武村様は アリスの"お父さん"になる筈だった方





あの事件があってからも、彼はアリスと
とても仲のよい交流を続けておられる







我らは、アリスのために生きている







そのためか皆 彼の存在を気にしている









最も顕著なのが、陛下なのは間違いない







武村様とアリスが良く会うようになってから





陛下の機嫌は、益々芳しくないご様子である







「あの男…アリスとあんなに親しげに
会話なんかして…!」






鎌を手に 悔しげに歯噛みをする陛下





「この世界の者ならばとうに
その首を刎ねてやれるのに!!」








唸る鎌に当たらぬよう、私は出来る限り
遠くに離れて首をすくめる







機嫌の悪い陛下の鎌が向かう矛先
大抵近くにあるものになる





壁や花瓶などもしかり


その場に居合わせたウミガメモドキや
私やビルなどもしかり





…今はビルが目下の標的のようだ











「笑みの裏には何がある?」











「陛下、私の首を刎ねても意味はありませんよ」


「お黙りトカゲ!」





怒りと共に繰り出される鎌を
ビルは薄笑いしながらひらひらと避ける







躍起になる陛下に、埒が明かぬと悟ったのか





「それほど気になるのでしたら、誰かに
彼を見定めてもらうのは如何でしょう?」





笑いながら 静かにこんな提案を持ちかけた







振り下ろしかけた鎌をゆっくりと引き戻し
陛下は瞬きを一つして尋ねる







「あら、それはいい案ね…その誰か
当てはあるのかしら?ビル」







ビルは チラリとこちらを見やって





「猫かが順当かと」


「えっ、ちょっと ビル!?







陛下は私を嫌そうに見やってからしばし考え







「…猫に頼むくらいなら、の方がマシね」





つかつかと歩み寄って こうおっしゃった





「いいこと、あの男がアリスに
おかしなマネをしないよう見張りなさい」


「あの お言葉ですが陛下」





申し上げようとした言葉は 聞き入れられず





「そしてもしもアリスに何か危害を
加えるようであればその頭蓋を叩き割


「陛下!!?」







鎌を片手に 半ば脅される形
武村様の監視の命を受けたのだった









陛下が自室に戻られたその後

私は佇むビルに、恨み混じりの視線を向ける







「…ひどいですよ ビル」


「ああでもしなければ陛下はきっと
ご納得されませんでしたから」





淡々と 冷笑を浮かべて彼は続ける





「それに、やはり皆 彼の事が気にかかるのです
アナタだって分かるでしょう 


「…それはそうですけれど」







だからってあの場で私を名指しで呼ぶのは
どうなんだと問いかけたいけれど


長い時間あちらにいられるのは





私と、猫しかいないのも事実







「いまから行けば、そろそろ学校帰りのアリスが
彼に出会うはずですよ」







ああ、もうそんな時間か







いまでは、ほぼ毎日と言っても差し支えないほど
武村様はアリスにお会いになる





…下世話ながら 武村様はどんな仕事
なされているのだろう?


いや、今はそんな事を考えている場合ではない







「分かりました、では行ってまいります」













こちらの世界へ来ると、確かにビルの
言っていた通り アリスはご帰宅途中だった







「やあ、こんにちは 亜莉子ちゃん」


「武村さん!こんにちは」







二人はその場で挨拶を交わし、ほどなく
近くの喫茶店へと入っていった





気付かれぬよう さり気に店内の席で
二人を見ていられる場所へ移動する









「最近 調子はどう?亜莉子ちゃん」


「あ、はい おかげさまで…」







はにかむアリスは制服姿であっても可憐





その表情が 目の前に座る武村様へ
向けられているのが些か羨ましい







…いけない







こんな事を思っているのが万が一
陛下に知られたら どうなることか







「最近、すっごく明るくなったけど
誰か好きな人でも出来たのかな?」





唐突なその言葉に、アリスが目を見開き
私も思わず武村様を見やる





えっ!?いっイキナリどうして!?」


「だって雰囲気とか明らかに変わってるもん
僕じゃなくても分かるよ」







くすくすと楽しげに笑う彼の言う通り





アリスは、誰かに恋心を抱いている





…お相手までは教えていただけなかったが
相談を受けたから 間違いは無い







しっかりアリスの事を見ていらっしゃる方だ







「でも もし亜莉子ちゃんに好きな人が出来たら
僕、ちょっと意地悪しちゃうかもね?


