない、じゃが同時にこれは
核に近づく唯一にして絶好の機会じゃ」





真剣な晴明の言葉に、全員が居住まいを正して
しっかりと耳を傾けています





「核心に近づけば、それだけ呪力も強まる
下手を打てば命を落とすと肝に銘じろ





我知らず、ツバを飲む音が聞こえ…





ある事に気づいて、新八が声を上げました


「せ、晴明さん、体が透明に…!





指し示す通り、小さな晴明の姿が薄くなり


透けてゆく体を通して白い紙が見え隠れしています


ついに限界が訪れたと理解していたのか、彼は
さして慌てること無く銀時達に言います





「とにかく、呪いの核はこの近くにあるハズじゃ
諦めずに進み続けろ!諦めたら終わりじゃ!





その言葉を残して、陰陽師が掻き消えると


依代となっていた手の平サイズの人型の紙が
小さな炎を上げてあっという間に灰になりました





「こりゃ、あっちもかなりヤバそうだな」


「自力で脱出するしかなさそうアルな…
核のありそうなトコとか聞こえないアルか?」





神楽の問いには、すでに正直が答えを
用意していたようです





『僕が教えられるのは、戻れる道標だけ
そこから先はちゃん達自身で答えを出せ』



「おいもうちょっとやる気出せパンツ男…ふわぁ


「あ、もうこんな時間なんですね…そろそろ
寝て明日また行動しましょうか」


眠気には勝てず、それぞれが布団へともぐりこみ





…やがて 静かな寝息が聞こえてきました







同じように目を閉じていたの耳がピクリと動き





身体を横たえたそのままで、目だけを開きます





『伝えてくれて助かったよ』


「礼には及ばぬが…正直殿、お主は今どこに?


とても小さな声で呼びかけた直後





珍しく、ハッキリと戸惑っているのが
見て取れたのですが、誰も見てはいませんでした





『も…も行き詰った…さっきみた……
言葉をたどれ…またここ…戻れ…』


「正直殿…!?」





何度呼びかけても…もう正直の声は
聞こえなくなっていたようで


より一層の不安を募らせながらも、
ただ静かに目を閉じて朝を待ちました












           けたたましい定春の鳴き声は、より大きく響く
           怨嗟にまぎれて聞こえない


           「い、一体ウチの二階はどうなってんだい?」


           「アイツラツイニ黒魔術トカオカルトニ
           手ェ出シタンデスカ!?オイソコノ、答エロヨ!


           「申し訳ないが今は言えません…とにかく
           危険ですから早くここから離れて下さい」


           「銀時様達の生命反応が微かに二階にあります
           まだ中に取り残されているのでは?」






            どうにかして中を確かめようとするお登勢を始め


          スナックの従業員は陰陽師衆によって退避させられ


           わけも分からず足止めを食らっていた





           と、二階から間を置かず派手な破壊音が
           響き渡って壁の一部が壊れる


          より正確に言うなら"何か"が壁を突き破ったのだが


           覗いていたその"何か"は…女の頭だった





           「い、今のは華陀じゃ無いのかい!?


           「確カニソレッポイ女デシタ!アッ、消エタ!」





           黒い蒸気と共に頭が消えると、後には人の頭大に
           開けられた壁の穴が残っているばかり





           戸惑う彼女らを他所に、万事屋の壁には
           ヒビが入り 再び大きな音が鳴り響く







           …騒ぎになりつつある万事屋の内部では





           人払いなどを行なっている者達を覗いた大半の
           結野衆と巳厘野衆が結界を張っていた





          「晴明様!道満様!呪力の増加が止まりません」


           「この調子では、いずれ江戸中にあふれるのも
           時間の問題となります!」


           「分かり切ったことを申すな!大体何故最初から
           巳厘野に依頼しなかったのだ腹の立つ!!」


           「話を蒸し返すより結界への助力に集中せい!」





           床に張られた結界の外側にはいくつものヒビが入り


           中央の古びた本からは、身の毛のよだつ様な
           声と黒い霧が絶え間なく吹き出し続けている





           「くそ!予想よりも早い…また出てきたぞ!


           その言葉に呼応するかのように


           開きっぱなしの白いページがじわりと黒くにじんで
           歪んで、あぶくのように盛り上がり


           不自然な角度で首を揺らめかせながら


           徐々に、徐々に人型を…本の中にいる者達の
           記憶から引き出された死者のカタチを取り戻し





           「田足ノ栄華を…すべテの者ども、を
           ひれヒれひひひれふサせてやるるルるるる」


           「まダだ…まだ終ワって、いナぁぁァぁ…い」


           「む…娘ニ、笑顔を…
           迎えにいクよ、ふ、ヨうぅぅぅゥぅぅ」


           完全に本から抜け出そうともがいていた





           …が、容赦無い金棒によって

           死者達はその目的を果たす前に潰されてゆく





           『この場所から先にはいかせんでやんす』


           うろんな黒いシミを見下して、外道丸は
           存分に力を振るって役目を果たす













【楽しい遊びのはじまり、はじまり】