【 ― チャプター2 ― 】








【*あちこちに 落ち葉が散らかっている遺跡を
歩いていると電話が鳴った】





『ごめんなさいね、あのあと犬から必要なモノと
携帯を取り返したの』


電話口から聞こえたのは 安心したような山羊ママの声だ





「大変だったみたいだね」


『うふふ、ありがとう』





遠くから犬の鳴き声が聞こえてる辺りが
これまた妙なリアルさがある





『それで 特に深い意味はないんだけど…

シナモンとバタースコッチ、どっちが好き?





二つの単語から連想される 可能性が高いモンは
これから食わされるパイの味


甘いモンかー…食えなくはねぇが、どうせなら


まって!答えないで』


おっと?





『バタースコッチでしょう?』





【*何故か アナタの頭の中に"そう答えた"
いう記憶が浮かんで消えた】





「…どうして分かったのか、聞いても?」


『うふふ 何となくわかったの』





要約すりゃ"落ちてくる人間にデジャヴを覚える"


それが俺の場合でも起きてるらしい





『まるで、昔の友達と出会ったような
気持ちになったのよ…不思議でしょう?





あのゲームでのギミックなのか夢での設定なのか


どちらにせよ山羊ママによる
ホームステイルートはほぼほぼ間違いなさそうだ





慈善家なのかガキが好きなのか…


まあ現実じゃあねぇし、世話したいってんなら
その"ご厚意"に甘えさせてもらうのがお互い得だな


ついでにシナモンについてもフォローしとくか 念のため





「そう思うよ…そうそうシナモンもキライじゃあないよ
けど今の気分はバタースコッチかな」


『わかったわ…聞けてよかった
答えてくれてありがとう』







ひとまず山羊ママのコールを切った所で現状確認





特に大した仕掛けもなく進めてるし
モンスターとも出会うが、不意打ちとかもなく平和なモンだ





【*ナキムシが うじうじと近寄ってきた】


…カエルかコイツしか出ねぇのが原因だが


で、話すなり触るなり試みようとすると どっかいく





「露骨に避けられると傷つくぜ」





まぁ嫌われモンなのは今更だからどうでもいいんだが


夢でくらい もうちょい友好的なキャラクターの一人や二人
(いや一匹や二匹か?)出て来てくれねぇと退屈しちまわぁ





【*チビカビに 行く手をふさがれた】





…いや、カビじゃ意思疎通すらできねぇから

夢とはいえカビに話しかける程イカれちゃいねぇから







この遺跡の仕掛けの難易度も、退屈の原因に一役買ってる





山羊ママの親切か製作者の優しさって奴なのか


岩とスイッチが一組ある部屋のすぐ側の壁には


[四つの岩の内 三つが動かされるのを望む]

"重力感知スイッチが四つありますよー"と宣言してる看板


でもって落とし穴だらけの通路の下には、帰り道だけでなく
落ち葉で進むべき正解ルートが作ってあるし

なおかつ"落ち葉を踏むな"の看板まであるからな





「っと、これが残りの"動かされる岩"か」





さてさてスイッチ三つと同じ数の岩があるが
こっから どうヒネリを入れて来るかな?




