「あふ…」


「眠いのかい、アリス?」


「うん ちょっとね」





そう言えば もうそろそろ夕飯も食べ終わって
寝る準備しててもおかしくない時間だし


さっきまでずっと走ったり


恐い目にあってた反面





今のこの状態は、とても落ち着く…







「なんか 眠い…」





浮遊感と心地よい風を受けながら


温かい背中に身体を預け、私は眠気に身を任せた











第六話 新たな謎











子供の笑い声がどこかから聞こえる





次に目の前に見えたのは 公園で遊ぶ
小さな女の子の姿


あれは…子供の頃の私?





側には、雪乃がいて 私は一緒に笑っていた







まだ シロウサギが、不思議の国が
そんなに歪んでいなかった頃





もう会うことの出来ない私だけの親友の姿に


懐かしさから 涙が出そうになる





ごめんなさい、あなたは
ずっと側にいてくれたのに


私はあなたを失うまで 気付けなかった







「亜莉子」





いつの間にか私は幼い私と同化していた





雪乃の微笑んだ顔がグッと近くて


思わず 抱きしめてしまいたくなった





だけど、私は雪乃を抱きしめることは
できなかった





エヘヘと笑う幼い私を通して


この夢の中の情景を見つめている







小さな私は雪乃の手を引いてブランコへと
駆け寄ろうとして、立ち止まる





ブランコの側に佇んでいるのは…





髪の毛の色が、初めに会った時よりも
ハッキリとした白黒の斑になってる





『どうしたの亜莉子』


『あの人のかみの毛 うしさんみたい』


『そうね、でもそんなこと言っちゃだめよ
亜莉子のいとこのお兄さんでしょ?』


雪乃が微笑んでそう言った





『…そうかな?』


『今日は あの人に連れてきてもらったのよ
忘れちゃったの?





私は 困ったように首を傾げる





『そうだっけ…?』







はこっちの視線に気付くと
少し寂しそうに笑っていた





声をかける間もなく 雪乃が間に割って入る





『無理に思い出さなくても、大丈夫よ
そのうちきっとわかる日が来るから』





言いきかせるように言うと 今度は
雪乃が私の手を取る


その手は、じんわりと温かかった





『さ、ブランコより砂場で遊びましょ?』





手を引かれながら振り返ってみれば





の姿は もうなかった













どうしたんだい?アリス」





チェシャ猫の声が 私の意識を
眠りから呼び起こした


目を覚ますと、もう女王の城の手前に
グリフォンが到着していた





「さあアリス 気をつけてお行き」





私はグリフォンから降りて、もう一度
キチンとお礼を言った





「送ってくれてすごく助かったわ
ありがとうグリフォン」


「どういたしまして」





消えかけながらも砂浜に佇むグリフォンに
手を振って、私は城へと向かった







夢で見た光景が 今も疑問となって
頭の中で渦巻いている





どういうことなんだろう


私は もう既にに会ってたの?


雪乃は…シロウサギは、のことを
知っていたの?





だとしたら私はいつ のことを
忘れてしまったの?







草の生い茂る丘を登り、城の入り口に辿り着く





「あれ、扉が開いてる…?」





半開きの扉から中に入ると


すぐ目の前のホールにと女王がいた





近寄らないで汚らわしい、お前に
消されてたまるものですか!」


「ちょっ陛下 お待ちください私はっ」


問答無用!
言い訳は首になってから聞いてあげるわ!」





女王が大きな鎌をブンブン振り回し
がそれをハンマーで防いでる







どっちかっていうと、この状況は


女王がに襲い掛かってるようにしか見えない





「ねぇチェシャ猫 って私の記憶を
消すために皆を襲ってるんだよね?」


「そうだよ」





あっさりと肯定するチェシャ猫





「でもこれ に女王に
首、切られそうになってない?」


は戦うより守る方が向いてるのさ」





相変わらず要領の得ない回答が帰ってきた







女王は私に気付くと満面の笑みを浮かべ





まあアリス!
わたくしを心配してわざわざ来てくれたのね?」


鎌を抱えたまま猛スピードでダッシュしてきた





きゃあああああっ!?





あまりのことに とっさにそこから
逃げて近くの壁にへばりつく





「アリス どうしてお逃げになるの?」


「だっだって鎌を持って走ってこられたら
普通は逃げるでしょ!?」


「あらそう?」





あっさりと返事を返す女王様





住人達は基本、人の話を聞かないし
ありえない常識で動くけど


その典型的な例がこの女王だと思う





「それで…何でと戦ってたの?」


「忌々しいがわたくしの持つアリスの記憶と
わたくしの存在を消しに来たのよ」





そこで女王は をキッと睨みつける


の方は少し怯えてるみたいだ





歪んだ存在のくせにアリスを守るなんて
図々しいにも程があるのよ」





うわ…女王様、チェシャ猫を見る時と
同じような顔してる





「……チェシャ猫 しばらくバックから
出たりしゃべっちゃダメよ」


「なぜだい?」


「とにかくダメなの お願いだから」


「僕らのアリス 君が望むなら」


その答えに少しホッとした





恨まれてるらしいに加え、女王に
見つかったら 何されるかわからないもの


気付かれないようにしておくべきよね





「とにかく」





せき払いして 女王は笑顔を浮かべ
私の方へと向き直る





「アリス わたくしがあなたを守るわ
だから、あなたの首をちょうだい





持ち直された鎌が ギラリと光る





「えっえええええ遠慮します!


