【 ― チャプター3 ― 】








どうやらビンゴみたいだな





元々ハッカー・クラッカー仲間おススメのこのゲームは
三つのルートで遊べるマルチエンディングってのがウリだった


ひとつは普通に"敵を倒して"ゲームクリアする ニュートラル


ひとつはタイトル通り"ラスボスとも仲良く"なって
モンスター全員と手と手を取ってクリアする パシフィスト


そしてもうひとつは…





「そう、僕は間違えてしまった…
間違えてみんなを、この手で」


モンスター全員を"皆殺しに(ジェノサイド)"するルート





ガキもといフリスクの異様なローテンションと
妙なフラッシュバックから察するに

モンスター全員殺っちまってクリアしたn週目のコイツに
乗り移っちまってる、って状態が今の俺だ





どういうミラクルクレイジーな仕掛けが起きたのか知らねぇが


夢にしろ脳内幻覚にしろゲーム世界にしろ


プレイキャラを説き伏せて"ここから元の場所に戻れる"よう
言いくるめちまえば ワンチャンあっさり帰れる


ダメでも戻るか目が覚める糸口ぐらい掴めんだろ





「だと思ったぜ、けどよぉやっちまったモンは
もうしょうがねぇだろ?そんな気に病むモン「アナタは!」





弾けるような、ガキ特有の甲高くてデカい声が
いきなり響いて思わず身をすくめちまった


おいおいビックリさせんなよ全く





「アナタは…何もわかってない…!」


「わかってるさ、所詮ここはゲームの世界
バッドを選んだってやり直しゃいいだけの話じゃあねぇか」





むしろゲームってのはそういうモンだろうが





決められたルートしか通れない代わりに

現実と違って何度でもやり直せるしいいように書き換えれる


必死になるモンじゃあない、気楽なヒマつぶしだ





「お前や俺にはまだまだ若さっつー財産があんだろ?
いくらだってやり直しが利くさ 平気平気」





どうにか説得方面へ持って行こうとするけれど
雲行きが怪しくなってきやがった





「どうしてわからないの…!
ただ地上を目指して帰るだけじゃダメなんだ!

