即座にの背後に隠れ アリスは訪ねる





「前みたく腕一本よこせとか言うんじゃ…」


「心配すんな 今回は指で十分」


「だからイヤなんだってば!!」





じりじりと歩み寄る両者から
警戒しつつ姿を隠すため


自然と彼が彼女を後ろに庇う体勢となる







「後生ですからちょっとだけでも
分けてもらえませんか〜?」


「身体は分けるものじゃありません!」


「大まけにまけて爪ならどうでぃ?
これならすぐまた生えてくるし」


「そう聞いてはいるけど爪剥がすのって
すごい痛いって言うでしょ!?」


「大丈夫だって 痛いのは一瞬だから!」


「それウソ!絶対ウソ!!」







途切れる事のない接近と言葉の応酬を
どうにか終わらせるべくが口を開く





「落ち着いて下さい、アリスに何か
あったら陛下がお怒りに…あれ?





先程まで親方の側にいたはずの
ハリーの姿がない、と認識した瞬間







「捕まえたーー!」


「きゃああぁっ!?」





背後でアリスの悲鳴が上がった











第四話 三つ巴の十字路











親方とのやり取りで気が逸れた隙を突き
横からこっそり回りこんだハリーが


彼女の上に覆いかぶさっている





今ですよ親方、早くハサミを」


言いかけた彼の首筋の辺りが
伸びてきた白い片腕に、がしりと掴まれる





「アリスに傷一つでもつけて御覧なさい
…二度と戻れないよう消しますよ?







