それから、争いの及ばないであろう
木々の間の位置まで退避し


ついでに降ろした二人の影を元へと戻しておく





おいなんだよここはっ!」


「それは私が聞きたいくらいですよ…」





開口一番に文句を述べる帽子屋へ、私は
息を整えながら答える


元へと戻した途端 ネムリネズミは
帽子屋の隣ではや寝息を立て始めている





「てーかあの黒いの、全部あんぱんか?」


「ええ 正確に言うならあんぱんの影達です」


「影ぇ?」





素っ頓狂な声を上げる帽子屋へ、何度目か
分からない現状の説明を繰り返す





「なるほどなーそれで奴等はの命令
無視してるわけだ」





わぁわぁと騒ぎ立てる影達へ顔を向け
納得したように呟く帽子屋





「影から元の姿に戻せれば争いもどうにか
止める事が出来るのですが 彼らを象徴する
依代が分からない事には…」


「バッカじゃねぇの、アイツらの依代は
あの腰布に決まってんじゃん!ジョーシキだろ!」





唐突に言い切ったその一言に驚くも


争い続ける彼らの持ち物の中で、可能性が
一番高い品はそれしか見つけられなかった


でも……







「…断じて触れたくありません!!





パンとはいえ成人男性を模った姿の腰
巻かれている布に触るのは勘弁してほしい


ましてや、あの乱戦の中に入る気はない


下手に踏み入って攻撃を受け
割れてしまっては、本末転倒だ





「まーそりゃそうだろうなー」


うんうんと頷く帽子屋へ、ようやく息が
整ってきたので質問を開始する











第十一話 小粋な茶会と無粋な客











「アリスが赤い道化師、ジャバウォックに
さらわれたのですが 道化師について何か
ご存知の事があれば教えてください」





返って来たのはにべもない否定





そんな事知るかよ!とにかく時間も午後だし
オレ達はお茶会をさせてもらうぜ!」


「そ…だね…」





眠そうに言うネムリネズミへ頷いて


帽子屋は自らの帽子に手をかけ





「よいしょ…っと!





持ち上げたその下からは、一回り小さな
帽子を被った頭が現れる





もお茶会に参加するんだろ?」


「え、あの私は」


「ここははい以外選択肢があるかっての!
じゃとりあえず簡易式で用意すっから待ってろ」





怒鳴りながらも、帽子屋は持ち上げた
帽子の方へ手を入れ


そこから時計が一つ取り出された







帽子の下からあれよあれよと言ううちに


テーブルや椅子や容器一揃いにお菓子の類


更にはお茶の入ったポットやら幾つもの
卓上時計が飛び出してくる





「いつも思いますがどこから出るのですか…
そもそも、どこにこれだけ入るのです?」


「オレがこーなってるのはジョーシキだろ?
記憶の番人のクセにバカじゃねーの


「その言い方は少し腹が立ちますね」


「ごごごごゴメンなさいっ!!」





慌てて謝りながら帽子屋はネムリネズミへ
べったりと張り付く





「まぁまぁ帽子屋…」


「あの、そんなに怯えなくとも」





やんわりと宥める私達に、帽子屋は
ふるふると千切れそうなほど首を振る





「うるせぇよ!あの時オレらにした事
忘れたとは言わせねーからなっ!!」








過去に私が歪んだ際、襲いかかった事は

まだ彼の中でトラウマのようだ





「あの時は本当に申し訳ありませんでした
もう、危害は加えません 安心して下さい





告げると、帽子屋はこちらを見つめ


しばし間を置いて呟いた





「……反省してるならいいけどよ」









そして用意され、催されたお茶会は
簡易式とは思えぬほどしっかりしていた





「いい香りですね ダージリンですか」


「まーなっ、熱いから気をつけろよ」


「…ケーキ…ケーキ…」


「まだ待てってネムリン〜痛っ!





寝ぼけてフォークを動かすネムリネズミに
腕を差されつつ、紅茶を入れる帽子屋


状況が状況でなければのんびりと
お茶会を楽しむ所なのだが…





「私はアリスを助けねばならないのに…」


「「う…うまそう…」」







唐突に森の奥から第三者の声が響く


現れたのは、二人分の影だった





ひとりは 酒瓶の首を握っている
ウサギの姿をした影


もう一人は 少年の姿でフォークを握る影





どちらの姿…特に少年は最近会った方なので
はっきりと見覚えがあった





「ウカレウサギに廃棄君…もしや
あなた達が、争っていた二人組ですか!?」





私の言葉に 二人は首を縦へと振る







あんぱんの影達は争いへ熱中している為
彼らの出現には全く気付いていないらしい





「あの、お二人は戦っていたのでは?」


戦い疲れたんだよ、腹も減ったし
ケーキ切り分けてくれよ」


「そう…僕もケーキお願い…」





言いつつ、両者は近づいてそれぞれ
残っていた椅子へと腰掛ける


偶然なのか これで全ての席は埋まった





「なんだよお前らなんて呼んでねーぞ」


「いいじゃ…な…大勢の方が…楽し…」


「まぁ、ネムリンがそう言うなら…」





ため息をつきながら帽子屋は自分の席へ
座りなおし 私の方を向く





「ケーキに一番近いのだし
とっとと切り分けてくれよ!」


「えぇっ、私ですか!?





