【 ― チャプター5 ― 】








「地獄の業火にやかれてもらうぜ」





言い終わらない内にチビ骨の姿が一瞬消えて


間近に逆さまに現


「…っ!?





【*アナタは 天井に叩き付けられる寸前で
とっさに受け身を取った】





訳も分からず落ちる俺の目の前に 次から次へと
デカくて禍々しいドクロ面が現れて


その口が えげつねぇ範囲のレーザーを飛ば…っ!


【*アナタは、考えるよりも早く身をひねり
ブラスターを順番にかわしながら着地した】






「よく避けれたモンだ」


「…火事場のなんとやらってヤツかな?」


「パターンは変えたハズなんだがな、まあいい」





すぐ側の床に残ってんのが焦げ跡と煙だけってのが
いかにも過ぎる魔法攻撃っぽさがある





俺、いやフリスクよりちょっとデカいだけのガキんちょが
ここまで殺気ムンムンだと笑えて来るぜ





「さぁ やろうか」





…クソ花やフリスクの例もあるからn週目を
他にも把握してるキャラクターの存在はいてもおかしかねぇ


けど、ここでイベントが起きた記憶は全くない


てゆうかテメェの出番はもっと…んん!?





【*次の瞬間 アナタの左右から二本の骨が迫る


挟まれる前に進んだアナタめがけ

僅かなスキマしかない骨の列が 波のように
うねりながら押し寄せて来た】





低い骨をハードル飛びの要領で飛びつつ足場にして
横から来ているヤツをテンポよくかわし


進んだ先に 並んだドクロ面がでけぇ口開けてお出迎え





「飛べば串刺し進めば丸焼き、次のアナタは
バーベキューってか?」





【*アナタは 頭上スレスレを掠める骨の一つに
見えた"スキマ"へ手を伸ばしコードを"書き換え"る】





ギリギリで骨が盾へと変化して


ぶっ放されたレーザーを入力通りに"反射"させて
出来たラグで下へと回避


と、俺の周囲を囲むように骨のケージが出来上がる





「それの突破はホネを折らなきゃ無理だぜ?」





間髪入れずにドクロ面が2体、3体わらわらと





「折れないなら、逆に伸ばすのはどうかな?」


【*アナタは 挟み打ちの形で繰り出される
ブラスターを回避しながらケージへ手を伸ばした】





チビ骨近くの一本を"書き換え"で、伸ばしながら
ヘビみたいに巻き付くように入力を





していた最中に身体全体が引っ張られて急に宙へ浮き

間髪入れず壁までふっとばされて床へと落ちていく





「がはっ!」


「よそ見してっと危ないぜ?ガキんちょ」





睨みつけたヤツの目が 青く灯る





【*アナタは 悪い想像に掻き立てられるように
棒切れを"書き換え"てフックランチャーを作りだした】





そのまま手近な柱へ楔を打ち込んで引いた直後

チビ骨の上げた左手を合図にして


さっきまで俺がいた空間へ
いくつもの骨が 瞬時に生えて刺さる





「っぶねぇ…!」





呟く合間もロスタイムはくれねぇようで


いつの間にか真横に出て来たドクロ面レーザーを
柱を盾に"書き換え"てガードしつつフックを抜いて着地





すかさず雪崩れる骨ウェーブのスキマを縫いながら


レーザーが飛ばねぇように出来る限りチビ骨へ近づく





「そのフックでオレを貫くつもりか?」


「いい案かもね?どこかの大乱闘仕様だったらだけど」


生憎あそこの法務部を敵に回す気はねぇな


とはいえ現実じゃあ出来ねぇ芸当が叶うのはゲーム様様





【*接近を拒むかのような 長い骨の雨と骨のカーテンを
アナタは軽やかなバックステップでかわした】





「ったく、油断もスキもない…!」


「とか言いながらも避け続けてるのは見事なモンだ
ただのガキんちょなら12回以上は余裕で死ぬぜ?」


「ならその健闘をたたえて一旦手を止めな」


【*サンズの左腕の動きに沿って アナタの身体が
持ち上がり、何度も壁や床へ叩き付けられた】






