アリスに呼ばれて、私は部屋で待っていた









アリスはまだ学校から帰っておらず、
叔父様も仕事のようで







この家にいるのは 叔父様のお祖母様と私、そして









何か言いたそうだね







首だけのチェシャ猫







「猫 あなたは何故まだ
アリスのお側にいるのです」


「僕は導く者だからね」


「その役目はとうに終えたはずですよね?」


「僕はアリスの猫だから
アリスが望むなら側にいるのさ」







私の目の前、少し距離を置いて
猫の首が宙に浮かんでいる





にんまりとした変わらぬ笑みを張り付けながら







「…別に四六時中ずっと
現世(こちら)にいなくともいいでしょう」


「猫は気まぐれだから、それに
君だってよくこっちに来るじゃないか」


「昔からあなたとは話が噛み合いませんね」


そうかい?君がケンカ腰なのに
原因があると思うけど」


「…あの時 私に何をしたのか
忘れたとはいわせませんよ」


「本能なんだから仕方ないだろう?」









昔から気に入らない相手だった







私を死の淵に追いやっておいて
少しも責任を感じていない所







人の話をまともに聞かない 飄々としたあの態度







何よりも…アリスに一番信頼されていて
アリスのお側にいること





許しがたいと同時に恨めしい











「猫を憎んでアリス憎まず」











「怒っているのかい?」


当たり前です、出来る事なら
あなたの頭をかち割ってしまいたい」


「無理だろうね 僕が消えたらアリスが悲しむし」







膨らむ殺意を感じ取っているくせに
あっさりとそう返す猫





陛下のお気持ちが分かるような気がします







「僕がアリスの側にいることが
そんなに羨ましいのかい 


「そうでないといえば嘘になります…しかし
私は決して、不純な気持ちで言っているのでは」


「でもアリスの側を譲る気は無いよ
これからもね」












私のセリフを遮り、自信満々に猫が言った









もう我慢出来ない











私はハンマーを出現させる







「一度 頭を殴らせてください」


無理だよ 君は攻撃が
女王より下手だろう?」


「避けるしか能のない生首のくせに
よくもまぁそんな憎まれ口がきけますね」







ふわふわと浮かぶ猫にハンマーを振るうも
空振りを繰り返す







「アリスの部屋でそんなもの
振り回したら危ないよ、


「あなたが逃げるからいけないのですよ!」









しかし猫の言う通り、アリスの部屋では
ハンマーは思うように扱えない







下手に物や室内にハンマーの衝撃を与えて
何かが壊れでもしたら アリスにご迷惑が…!











「おや 僕を殴るのは止めたのかい」


「…あなたの為ではなく、アリスに
ご迷惑をかけたくないからです」







私はハンマーを消し、いまだ宙に浮かぶ
忌々しい生首を睨み付ける









「ただいまー」







少し離れた所から 帰宅されたアリスの声が聞こえ





同時に浮かんでいた猫が床にポトリと落下する







「ただいまチェシャ猫」


「おかえり アリス」







アリスが部屋に入った瞬間 すかさず
猫がアリスへと転がり、足下へ擦り寄る







「あ 、来てたんだ」


「おかえりなさいませ アリス」









ああ 相変わらずアリスはお美しい







いや、決して不純な気持ちからではなく
ただ純粋にそう思っただけですので







何を言っているのだ我は…









「ちょうどに相談したいことがあってね
お願いしていいかな?」


「私でよければ何なりと」


「ありがとう、ちょっと外に出てくれる?
すぐ着替えるから ごめんね」







カバンを下ろし、笑いながら言うアリスに笑みを返し







「いえ、構いませんよ 終わり次第お呼び下さい」


「また後でネー


「…あなたも出なさい猫、あなたも紳士なら
女性の着替えを覗くなどと下劣な行為はいけません」







何食わぬ顔で部屋に残ろうとした猫を掴まえ、
共に部屋を出る













アリスからのお呼びがかかり、再び部屋へと入ると





私服に着替えたアリスが座ってこちらに微笑んでいた







「お待たせ、空いてる所に好きに座って?」


「それではお言葉に甘えまして」







私はアリスと向かい合う位置に、
適度な距離を置いて座る





猫は転がりながらアリスの足下へ







「それで、ご相談というのは…」









言いかけて 私は口をつぐんだ







アリスのお顔がほんのりと赤く染まり
少し恥ずかしそうにしていらっしゃった







ああ…なんと可愛らしいお姿





じゃない、この表情からすると
もしは相談というのは…









「男の人って…どんな子が好き、なのかな?」







……やはり そうでしたか







「お好きな方がいるのですね」





私が微笑んでそう指摘すると
アリスは顔を真っ赤にしてうつむかれた





「そうなの、こういう話 身近に
出来る人がいなくて…」









無理も無いことでしょう







失礼ながら叔父様はその手の話
あまり得手とは言えないですし


父親視している武村様にも言えるはずも無く





かといって、住人でその手の話に
よい助言の出来そうな方と言うと これもまた少ない





私が呼ばれたのは 恐らくその為









少々 心に痛みが走るけれど
アリスのお役に立てるなら、不満など…







「…僕だってアリスの相談に乗れるのに」


「あなたは相談どころか まともに
会話もなりたたないではないですか」


「でも話ぐらいは聞けるからね
わざわざに頼まなくても ねぇ


「これは私が受けた相談です
あなたは引っ込んでいてください


「そんなに興奮したら割れるよ 


「余計なお世話です!」









まるで私の心中を嘲笑うかのような
そのニンマリ顔が心底憎い







「まあチェシャ猫も悪気は無いんだし
そんなに怒らないであげて、







ああ くだらないケンカでアリスを
困らせてしまった…







「申し訳ありません
我らのアリが怖いよアリスー」







私の謝罪の言葉を遮って





猫があろう事か、


アリスの胸元に飛び付いて来た







「ちょっともうチェシャ猫
話してるんだから離れて」


「僕がいると迷惑かい?」


ええご迷惑です アリスも
困っておられるし離れなさい」


には聞いてないよ」









ああ 本当に腹が立つ







導く者でさえなければ







アリスに一番信頼されていさえなければ





今すぐにでもアリスの記憶から
猫のことを全て消し去りたい









いや、それよりも猫を
アリスから引き剥がすのが先か











「もーしょうがないわね
話が終わるまでここにいて?」







アリスが苦笑混じりに 猫を胸元から離し





言い聞かせながらお膝へと置き直した







「わかったよ アリス」









猫は満足げに膝に収まっていた











「…それでは お話をお続けくださいアリス」











忌々しい猫め、いつか痛い目に会わせてやる
と心に誓いながら







私はアリスのご相談に耳を傾けた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:短編第二段は猫との絡みです


チェシャ猫:……これ、実はめーるで書いたネタ
なんだよね?


狐狗狸:うん、なんとなく二人の掛け合いが頭に
入ってきてガガガーと


チェシャ猫:でも 某所の夢主キャラと僕の掛け合いの
エイキョウ受けてるんだっけ?


狐狗狸:う…よ よく知ってるね(余計な事を/謝)


アリス:なんでとチェシャ猫は仲悪いの?
本編には出てないみたいなんだけど…


狐狗狸:それは本編が落ち着き次第 こっちの
短編に書きますので、それまで待ってちょ


チェシャ猫:あんな所にぼーっとしてたら
猫の習性上…ねぇ?


アリス:え、え?


狐狗狸:だあぁぁネタバレはダメだってばぁ!!




片思い気味?な掛け合い話でした…


様 読んでいただいて
ありがとうございました!