…どうしても断る事が出来ず、仕方なく
側のナイフでケーキを切るのだが


切った側から 切り口がくっつき


ケーキが全く切り分けられない





「あぁもう何やってんだよ!」


「とっととケーキくらい分けてよ
…まだコイツとの決着あるし」





向かい合わせで罵る影達の叱責が飛ぶ





「切り口がくっついてしまうのですよ!」


「こっちのジョーシキだと、ケーキは
まず皿を配ってからだろ?」





呆れたような帽子屋の言葉に

私はこの国の性質を思い出した





「…ああ、そうでした」





ため息混じりに皿の方を全員の前へ
差し出すと、ケーキは勝手に切り分けられた







本当に面倒な性質の国だと思いながら


分けられたケーキの乗った皿を持ち
それぞれの皿へと乗せなおす


これで無事にお茶会が進みそうだ





しかし、新たな問題が立ち上がる





「…なんで廃棄パンのケーキの方が
大きいのさ!?」



「んだよインネンつけんのかウカレ野郎!」





お互いに口ゲンカしていた二人の影が

配られたケーキの大きさに不満を漏らしだす





「気に入らないのでしたら私のケーキと
お取替えいたしましょうか?」


「いーや、のよりも廃棄パンのが
断然キレイだ そっちがいい


「んなワガママ通ると思ってんのか
ウカレウサギがぁ!!」






指差す彼を睨みながら立ち上がる廃棄君に


釣られてウカレウサギも立ち上がる





「ケーキを寄越せ、でなきゃ殴る!」


「上等だ こっちこそ刺してやる!」





興奮した様子で互いにフォークと酒瓶を
振り上げながらテーブルに足を乗せ―







「あー!お前らテーブルに「テーブルに
足を乗せるなぁぁぁ!」



叫んだ我の声に、全員の動きが止まった





「二人とも、お茶会に招かれた客人として
そのマナーの悪さは何ですか!!」






私は二人の足を指差して怒鳴る





「まずお二人はテーブルの足をどける!」





気圧されて足を地面へ置き直す両者へ
勢いでそのまま説教を続ける





「廃棄君はフォークの握り方が間違っています!
手全体でなく指先で軽く持つモノです!!


ウカレウサギは酒瓶は横に置いてお茶を楽しむ!
お互いをなじったり殴り合いなどもっての外!


「おい、それちょっと言い過ぎじゃ
てーかそもそもオレの台詞…」





おずおずと言う帽子屋に、私は首を
断固として横に振る





「お茶会のマナーの一つもこなせなくては
アリスへお仕えする紳士として大変に
恥ずかしい不名誉ではありませんか!」


「あぁ、そう…」





注意しているにも関わらず、二人が手にした
それらを持ち直す様子も手放す様子もない





「…言っても分からないようですので
持ち物は一旦、没収させていただきます」





まずは側にいるウカレウサギの酒瓶へ


伸ばした手をかわされ、彼は手にした
瓶を私に向けて振り下ろす


それを受け止めて腕を掴むと





「うわあぁぁぁぁ…!」


悲鳴と共にウサギの身体は酒瓶へと吸われる





「死ねぇぇぇ!」





フォークを振り上げてテーブルを越し
飛び掛ってくる廃棄君を避け





その身体を後ろから抱きとめると





言ったでしょう?テーブルに足を
乗せるのはマナー違反だと」


握られたフォークに触れ、彼も元へと戻した









やぁ!じゃないか 随分久方振りに
君にあった気がするなぁ一杯やるかい?」


「いえ、私は用事がありますので…」





断る私につまらなさそうな顔をしながら
ウカレウサギは酒瓶を一口あおる





「陛下の城に使用人がまだいた時が最後だったよね
首好きの陛下が皆切っちゃったからお目当て
家政婦も首だけになっちゃってさぁ


そりゃ首から上も美人だけど、下も無きゃ
何にも出来ないじゃない 男としてこれほど」


「申し訳ありませんがそれ以上は結構です」





半ば無理やり口を挟んで会話を一旦止める







…これ以上言わせておくと、このウサギは
すぐに下品な方向へ話が飛んでいく





「何故ここにいるのかは理解していますか?」


全然、いつものようにキレイな空と小鳥の歌に
身を任せてたらいつの間にかここに来てたんだよ」


「ウカレウサギ、アリスをさらった赤い道化師の
情報について何かご存知の事は」


アリス!アリスかぁ会いたいなぁ
僕は大分会ってないからなぁ 彼女は相変わらず
愛らしいんだろ?バラ色の頬っぺたと唇で―





デヘデヘと下世話な妄想と戯言を垂れ流し
酒瓶を揺らすウカレウサギ


…ダメだ 誕生日でないから話にならない





「ウカレウサギの奴はずっとこんなだし
まともに取り合うなよ


「そうですね…私としたことが失礼しました」





廃棄君に諭され、私は彼への質問を諦めた







気を取り直し 廃棄君の方へ向き直る





「廃棄君は、赤い道化師のジャバウォックに
ついてかアリスの情報はお持ちですか?」





彼は私へ視線を向け…力強く言ったのだった





「あるよ」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:お茶会が始まり、争ってた二人組が
現れた所までようやくこぎつけました〜


廃棄:てーか帽子屋のアレとウカレウサギは
あんなんでいいのかよ!?


狐狗狸:帽子屋については別のサイト様で見た
設定をそのまま拝借しちゃってます
ウカレウサギは元ネタからの捏造


廃棄:まー確かに、あいつは三月ウサギとも
言って 発情期で浮かれてるって説もあっからな


狐狗狸:その辺のウザさが住人に嫌われてん
でしょうね、で誕生日に自省する


帽子屋:お茶会はもちっと気楽に楽しめっての…
はクソ真面目だから苦手なんだよ


ネムリン:帽子屋…に悪気は…ない…よ…




廃棄君の知っている 新たな情報とは…!?


様 読んでいただいて
ありがとうございました!