いい加減 私の首を狙うのは諦めてよっ!!





にじり寄る女王(と鎌)から
私は逃げようと距離をとる


けれど諦める気配は全くない





「大丈夫よ、じっとしていればすぐすむ―」


陛下、嫌がるアリスに無理強いするのは
よろしくないと思われますが?」





が女王と私の間に立ってキッパリと言った


見る見るうちに女王の顔が不機嫌をあらわにする





「あなたには聞いてません、そこを
おどきなさい アリスの顔が見えないわ」


「陛下のご命令と言えどこれだけは聞けません」





これじゃどっちが悪人なのかわからない


いや、どっちも悪気はないんだろうけれど
立場的って言うか何ていうか…







ともかく、今のの行動は
私を助けてくれてるようにしか見えない







いっそ彼は歪んでなくて


この騒ぎが全部ドッキリとかだったらいいのに







金属同士がぶつかる大きな音
私の意識は現実に帰ってくる





「邪魔をするなら あなたの首から先に
はねて差し上げてよ!」






ついに怒り出してしまった女王が
の首をはねようと横薙ぎに鎌を振るい


それがハンマーで防がれたらしい





次々と襲いかかる攻撃を防ぎながら
は背後にいる私に言う





「アリス ここにいては危険なので
外でお待ちください」





本当はを止めに来たはずなんだけど


今は女王様の方が危ないし
どっちの巻き添えを食うのもイヤだから





「う、うん そうする」





私は、素直に彼の忠告に従う







女王の鎌を防いでもらっている間に
出来る限り素早く入り口まで





戻る一歩手前で、





「お待ちになってアリス!」





こっちの動きに女王が気付き、急いで
入り口に飛びついてドアを開けようとする


けれどドアは重くて開かず


そうこうする内に女王が間近に迫る





追いかけてくるをその度に吹っ飛ばして







ど…どんな腕力してるの!?


仮にも男の人を吹っ飛ばすなんて芸当
普通の女の子じゃ出来ないって!


てゆうかあの鎌ってやっぱり
それなりに重いのかしら





いやそんなこと考えてる場合じゃない!


このままじゃドアが開く前に
私の首が切られる!!





「ちょっこっちに来ないで!!」





私はその場から逃げようと走った





けれどいくらも行かないうちに
足元の死体につまづいて





「きゃっ」


倒れこんで あわてて身体を起こす







アリス、一瞬で済ませてあげるわ!」







真っ青になりながら振り向けば


鎌の刃先が勢いよく こっちに向かって
降りかかってきた





逃げようとするけど、身体がうまく動か―









私の目の前に 血の飛沫が舞った







痛みは 無かった





「アリス ご無事ですか?」





が私の前で、ハンマーを使って
鎌を受け止めてくれていた





向けられたの顔からは


赤い血のすじが流れている





、頭から血が…!」


「あなたのためならば、これしきの傷は
大したことではありません」





優しいその笑顔は とても歪んでいる
住人に見えないものだった





「まああぁぁっずうずうしい!」





怒りと悔しさで 腕を震わせる女王の方が
余程それらしく見えてしまうくらい





「アリスを心配させるなんてっっ
いますぐ首だけにしてあげるわ!!」





斜めに振り下ろされた鎌がの首を狙う





「危ないっ!」


私は思わず目をつぶった








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:歪アリ第六話で女王の城にやってきました


グリフォン:とりあえず、ワシの役目は
果たしたわけじゃな?


狐狗狸:そーなります ご苦労様です(ペコ)


雪乃:出してくれてありがとう、でも
私の出番って ひょっとしてここだけなの?


狐狗狸:それは微妙…だなぁ シロウサギも
後で出ることは出るけど、ね


女王:何よあの文!まるでわたくしが
悪者じゃないのっ!!(鎌振り下ろし)


狐狗狸:ギャーっ!だだだだってあれは
展開上仕方なくですねー!!


女王:猫といいといいあなたといい
本当に腹がたつわ!!(横に鎌薙ぎ)


狐狗狸:だーれーかー!この人止めて!!


グリフォン:無理じゃな、一度こうなった
女王は止められんよ


雪乃:女王は怒りん坊で首好きだからねー


チェシャ猫:ゴシュウショウサマ


狐狗狸:薄情モノどもぉ――!




とにかく次回、彼の正体が明らかに…!?


様 読んでいただいて
ありがとうございました!