ちらっと見えた隙間から読み取れるコードを見るに
"重力(グラビディ)"がいじられてやがる


あ゛ぁ?マジかよ、コイツ化けモンか


いやモンスターだから化けモンだろうが

さっきのデカ骨や今までの奴等とケタが違うぞ


プレイヤーによっちゃ"チート"だと疑われるレベルだ





…俺(ハッカー)が言えた義理じゃあないが







何度か壁や床へ叩き付けられながらも


床に刺さる骨への串刺しだけはフックランチャーで免れる





「クソ、ロクに考える時間さえありゃしねぇ…!」


「まさにお前さんにとっちゃ"最悪の時間"が 今だぜ」





今までで一番面白くねぇジョークをありがとよクソが





【*心の中で毒づいた その直後


アナタの眼前へサンズが現れていた





「っ!?」


反射的に伸ばした手は空ぶって、つんのめる俺へ
骨とレーザーの束がプレゼントされる





前転で転がりながら床のスキマへ触れて 作った
盾で反射したと思った矢先に


いきなり身体が宙に浮いてドクロ面包囲網


フックランチャーと芋虫みてぇな身の捻りでの
紙一重の回避で避けつつ体勢を







【*アナタはほんの一瞬


胸から血を流して倒れる 自分の姿を見た





何だ今の


…ああ、こいつが巷で言う"走馬燈"だか"死の予感"だか
っつーヤツか?おい





「…冗談じゃねぇぞ」


「もとよりそのつもりはねぇよ」





呟きと同時に、いきなり現れたチビ骨と
ヤツの握りしめた骨が顔面に迫って来るのが見えた





【*アナタは 寸前でフックランチャーを
両手で眼前へと差し出して顔を庇った


突き出された骨がフックランチャーの
本体に突き刺さり じわじわとヒビ割れ始めた!】





「重力操作に加えて瞬間移動持ちとか
どんだけ壊れ性能なんだよ」


「お前さんの"諦めの悪さ"には負けるぜ
とはいえ、そのアイテムはもう使えなくなりそうだがな」





確かにミシミシ言ってやがるしガラクタ化も時間の問題だ





「でも、おかげで反撃は出来そうだ





【*サンズは一歩下がって アナタの足狙いの
踏みつけを回避した】





「わざわざオレが当たってやるとでも」


「思わないね」





俺が欲しかったのは、ダメージじゃあなく
骨を押し込む力が緩む"一瞬"だ!





【*大きく身を引いたアナタは

"5秒間600万カンデラ発光"の命令コードを打ち込んだ
壊れかけのフックランチャーを

サンズの顔面目がけて 投げつけた!





「ぐっ!?」





フリスクが糸目で助かったぜ、足を踏む辺りで
目を閉じているのがバレずに済んだ





で、目を開ければチビ骨は更に距離を取ってやがったが

まだ反撃の効果があんのか足元がふらついている





【*アナタは 骨とレーザーを避けながらサンズへ迫る】





まだ視界が定まってねぇせいなのか
さっきよりはずっと攻撃がヌルくて避けやすい





近くにあった骨を"書き換え"て杭を生み出す


…攻撃にならねぇよう"当たり判定"は消しておく





健気にも俺へ攻撃を当てようとしているらしく


近づくにつれ、片手で顔面を抑えてるチビ骨が
息を切らせて汗を掻いているのが見えた





「疲れてやがるのか…?
まあ、大人しくしてりゃ痛くはしねぇよ」


コレで腹でも貫いて、視力が戻る前に
ロープにでも"書き換え"て時間差電撃でスタン―









"*ハハ…どうやら ここまでみたいだな
…この辺が潮時ってやつか"





【*汗を滴らせて苦しげなサンズが見える


身体には一筋の切り傷、まるでナイフで割かれたような


そこから滴る赤い…赤い…】








気が付きゃまた壁に投げつけられて





ノイズ交じりの視界が現実へと戻って来れば


持ってた杭は手を離れ 代わりに目の前にゃ
こっちに向かう壁みてぇな骨の群れ





「…Fuck!





