【 ― チャプター1 ― 】








薄暗い通路になれた目に 外の光が眩しかった





くぐった遺跡の扉が後ろで閉まる


振り返って押しても、一ミリも動く気配がねぇ





「あらら、さっきまでのはチュートリアルってとこか
なんともまぁ手の込んだ事で」





肩を竦めて吐いた息は白い







【*アナタの目に飛び込むのは雪景色

積もった雪と 薄暗い枯れ木の並木道が
扉からずっと向こうに続いている】





「ずいぶんと殺風景だな、地下ならマグマの歓迎とか
いかにもなモンスターがうろついてるもんだろ」





数歩歩いたところで、扉の側にあった茂みに
何かがチラッと光った


なんだ?アイテムでも落ちて…





【*…こんなところに 隠しカメラだ!】





OH〜こりゃ見慣れたシロモノに驚くべきか

ここの文明レベルにツッコミ入れるべきか…それとも


こいつを通して俺を視てやがる"どっかの誰かさん"
宣戦布告でも叩き付けて反応を見るべきか





まあいい、今は先に進んどくか





【*重くて持ちあがらない じょうぶそうな
木の枝をまたいで進む】





どういう原理か知らねぇが、太陽の届かない
地底に関わらず辺りは地上と同じように明るい


風も吹いてやがるしどうなって…ん?





【*背後で 何かが折れた音がした


振り返ったアナタは またいだ木の枝が
ぽっきり真ん中から折れているのを見た】





敢えて戻らず 先に進みながら
意識を俺の後ろへと移す







…こっそりと、小さな足音がしてやがる


カメラの次は出待ちってか?





急に襲ってくるケースも頭に入れつつ


木で出来たおかしなゲートつきの橋に
差しかかった辺りで 後ろの奴が声をかけてきた





「おいニンゲン
初めて会うのにアイサツもなしか?」



生憎だがツラも見せずに後ろから付け回すよーなヤツに
声かけんな、ってガキの頃 恩人に教わったもんでな?





「…ダレ?」


「こっちを向いて、オイラとアクシュしろ





もしあのクソ花みてーなヤツだったら
ふん縛って恥ずかしいポーズでもさせてやるか





【*くるりと振り返ると、そこには
青いパーカーを来た小太りのスケルトンが立っていた】





おー…コイツ見たコトあるわ


ニヤニヤしながらこれ見よがしに差し出されてる
右手には特に怪しい所はない、今はまだ


まあ怪しまれたくねぇし友好さを示すのは大事だな





「…こう?」





【*アナタが スケルトンの手を握った瞬間

ブーと下品な音が辺りに響き渡った】







「ハハ…引っかかったな?
手にブーブークッションをしかけといたんだ」


「えぇ…」





いつの間にやったんだよ つかくだらねぇー





「怒るなよ?お約束のギャグだよ
それはそうとアンタ、ニンゲンだろ?」


「そうだけど 君は一体?」


オイラはサンズ 見ての通りスケルトンさ
ニンゲンが来ないかここで見張ってろって言われてんだ」





なんつーか友好的なガキんちょだな、骨だけど





「っつってもまぁ…オイラ的には
ニンゲン捕まえるとかどーでもいいけどな」


「そうなの?」


「ああそうさ、でもオイラの弟のパピルスは…
筋金入りのニンゲンハンターだぜ」





【*そこでサンズが パピルスが来ることを口にした】





「とりあえず、このゲートっぽいのをくぐれよ
普通に通れるだろ?」


「あ、やっぱりこれゲートなんだ」


「そうそうパピルスが作ったんだ
けどさ デカすぎるし意味ないよな」





確かにな、侵入も防げてねぇし
歓迎するならあまりにも味気ねぇオブジェだ





「その、ちょうどいい形のランプに隠れてくれ」


「わかった…あ、本当にちょうどいい」





フリスクぐらいのガキでピッタリサイズってんなら
俺だったら余裕でアウトだな


とか考えてる間にそこそこデカいスケルトンがやってきた





「ようパピルス」


「よう!…ではぬぁぁいっ!