ここで事実を変えないと、僕には、僕らには…」


【*必死で訴えかける フリスクの声は
今にも泣き出してしまいそうなほどに震えている】







Fuck こりゃ涙腺ダム崩壊待ったなしだな


何だってまぁそこまで必死になってんだか





コイツが泣こうが喚こうが知ったコトじゃあねぇけど


労力かけたってのに何一つ得るものが無し


逆に これから寝る度そのツラ見せられるってぇのは
正直カンベンしてもらいてぇ…ああメンドくせっ





「そんな泣きそうなツラすんなよ」





ダムが決壊する前に、俺はフリスクの頭を
適当につかんでワシワシと撫でて言う





「ひとまず元の世界に戻れるまで
その茶番に付き合ってやる





ガキの扱いなんざ分かりっこねぇが


とりあえず頭撫でてこう言っとけば
テメェに都合よく解釈して泣き止むだろう


…これでダメなら食いモンで釣るか





「…僕を信じてくれるの?みんなを助けてくれるの?」


「ここにいる間はな、ひとまず協力ってコトで
仲良くしようや?フリスク」





【*アナタが ニヤリと笑ってみせると
フリスクは、どこか安心したように笑い返した】





「ありがとう 


あ?お前なんで俺の―」











【*アナタは ファンシーな部屋のベッドで目が覚めた】





…ちょいと寝過ぎちまったのか頭が痛ぇ


陽気なチークダンスに参っちまってる脳ミソを
リズムに合わせて左右に振って 眠気も飛ばす





まだまだ謎が多いトコもあるし


面倒なクエストを引き受けちまった感あるが説得はまずまず





「じゃあ、これから本腰入れてゲームクリアを
目指していくとしますかね?ヒヒッ





ほぼヤケクソなのは自覚しちゃあいるが


ここまで"ゲームの世界に没頭して楽しめる"なんて
滅多にできねぇレア体験だと考えてみれば面白いし
スリルもあって得だ


いまだセーブポイントが見つからないのが不安だが

…ま、何とかなんだろ









このゲームの舞台 地下世界の基本的な情報については


ダイニングで読書してる山羊ママにちょいと訊ねれば


すぐ側の本棚から引っ張り出した
いかにもって感じの歴史書片手に教えてくれた





「意外かもしれないけれど…わたし、実は
学校の先生になるのが夢だったのよ」


「似合ってると思うよ、ママ





好きに呼べ、って言われてたんで俺は彼女をこう呼ぶ





俺の部屋にあった靴にダイニングのテーブルに並ぶ
椅子の数、あと本棚の児童書や俺にと渡された食器から


"最低でも一人は子供がいた"のは間違いないだろうしな





初っ端は目ぇ丸くして驚いてたな…あの顔は見ものだった





「昔々、地球にはモンスターと人間という
二つの種族がいました…」








元々地上で暮らしてたモンスターだが

両者間で長くドンパチやった結果、人間にボロ負け


でもって地下に追いやられて魔法のバリアで封印


モンスターどもは人間からの攻撃を恐れて
奥深くに潜った末 どん詰まりに辿り着いたんで


この遺跡こと"ホーム"を作った…て設定だ





ついでに名付け親である"偉大な王サマ"
ネーミングセンスをディスられてやがる





「ねぇ、もっと面白い話をしてあげましょうか」


「どんなお話?」


「例えばそうね…
"カタツムリ 72のおいしい食べ方"とか」


「カタツムリっておいしい?」





食用のヤツがあるってのは聞いたコトがある

なんかお高いらしいから 食ったコトはねぇが





「わたしは大好きよ、ニンゲンはあまり
好きでないみたいだけれども…」


「地上にも ニンゲンが食べられるカタツムリが
あったらいいのにね」


「そうね…でも、地底でもひょっとしたら
ニンゲンが食べられるカタツムリがいるかもしれないわ」





【*暖炉の前のチェアに座るトリエルが
眼鏡越しに 優しい眼差しをアナタへ向けている】







…カタツムリよりも 別の事を聞く方が得だな





「そういえばママ ボクが初めて会った
あのフラウィーってお花はどんな子なのか知ってるの?」


「あの子は最近現れた子なのよ、とても意地悪だけど
きっと根は悪い子じゃないわ 許してあげてね?


ソイツは向こうの態度次第ってトコだな





ついでに開かずのドアについて軽く聞いた所





「…あそこは、ただの物置よ」


まぁ分かりやすく嫌そうなツラしてたから

さしずめ"別れた旦那の部屋"てトコだろう


…きちっと偽善が出来るだけ
どっかの誰かさんよりマシだし詳しく聞く気はねぇけど





「そろそろゴハンの支度をしなきゃ
食料庫から、材料を取って来てもらえるかしら?」


「うん、わかったよママ」







取ってくるモノのリストを渡されて


ホームからほど近い食料庫へいけば、柵つきのテラスから
相変わらず遺跡が一望できた





「ゲームとはいえロクに光源もねぇ地下で
生活や探索に不自由しないってのも不思議な話…ん?





【*アナタの目の前 歩いて取りに行けるトコロに
縺翫b縺。繧のナ■フが置いてある】





あんな所にあんなモン あったか?