振り返って見えた 爛々と輝く金色の目に





ひぃっ、ご、ごめんなさいいいい!」





以前の記憶と恐怖を呼び起こされ
ハリーは慌ててそこから退いた







「お怪我はございませんか?」


「あ、ありがとう…」





差し伸べられた手を取り 彼女は立つ







「どうしても直した分は払わなきゃダメ?」


「当たり前でぃ、オレぁただ働きは
極力しねぇ主義だからな!」


「代償なら私が後ほどお支払いしますので
ここは見逃していただけませんか?」





彼の提案に、しかし両者は
頑として首を縦に振らない





「ダメですよぅ、うちはツケが
利かないんですから!」


「お願いできませんか?事態が事態ですし」


それはそれ これはこれ
せっかく腕を振るったんだからよぉ」





元々 服の直しは彼らが強引に
行った行為なのだが


それに関して突っ込んでも無駄なのは
二人とも理解していた







どうあっても引かぬ仕立て屋師弟に
困り果てていたアリスの目に





説得を続けるの左腕に携えられた
小さな花束が移る







特に目立つ三本のバラの内、一つを手にし





「だったら…このバラをお代代わりに
したら、ダメ…かな?」





アリスはそれを、彼らの前へと差し出した









しばらく彼女の顔とバラとを交互に
見比べていたハリーと親方だが


やがて 諦めたようにため息をつく





「しょーがねぇなぁ…タダよりゃマシか」


「アリスが食べられないのは
残念ですけどねぇ」





絆創膏だらけの親方の手が、そっと
一輪のバラを受け取って離れる







「納得していただけた所でお伺いしますが
チェシャ猫を見かけませんでしたか?」





問いかけに、二人は首を横に振る





「見ませんでしたねぇ」


「少なくともここにゃー来てねぇぞ」







予想はしていたものの収穫が無かった事に
小さく肩を落としてから





「そう…ありがとう、じゃ行こうか」


「そうしましょう それではお暇致します」





ペコリとそれぞれ頭を下げ、二人は
入り口へと向かう







佇んだままの姿勢で見送りながら


ハリーと親方はアリスへこう言った





「アリス、どうかお元気で〜!」


「オメェさんなら立派な嫁さん
なれるぜ!自信持てよ!!」


「えぇっ!?」





ニマリと笑う彼らに、赤くなった顔
見られまいとするかのように


足早にアリスは扉を抜け 続いて
出てきたが扉を閉める







「い、一体どういうつもりで
言ったのかしら 親方は!」


「その…やはり言葉通りの意味合いかと」







しばらく二人は俯いていたが







やがて アリスが顔を上げると
先程出てきた扉の辺りを軽く睨む





んもう、あの二人ったら
いっつもドキドキさせられてばっかり…」


「彼らに悪気はありませんよ、とはいえ
些か行き過ぎる部分はありますが」


「うん、それにしても…」







言葉を止めてアリスは辺りを見回し





一つの通路の途中にあった仕立て屋が


T字路の分岐点の 真ん中の道が
前へと伸びる位置にあるのを確認する






「また街の道が変わってるみたい
さっきまでの花屋がないもん」


「ええ…恐らく店の中を出入りすると
街の様子が変わるのでしょう」





つくづく不思議な街だわ、と
アリスは心の中でのみ呟いた





「あくまで街からは出られないみたいね

…とにかくチェシャ猫か他の誰かに
会えるまで進んでみましょ?」


「はい」









素直に目の前の道を進んだ二人は





右、左、右と単調な曲がり角に
従って 十字路のある地点に出る







何だろう?賑やかな声がしない?」


「ハッキリ聞こえますね あの十字路の
先に誰かいるのかもしれません」







期待と不安を胸に四つに分かれた
分岐店まで足を運べば





声はどんどん大きさを増して―









『さぁさぁ鶴岡パン店のつぶあんは
なんと!本日あんこ二割増量ですぞ!!』


『ただ今ベーカリーカメダのこしあんぱん
どれも焼き立てでございます!!』







分かれた路地の右側に延びるその場所で







よく焼けた肌をしたガタイのいい
腰布を巻きつけただけの姿の男達が





『こちらのパンは向かいの店よりも
あんの食べ応え間違いなし!』


『当店のパンは向こうの店など
比べられぬおいしさを誇っております!』






道を挟んだ店から拡大された
出店部分で 声を張り上げて競いあう









「アレって…あんぱん達よね?」


「ええ、ほぼ間違いはありません」





声の正体よりも 彼らがやっている
行動が理解しきれず呆然とする二人







が、店から出てきたあんぱんの一人が


分岐の中央で立ち尽くす両者に気づいた





おお!アリスに殿!!」


「何っ!?おお、本当だ!!





見つかった事に気づいて
その場から移動しようとしたものの





二人はあっという間に駆け寄ってきた


腰布一丁のあんぱん達に囲まれた





「な、ななな何か用ですか!?」







戸惑うアリスへ一人のあんぱんが
代表して 前へと出てきた





「ご助力くださいアリス、我らは今
とても大事な合戦を行っております」





桜の塩漬けを額に頂いた彼に続いて


他のあんぱん達も次々に言葉を紡ぐ





「そう、ようやくつぶとこしの
長き戦いに終止符を打つため」


「私達は一つの戦いを始めました」


「…それと先程の行動は、何か
関係がおありなのですか?」


良くぞ聞いてくださった!
それこそが我等本来の戦い!!」


「道行く者達にパンを進め、どちらが
一番多く食われたかを競い 合計数が
上回ったものを勝者とする…」





そしてあんぱん全員の声が唱和した





『これぞ、パン販売合戦!!』







しばらく二人は呆気に取られていたが







深く息を吐くと 彼がやや眉間に
シワを寄せて口を開く





「…あんぱん達、もういい加減
争いに固執しすぎるのはお止めなさい」


「いくら殿のお言葉といえども
コレばかりは聞けませぬ!」



「そうとも コレが私達の決着
なるのですから尚更です!!」


「え?決着ってどういう」





アリスの問いを遮り あんぱん達は
彼らの手を取り強引に引く





「今こそ我等の陣を、勝利へと
導いてくだされ!!」



「お放しなさいあんぱん達!
私達は行かねばならぬ用が…あああ!


「いや、私達のグループこそが
勝者にふさわしいのです!!」



痛い痛い!ちょ、ちょっと待ってよ
私参加するなんて言ってないから!!」







言葉に耳を貸さないパン達
見た目通り力が強く


抵抗するもズルズル二人が引きずられ―







「待った待ったー!あんぱん達にだけ
大きな顔はさせないんだからね!!」






あんぱん達の集団の動きを止めたのは





十字路の左側からやって来た


素裸のマネキンのような白い少年達だった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:恐怖回避とパン達との遭遇に突入〜


アリス:助けてもらって何なんだけど
怒った、ちょっと怖かった…


狐狗狸:君に危険が迫ってたし それに
叔父さんの顔が強面らしいからね(公式で)


あんぱん(つぶ):それよりもお二方!
ぜひ我等つぶあんぱんを食してくだされ!


あんぱん(こし):いやいや!ここは
こしあんぱんをお一ついかがですか!?


アリス:こんなトコまでパン合戦
やらなくていいんだってばー!!


ジャムパン:ずるいー!僕らも食べて!!


狐狗狸:うわちょ押さな
あqwせdrftgyふじこっぉp;




いざ始まる、三つ巴のパン合戦!?


様 読んでいただいて
ありがとうございました!