公園に進むと、壊れかけた公園は直っていた





「あれ…公園が直ってる…」


が、壊した記憶も持って行ったからね」





エラい事をさらりと言うチェシャ猫





「この公園、すごくボロボロだったよね!?
そんなんで元通りになるの!?」


「真実と記憶は密接だからね 記憶が無ければ
真実も変わるのさ」





……深い事を言っているみたいだけど
やっぱり意味が分からない


いや、考えるだけムダね





藤棚とその下に広がるテーブルは
前に見た時のままのお茶会の風景だった


けれど 帽子屋とネムリネズミはいなくて


お茶会のテーブルは静かなまま





「まだ、二人は戻ってきてないのね」


「安心おし みんなに会える日は近いよ」





低いチェシャ猫の声に、私は少しだけ
勇気付けられる







記憶を取り戻したなら みんなの記憶が
消える事はないはず





引き換えに との記憶が徐々に
おぼろげになってゆく


欠片は、さっきよりも更に透き通っていた





…急がなきゃ











第十三話 再会を願い











私は公園の土管から、赤い海にやって来た


チェシャ猫の首と バッグに入った
消えかける白いカラの欠片を持って





を甦らせるには、どうすればいいの?」





問いかけに帰ってきたのは、意外にも
簡単な方法だった





「欠片を消える前に全部、海に投げて
が戻るように祈るんだよ」


「そうすれば…が 戻って来れるの?」


「今まで集めたそのカラは 住人から
記憶を吸い取ったが残したモノ…
住人の欠片でもあり、の欠片でもあるのさ」





チェシャ猫は赤い海を見つめて続ける





「赤い海はアリスの心の血だからね
全てを飲み込み、時に全てを生み出せるのさ」







この赤い海に…私の心に、本当に
そんな力があるんだろうか?


前のように、幻が現れるだけで
終わってしまうかもしれない





けど…迷っている時間はない





私はチェシャ猫と、自分の心を 信じる







チェシャ猫とバッグを土管近くの砂浜に置き
バッグの中から 欠片を全部取り出す


白い欠片は、ほとんど透明に近くなっていた





波打ち際まで近づいて、赤い海に
持っていた欠片を全て投げ入ると


欠片は音もなく吸い込まれていく





私は、手を組んで 目をつぶって祈った







 あなたに会いたい





陰ながら見守っていてくれた事に


歪むまで支えていてくれた事に


最後まで私を想ってくれていた事に





会って ちゃんと伝えたい





気付かなくて、ごめんなさい
忘れていて ごめんなさい


そして 助けてくれて、ありがとうを







お願い…戻ってきて …!











