小さな花束を手に入れ、二人は花屋を後にする





「ああ驚いた…にしても服がボロボロ…」


「あれだけの花達に絡まれましたので
やむを得ないとはいえ 困りましたね…」





服のあちこちに出来た破れ目を眺めつつ
一歩 街へと出た途端







街の並びが一変していた







今出た花屋は通路の角を曲がった
袋小路のような所にあったハズなのに





彼らの降り立つ場所はどこかの路地の
途中に出たような按排となっている





「何なのこの街…!?」


「少なくとも、先程と並びが
変わっているようです」





目を見張り 辺りを見回す彼らに
ずんぐりとした影が走り寄る





「お二人とも、そこにいたんですかぁ!!」


「えっ…きゃあっ!?」





振り返ったアリスは間近にいた
胸ほどの背丈のハリネズミに驚いて


思わず身体のバランスを崩し、たたらを踏んだ





「大丈夫ですかアリス!」


えっ!?ええっ、どうしたんですかぁ?」





慌てて寄り添う二人に支えられながら
彼女は苦笑交じりで答える





「ご、ゴメンねちょっとビックリして」


「そうなんですか?」







平気そうな様子に安堵のため息をついてから





「ハリー、あなたはどこからここへ?」





は手をそっと離し、エプロン姿の
ハリネズミ…ハリーへ訊ねる











第三話 むかいの仕立て屋











「僕は待ってれば来るって言ったんですけど
親方がどーしても迎えに行けってー」





言いかけて 彼の言葉が一瞬止まる





「お二人とも服がボロボロですよぅ!
大変だ、すぐに直さないと!!」



「えっ…ちょっと!」







戸惑うアリスの背後へと回って背を押し





「ちょうど親方の仕立て屋があそこに
ありますし さぁ行きましょう!!





ハリーが示すのは、向かいの建物


確かに戸口の側に出た看板には
"仕立て屋"と書かれているのだが…





「ねぇ、あんな建物あったっけ?」


「さ、さぁ…?」


「さーさ早く早く!!」







グイグイとハリーに背を押された
アリスと共に も仕立て屋へと入った









中の様子は仕立て屋の仕事場に相応しく


色とりどりの布地や衣装、ハサミや
糸紡ぎなどの独特の道具が目に付いた





切れ端や型紙のクズが床のあちこちに散り


天井から鮮やかな色に染め上げられた
シャツやスカーフが吊り下げられている







「うわぁ…ずいぶん本格的…」







高校生の頃、学校の家庭科室を借りた
二人の仕立て屋を見てはいたものの





更に規模が大きくなった光景に
アリスは目を丸くする







「親方〜お連れしてきましたよ〜!」





少し奥へと呼びかけた彼にすぐさま
怒鳴り声が寄越される





「ったく遅ぇよハリー!
さっさと連れてこいっつったろーが!!」








雑多に詰まれた素材を掻き分け


そこそこに上背のある、身体中
絆創膏だらけの男が三人の前に現れた





よぉ!久しぶりだなアリスに!!」


「ええ ご無沙汰しておりました」


「お、お久しぶりです…」







挨拶をしてからアリスは目の前の相手と
彼の隣へ寄るハリーとを見比べ





おずおずとこう問いかける







「…ねぇ、どうして
二人とも大きくなってるの?」


「どうせなら同じサイズの方が色々といいと
思ったんですよぅ それに最…イタ!





