本当ですか…どのような情報でも
提供いただけるだけ助かりますよ!」


感極まって廃棄君の手を両手で握り締める





「…も色々苦労してんだな」


「ええ、ここに来るまでに戻した住人達の中で
マトモな情報をくれたのはほんの僅かですし」





こちらの呟きを耳聡く聞きつけたらしく


独自にお茶会を楽しんでいた帽子屋の野次が飛ぶ





「何だよ
オレらが役立たずって言いてぇのかー!」



「…でも…僕ら何も…知らな…」


「まーいーじゃんそんな事どうでもさぁ
僕どーせならアリスのスリーサイズとか知りた」





言葉半ばで廃棄君が近くにあった時計を投げ


それは見事にウカレウサギの顔面に直撃した





「そこ黙っとけセクハラウサギ!」


いったいなぁ〜!僕は極めて健全かつ
当たり前の事を言っただけなのに〜
もそう思うだろ?ねっ?」


「…私も廃棄君の意見に同感です」


そこだけはキッパリと言い捨てた





私はそのような下世話な思考は一切!断じて!
持ち合わせてなどいないので


一緒にされると心外です!!





あっれ〜?まっいいや、想像するだけでも
結構楽しいモンね 胸は大きめだといいなぁ
陛下が成長不可能な幼児体型だしさー」





…ご本人がいらしたら即刻首を刎ねられる台詞
吐きつつ酒をあおるウカレウサギと





「何だよ勝手に話始めやがって!
とお前はもう今からお茶会参加すんなよな!」


「…帽子屋、すねて…ぐぅ…」


「すねてなんかねーもんネムリンのバカ〜
って痛い痛い!それオレの手だから!!」


話題についていけなくなった二人組は放置する







「それではお話をどうぞ」


「オレ自身、どーしてこんな事知ってんのか
不思議なんだけどな…」





少し困ったように頭を掻きながら廃棄君は
私を真剣な顔で見上げて、こう言った





「さらわれたアリスは 依代として
この近くにいるらしいんだ」












第十二話 偽りの両騎士











それは、余りにも突拍子も無い一言だった





意味を理解した瞬間 私は思わず
廃棄君へと詰め寄る





「アリスが…依代に!?


「よく分かんねぇけど嘘じゃねぇって!」


「いえ、疑っているわけではないのですが
何分考えもしなかった事ですので…」





共に消えた住人達が依代に封じられ
影がこの国で活動しているのだ


アリスご自身がそうなっておられたとしても


決して 不自然ではない





「そうするとアリスの影は一体っ、いえ
それよりもアリスの依代はどこに」





正確な場所を訪ねようとした私の口へ





「ちょい待ち」


手をかざし 廃棄君が言葉を押し留めた





 悪いけど、オレが知ってるのは
アリスが依代になったって事だけだ

…それ以上は何も知らねぇんだよ」







影でない廃棄君に 嘘をつく必要も理由もない


それにあの暗号が真実なら アリスの位置
知るのは赤のナイトだけの筈





赤のナイトが廃棄君に割り振られた役割で
無いなら、その情報は得られない





「そうですか…失礼しました」





私は謝り 質問を変える事にする





「しかしアリスが依代に封じられている事を
ご存知なら 依代の特徴は分かりますよね?」


「おお!アリスの依代は―」





一字一句聞き漏らすまいと集中していた
私の耳へと届いた次の言葉は







『おおおおおおおおおおぉぉぉ!!』





地鳴りと錯覚してしまうほどの


盛大に張り上げられた複数の雄叫びだった





「ちょっと何で…っわああぁぁぁ!?





振り返れば、そこには争いながら
こちらへとなだれ込んでくるあんぱん達の影





お茶会は当然ぶち壊しになり





『うわああぁぁぁぁ〜!!』





私達は、戦乱に巻き込まれまいと逃げまとう





「おい!あんぱん達を元の姿に
戻してなかったのかよ!?」


「無茶言わないで下さいっ 絶え間ない乱戦に
突撃して腰布に触るなど出来ませんよ!」







あんぱんの影達による戦火から逃れる内に





私は、弾みで小川を超えてしまう





「あっ しまった!」





思った時にはもう遅く





先程まで小川の向こうにあった小道から
全ての住人達が影も含めて


跡形も無く、どこかへと消えていた





「まだアリスの依代の特徴を聞いてなかったのに…」





肩を落とし呆然と風景を見つめていたが
過ぎた事を悔いていても仕方がない


気を取り直し、そのまま前へ進む事にした









アリスの居場所を知るのは赤騎士…か」





暗号の一文を呟きながら、私は頭を悩ませる





記憶にあるビルとの一戦を頼りとして


丘の下に広がっていたチェス盤の大地を
順調に進んでいると仮定するなら





「そろそろナイトに遭遇していても
おかしくは無い…筈なのですが」





その時、進行方向の向こうで


猫の威嚇音のような甲高い音と銃声が響いた







近づいていく内にザカザカと
何人かが地を蹴る音が聞こえ始め





まず見えたのは 馬の頭を模った赤と白
二色の巨大なナイトの駒





その駒の前で二つの影が


激しい戦いを繰り広げている事を視認する





あの姿形は ビルとチェシャ猫の二人に間違いない







「コレは僕のだ、渡さないよ!」





鈴付きの赤いリボンを首につけたチェシャ猫が


左腕に何かを抱え、右手でビルを引っかくも





「戯言を…コレは私の手に渡るものです!」





するりと攻撃をかわし 逆に弾丸を放ちながら
銀色の面をつけたビルが抱えられた何かを奪う





…しきりに両者が取り合っているのは
どうやら人形のように見える





「あの、二人と…」





一時的に争いを止めるべく口を開きかけた私は


真っ赤なエプロンドレスを着た
アリスを模った その人形に目を奪われた






あれは歪んで壊れたシロウサギが


アリスの命を吹き込む為に持っていた…!