ここ最近の記憶を探るが該当はナシ





モザイクがチラついてるが 形状はどう見てもナイフ


サバイバルでも無法地帯でも持ってりゃ文字通り武器になる

特にああいう刃物はこんなガキの姿でも扱いが楽だ


刃渡りとサイズも ガキが持ち運ぶにゃお誂え向き





けれども…どうにもそれを手に取る気にゃなれなかった





「ま、夢とはいえ商売道具(ゆび)はケガしたくねぇわな」





こちとらハッカーでアサシンじゃあねぇ


武器で暴れんのはゲームのキャラクターだけで充分だろ





【*アナタは ナイフを無視した】


それに今ではもう"ホーム"の名前にピッタリなぐらい
うろつきなれちまった遺跡じゃあ

逆にナイフの必要性を教えてもらいてぇ







この遺跡の安全性はどこまでも折り紙付きだ


ワープマスでも仕込んでるかと、試しに穴だらけの通路で
ワザと落ちまくってたら


おかしなSEが鳴って

それ以降落とし穴が作動しなくなっちまったり





「よっ、ご苦労さん」


「あぁ?お前か ふん!とっとと通りやがれ





岩とテキトーなアイサツかわしての通行も
もはや恒例行事みてぇになってるし





別の部屋の、落とし穴の下にある
いくつかの小部屋の一つで





「こんにちはブルーハット、今日は何してるの?」


「…ブルーハットてナニ?」


「君 ナプスタブルークっていうんでしょ?
それとヒヤリハットを合わせてみたの」





相変わらず寝っ転がってるブルーハットを見つけて





「そうなんダ…ボクのあだ名、だよネ?」


「気に入らない?」


「…ううん、ありがとウ うれしいヨ





危機感だの緊張感だのっつー言葉がカケラも見当たらねぇ
平和ボケした会話まで出来ちまう





モンスターどもの攻撃も大して強くもねぇし
パターンを覚えりゃ何匹いようが楽勝で避けられる





ダメだよー食べようよー
緑の野菜食べて健康的になろうよー」


「ゴメン 僕はお野菜苦手」


野菜モンスターから割合ガチ逃走してみたり





「からかわないで…」


デカい一つ目に適度な距離を取ったり





「やっほー!」


「楽しそうだね」


うん!一人ってすっごい気楽ー!」





群れたがりなウィルスもどきをボッチにさせて
踊ってるのを眺めてみてたりと退屈しねぇ





おまけに はした金だがコインを落としていくから


小腹が空いた時に、クモの即売会とやらで
あやしーいサイダーやドーナツ買い食いに利用できる





食い過ぎると山羊ママに「ゴハンが入らないでしょう!」
だのなんだの叱られちまうのが難点だが





【*アナタは 十分に遺跡での散歩を楽しんでいた
そして改めて確信した】





他の可能性をあらかた潰した以上


やっぱホーム内の地下への階段から先がここからの出口か





二度ほどチャレンジして戻されたワケだが


「…逆に飽きる程チャレンジしてみたら、どうでるかね?」





【*アナタは スキを見つけては地下への階段を降り


その度に14回ほどトリエルに連れ戻された】







「ここは隙間風が入るから…風邪をひいたら大変よ」


と俺の体調を案じてくれていた山羊ママは


"本を読もう"だの"散歩して来い"だの"料理をしよう"だの
色んなコト言って興味を上へ移そうとしてきたり





「いい加減にしないと 怒りますよ」


なーんて叱りつけたりして、どうにか俺が
地下へ行く気が失せるようにあの手この手を尽くしていたが





しつこく諦めない俺に とうとう掛ける言葉を失っていた







けれど連れ戻すのは諦めちゃいないらしく

抵抗もむなしく引きずられるのがお決まりのパターン





そんな時 何故か思い出すのが遺跡で見かけた
ある看板の一言だったりする







[ひとたび道を定めたら 心を変えることなかれ]