のほほんと答えていたハリーの言葉が
親方の刺したまち針によって止められる





「さい…最近あんぱん達が喧しくてよぉ
仕切りに食え食えって進めるから断れなくって」


「ああ、それで大きくなったのね…」


「それは大変でしたね 顔を会わせたら
少し言い聞かせておきます」







ややワザとらしい笑みを零してから
親方は二人の服について口を開く







「なんでぇ、エラくボロボロじゃねーか
派手にスッこけたか?」


「少々花達と戯れすぎただけですよ」







苦笑交じりに答えたへ頷きつつ





「それは大変でしたねぇ〜ささ
直しますから着替えて着替えて!」





ハリーはアリスの腕を引く





「え、いやいいよ私はこのままで
それよりチェシャ猫を追いかけないと」


「いいからいいから 直るまで
代わりの服もお貸ししますし」


「けどこんなボロボロだし時間だって…」


オレっちの腕を信用しろって
こーんな服の綻びの一着や二着くらい
ちょちょいのちょいだぜ!!」







何を言っても聞かず 仕立て屋二人組は
両者を試着室へと引っ張っていく







「…アリス、チェシャ猫については
後ほど伺う事にしましょう」





こそりと小さくささやかれた声音に







「う、うん そうね…」





頷いて 彼女は小さくため息をついた









「じゃ、私から先に着替えるね」


「はい…どうぞごゆっくり」







渡された代わりの衣装を手に試着室へ
入ったアリスを見届けてから







彼はハリーへと向き直る





「……先程アリスへお渡しした衣装はもしや」


、わかっちゃいました?」





小さく しかし楽しげに呟かれた言葉に
これまた密やかなため息が返る







「ちなみにお前さんの衣装は
こっちのタキシードだぜ?」





言って親方の差し出した真っ白な衣装を見て
一旦固まってから


彼は慌てて近くにあった別の衣装を手に取った





「わ、私はこちらで結構ですので」


えーどうしてですかぁ?
これきっと似合いますって!」


「折角アリスと対で用意したんだし着とけよ」


「余計なお気遣いは結構ですからっ!!」







ニヤニヤする二人へ真っ赤になって返した所で







「ど、どうかしたの?」





着替え終わったアリスが現れ





「いえ何でもございません 失礼致し…」


言いかけたの言葉は







目の前で恥ずかしげに頬を染めている
純白の花嫁の美しさに、奪われた








「すっごくキレイですよぅ アリス!」


おぉ〜やっぱオレっちの目に狂いは
なかったぜ、よく似合ってらぁ!」


「そ、そうかな…変じゃない?」







チラリと視線を向けられ 彼の顔が
余計に赤く染め上げられる





「どこもおかしくありませんよ
あなたはとても…麗しい、です…」





どうにか言葉を搾り出すと親方へ向き直り







「それでは衣装をお借りします、失礼」





一礼し 手にした衣装と共に
記憶の番人は試着室へと駆け込んでいった







「…ねぇ、三人で何を話してたの?」





可愛らしい上目遣いの問いかけに
今度は ハリーと親方がドキリとした





な、何でもねぇよ!さて仕事仕事っ」


「それじゃ服をお預かりしますね〜!」







慌ただしく動き出した彼らへアリスは
訝しげな視線を送った









「おっ…お待たせしました」





戻ってきたが着ているのは
ピシリとした黒いカマーベストで


並んだ二人は間違いなく
"花嫁と執事"にしか見えない





「に、似合うね その格好…」


「お褒めに預かり光栄でございます…その
アリスも、とてもよく似合っております…」


「え、あ、ありがとう…」





照れながら 彼女はやや言葉を詰まらせる





その時頭の中に浮かんでいたのは
以前TVでやっていた"特殊な店"の特集


(服のせいなのかな?"あの店"にいても
違和感がないように見える…)







「どうか致しましたか?」


「え!?ううんなんでもないよ!」







心配そうな相手にブンブンと首を振りつつ
アリスが答えた所で







終わったぜ、ほれ 着替えてきな」





二着の衣装を携えた親方が彼らの前へやって来た









手渡された服は裂けていた部位の継ぎ目が
分からず、まるで新品同様の仕上がり





自信満々に請け負うだけの仕事振りを見せていた







「相変わらず見事な腕前ですね」


「へへん、あたぼーよ!」





元の服へと着替え終わった彼の賞賛に
親方は、鼻をこすりつ胸を張る







「本当にありがとう二人とも」





ニコリと微笑んでアリスも礼を―







「いえいえ、いいんですよお礼なんて〜
お代さえもらえれば結構ですんで







和やかな声音に、笑みが凍りついた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:仕立て屋二人組での衣装ネタと
過去のアレな思い出フラグを書けました〜


アリス:親方とハリーが私達と同じサイズなのは
あんぱんを食べたってコトでいいの?


狐狗狸:一応はね…ちなみに二人の衣装の
発案者はどっちから?


ハリー:選んだのは親方ですけど、進めたのは
ボクなんですよぉ〜


親方:ったく折角見繕ったってのに
照れやがっての奴…


狐狗狸:ヘタレですから(爆)てかアリスさん
ひょっとして興味あるんですか〜?執j


アリス:え、いやあのたまたまTVで
見ただけだからアレは!(赤)




次回 彼らが狙うのは、やはり…!


様 読んでいただいて
ありがとうございました!