真似事でも、ダメなのかよ





フリスクの身体が"モンスター殺し"を経験してんなら
攻撃をトリガーにフラッシュバックは発現しちまう





あん時の 夢での忠告に対する裏付けは


チビ骨を殺す事が出来る事実は保証しても

俺の有利には働いちゃくれなかった





【*アナタは サンズの放った無数の骨によって
壁に縫いとめられるようにしてハリツケになった】






どうにか串刺しは免れたが、昆虫標本の気分ってのは
正直言ってクソだな





「もうお前に何も出来ることはない…
勝ち目は無いんだ、じゃあな


ああそうだな 全くもって忌々しい限りだぜ







―だが





待て!降参だ降参…取引といこうぜ?ボウズ」





このまま何も分からず死んでたまるか


惨めだろうが何だろうが、持てるモンを全部使って
最後まで足掻いてやる!





「取引?」





チビ骨が空中に骨を浮かばせたまま動きを止める





「こっちの"手品"がどういうモンかは理解したろ」


「ああ、その指で触れて"何かを叩いた"モンを
好きなように変化させたりしていたな」


「そうそう やろうと思えばお前の攻撃を丸パクリも
出来ただろうな、瞬間移動とか」


「ハッタリはよせよ、そんな時間は無かったろ」


「けど攻撃をブチ当てるチャンスぐらいはあったぜ
だが敢えてしていない…偶然じゃあねーぞ?」


「だから何だ…何が言いたいんだ?」





…どうやら話を聞くだけ
コイツには付け入る隙はあるようだ





「慌てんなって、本題に入る前に情報共有が先だ

フリスクが何をしでかしたにしろ巻き込まれた俺まで
訳も分からず殺されるってーのはフェアじゃあねーだろ」


巻き込まれた?それにフリスクはお前だろ?」


「ところがどっこい、身体はそうでも中身は大違い」


「へぇ…じゃあどこの誰だっての」


ヒヒッ よくぞ聞いてくれました」





【*訝しむサンズへ アナタはニヤリと笑ってみせた】


稀代の天才ハッカー 
それが俺の通り名だ」







信じてもらえるとは思っちゃいねぇが


とりあえず打開策を考えるまでの時間稼ぎとして
俺に起こっている現状を簡単に説明する





…まあ、ゲームのキャラクターにゲームの事やら
何やらを説明したって意味がねぇから


そこら辺は適当にボカしておいたが





「あー…つまり外から来たお前さんの意識
夢の世界にいるフリスクの代わりをしてる、と」


「平たく言うならそんなトコだな」


「言うに事欠いて子供騙しなジョークだ…けど」





大げさに肩をすくめてから、チビ骨は続ける





「覚えてる限りじゃ、前にオレと戦ったフリスクは
…もっと動きがよかったぜ?」


「うるせーな俺はインドア派なんだよ」


「それにおかしなインチキ手品なんざ使わなかった」


「手品、ね…まあお前らにとっちゃそうなんだろうな」





モノホンと違って種も仕掛けもないけどな


ついでにあそこまでスパルタ実践させられるとは
思わなかったぜ…よく入力が間に合ったもんだ





「分かった、オレの記憶とお前さんの態度は
噛み合ってないからな…ひとまず信じるとしようか」


「そりゃ何よりだ で?アンタの記憶ってのは?」


「…インチキ手品が使えるぐらいなら
それぐらい、分かりそうなモンなんだがな」


「アイツから聞いてるのは"やらかした"事だけだ」





【*サンズは うつむいて重たそうに呟く】





「そうだな…止められなかったんだ…」





あのフリスクといいコイツといい…思わせぶりな
態度だけ取ってロクに情報寄越さねぇ


ハッカーに対して情報秘匿たぁ いい度胸してるぜ全く





「で、今度こそ弟を護ろうとしたと
いや〜分かるわ〜アイツ底抜けにいいヤツ」
「黙れよ、クソ薄汚ぇ弟殺し」


浮いていた骨が とびきりデカいドクロ面に変わる





「…他の奴等を殺して回ってても
最後までお前を信じてたんだよ、アイツは





瞳のない黒い眼で憎々しげに吐き捨ててるにも関わらず


ひどく悲しげで、泣いているように見えた





「そいつぁ悪かった」


「…いや、謝る事はねぇよ
まだリセットには十分間に合う」


「いーやここからが本題だ!確かにアンタは俺ぐらい
簡単に殺せるだろう、だが生かしておいた方が得になるぜ?」





自慢じゃあないが人様に言えねぇ仕事で稼いでりゃ
危ない橋の一つや二つ、当然渡る


この場合 身の安全を保障させてぇなら


相手にとって自分が利用価値がある事
最大限示すのが最善…!