【*パピルスは パズルの調整をサボり
持ち場を離れたサンズへ怒っている】





「こんなトコロでなにをしているのっ!」


「そこのランプを見てる 最高にクールで
いいランプだろ?お前も見ろよ」


「そんな!ヒマは!ぬぁぁいっ!
ニンゲンがここを通ったらどうするっ!」






足踏みまでしちまって仕事熱心なこった


騎士みたいなカッコしてるが、さしずめこの地下世界を
支配する王サマとやらの部下とか兵士ってとこか?





「オレさまはニンゲンのシュウライにそなえるのだあっ!」







でまぁこっからデカ骨騎士くんの長い語りが始まるが


要はニンゲンひっとらえてロイヤル・ガードとやらに
昇進して人気者になりたい、らしい


一々ポーズまでつけて言ってる辺り愉快なヤツだ





でもってそんなデカ骨くんの兄貴は





「そんなら…
このランプに相談してみるのがいいかもな」


ちょっと!テキトウなコト言わないでよ!
この、くされスケルトンめっ!」






ヘラヘラしたツラでテキトーな事しか言わず

本格的にナマケモノ感満載のヤツのようだ





「そんなだとエラい人に、なれないんだぞっ!」


「いやいや こう見えてもトントン拍子に
出世してるんだぜ、スケル"トン"なだけに!?


【*サンズのリアクションに合わせて
どこからともなく ツクテーンという音が聞こえた】





「さむっ!」


「またまたぁ お前の顔、笑ってるぜ?」


知ってる!くやしいけどっ!」





十中八九間違いなくトリエルママの日記の"同類"はコイツだ





ハァ…なぜ、オレさまほどのイダイなスケルトンが…
人気者になるのに、こんな苦労をしないといけないのか…」


「パピルス、お前も働いてばっかいないでそろそろ…
「ホネ」を休めた方がいいぜ?」





またSEが聞こえたぞ

何でそこだけゲームに忠実な仕様なんだよlol





あまりのくだらなさに呆れたのかデカ骨くんは
元来た方、つまり俺が進むべき通路の先へと踵を返す





「まったく…兄ちゃんは、ホントに…
「ホネ」のずいまでナマケモノだな!