【*アナタは岩を動かし スイッチの上まで運んだ

二つ目の岩も動かし スイッチの上まで運んだ

そして 三つ目の岩へ触れようとした】





ちょぉっと待ったぁ!
オイラを押してどかそうったって
そうは問屋が卸さねぇやぃ」


【*目の前の岩はしゃべり 動かない意志を示した】





OH!そう来たか コイツ自身が例外なワケね





「失礼、俺の住んでるトコじゃシャイな岩ばっかでね
悪ぃが重そうな身体を活かしてもらえるかい?」


「あぁん?「動いてください」ってことかぁ?
ったく、しょーがねぇなぁ…今回だけ特別だぜ?」





【*岩は ちょっとだけスイッチの方へずれた】





「あー惜しいな、理想はも少し…」





指示してる途中で


"勝手な方向に行く岩"のイメージが妙にハッキリ浮かんだ





…この岩どうも面倒くせぇ性格してるから
きっちり具体的に指定しとく方がいいな





「アンタの同類と並んで、スイッチ押しといてくれよ
少なくとも俺が通る時まで でねぇとトゲが危ねぇだろ?」


ああぁあぁ?一々細かいヤツだな」





【*岩は 三つ目のスイッチの上へ移動して止まった】





「ほれ、これでいいんだろ?ったく…」


「ご協力感謝するぜ」


「どーいたしまして」





トゲが出ていた床まで歩いて、一応振り返る





「またここに来るかもしれねぇから、通りたい時は
協力してくれよ?頼むぜ〜」


ああぁ?今だけじゃねぇのかよ!?」





【*岩がスイッチからズレた直後 側の床から
引っ込んでいたトゲがいきおいよく飛び出る】





「いや今は動くなよ 将来的な可能性の話だっての」


だったら最初っからそう言っといてくれよな!?
何度も行ったり来たりさせやがって…」





【*岩がスイッチまで移動して トゲは再び引っ込んだ】





面倒くさいっつーか注文の多い岩だ


まぁ、労力の駄賃と考えりゃグチぐらい大したことねぇな
…積極的な話し相手にゃ向かねぇけど







チーズひとかけが乗ったテーブルと 離れた壁に
ネズミの巣穴らしき穴のあるだけの通路を素通りすると


その先の、壁で狭まった辺りに白いモンが見えた





【*狭い通路の 落ち葉で敷き詰められた
床の上に 白いゴーストが寝転んでいる


近づけば「グーグー」と言い続けて寝たふりをしている】





あー…コイツは確かこの場所で出てくるゴーストか


ゲームじゃ普通にダメージ通っちゃいたが

夢ん中でも触れたりすんのか?





【*アナタが触ろうとした その時

寝たふりをしていたゴーストが 起き上がった





「ボクに 何かしようとしたノ…?」





なーんか弱々しいヤツだな

さっきの岩や、あのクソ花みたいな態度だと
余計にビビられるのがオチか…よし





「起こしちゃった?悪いね
ちょっと用があって通ろうと思っただけだよ」


「あ…ボクの方こそ ジャマしちゃっタ…





【*うるんだゴーストの瞳から あふれた涙が
いくつもの飛沫となって アナタに襲いかかった】





うぉ!そういやこのネクラゴースト涙で攻撃すんだった


ぶっかかったトコがちょい焦げてんのと掠った肌の
傷みからしてあの雨酸性か…強酸じゃあないだけマシだが





「平気平気、まあ通してもらうついでに
君がここで寝転んでた理由を聞こうかな」


「…君までユウウツになっちゃうヨ?」


「ネクラなゴーストだったらね、今のゴーストは
案外歌って踊れたりするし試してみたら?」


「ゴメン…なんか ぜんぜんやる気でなくテ





【*ナプスタブルークは 遠くを見つめている】





攻撃らしい攻撃は涙だけだからスルーしても
追ってはこねぇだろうけど


せっかく山羊ママ以外の会話できるモンスターに
かち合えたんだから

もちっとトークタイムとしゃれこむか





「そっか、調子が悪いから寝てたの?ええと」


…ボク ナプスタブルークって言うノ」





涙がポロポロ出てくるが さっきよか心なしか量減ったな





「君はやさしいネ 心配してくれるんダ」


「僕でなくても声くらいはかけると思うよ?
通り道でゴーストが寝てたら気になるし」





さらに減った涙を避けつつ言ってやると
ゴーストの様子が、ちょっとばかし変わった





「…ちょっと見てテ」







【*ナプスタブルークの 流した涙が頭上にたまり
シルクハットを形作った】





「ヒヤリハットっていうんだケド…どう?面白イ?」


【*ナプスタブルークは わくわくしながら
反応を待っている】






いきなりなタイミングでユーモアを発揮されちまったが


なるほど 落下注意ってのも含めてのネーミングセンスと

涙で相手の頭上に奇襲をかける
攻撃のアイディアってんなら悪くない





いいねぇ、クールじゃあねーか」





【*アナタが 笑いながらそう言うと


ナプスタブルークは二粒の涙を流し ハットを消した】





っとしまった、ビビらしちまったか?





