江戸は今日も曇り空。


今にも雨が降りだしそうな中、連日の雨で出来た
水溜まりを避けながら歩く。





細い道に入った所で通り掛かった車が
スピードを落とさないまま水溜まりの上を通過


大きな水飛沫が上がる。


…ギリギリ水飛沫の範囲外にいた私は
運良く難を逃れたけど

私の少し前を歩いていた女の子は直撃だったらしい。


ぽたぽたと全身から水を滴らせている女の子を

可哀想だなー、なんて思いつつ見れば


アレ?どことなーく見覚えのある後ろ姿…





「もしかして……さん?」


「む、殿?」





声を掛けると振り返ったのは、やっぱりさん。

無表情だけど…うーん水も滴るいい娘さんだ


ってそんなコト言ってる場合じゃなかった





「大丈夫?」


「問題は無い
家に帰って着替えれば……っくしゅん!


はい王道パターン入りました〜

このままだと家に帰る前に風邪ひいちゃうんじゃ
ないだろうか…てゆうかひくんじゃないかな多分。





「ほらほら大丈夫じゃないじゃない さっ、おいで?





偶然にも全ちゃん家はすぐそこ


私はすっかりびしょ濡れの彼女を連れて行った。











〜「水が滴りゃ家こもる」〜











「すまぬな 迷惑をかけたようで…」


「いいのいいの 服、洗って乾かしておくから
その間にお風呂入っておいでよ」


「いや、そこまでしてもらう訳には……」


「なら服が乾くまで着せ替えで遊ぼうか?」





入浴を渋るさんに用意していた
メイドナースの衣装を見せると


「お言葉に甘えさせてもらう」と迷い無く浴室へ入って行った。


ちぇー残念…またいつかチャレンジしよっと







タオルと着替え、ここに置いておくね。
あ、シャンプーとかボディソープは適当に使っていいから」


「かたじけない」





タオルと一緒に 全ちゃん家で着てる
私用の甚平を脱衣所に置いて、っと


濡れた衣類は洗濯機に放り込んでスイッチオー…


「んん?」





この信玄袋、何気に結構重たい







ゲーム機とか携帯が入ってたら間違いなく
取り返しがつかないことになっちゃうんで





「ちょっと中身を拝見〜…て、うわぁ





どーりで重たいなーって思ったら


中に入ってたのは 三つに分解された
組み立て式の改造槍でした☆


「三節根ならぬ…三節槍?なーんちゃって」





にしても本物の槍をこんな間近で見るなんて初めて


話には聞いてたけど…こんな重たいのヒョイヒョイ
気軽に振り回せるものなのかなー?


でも全ちゃんが忍者なんだし、ソレぐらいはアリか





そんな感じで納得しつつ槍をより分けて
信玄袋を服と一緒にイン


後は洗濯機に任せておけば乾燥までしてくれる。





さて、次は……







「もしもし全ちゃん?」


か、どうした?


「へへ…ちょーっと頼みたい事があって」





居間であの子を待ちつつ、全ちゃんに電話。





『別に構わねェけど 何でまた……』


「理由は後で話す。だから、ね?





受話器の向こうできっと小っちゃく溜息とか
ついてるんだろーな〜なんて思いつつも


引き受けてくれそうな確信はあった。





『わかってるって。で、報酬は……』


あ、なんか嫌な予感がするから切ってしまえ。







――――――――――――――――――――――――







強制的に通話終了させられた怒りは、ちょっとばかし
行動に出ていたようだ。







「いきなり何ですか!」





脂ぎったスケベそーな中年オヤジに絡まれてた
この男を見つけ出すと


半ば無理矢理の形で連れ出していた





私服だからか、相手の服は若干仕立てはいいが
町民らしい着流し程度の装い


にも関わらず性別がよく分からないっつーのは

もはや一つの才能だよな…コイツ





「何も言わずに連行するのは止めてくださいよ
僕を一体どうするつもりですか?」


「安心しろ、行き先は俺ん家だ」





途端 何かを悟ってか僅かに目の色が変わる。





「これは個人的な行動と解釈してよろしいんですね」


首を僅かに縦に振り、肯定の意を示すと
張り詰めていた気配が少しだけ緩くなった





頭が早く勘も鋭いのはアイツと違って助かる所だ


いや逆に妹がアレだからバランス取れてんのか





「ひょっとして今、と比較しました?」


…何でわかったの?」


「人の顔色を察して生きてますから
…もっとも、本職の方は読みづらいですけどね」





あの妹にしてこの兄あり…いや、

こういう事に関しちゃ 間違いなくコイツのが
性質が悪いだろうな…





「理由 着いたら聞かせてくれるんですよね?」


「さぁな」


むしろ俺が聞きたいんだが…報酬の件もあるし
後でを問い詰めるとするか







兄貴も今はそれ以上聞こうとはせずに
大人しく着いてきているようだ。





「…まぁ、しつこい客の同伴を心象悪くせずに
避けれたのはありがたいけど」


……今の台詞は聞かなかった事にしよう







――――――――――――――――――――――――







電話を切って、ちょっと寒くなってきたかなーと
入れたお茶をのんでまったりしていた所で


お風呂から上がったさんが居間に入ってきた。





「身体温まった〜?」


「うぬ…殿、風呂まで貸していただき感謝する


いえいえこちらこそ あなたの甚平姿
じゅーぶん堪能させて頂いているのでっ♪





あ、ちゃんと髪拭かないとダメだよ」





肩に掛けていたタオルで頭を拭いてあげると

さんは「兄上にもよく言われる」と
擽ったそうに目を細めた。







小っちゃくて胸ぺったんで肌白くて細っこいし


傷があるのが、返ってドジっ子属性の証明みたくなってるし


更にお兄さんの事を出した途端

周囲にぱぁぁっと小さな花を咲かせる妹ぶり…


ああ、もう、可愛いなぁ!