「アリス 目を開けてごらん」





チェシャ猫の声に従って 私は目を開いた





赤い海の波打ち際から
何かが ゆっくりと浮かび上がってきた





少し短めの 真っ白な髪


色白で どこか叔父さんに似た顔立ち


襟首や袖口にフリルのついた
品のよさそうな服と黒い靴の先が現れて





「…アリス?私、は…?」





波打ち際の砂浜に立ち尽くした
目を瞬かせながら問いかけた







!」





私は、存在を確かめるように彼に抱きつく





あああああアリス!?あのっ失礼ですが
私から離れてください、海の側は危ないですし!」





が私の腕に軽く両手を添えて
砂浜の方へと そっと押し戻す







暖かい身体、海で見たシロウサギの時の
ように幻なんかじゃない





金色の眼差しは優しくて


思わず、涙がこぼれた





「アリス どうかされたのですか!?」





を困らせるつもりはないのに


止めようとしても、涙が次から次へと
流れ落ち 私はしゃくりあげていた





「ごめんね、ごめんなさい 私のせいで」


「あっアリス!あなたが謝る事は
何一つありません!!私の方こそ申し訳ない!!」


「でも…私が忘れていたから」





頬に何かが触れて、涙を拭う





滲んだ視界が、片目ずつ
やわらかい物におおわれて白くなり


視界が晴れるとの姿がはっきりした





その手には 白いハンカチが一枚





「アリスに罪などございません…ですから
どうか泣かないで」






困ったようなの顔が、


どうしてだか 妙に私を落ち着かせた





「……ふふっ」


「あはは」





少しの間、笑いあってから





「お帰りなさい 


「ただいま戻りました アリス」





ようやく 私達はちゃんと挨拶を返した







「元の姿には戻らないのかい、





砂浜を転がったのか 砂まみれになった
チェシャ猫が足元からたずねる





「…戻りたくても 戻れないのですよ」





少し不機嫌な感じで答える





割れるの嫌だからって ほとんど元の姿に
戻ろうとしなかったくせに」


「ぐっ…人が気にしていることを
ワザワザ言わないでいただきたい!」





やっぱりチェシャ猫のことを恨んでるからか
二人は仲が悪いのかなぁ


女王様や


チェシャ猫はどうして仲良くしようと
思わないんだろう





「とにかく、本当に不可能なのです」


「どういう事なの?」





聞くと は少し困ったような顔で





「どうやら一度消えかけて、アリスの記憶から
甦ったからか この姿が元の姿という認識に
歪んでしまっているようです」


「つまり…ずっと人型って事?」


「そうなります、もちろんアリスが元の姿を
望まれるのでしたら何をしてでも…」





私は首を横に振った





「ううん、いいよ はそのままで」


どんな姿であっても、私はを忘れないから





「ありがとうございます」





ペコリとがおじぎをした所で
チェシャ猫が呟いた





「アリス、そろそろ戻ろうか」


「そか、叔父さんやおばあちゃんが心配するもんね
…でも はどうするの?」


「私は城の方へ戻って、しばらくはビルの所に
ご厄介させていただきます」





そっか、住人だから 海を渡れるんだっけ


あ、でもお城って言ったら…


まるで私の心を読んだかのように、
チェシャ猫が 代わってにこう言った





「首に気をつけなよ」


「…言われなくても承知しておりますよ」





首を押さえ 震えながら言うその姿に
私は少し同情してしまう







「それじゃ、私 もう行くね?」


「はい お気をつけて」





言って、私は猫の首を拾い上げ

砂を軽く叩いてから土管へ向かう











「アリス!」





呼ばれて、振り返ってみると





は波打ち際に立ったまま
こちらをじっと見返していた





御用があればいつでもお呼びください

ご迷惑をおかけしたことも含め
私に出来る事であるならば何でもお申し付けい」


「そ、そんなにかしこまらなくても!」


「…では これだけは言わせてください」





彼は 優しい微笑みを浮かべて言う





「私も猫も住人の皆も、あなたの幸せだけを
いつも願い続けております」






私も 同じように微笑んで返す





「大丈夫、私 ちゃんと幸せになるから」







今度こそ 忘れたりしないから





あなた達が安心できるように

いくらだって 幸せになるから






「だから……またね、


「はい またお会いしましょう、アリス」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:原作沿いの歪アリ話もこれにて終了です


アリス:お疲れ様〜、でもチェシャ猫と
はやっぱり仲悪いままなのね…


狐狗狸:そういう設定だから仕方ない、ついでに
ビルと仲良し&女王怖いのもデフォ


アリス:それは何か分かる気がする…


狐狗狸:個人的に記憶と真実は密接だと考えてる
から、基本スタンスはビルと変わらないんだ
でも ビルよりはヘタレで話しやすいかと


アリス:なんだかって可哀想かも…
天性のいじられキャラなのかしら?


チェシャ猫:アリス、いじられキャラってなんだい?


武村:いじられるだけマシさ、僕は結局
最後の方ゼンゼン出てこなかった…


アリス:た、武村さん!?


狐狗狸:神出鬼没だなアンタ!




あとがきは最後までグダグダなまま終了


原作沿いはこれで終わりますが、秋〜冬に
別の長編を書く予定 しばしお待ちを


様 読んでいただいて
ありがとうございました!