「それでは、このレシピはお借りいたしますね」


「アリスによろしく〜」









ウミガメモドキから料理のレシピを借り、
首無し死体を踏まないように通る







「相変わらず 怠惰な死体達ですね」







ただ転がり、時折かすかに動く床の死体に
ため息をつき 入り口へと辿り着く









大きな扉を開けようとして











「お待ちなさい 何処へ行くつもり?」







振り返ると、陛下が厳しい顔をしておられた







「アリスに呼ばれたので、あちらに
馳せ参じようと思いまして…」


「わたくしがそれを許すと思って?」








見れば、手にはいつの間にか
大きな鎌が握られている











…陛下は今日も、ご機嫌斜めだ











「陛下はご機嫌斜め」











「陛下 相変わらずそんな危ないものを
振り回すのはよろしくありませんよ」







やんわりと忠告するけれど、陛下はまったくと
言っていいほどお聞きにならなかった







「余計なお世話、わたくしは猫と同じくらい
あなたの事が嫌いなのです」









…まぁ この返しはわかっていたことですが







私はため息をつくと、陛下に問いかける








「私の本来の姿に首がないからですか?」









陛下は首が無いものを嫌っておいでだ





シェフのウミガメモドキもそのせいで
いつも邪険に扱われているし





時計くんも仕事があるのによく牢に閉じ込められ







…私も例に漏れず、目の敵にされている









「それだけではないわ アリスを危険な目
遭わせておきながら…のうのうとアリスに
会いに行くなんて!許しがたいわ!!


「それを否定する気はありませんが…
失礼ながらアリスがレシピをご所望なので」





風切音がして、咄嗟に頭を低くした







頭上を鎌の刃が通り過ぎ 髪が少々切れる





「うわあぁぁっ!?」







鎌を両手に構えなおし、陛下は
不敵な笑みを口元に称えた







「今の姿なら割れることなく首に
出来るでしょう…観念して刈られなさい!


不吉な事を言わないでください!
第一 刈られるつもりもありません!!」







そう抗議しても、陛下は聞く耳を持たれない







軽々と振り回される大鎌をハンマーで防ぎ
或いは別の方へと受け流す









見る見るうちに城の調度品や壁などに





鎌による破損のあとが加えられていく











「陛下、これ以上は城が傷つくだけですよ?」







ため息混じりにそう呟くもお構いなし









それにしても、小柄なお体で
よくこんな大きな鎌を扱えるものだ







「麗しい陛下に、荒れた城も恐ろしい鎌も
不似合いだと思うのですが…」







陛下は私の呟きに 見る見るうちに
頬を赤く染めて目を吊り上げ





強烈な鎌の一撃がすれすれの所で振り下ろされる







「ビルみたいな事を言わないでちょうだい!」









ああ、そういえば







ビルは、よく陛下に皮肉を言っては
追いかけられていたんでしたっけ







それと同じように聞こえたとは…









筋違いながら少し ビルに文句を言いたくなった







「あの、どうしても行かねばなりませんので
どうか見逃していただけないでしょうか?」


嫌です!レシピならわたくしが
アリスに渡しにいくわ!!」







それだけは出来ない





陛下がもしアリスに会ったら、即座に
首を刈ろうとするに違いない







それにアリスは私を直々にお呼びくださった





譲る事は出来ない―誰であろうと









「申し訳ないですが、アリスのため…
お許しください陛下







私は 大きく振りかぶり、ハンマーを
陛下に叩きつける素振りを見せる







甘いわ、そんなスキだらけの動き
防げないわたくしだと思って?」







かぶせるように陛下が横薙ぎに鎌を振った









瞬間、私はハンマーを消して
ドアに体当たりし 急いで外へと走る







「ちょっ…待ちなさい!!







体勢を立て直しながら 陛下が後を
追って来られるけれど、私は止まりはしない







「生憎 私はあなたに勝つのが目的では
ありませんから、それでは!!」









鎌の羽音から遠ざかりながら、





私はアリスの元へと向かったのだった











「…覚えてなさい !」







陛下の叫び声を後ろに聞きながら








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:長編がまだ二話しかないのに 短編を
書いてしまいました…一応、長編終了後の話です


女王:猫やビルといいといい、アリスに
呼ばれるなんて図々しいったら(鎌振り回し)


狐狗狸:あぶっ、あぶあぶ危なっ ちょっ…


女王:それにわたくしの話でネタバレだなんて
どういうつもりですの!?(スピード倍速)


狐狗狸:女王様、鎌を振り回さないでください!


女王:うるさい!言い訳は首になってから
聞いてあげるわ!!(更に倍速)


狐狗狸:っぎゃー!ごめんなさいー!!


ウミガメモドキ:…出番あれだけ、か




甘いのを期待してた方 本当にスイマセンでした


様 読んでいただいて
ありがとうございました!