勢いに任せさんの頭をわしゃわしゃ拭いていると
ピーッと音がした。





殿、今の音は?」


「洗濯が終わったみたい。
服、今持ってきてあげるから待っててね」





頷いた彼女を居間に残し 洗面所で
乾きたてホカホカの服を持って、戻ってくる。





「はい、さん」


「ありがとう」





着替えを渡した所で、今度は玄関のチャイムの音が聞こえてきた。





全ちゃんかな?
ちょっと行ってくるから着替えててね〜」


「うむ」





頷くさんの頭を撫でてから
パタパタと足音響かせつつ玄関に行く







開けると、そこには全ちゃんと黒髪美人のおね

……じゃなくて、お兄さんが。





、言われた通り連れて来たぞ」


さっきの電話で伝えた 私の依頼―

できるだけ早くさんのお兄さんを連れて来て―
をクリアし、したり顔の全ちゃん。GJ


それに対して黒髪美人こと彼女のお兄さんは
不機嫌そうに眉を寄せている。





「あの、連れてこられても状況がまったくわからないんですけど
……どちらでもよろしいので詳しく説明していただけませんか?」


「あれ?全ちゃんから聞いてないんですか?」


「聞かされてねェのに説明できるか!」


ゴス、全ちゃんのチョップが額に命中。


額を擦りながらも私はお兄さんに
来てもらった理由を……話そうとしたら





「………兄上ぇぇぇ!


「うぉっ!?」


着替え終わったさんが、ものすごい勢い
廊下を駆けてきた。


玄関と居間って結構距離があるのに……

うーん恐るべし、ブラコンセンサー





「兄上、何故このような場所におられるのですか?」


「おまっこのような場所で悪かっ……ごふっ


「わ、私が呼んだの!
さんの迎えに来てもらおうと思って」





全ちゃんを一撃で黙らせつつ、同意を求めるようにお兄さんを見れば

察してくれたのか にっこり微笑んで頷いてくれた。





「そういう事なら、もう帰っても良さそうですね
……行こうか」


「はい、兄上!」





さんは嬉しげなオーラを放ちながら外に出て





殿、色々と世話になった


ぺこり、軽く頭を下げて

お兄さんと一緒に帰って行った。









「兄貴を連れて来させたのは 単にアイツを喜ばせる為だったのか」


「んー、それもあるけど……」


「あるけど、何だよ?


「よく考えたら私、さんのお兄さんと
会った事ないなぁって思って」


でも本当に美人さんなんだねーってうっとりしながら呟くと

全ちゃんは「くっだらねェ」と溜息。





…実は他にも美人兄妹を並べて見たかった、とか

あわよくば色々着飾って遊べたらなぁ……

なんて下心満載だったりしたんだけど


ソレは言わないでおいた方が良さそうかな。


下手に焼きもち焼かせちゃうのもマズイからね







「ところでよぉ……お前、俺ん家でアイツと
何してたワケ?」


「んー 色々とね」


「ふーん色々、ね。まぁそこは追々聞くとして
報酬の件なんだが……」





あははーやっぱりそう来たか…でも甘いっ!





「あーいっけなーい、私予約してたDVD
買いに行く途中だったんだー」


白々しく言いながら"報酬"を手渡し、





「じゃっ、ちょっと行って来るね〜すぐ戻るよ!


そそくさと全ちゃん家を出て行く。







「ちょっ、お前まで○ラギノール?!

しかも開封済み……ってこれお前
俺ん家にあったヤツじゃねーかァァァ!!







案の定、出てった私を追っかけるように
聞こえてきたのは全ちゃんのツッコミ。





思惑阻止に顔を綻ばせつつ、私は買い物の行き先に
薬局を加える事にした。








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感想


狐狗狸:再び九夜太様からのメール共演夢を
今度は一部加筆修正の上 掲載させていただきました

…既に一部どころじゃ無いですゴメンなさい(土下座×1)


余計な台詞やら行動やら入れまくって
素敵な原型が失われてるっぽいです!(土下座×2)


何気にウチの子と兄を召喚していただいてて
感謝している所に付け込んでます…(土下座×3)


でも恋人同士の余裕を垣間見せるさんが
今回もとても可愛いです!さり気にフラグ折ってるし

なのに軽くキャラ崩壊気味です(土下座×∞)


これは流石に服部さんに消されるかも…
あの世で詫び続けてきます
(ヲィ)


九夜太様 素敵な相互共演ありがとうございました…!