こちらの世界は、不思議の国同様
爽やかな秋晴れの空をしていた





昨日までの空模様が気がかりだっただけに


同調するような青空に、心底嬉しくなる







「お呼びですか 我らのアリス」


「いつもゴメンね







薄い水色のワンピースにジーンズという
簡素ながらも愛らしいお姿のアリス


どうやら、今日は休日らしい







「いえ、構いませんよ」





私は一礼をし、そこでふと気が付く





「…あの、つかぬ事をお伺いいたしますが
チェシャ猫はいずこへ?」







いつもならば アリスの側には
必ずといっていいほど猫がいる


現在いるのがアリスのお部屋なら尚の事





しかし、彼女の側には灰色のフードが見えない







「それが…その…」





アリスが気まずげに口ごもり、すっと


指で部屋の隅の ちょうど死角を指し示される





「近所のスーパーにマタタビが売ってるの見て
チェシャ猫だとどーなるのかなって試したら」


「……けひ」







頬を赤くし、ニンマリ笑った口元から
ヨダレをだらだら垂らしたチェシャ猫が





そこでマタタビの瓶と一緒に転がっていた











「嗚呼 愛おしき我が主」











「…効き目抜群、ですね」


「そうなの でも効き過ぎちゃって
マタタビのビンはなしてくれないのよ」


「なるほど、もしや今日の用件はそのことで?」







お尋ねすると、アリスはゆっくり首を振り





「ううん そっちはとりあえず
放っておこうかと思って」





ニッコリと微笑んで おっしゃられた







「折角の休日だし 一緒に遊ぼう、







私は 、と間の抜けた声を発し





言葉の意味を理解するのに少々時間を要した









私と…ですか?」


「いや?」


「いっいえいえそんな滅相もない!」





今度は私の方が勢いよく首を振り動かし





「しかし叔父様や武村様 ビル達を差し置いて
私がお相手してよろしいのでしょうか?」







問いかけると、アリスは勿論!
力強く申してから続ける







「本当は武村さんと会う約束があったんだけど
お仕事入ったから行けなくなったんだって」





…何故だろう、少しだけ安堵してしまう







「叔父さんは仕事疲れで寝てるしー」





耳を澄ませば 少し遠くから
叔父様のものらしきイビキが聞こえてくる





「ビルはね、怖い話とかやたら話すし
あんまり呼びたくないの」







…ビル、アリスがその手のお話を好かない事を
わかっていながら どうして





「それに以外に外で
遊べそうな人っていないから」


「外…と申されますと、室外ということですか?」


「うん」









それは予想だにしていなかった







折角呼んでいただいたアリスに対し
これを告げるのは心苦しくあるのだが…







「あの…申し訳ありませんアリス」





恐れながら、右手をそろりと上げ発言する





「私の存じる遊びは主にトランプやチェス
などの室内遊戯なので 出来ればそちらで」


「ええと…そういうのじゃなくて
外に出て遊べるものにしたいのよ」


「申し訳ありません、私は運動は苦手で…」







悲しげな顔をされるアリスに胸が痛む





しかし、私は創りだされてから
一度たりとてスポーツをしたことはない









原因は 本来の、卵に手足の生えた姿


運動に全く不向きだったのだ







…あの時、よく壁の上になど登れたものだと
我ながらそう思う







「音楽や芸術などの教養は一通り受けては
いるのですが、身体を動かすものはどうにも」





下手に運動を行って 身体にヒビ
入ってしまったら…考えるだけでも恐ろしい







すると、アリスは私の手を引いて





「それなら なおさら身体を動かさなきゃ!





あわわっ、あああアリスのお顔がこんなに近くに!


いや、それより私の手に伝わる
アリスの柔らかな手の平と温かな体温が


って これでは我はまるで変態ではないか!