そのまま様子を見てみるが…ゴーストは動かない





「いつもネ…人に会いたくないカラ
この遺跡にいるんだけどネ

でも…今日はネ いい人に出会っちゃっタ…」


「それならよかった また今度もハット見せてね」





まばたきをしたゴーストは、もう涙を流しちゃいない





「ゴメン 「自分語り」するノガ
クセで…つい…邪魔だよネ?いま退くネ」


【*ナプスタブルークは 音もなく消えていった】





OH…メランコリックなゴーストだこと







さてと、通れるようになった通路の先は
看板と行き止まりだけっぽいから後回しにしとく


そろそろ休憩ポイントか 夢から覚めてもいいんだがな





【*カエル達に怖がられ トリエルの電話を受け
柱だらけの通路を通り抜けたアナタは


左手に分岐があるT字路へと出た】





俺の足元と正面側の通路に、緑色した葉がラインで
仕切るように敷かれてるのが見える


分かれ目側は落ち葉で十字のカーペット


でもって向こう側の通路越しにデカい一本の木と
建物らしいシルエット





「そろそろゴールだとありがたいねぇ」





手持ちのキャンディーも尽きちまってタバコが恋しいしな







【*木の方へ近づいたアナタは 奥にある建物…
かわいらしい家からトリエルが飛び出したのを見た】





大変…予定より
ずいぶん時間がかかってしまったわ…」





電話をかけようとして、俺に気づいた山羊ママが
すぐに近づいてきた





まあ!一人でここまで来たの?ケガはない?」


「大丈夫だよ、待てなくなって来ちゃった」


「かすり傷一つ ない…えらかったわね!でも…」





あーこりゃ怒られるか?夢とはいえ無駄に
損を被るのは気分悪いし 反省してるポーズは見せとくか


「ゴメンね、約束破っ「ずっと ほったらかしにして
本当にごめんなさいね」






【*遮るように謝った トリエルのその言葉に
アナタはハッとして言葉を失った】






「…あなたを驚かせようなんて考えた
わたしがバカだったわ

その…これ以上隠しても仕方ないわね」





着いてこい、と言って山羊ママが家に入っていく





それから少しばかり時間が経って

ようやく後を追うことが出来た







【*アナタは どこか懐かしい気持ちを感じた】





「いいニオイでしょう?サプラーイズ!
バタースコッチシナモンパイを焼いたの」





家に入りゃ山羊ママが さっきと打って変わって明るい





「あなたが来てくれたお祝いにね

ここで 楽しく暮らしてもらいたくて…」





ゲームで聞いたのと同じセリフを吐いているハズなのに





「だから 今夜はカタツムリパイはガマンするわ
さあ、入って入って!」





右手側の廊下へ白い巨体が移動していくまで
目を話すコトも、適当に聞き流すコトも出来なかった


夢だからか?調子が狂う…


まあいっか、自由に動けんならまず
俺に主張しまくってる 目の前の階段の先を探ってみますか





古ぼけた本の詰まった手ごろなサイズの本棚を
通り過ぎて降りた先には 中々に長い地下の廊下


よしよしイイ感じに意味不明で夢らしく…OH?!





