「あ、あれって ジャムパン?」


「ええ…しかし何やら様子が違うようです」





彼らの知る限り、いちごジャムパン達は
ある罪によって囚われる事が決定され


鶴岡パン店の地下に集められていたハズ





けれど現在パン達は何やら英文字で
書かれているエプロンを一様に身につけ


二つのあんぱん勢力へ対峙しているようだ





「何度言えば分かる!
ここはお主らの出る幕ではなぁい!!」


「そうとも、大人しく牢にもどりなさい!」





渋い顔で声を揃える両あんぱんだが


あちらは引く姿勢を全く見せない





「そうは行かないよ 僕らだって
この戦いに参加する権利があるんだ!」


「この日のために立ち上げたお店
"フラーゴラ"で正々堂々勝負だ!!」


「さぁ 僕らを食べて!!」







この闖入者によって戒めが緩んだので
慌てて彼らの包囲網から抜け出し





「あ、あのね悪いんだけど私達」





口を開くアリスに、あんぱんの一人が


"待て"と言わんばかりに手のひらを差し出す











第五話 街中のパン合戦











なりませぬお二方!油断しておっては
奴らに満腹死させられてしまいますぞ!」


「そう言って自分達を有利に進めようと
するつもりでしょーオジサン」


「なにをぉぉ!」





挑発に乗ってつぶあんぱんは肩を震わせ







「その通り、運が悪いと
そこまで姑息な手段に頼りだすとはな」


「そっちだって似たような中身のクセに
黙っててよオジサン」





便乗したこしあんぱんは、指摘に
目つきを鋭くし







お前達の監視が甘いから、このような
ガキどもがでしゃばるのだぞ!」


何を!?貴様らが
モタモタしているからであろうが!!」





両者間では相変わらずの口論が展開し


あっという間に十字路は喧騒に包まれ







「分かったからみんな落ち着いて!!」





アリスの叫びが辺りに響いた瞬間







ウソのように喧騒が静まった







「え…ええと…」





一斉に集まる視線に戸惑った彼女は
すがる様にへ顔を向ける


短く頷き 彼は口を開いた





「あなた方はどうしても店の勝敗を
決しなければ気がすみませんか?」


『もちろん!』





間髪入れぬ答えにたじろぎつつ





小さく 隣へささやく





「…いかが致しましょう、アリス」







しばし悩んではみたものの







今までの彼らのやり取りを見る限り
方法はたった一つしかないと


彼女は気付いていた







「仕方ないから ここはパン達の
気持ちを納得させようか」





ため息交じりの一言に彼は
すかさず恭順の意を示し


更にその一言が聞こえていたらしく
群れ集うパン達から次々に歓声が上がる





「そうとなれば早速わが鶴岡パン店へ」


いーや!
開店したてのフラーゴラがお勧めだよっ」


「何を言いますベーカリーカメダに決ま」


「ただし一つだけ約束して」







再び静まり返った彼らに しゃんと
胸を張ってアリスは告げる





「どの店が一番になっても、絶対に
ケンカしたりしないこと」


「もし守られなかったり 脅迫等の
反則行為が見受けられた場合は
私が制裁を下すので覚悟してください」





言葉を続けたが、どこからともなく
取り出したハンマーを掲げてみせた











成り行きで合戦の終止符を打つべく
アリスは審査員を買って出ることになり







話し合った末 訪れる店の順番や
細かなやり取りを決め





彼らはまず、左側の通路へ足を運んだ









「フラーゴラへようこそお客様!
さぁ早速僕を食べて!!