プレイしてた時にはどうとも思わないテキストだったが


ダイニングまで戻された挙句、ヒザに乗せられて
しっかり抱え込まれちまった現状を考えると大した皮肉





仕方ねぇから寝入った隙をつくか ホームからしばらく
離れさせるナイスアイディアでも練るとするか





【*アナタが キャンディーを取り出したのを見て
トリエルは笑いながらこう言った】





「アメり夢中になりすぎて
ノドに詰まらせないようにね?」






OH…出たな山羊ママ独特のジョークセンス





出会い頭の時も言っていたが、山羊ママはどうも
妙なジョークを口にするクセがある


日記の"同類"の影響なのか元々なのかは分からねぇが


とりあえず程度には笑っとくのも いつものやり取り





「アメを台座に置いたのってママ?」


「ええ、疲れた時にちょっとだけなめて
笑顔になってもらえたらってガンバってつくったの」





そりゃまた大した慈善家で


不安定な台座から落ちないように掠め取るのが
ちと手間だが、味が気に入ってんだから仕方ねぇ





たまーにモザイクがちらつく時があるが


何故かそーいう時に手ぇ出すと安全に多くアメが取れる
…バグ技かなんかか?ありゃ


そもそもあのモザイクは何なんだって話にもなりそうだが





「それにしても口に入れたアメの棒を
動かすなんて、面白いクセを持ってるのね」


「え?」


アナタのクセなんでしょう?
何か考えている時に、よくやってるわよね」





【*トリエルは どこか楽しそうにフフフと笑った】





ガキの頃からの筋金入りなんだが…


面と向かって指摘したのは アンタで二人目





「よく見てくれてるんだね、僕のコト」


「ええ…ニンゲンであっても
アナタはわたしにとって愛しい子に違いないもの」






その手の台詞は中途半端な偽善者どもから
胸やけする程聞いたモンだが


この山羊ママは少なくとも、まっすぐこっちを見て
言葉を交わしてはくれている





例えそれが"俺()"でなく


"ガキ(フリスク)"に向けられているモノであっても





【*アナタは 心に何か溜まるのを感じた】







…潮時だな、これ以上ここに居続けたら
余計な事を考えちまう


タバコも恋しいし


ここに留まり続けて 得られるモンはもうない





【*アナタは 口の中のキャンディーをかみ砕き
飲み込んでからトリエルを見上げた】





「僕、地上に戻りたいの」







見下ろしていた山羊ママの目が確かに強張って


暗く鋭い…どこか見慣れたツラに変わっていく





「…わたしはちょっと、用事があるから
ここで待っていなさい」





それだけ言って山羊ママは俺をヒザから降ろして
ダイニングを出ていく





【*アナタは トリエルの後をつけた】





地下の階段の通路に突っ立っていた山羊ママは

俺が来た事に気づいて、言葉を切り出した





「お家に帰る方法を知りたいのね」


「うん」


この先に、遺跡の出口があります

その向こうは地底の世界
一度出たらもう中へ戻れません」





こっちをチラリとも見ずに山羊ママは重々しく続ける





これから わたしはその出口を壊します
…もう二度と、誰もここからいなくならないように」





【*部屋に戻るようにと言って トリエルは
アナタから背を向けて先へ進んでいく】







当人のイメージにそぐわねぇ発言だが


流石にコレは、黙って見過ごすワケにはいかねぇだろ





【*アナタは トリエルの後を追って通路を進んだ】





山羊ママは時々立ち止まっては俺に言った





「ここに落ちたニンゲンはみな同じ運命をたどる…
わたしはこの目で何度も見てきました」





俺と同じように落ちた人間は、ここを出て
モンスターどもや"王サマ"…アズゴアに殺される


だから俺を護る為に出口を壊すのだ、と


部屋に戻っていてほしいと





「止めても 無駄よ これが最後の警告です







【*アナタは 通路の曲がり角の突き当たりにある
大きな扉と、その前に佇むトリエルの側までやってきた】





「どうしても出て行くというのね」


「…ゴメンね、ママ」


そう…アナタも他のニンゲンたちと同じなのね」





深いため息が聞こえるが、山羊ママはこっちを見ない





「なら、残る手段は一つしかない」


勝手に話を進めないでくれよ


普段なら無駄口の一つや二つ叩いて相手の出方を
伺う所だってのに、言葉が出て来やがらねぇ





「わたしを 納得させてごらんなさい
アナタの強さを証明するのよ」






ようやく振り返った山羊ママは


両手に炎を灯して、厳しいツラで俺を強く睨みつけていた





「外に出たいと言うのなら
わたしに示してちょうだい、自らの力を…!」













[     LV1   ■■■■


    ホームの地下扉の前  ]