"アリスの居場所を知るのは赤騎士"


"さらわれたアリスは 依代としてこの近くに"





「まさか、二人のうちのどちらかが
赤のナイト…!?」






思わず叫んだ私の声に、両者の影が顔を向け


勢いで 取り合っていた人形が
空中へと投げ出された





『…人形が!!』







跳ね飛ばされた人形は、高く舞い上がり


風景の一部として溶け込んでいた樹木の
上の枝へ引っかかる





「「くっ…!」」





すぐさま木へと駆けて行こうとする影達へ
今度こそ、私は声をかけた





「ちょ、ちょっと待ってください!


「…何だい


「私達は忙しいので邪魔しないで下さい」





ビルもチェシャ猫も、滅多に己の感情を
表してしゃべる方ではない


しかし 向けられた言葉は


あからさまな敵意と険悪感を帯びていた





「邪魔をしたのは申し訳ないと思いますが
こちらにも事情があります…質問にお答えを」





しかし二人は私の話を聞かずに再び木の方へ





「待ってください!
どちらが赤のナイトですか!?」





駆け寄りつつ言うと一応は立ち止まり

こちらを向いて面倒くさそうに





「さぁ?」


、猫はナイトにならないんだよ?」


「質問を変えます、あの赤い馬の駒の主は
ビルと猫のどちらです?」


「その馬は始めからそこにいたのさ」


「猫の言う通りですよ





影の嘘やごまかしは今に始まったものではないが


私に対する返答から察するに、余程
二人のあの人形に対する執着は強いのだろう





やはり人形がアリスの依代…!





思考に気を取られている隙に両者は樹木を目指し


先にたどり着いて木を登り始めたチェシャ猫を


拳銃で狙撃しながら背後から引き倒し
代わって枝へと手を伸ばすビル





そんな彼を猫が爪で引っかいて牽制し





互いが先に人形を手にすべく木の下で
またもや戦いを繰り広げる







「君、邪魔だから消えてよビル!」


「いいえ、あなたこそ
この場に不必要なのですよチェシャ猫!」





互いから放たれた爪の一撃と弾丸を





間に入って、具現化したハンマーで止め


両者を弾き飛ばして木の前に立ちはだかった





「そこを退きなよ 切り裂くよ?


「邪魔をするなら例え記憶の番人と言えど
容赦いたしませんよ ?」





怒りと共に睨めつける住人の影に





「お二人の邪魔は致しませんよ…
最後の質問に答えていただこうと思いましてね」





臆する事無く 我は笑って言葉を放つ





「一つ確認しますが、人形を持ってここまで
来たのはナイトで間違いありませんね?」





二つの影は沈黙を持って私の言葉を認める





「そうですか…ではお伺いします
人形を持って来なかったのはどちらですか?





ビルとチェシャ猫が互いの顔を見合わせ


答えようとこちらへ視線を向けるまでの間に





「ハァァァァッ!!」





私は振りかぶりざま、ハンマーを思い切り
幹へと叩きつけ


振動で落ちてきた人形を受け取ると―





「お二人とも、動かないで下さい!」


即座に人形を眼前にかざし、ビルと
チェシャ猫の影を牽制した







問答をしても影は絶対に本当の事を言わない


この二人なら、それでも巧妙に私を
騙しおおせてしまうだろう





なら、賭けになるがコレをアリスの依代だと
理解している赤のナイトを


行動によって焙り出すしかない







「先程からあなた達が取り合っていた
この人形は…とても大切なモノですよね?」





申し訳ありませんアリス…!





心の中で呟き、私はおもむろに人形の腕を
掴むと 左右へ引きちぎる素振りを見せ





「返しなさい それはただの人形です!」


叫びながらまずビルが私へと発砲する





が、咄嗟に避けたため弾丸は頬を掠めたのみ





襲いかかるチェシャ猫を右腕に出し直した
ハンマーで吹き飛ばして





「…真実の番人が嘘をつくのは
いただけませんよ、ビル?」






ビルとの距離を詰めると、人形を脇に
抱えながら左手で拳銃ごと腕を押さえ


伸ばした右手で銀色の仮面へと触れた





「う…ぐあぁぁぁぁぁぁっ…!」





捩れた身体が仮面へと吸い込まれ、ビルは
影から元の姿を取り戻し







「甘いよ!」


「ぐっ…!しまった!!





ビルへ気を取られていた一瞬の隙に





チェシャ猫が私の左腕を爪で抉りながら


抱えていた人形を 奪いとった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:新情報も露呈し 赤のナイトも表れ
話も徐々に終盤へ向かいつつあります


廃棄:つーかオレの依代、公爵のおっさんと
ダブってんだけど…


狐狗狸:アレはうっかり忘れて書いた私のミス
でもちゃんと書いてたらゴミ箱だったよ?依代


廃棄:ごみばっ…!?


狐狗狸:しかしチェシャ猫はどうやって影に…


ビル:を鏡へ突き飛ばしたあの直後
迫った影に取り込まれたようですよ


狐狗狸:知ってたの!?つかいつから!?


廃棄:音もなく出てくるなよ気色悪ぃ!


ビル:おやおや、それは申し訳ありません




人形を奪った猫は…そしてビルの口から
真実が語られ始める…!?


様 読んでいただいて
ありがとうございました!