兄貴譲りのジョークを一発お見舞いして





「ニャハハハハハハハハハ!」





【*高笑いしながらパピルスは元来た方へ戻っていく


…が、ちょっとだけ引き返して
一回だけ鼻でサンズを笑ってから その場を立ち去った】







「よし もう出てきていいぜ」





お許しも出た事だし、ランプから姿を現す





「ジョーク好きなの?」


「大好きだぜ、オイラのキレッキレのジョークが
また聞きたいなら後でいくらでも聞かせてやろうか?」


少なくとも今はいらねぇ





身長差のハンデと戦力が未知数だが

あのデカ骨アホそうな性格だし
上手く足元狙って転ばせばいけそうだな


ぼんやりと戦闘での対策を考えつつ通路を進んで





「なあ…ちょっと頼みを聞いてくれないか?」


「頼み?」





【*振り返ったアナタへ サンズはその場に
佇んだままで続ける】





「ここ最近、どうもパピルスは落ち込んでるみたいでな…」


あれでか





「アイツの夢はニンゲンに会うコトだから
アンタ、会ってやってくれよ」


「会うのはいいけど…僕、ヒドい事されない?」


心配するな パピルスは危険なヤツじゃない
がんばって強そうなフリしてるだけだ」





だろうな、まあ一応確認ついでだ





「だからさ…一つよろしく頼むぜ
オイラは先に行って待ってるよ」


チビ骨は言うだけ言って、ゲートの方へ引き返して
あっという間に見えなくなった







「…あっちに抜け道でもあんのかね?」





ゲームじゃあ画面外に消えたNPCは特に意識しねぇが
こうして三次元で見るとシュールなモンだ


てかランプの側に詰所っぽい物体あるんだし
ここにいるのが普通だろ





…なんでかケチャップとマスタードとピクルスしかねぇが











ひとまずデカ骨が通った方の道を進むと





進行方向と左手に道が伸びた三叉路と、分岐点に
分かりやすいボックスと看板


ついでに俺の側には不自然なまでに光る謎の光源





「よしよしセーブポイント発見、と」





【*アナタは アメを舐めながら
見つけたセーブポイントへと手を伸ばす


あの繝ゥ繝ウ繝の蠖「の縺。繧?≧縺ゥ繧医&に
ア繧「繝翫ち縺は豎コ諢で満.縺溘&繧後◆



「マジかよ…セーブがバグってやがる





ダウンロードした時点じゃあ問題なかったのに


あん時のバットやナイフと同じような リアルモザイク
えげつない速度で生えて来やがった





まぁいいや、一回死んでゲームオーバーになったって
また始めからやり直しゃ…







いや待て





"ゲーム"ならやり直しが出来る


けどその場合、俺はどうなる?





ゲームと同じように復活が出来るなら問題はねぇが


妙なバグがあるこんな世界で死んじまったら最悪…







考えすぎで案外コレが元の世界に帰る手段だった
なんつーご都合展開になるかもしれねぇが


「試すにゃちっと、リスクがデカいな」





ひとまずゲームオーバーは避ける方針で行くか


ワンゲーム制ってのも中々に燃えるハードルだしな





ヒヒッ…面白くなってきたじゃあねぇか」





【*咥えたキャンディーの棒を上下に揺らしつつ
アナタは ボックスの中にあった丈夫な手袋を取った】





ゲームお馴染みの"異次元ボックス"と隣の看板にも
親切に書いてあるし 防寒具も備えてあるのが何ともニクい





おお!ニンゲンや!ええ所にきおったな
ワテのジョークでコォラしめたるでぇ〜」





…うん、出て来た早々でひっじょーに悪いが





「そういうジョークは間に合ってるよ?バーブ」


「ワテは赤んぼちゃうで!」


ジョークを振るならスラングぐらい知っとけマヌケ





テキトーにバーブのジョークに付き合ってやって

やっとこさ先へ進むと、通路の真ん中でホネ兄弟が立ち往生





「そしたらさ、アンダインがさ…」





【*パピルスとサンズが アナタに気づき
交互にアナタの方と相手とを見ている】


おいおい見すぎ、てか回ってるじゃあねぇか





…お いいタイミングで同時に背を向けた
息ピッタリだな さすが兄弟





「兄ちゃん!なんてこった…あ、あああアレって
ひょっとしてっ…ニンゲン!?





そういやニンゲンとはファーストコンタクトだっけな


揃ってこっちをジッと見つめてまぁ…





なんてこった!信じらんないっ!
兄ちゃん!オレさまはついにやったぞっ!!」



【*パピルスは やたらと嬉しそうだ】





「アンダインもきっとほめてくれる…これで…
オレさまは…人気者!人気者!トモダチいっぱい!!





やたら浮かれてたデカ骨だったが、我に返って
おもむろに咳払いし 俺へビシッと指差しポーズ





「おいニンゲン!ここは通さないぞっ!」


「通れないの?」


そうとも!このイダイなるパピルスさまが
キサマを捕えることで阻止するからなっ!」


「僕、捕まったらどうなるの?」


決まってる!都に連れて行ってっ!そして…
そしてっ!…後はどうなるかオレさまも知らないっ!」





そこ知っとけよ、一番重要な部分じゃあねぇのか?





「とにかく!ついて来い…キサマにその勇気があるならなっ
ニャハハハハハハハ〜!







