―その本に、題名はありません
その本に、内容はありません
その本に 結末はありません
そして"本"に深く関わってしまった相手に
命と救いは、ありません
けれども"本"には年季による黄ばみや風化の
自然な汚れ以外は 何一つ
"人為的な"傷や汚れなどは何一つありません
それは…本の中にある"何か"の仕業でした
――――――――――――――――――――
「つーワケでそれ、ヨロシク頼まぁ」
「…あのね、ウチは廃品回収してないって
何度言ったら分かってくれんの?」
「文句はババアに言えよ」
オレだって ポンコツ家政婦がおシャカにしちまった
掃除機抱えてたらい回しされてうんざりなんだよ
つーか源外のジジイも回収費用ならババアにたかれよ
もしくはツケにしとけってんだ
あーもうさっさと帰っていちご牛乳飲みてぇ
って、もう買い置きねーんだったチクショー
思い出したら余計にテンション下がってきた
頼まれた買い物とか正直どうでもいいから帰りt…
「あんだぁ?このボロッちぃ本」
第一訓 奇妙な本にはご注意を
「客の一人が勝手に押し付けてったモンさね
なんでも、業界内じゃ有名な呪いの」
「あーあーあーあーあー聞こえない聞こえない!」
やる気のねぇ中古品店の店長は、カウンターに
座ったまま ボロ本に目を向けて続ける
「一応ざっとは目を通したんだけどね…
中身、真っ白なのよソレ」
「ふぅーん で、これタダか?」
さっと拾い上げて 適当にパラ見したけれども
マジで白紙みてぇだな
「見た目がそれだし買い手つかなくてね
ずっと置いとくのもアレだし、持ってっていいよ」
「あっそ、じゃあ遠慮なく」
「ってちょいと!掃除機は持って帰んなよ!!」
…釣りはいらねぇぜ?とっとけよ
――――――――――――――――――――
「ちょっとぉぉ!何でまたそーいうヤバそうなの
持ち帰ってくんですか!!」
上記のような由来でリサイクルショップ
"地球防衛基地"から持ち帰られた本に対して
掃除の手を止めぬまま新八が怒鳴りつける
「いんだよ使うのオレじゃなくてババアだし
帳簿が切れたとか言ってたしよぉ」
「人に押し付ける気満々かよ!?やめましょうよ
お登勢さんになんかあったらどーすんですか!」
「大丈夫だって、ババアの妖怪パワーがありゃ
いわくつきの本でもなんとかなるって」
開いた口からいい加減極まりない雇い主へ
吐き出されるはずだった文句は
折りよく鳴った呼び鈴のおかげで
来客を招く声へと変わる
「待たせてすまぬな新八、持ってきたぞ」
「ああ!ありがとうございますさん!
それでいくつくらいあります?」
「ざっと35枚ほどかと 知り合いから
思いのほか多く譲り受けられたのでな」
彼女が懐から取り出して見せたのは
透明な袋に入った、切手大の複数のシート
「十分ですよ!ありがとうございマッスル!」
「アイドルのDVDごときでどんだけ必死アルか
私らコネがあんだから本人に頼めばいいだけネ」
ソファでごろごろしていた神楽の軽口に反応し
振り返った彼の メガネの奥の瞳と顔つきが
いつになく険しいものへと変化していた
「だまらっしゃい!卑しくも寺門通親衛隊隊長の
僕がそんな邪道を犯すと思うかぁぁ!!
抽選で最新プロモ・マル秘インタビュー収録
限定DVDが当たるなら応募でゲットするのが
一ファンとしての正しき行動なんだよぉぉ」
「お、落ち着け新八 どうどう」
息巻いて力説する新八を が無表情で
なだめにかかるものの
「はいはい、企業に踊らされて腹の足しにもならない
消臭スプレー買うのはお前らキモオタぐらいヨ」
「何だと小娘ぇぇぇぇ!謝れ!本来の目的で
消臭スプレー買う人々に謝れぇぇぇぇ!!」
神楽の挑発は留まらず、ついには二人
つかみ合いのケンカをするまでに至ってしまう
そのやり取りで振り回された腕が掠めたのか
無造作にテーブルへ置かれていた本は
バランスを崩して、開いた面を伏せて落ちた
「テメェらケンカは外でやれ!その出納帳
汚したらババアに文句たれられんだろーが!」
「ならさっさと渡しに行けヨ!白紙なら
私の落書き帳にでもしちゃるアル!!」
「手ぇ出しちゃダメ神楽ちゃあぁぁぶべっ」
やたら重いパンチで新八を安々と昏倒させて
ペンを片手に嬉々として本を拾い上げた
神楽が そのままの状態で目と手を止める
「…アレ?
銀ちゃーん、これ何か字ぃ書いてあるアル」
「うぇっ!?おいおいマジかよ」
慌てて駆け寄ってきていた銀時も開きっぱなしの
ページをまじまじと覗き込む
「ほら、やっぱりその本返しに行きましょうよ
前のコタツみたいなトンでもない代物だったら
取り返しつかなくなりますし」
「何だ、懲りずにまた曰くつきの品を
あの店主殿から買い取ったか」
「そうなんですよ 銀さんたらお登勢さんから
出納帳の買い付け頼まれてたのに面倒がっちゃって」
「人聞き悪い事言うんじゃねー、オレぁ用事の
ついでに引き取り手のねぇガラクタを社会に再び
貢献させようとしてただけだっつの」
「物を大切にするのはいい事だ 私も兄上から」
「ここぞとばかりに兄貴自慢すんな能面娘」
題名のない 古ぼけた表紙とは裏腹に
本のページは真新しく、印刷されていた字は
大きく黒々と刻まれていて
ページの片方に描かれた本の挿絵と相まって
独得の雰囲気をかもし出している
―むかしむかし、あるところに一冊の本がありました
その本には"どんな願いも叶う"不思議な力があり
たくさんの人が本を手に取りました
本を手にした人たちはみんな お金持ちになったり
恋人が出来たり なりたかったモノになったり
いろいろな願いを言っていました
もちろんその願いはかなえられ、願いを言った
みんなは しあわせになりました
「なんか変わった話ですね、童話かな?これ」
人々の手をわたって ある人から売られた
この本を、やる気のないお侍さんが見つけました
「まさしくこの本の通りだな」
「うるせーよ!ってお前も読んでんのかよ」
お侍さんによって持ちかえられた本に気づいて
メガネの男の子と赤い髪の女の子、そして
黒い髪の女の子も 本を読みはじめました―
「ますます今の状況そのままアルな」
「…偶然にしては、気味が悪すぎない?」
期待と緊張を指先にこめて次のページがめくられ
消えかかった赤い一文字だけがぽつんと残された
中身を見て、途端に銀時達は拍子抜けした
「字が掠れて 何も読めぬな」
「見りゃ分かるわ、あんだよビビらせやがって
やっぱり落丁本じゃ」
呆れたようにため息をついて本を閉じようと
表紙にページへ手を触れて
「「「うわあぁぁぁぁ!?」」」
直後 こちらへ反応するように赤い字の羅列が
ハッキリ浮かび上がり、驚いた四人は身を引く
その際 神楽が思わず本を手から取り落とし
間を置かずに 辺りがニ三度明滅する
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