「あんな出来心は二度としねぇし約束もする

んでもって俺がここを出て、フリスクが二度とここに
来れないよう書き換えちまえばアンタらは安全になる」





ここでしくじったら後がねぇ、慎重に言葉を

納得させられるだけの言葉を選ぶ





「痛い目みんのは損だろ?ここで手打ちにしようや
逆に俺を味方に付ければどんな望みも叶えてやるよ」





どこまで通用するか知らねぇが、ここが
データとプログラムで構成されてんならこっちの独壇場だ


なんだったら上の世界をいじって連中の都合のいいように
"書き換え"ちまうのもアリだ


どうせゲームの世界なんだから俺には何の関係も







「お前、自分が無関係だと本気で思ってんのか?」







強烈な、血を吐くような熱と痛みを覚えて





思わず胸を見るが
そこには何も見当たらない





「どういう意味だよ?ソレ」


「いや…なんとなく、そう言うべきかと思ってね」





何を言ってるんだこの骨野郎は





俺はハナッから無関係だ…無関係の、ハズだ





けれど謎の痛みは弱まりこそすれど

消えずにじくじくと胸の辺りで居座っている





「重みのない言葉をいくら並べたって
失くしたモンには届かない…違うか?


「だとしても、今は誰も傷ついちゃいない」





過去の事もこいつらの事も知った事じゃあないが


傷つけずにクリアするルートを辿ることで
この訳の分からない状態を終わらせられるなら





「フリスクにも言ったが、これから先も約束(そいつ)を護る
俺はここを出て…元の世界でヤニをふかしたいだけだ」


きっとソイツが一番 お互いにとっての得





【*サンズは きょとんとした目でアナタをじっと見て


すこし時間を置いて、こうつぶやいた】





「…お前さん、タバコ吸うのか?」


「一日最低でも二箱は吸わねぇと調子が出ない
ヒヒッ、おかげで毎日最悪だぜ」


「地獄で燃えちまうよりもか?」


「お前が言うとシャレになってねぇ」







…どれぐらい見つめ合ってただろうか





ドクロ面と、俺を壁に貼り付けてた骨が残らず消え失せ

おかげで受け身も取れず地べたにダイブした





「痛っ」





近づいて来る足音に顔を上げると


サンズが、片手を差し伸べていた





取引は成立だ ちゃんと約束は守れよ?」





例えばこの手を取った途端に
コイツが攻撃してこない保証はきっとどこにもない


それでも、俺は手を伸ばした






「…わかってるさ」





― 握りしめた手は骨のクセにあったかい気がした













【*アナタが次に 目を開けると
そこはサンズとパピルスの家のソファだった】





状態としては骨兄弟の家で手当てされた時のまま


寝入っちまって悪夢でも見たんだろ?と
言われりゃ、すんなり納得しちまいそうだが


チビ骨の不在と無駄に増えた怪我

ついでに持ってたハズの"棒切れ"が消え失せている事実が
さっきまでのやり取りが 現実だったと知らせて来る





「生き延びれたのはいいが、この怪我どうしろっての」





手当てしといて怪我が増えてりゃマズいよな


"書き換え"でどうにかなんねぇかな…





【*アナタが 身体をじっと見続けていると
胸のあたりに糸のような細いスキマがようやく見えた】





「うげ…流石に主人公だけあって複雑なコードしてやがる」





ロックもいくつかある、無理に解除すると
バグが起きちまうかもしれねぇな


だが体力ゲージに関しちゃ時間をかけず いじれそうだ





スキマに手を当ててコードを叩きこみ


適当に増えた怪我だけ治した辺りで
家のドアが開く音がして デカ骨が顔を覗かせた












[     LV1   ■■■■


    サンズとパピルスの家  ]