「こらこら、勝手に降りてはいけませんよ
あなたに 見せたいものがあるの


【*トリエルが アナタの手を引いて階段を上がる】





マジかよ…まあチャンスぐらいあるだろうし
あの廊下の先にあるモンはお楽しみとしてとっとくかね





【*トリエルに連れられ 入口から右側の
廊下に並んだ三つのドアの 一番手前へ案内された】





「ここが…あなたのお部屋よ
気に入ってもらえるといいけれど…」





言って、この山羊ママは繋いだ手をそっと放して
俺の頭をやさしく撫でる


ガキ扱いってのもいつぶりなんだろうな





あの女は 一度だってロクに俺を見もしなかったのに







…らしくもねぇコト考えちまったぜ、目が覚めたら
バカンスでも取って疲れをぶっ飛ばしてくるか


しばらくテキトーなシャワーばっかだったから
日本のフロにでも浸かってみんのも悪くねぇな うん





「ねぇ、ここっておフロ「あら?焦げ臭いわね」


ん?…言われて見りゃたしかにちっとばかし





「ごめんなさい、ゆっくりしていってね!」


【*トリエルは あわてた様子で左手側の
部屋の奥にあるキッチンへと走っていった】







がんばれーと背中へエール飛ばしつつ


どっかで見たような植物やら
ルームランプで飾られた廊下をうろつく





俺の部屋の隣は、覗いた感じ山羊ママの私室だな


一番奥の部屋の扉は "改装中"の張り紙がデカデカと


まあどーせデータがねぇか
デバックとかの隠し要素でも仕込んであるってトコだろ

…起きたらデータ覗いてみるか





そんで突き当たりの壁にあるデカい鏡には
ガキの姿の俺が映っ


【*アナタの姿が ほんの少しいびつに見えた】





こりゃいよいよヤバそうだ、部屋で寝とくか

…夢なのに"寝る"ってのもおかしな話だが





【*アナタの部屋は 子供用の小物や家具などがあり

とても明るく ある程度片付いている】





なんつーか場違い感が半端なくて落ち着かねぇ


…ハズなのに どこか懐かしさも感じる
何だこの気持ち悪い感情





「ひとまず寝るか」





起きたらきっと元の薄暗くてヤニ臭くて汚ぇ
いつもの俺の部屋に、いつもの姿で目が覚めるだろ











【*暗闇の中 アナタの目には
自分と、もう一人のニンゲンだけがハッキリ見えている





さて、ベッドで寝入って気が付いたらこうなってやがった





目の前にはさっきまで"自分の身体"だった
おかっぱで茶髪でボーダー着てるガキ


んで向き合っている俺は

本来の背丈
伸ばしっぱなしのうっとおしい金髪を取り戻してる


…あ、服は無地白Tとジーンズな いつもの恰好





「こういう場合は夢から戻れんのがセオリーだろ
どんだけ超展開で引き伸ばすつもりなんだよ」





ため息交じりに笑ってやりながら頭を掻く俺へ





「違う、こここそが夢の中」


ガキんちょは ほっそい糸目でこっちを見たまま呟く





僕は間違ってしまった…どうしても止められなかった」


「何の話だ?それは俺に関係があるのか?」





【*ニンゲンは かなしげにアナタをじっと見て言う】


「お願い…どうかこの世界の事実を変えて
みんなを助けて











【*アナタは ファンシーな部屋のベッドで目が覚めた】





姿はガキんちょに戻っている、ベッドの側には
焼き立ての香ばしいニオイが漂うパイが皿に乗って一切れ





「何だってんだ?一体…」





夢ならスパッと覚めてくれねぇモンか

せっかくの面白体験も一気に萎えるぜアレは





パイを手に入れて、山羊ママへ顔を合わせに行く





おはよう!よく眠れたかしら?」


「うん、顔洗いたいから洗面台の場所教えて」


「こっちよ」





ユニットバスに案内されて、タオルも隣に置かれて
こりゃまた至れり尽くせりで


ツラを洗って少しマシになったトコで


シャワー入らず寝たのを思い出す





「まだニオっちゃいねぇよな…」





何となく服の端をめくってニオイを嗅いでいると
タグに何か書いてあるのが目についた





フリスク…これが"コイツ"の名前か?」





間違ってても俺にはさして問題じゃあないが


…何かの役には立つかもしれねぇな、この情報は









それから三日の間


時間が来れば夢から覚めるかと思って
ホームとやらで、山羊ママの話を聞いたりして過ごした


だが三日ほどたっても進展はさしてなし





地下への階段に再チャレンジしたら





「上のお部屋で遊びましょうね」


とか言って引き戻されて、それからずっと
監視されてたんで 三度目は間を置いて挑戦予定





んでベッドで眠ると…俺は元の姿であのガキと対峙してる





「お前、こここそが夢っつったよな?
じゃあ目が覚めた俺がいるのは?VRとかってオチか?」


「違う…現実、でもアナタにとっては…」


「まあ何でもいいや
夢じゃないっつーなら出口があるんだろ?
教えちゃくれねぇか、礼はするぜ?」


「あの場所を目指せばここからは出られる
けど…それだけじゃ事実は変えられない


「なら質問を変えようか
俺はなんでお前さんの姿を借りてんだ?」


「ゴメンね、アナタに押し付けちゃって
でももう僕には…もう…どうしようも…」





ハッキリした事は何も言わねぇ


目覚める最後にゃ決まって"みんなを助けろ"


終始あのメランコリックゴーストよりも沈んだ調子で
こっち見て来っから、目が覚めてもロクに寝た気がしねぇ







四日から先は体力が続く限り遺跡を歩き回って

出口でも現れねぇかと
壁を手あたり次第探ってみたりもした





だが何もイベントは無し


どころか帰りが遅くなると山羊ママの鬼コール
強制帰還コンボ

そしてリアル説教があったから程々で懲りた





ただ…夢での質問とここ数日の現状を整理してみると


突拍子もねぇ嫌な仮説が浮かび上がってくる







コレが明晰夢なんかの夢オチじゃあない限り


何らかの原因で俺の頭がイカレちまった

非現実なファンタジーが起きて
ゲームの中に飛び込んだか、だ





「…どっちにしたって今は証明しようがねぇか」





散歩がてら遺跡をぶらぶらと歩きつつ


咥えた棒キャンディーを口で上下させて考える





「いや、どうせトンデモなら試してみるのも手だな」









【*アナタは 暗闇で向かい合っている
ニンゲンの子供に何回目かのアイサツを伝えた】





「まだ、ここを出るの諦めてないの?」


「まーな ヤニが無いから地獄だぜ」





ぴく、と目の前のガキが反応した





お?タバコ嫌いか?肩身が狭いねぇ〜
じゃあ最寄りの喫煙スペースまで案内してくれよ」


「ここから出ても…意味なんかない」





相も変わらずシケってんなー…だがまあ


お決まりの定型文が来る前に仕掛けさせてもらうとするか





「フリスクっつったっけか?」


頷くガキに、俺は重ねて問いかける





「お前さん…この世界、初めてじゃあねぇだろ?





【*フリスクは ハッとした様子でアナタを見た】











[     LV1   ■■■■


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