【*パピルスは 一足先に奥の方へ立ち去っていった】





「ふぅ、うまくいったな」


というか勝手に自己完結しただけだろアレ





「心配すんなって
悪いようにはしないぜ、オイラに任しとけよ」





チビ骨も言うだけ言ってデカ骨の後を追って行く





「やれやれ…」





クソ適当な"段ボール製の詰所(デカ骨作)"を尻目に
俺も道なりに進…ん?電話だ





「もしもし?」


あっ…えっとピ、ピザを1枚…Mサイズで…』





は?何この世界ピザも頼めんのか?


いやそこじゃあねぇな、トリエルママとは違う
か細い女の声…んーどっかで聞き覚えあるような…





『トッピングは…コピペして、その…メールで…





さっきのチビ骨とかみたく会えば
何となく思い出せそうな気もするんだがなー


てか一度プレイしてるってのに現地に来るまで
内容が浮かんでこねぇのも妙な話ではあるが


特にそれで不便ってワケでもねぇからスルーを継続中だ





「それよかこの携帯、メール受信出来ねぇヤツじゃあ
…なんだこの顔文字」





【*猫耳少女の 顔文字が1パーツずつ
読み上げられていくが、終わった途端に電話が切れた】


生憎リダイヤルもないのが残念でならねぇ


パソコンと専用ケーブルがありゃ逆探も余裕なんだがな







再び一本道だが途中には看板と、一つの小屋





[動くな!ぜったい動くなよ!]





ダメって言われちまうとやりたくなるのが人のサガ

そもそも俺は向こうに用があるからな





【*アメを咥えたアナタが 通り過ぎかけた小屋から

両手にナイフを持ったド―ベルマンっぽい犬男が現れた】





人狼…にしちゃあひょろいしマヌケな見た目だな





「…なんか動いたか?気のせいかな?
オレは…動いてるモンしか見えんのよ」


ひとまず黙って様子見





「動いたモンにはヨウシャしねぇ

そう、例えばニンゲンとかな…」





呟いた直後、青いナイフっぽい物体が
俺の顔面スレスレを通過していきやがった


…あぁそっかキャンディー舐めてたわ ヤベェ





なんだ!?小さな棒だけがちょこちょこ動いてるぞ!
二度と動けねぇようにしてやる!」






【*ワンボーに 行く手を塞がれた!】





とりあえずアメは速攻で噛み砕いて棒を吐き捨てる


間を置かずに青いナイフが棒と顔面にヒット


…棒は粉々に砕けちまったが、顔面はセーフ





とっさに固まっちまったが そういや
"青い攻撃"は動かなきゃノーダメだっけか、危ね





「消えたぞ!?棒っきれまで消えた!!
どこだ、どこにいる!?






ひょろ犬が大げさな身振りで直立不動を貫く
俺の側を行ったり来たりと大忙し


動かないモンはマジで見えないのか





ついには床まで這って臭いを嗅ぎだしたんで

イタズラついでに手元に来た頭を撫でてやる





「な、ななななでられたぞっ!?





おーおー驚いちまって楽しいワンコロだなオイ


昔っから犬にゃ邪魔されてばかりだったから
中々に愉快なモンだ、それそれ





【*アナタが 隙を縫ってワンボーを撫で続けると
ワンボーの挙動不審がますますひどくなった】





「だ、ダレがオレをなでた…動かねぇもんに…
ナデナデされたぜ…ダメだ、ほねっこジャーキーでも
キメておちつかねぇと…!!」


青い顔してひょろ犬が小屋へ引っ込んだ





「ハウス!なーんてな…ヒヒッ」





【*ぬっとワンボーが 顔を出す】


おっと、しっかり声には反応するのか





「なんだ?だれかいんのか?おい!







【*アナタが 動かずにいるとワンボーは
改めて小屋へと引っ込んだ】





もうちょっと遊んでやりたい所だが、やり過ぎると
仲間を呼ばれるリスクぐらいはありそうだし


犬なんぞにわざわざ使ってやる時間もないな












[     LV1   ■■■■


    ワンボーの小屋がある道  ]