ししし静まらねば…それよりも







「どっどうしても外でなければいけませんか?」


「だって、やっとお休みの日に晴れたんだもん
外で遊ばなきゃソンだよ!」







主張し、アリスは手を離すと机の傍らに
置いてあった 大きなバッグを持ち上げる





「やり方がわからないなら私が教えてあげる」





言って取り出されたのは、羽のついた
シャトルと 二つのラケット


なるほど、遊ぶのはバドミントン







「…ダメ かな?」







こちらを不安そうに見つめるアリスに
私はそれ以上 断ることなど出来なかった







「いえ、バドミントンでしたら
私でもお付き合いできると思います」







実際に行ったことは無いが、知識だけならば
辛うじて頭の中に入っているし


時折、ビルと陛下がたしなんでいるのも見かける





これならあまり激しいものでもないし
私でも何とかなるかもしれない







「それじゃ決まりね」











こうして 近所の公園まで案内され


秋空の下、私達はバドミントンを興じた







国の住人の特性上 こうして遊ぶ私達を
認識できるのは、今はお互いのみ





まさに 二人だけの世界…なのだが





そんな甘い慣用句を打ち消すほど、私は
無様な姿を晒し続けた









「やった、また私の勝ち!


「ま、負けました…お強いですねアリス」







荒い息を繰り返し、私はそう返す







正直 心境はかなり複雑だ





アリスが喜んでくださっている事が嬉しい反面


ここまで完膚無きに負け続ける自分
心底情けなく思う





なんとかなる、と思っていた己の思考の甘さを
今はただひたすら悔やむ







「そんなこと無いよ、私も最近始めたばっかり」


ええっ!そうなのですか!?」





シャトルを打ち返そうと必死になる私を
翻弄したその腕前は


とても初心者とは思えなかった





「実はね、バドミントンを教えてくれたの
叔父さんなの」


「そ、そうなのですか」







あの叔父様がバドミントンを
たしなまれていたとは…





失礼ながらも意外だと思ってしまう







「叔父様はバドミントンが得意なのですか?」


「うん すっごく強くて勝てなくて、ビルに
特訓してもらったんだけど それでもダメで」







アリスはイタズラっぽい笑みを浮かべて







「自信なくしてたらチェシャ猫が、なら
初心者だからアリスといい勝負が出来るよって」





おのれチェシャ猫、余計なことを





「でも、こんなに弱いとは思わなかったから
なんか…ゴメンね


「いえっアリスが謝ることは
何一つございません!決して!!」






こげ茶色の美しい瞳が パチパチと瞬く





「そう…かな?」


「ええ、逆に言えばアリスがそれだけ
上手だということですから」







その返答がアリスのお気に召したらしく
とても嬉しそうな笑顔が帰ってきた







「そっか じゃあも上手くなるよね」


「え、ええ お互い初心者同士ですから」











不思議の国へと戻り、私はビルの所へおもむく







「ビル」


「なんですか?







ビルは相変わらず 薄笑いを貼り付けたままで
私の方を振り返る


その手には、二つのラケットとシャトル





特に驚くことは無い 彼ならば
アリスの行動を全て知っているのだから







「私に、バドミントンの稽古をつけてください」





単刀直入に告げれば、彼はチロチロと
二つに割れた舌を覗かせながら問いかける





「……はたして、耐えられますか?


「耐えて見せます」







…その日より、ビルと二人での
地獄の猛特訓が始まることとなる








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ギャグを目指して書いたのに妙に
ほのぼのとしてしまった…歪アリは難しいな


亜莉子:せめて廃棄君を混ぜればツッコミが
加わってそれらしくなったかな?


狐狗狸:そうかも(笑)


亜莉子:でもチェシャ猫も本当に猫だったのねー


チェシャ猫:けひ、けひひひ


狐狗狸:うーん、マタタビ効き過ぎ


ビル:…叔父さんがバドミントン得意と
いうのは捏造過ぎるのでは?


狐狗狸:マズイかなぁ?


ビル:さぁ?でもは陛下よりは
筋がいいと思いますけどね


亜莉子:そっか、私もに負けないよう
がんばんなきゃっ


狐狗狸:え、打倒叔父さん!?




ギャグになってなくてスイマセン、そして
展開がおかしくてスイマセン…


様 読んでいただいて
ありがとうございました!