「僕を食べて!」





かわいらしく飾られたドアを開けた途端


待ち構えていたいちごジャムパンが
我先にとへたかり出した





私は審査員ではありません!強引に口へ
手をねじ込むのをお止めなさいっっ!!」







覆いかぶされて揉みくちゃにされながらも


どうにか彼らを沈め、二人は改めて
店内へと足を踏み入れた







「だ、大丈夫?」


「ええ…あなたにお怪我が
ないのであれば なによりです」





ややふらついた足取りで歩く彼の横を
おずおずとアリスがついて行く





笑顔で返してはいたものの


決めた順序ではもう一度訪れなければ
ならない為か 深いため息がもれている







中はさほど広くなく、街の外観に比べ
ずいぶん素朴で温かみがあった





カントリー風の内装や棚には
パン屋らしく幾つかのパンがあるが





ズラリと揃ったジャムパン達が


自分達の内 誰が食べられるか
今か今かと待ち望んでいる







「分かってたけど、やっぱり食べづらい」


「…では 先程決めた通り一口分
お取り分けいたしますね」





軽く会釈をして、は近くのパンの
片腕を取ってそっと毟る


千切られた欠片と抉れた腕から
真っ赤な液体があふれ出る様は


いちごジャムと分かってても痛々しい







「さあ、どうぞ」





頷き そっとパンの欠片を受け取り
口の中へと放り込む彼女へ


いちごジャムパン達の視線が集中する





どう?おいしい?」


「いやまだ食べ始めたばかりだから」





言いかけた言葉が途切れ


次の瞬間、アリスの身体は小さく縮んで
着せ替え人形サイズになった





「このサイズも久しぶりだなぁ…
おいしかったよ ありがとう」





見上げながら礼を返され
ジャムパン達は素直に喜びの声を上げる





「それではアリス、私めの肩へ」


「うん」





屈んで差し出された白い手に乗り


アリスは彼の肩へと座った









ワラワラと寄り縋るいちごジャムパンを
なだめて振り切り 彼らは十字路を歩く







「懐かしいな…こうやって誰かの肩に
乗せてもらうのって あの時以来ね」


「そう、ですね…」





しんみりと呟く彼女へ柔らかに笑って
答える彼だが、顔は僅かに赤い





「チェシャ猫ったらどこにいるんだろ…
早く会いたいなぁ」







その何気ない一言に 金色の瞳が
少しだけ悲しげに伏せられた





「…申し訳ございませんアリス」


「ごめんね!
別に傷つけるつもりで言ったわけじゃ」


「いえ、いいのです
さあ店に入りましょう」





彼は右側の店の片方で、足を止めた









おぉ!私どもの店があんぱんの店で
先とは嬉しい限りです!!」





ベーカリーカメダへ入店すると
あんぱん達が笑顔で二人を出迎える





「さあお好きにお食べください、アリス!」





ズイズイと推し進めてくる彼らを抑えながら


先程ジャムパンへしたように
一人の片腕から一口分が千切り取られ


その欠片が床へ下ろされたアリスへと渡される





もちろん その欠片には
隅までぎっしりこしあんが詰まっている







「い、いただきまーす…」





茶色い群集の期待に満ちた眼差しに
やや怯えつつ、パンの欠片は飲みくだされ


彼女の身体が見る見るうちに元へ







戻りかけた刹那 店のドアが乱暴に開いた





ズルイぞ貴様ら!我らとて先に
試食してもらいたいわ!!」


何を言うかつぶあんめが!今は私達が
審査されているのだ、後にせい!!」





なだれ込んで来たつぶあん勢と
店内のこしあん勢が睨み合い始める





「お止めなさい!ここで争うのは
ルール違反ですよあなた方!!」


「いいや我慢なりませぬ!あんぱんなら
先に我らをお食べくだされ!」



「ワガママ言わないで、ちゃんと
順番で食べてあげるから ね!?」


「なら…今お食べくだされアリス!





つぶあんぱんの一人が彼女へ向かって
両手を突き出し突進してきた





させじとこしあんぱんが壁を築くが


後に続くあんぱん達の猛攻に弾かれ
一人が眼前へ接近してくる





「きゃああぁぁぁぁ!!」


「アリス、危ない!!」





庇うように前へ出たの顔へ
あんぱんの右腕が張り付いて


力任せに口内へと捻じ込まれた





「む…むぅぅう!」







剥がそうともがく内、息苦しさに負け


反射的に指が噛み切られてしまう





「こうなれば殿でも構いませぬ!」





すかさず片手で口を塞がれたため
喉の奥へと二本の指の欠片が滑り落ち





「う…ぐっ」





よろめく彼は少し苦しげに身体を曲げる







「だだだ大丈夫!?」


「あ、アリス 私から離れ…っ!」





言うや否やその身体が変化して





「きゃあっ?!」







肩へすがり付いていたアリスは


白いシャツの袖に捕まる形でふわりと
宙に浮かび上がった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:新年明けてパン合戦 しかも一話で
終わらすはずが、もう少し続きそうです…


ジャムパン:僕らのエプロンに書かれたアレ
イタリア語なんだよねー実は


アリス:え、そうなの?


狐狗狸:はい 綴りは"fragola"
意味はまんま"苺"です


ジャムパン:なんとなく格好いいから
つけたんだよね〜管理人さんは


アリス:そうなんだ…でも味見するのが
私になってたのはどうしてなの?


狐狗狸:パン達の性質上 苺→あん→苺→あん
ルートで行かなきゃマズイから
必然的にが守護者になりました


アリス:…納得




巨大化した彼とパン合戦の行方は!


様 読んでいただいて
ありがとうございました!