「た、武村さん!?」


「冗談だよ 可愛いなぁ亜莉子ちゃんは」







あの…武村様?





メガネの奥の目は笑っておりませんよ?









武村様に言い様のない恐怖を感じていると
ふいにアリスが私の方を向いた







「…え、





しまった、と思い 慌てて身を屈める







自分でも少し迂闊だった





武村様には見えないけれど、アリスには
私の姿が見えてしまっている







もし見つかってしまったら





…下手をすれば、陛下の首コレクション
加えられてしまうやもしれない







そ、それだけはイヤだ!


高所から落ちて割れるのくらいイヤだ!!







こちらに近づかぬよう祈りながら
私は 身体を縮めてじっとする









「…気のせいかしら」


「どうかしたかい?亜莉子ちゃん」


「いえ、何だか店の中に知っている人を
見かけた気がして…でも違ってたみたいで」


「ああ そういう事あるよね」







…よかった、どうやら気付かれなかったようだ







そっと顔を上げて 二人の様子を見る





どうやら店に入って頼んだらしきデザートが
ようやくやって来たらしかった







「亜莉子ちゃん、そのパフェ美味しそうだね
一口もらっていい?


「あ、はいどうぞ」





差し出したパフェを掬って食べてから





「うん美味しい、お返しに僕のケーキを
一口食べていいよ」


「いいですよ、悪いですし」


「気にしなくていいよ さぁ





笑顔で武村様が己のケーキを勧め、
アリスは遠慮がちにフォークを受け取り





「それじゃあ、お言葉に甘えて」





控えめに ケーキのカケラを口に運んだ







何故だろう、アリスが楽しそうに
していらっしゃるから喜ばしい筈なのに







胸の辺りに 何かがわだかまる











その後、いくつか楽しげな会話を交わし
二人は喫茶店を出た







「本当に 送ってかなくていいの?」


「大丈夫ですよ、すぐ近くですし」





送迎の申し出を丁重にお断りするアリス











近くの建物の影に身を隠しながら


私は、その様子を眺めて安心していた







別に今日見ていた限りでは、武村様に
怪しげな動きは見られなかったようですし





それに アリスのあの表情





あんなに穏やかなお顔を向けられている方が
アリスに危害を加えるはずも無い









彼の人柄を改めて確認できた、と
ため息をついた その時だった







武村様がこちらに視線を送り





微笑んで 片目をつぶってみせた










「どうかしました?武村さん」





尋ねるアリスに、彼はゆっくり首を振る





「ううん 何でもないよ」











わ、私の監視に気が付いていた…!?





それとも ただ単にタイミングが
良かっただけ!?








武村様とアリスが別れても


しばらく私の動悸は治まらなかった







あのお方、なかなか侮れないです…








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:武村話ようやく完成〜…してみたら
何か微妙な出来になってしまった


武村:始めは僕と君が会話してる
だけだったのにね、この話


狐狗狸:そう、けど単に見えてるってより
どっちか分からない方が武村さんらしいと思って


武村:それでこうなったんだね


狐狗狸:そ、そうです…(笑顔が怖い)


女王:よくものこのことこれたわね
ここに来たのが運のツキよ!(鎌振るい)


武村:おっと!


狐狗狸:危なっ、私まで首を刈らないで!


女王:これならにこの男の抹殺
命じておけばよかったわ!


ビル:陛下、それは無理かと


女王:うるさいっ!!(鎌振るい)


武村:…僕も嫌われたもんだねぇ


狐狗狸:いや、多分女王だけだからあんなん




夢にすらなってない話でスイマセンでした


様 読んでいただいて
ありがとうございました!