□道に迷えば





『今日は、随分と奥まできちまったね』


「本当だよ。軽い気持ちで来たんだけど、なんだかなぁ……」


ツルヤッコの言葉に、は困ったように頭を掻くと、
意気消沈の表情を浮かべる。





今日、は、伏魔殿の中に来ていた。
理由は言わずもがなで神流の捜索である。


しかし道中に色々とあり、気がつけば、伏魔殿の奥深くまで
来てしまっていたのだ。







普段なら、あまりこういったミスを犯す事のない
であったが、今日は理由がある。


主な原因は、昨日に捕まってしまい、夜もロクに
眠る事も出来ないままに、ヤクモの武勇伝を
話さなければならない羽目になってしまった事だ。


伏魔殿の中でも、妖怪が襲われ続けて、休む暇などあるはずもなく。
疲れて道に迷ってしまったのだった。










大丈夫ー?私もそろそろ疲れちゃったよー』


『そろそろ潮時かも知れないね。ただ伏魔殿を徘徊するのも、
いい加減飽きてきたし』


「うわぁ、そんなミもフタもない事を言っちゃさあ…。
今日は何の成果も上がってないのに……」





はそう言いつつも、口元を押さえて、
とても眠そうな様子で欠伸をする。


やはり、基礎体力から心許ないには、徹夜で話し続けた上に、
休む間もなく伏魔殿探索は辛かったようだ。





「はぁ……、なんでこう僕には……」


――ガサッ――





のぼやきを遮るように、不意に
後ろの茂みで物音がする。







ついさっきまで、自分達以外を除いて、何の気配も
感じていなかったので、もその式神達も、
驚きを隠せない。


「……ッ!!」





今日は何度も妖怪に襲われている事や、気配を感じさせずに
近づかれたこともあり、つい警戒してしまい、
音のした方向に闘神符を飛ばす。


闘神符には“爆”という文字が浮き出ていた。







闘神符は茂みに飛んで行くと、派手な音を立てて爆発する。


「ぐぎゃぁ!!?」









「へ…?」











しかし、茂みから聞こえてきたのは、引っくり返っても
妖怪のモノとは思えない悲鳴。
とういか寧ろ、聞き覚えのあるような気が……。


状況を飲み込むのに、多少の時間を要したが、
の顔がみるみる青くなって行く。







『ありゃ、どう聞いても妖怪の悲鳴じゃないね』


『わぁー、やっちゃたね


『まあ、失敗は誰にでも有る事だし、
気にする事じゃないわ』





の式神達が、口々に言葉を発する。
はその言葉を聞きながら、更に顔を青くしている。







「うわわわ!?だだ、大丈夫ですか!?」


慌てて茂みの方に走って行く。眠気も疲れも、驚きの前に
吹き飛んでしまう。





ほとんど焼けてしまった茂みを掻き分けて奥へ行くと、
そこにいたのは…












「あ、ちゃん……、ごめん…」


そこに倒れていたのは、同じ天流に属する闘神士
の式神であるだ。


普段なら、闘神符程度は軽く弾き返せるくらいの実力を
持ってる筈だが、流石にいきなりの不意打ちは堪らなかったようだ。





「…なんだ、か…ケホッ…!」


なんとか立ち上がって返すだが、
咳と共に、コントのように口から黒煙を吐き出す。







は心の中で「うわぁ…、どうしよう……」と思ってしまう。


が並外れた方向感覚の持ち主で、
何時の間にかモノスゴイ場所に迷い込んでしまう事が
有るのは知っていた。


自身、何度もと鉢合わせた事が有るのだが、
今回は今まで一番最悪な出会い方だと思う。







「え〜と…ちゃん…、大丈夫
……には見えないよね」


「洒落にならないね。道に迷ってガムシャラに走ってたら、
いきなり闘神符が飛んできて。俺を名落宮に落とす気か…」


「いや…ホントにごめん…」





衣服の彼方此方に焦げ目を作って言うに、
はとにかく謝ってしまう。


何度か一緒に闘った事もあるはずなのに、気付かずに
攻撃してしまうなんて、と自己嫌悪の方向に思考が進んでしまう。





「ッ――!!!?」


「……いきなりどうしたんだよ?」







しかし次の瞬間、申し訳なさそうに頭を垂れていたが、
急に身構えて周囲を警戒しだす。


その複線の全く無い行動に、はどうしたのだろうか?と
首を傾げたが、やがてその理由に心当たりがあったのか、
に語り掛ける。







「俺の宿主なら、今は来てないぞ。迷ったのは俺だけだからな」


「そ、そう…。ふぅ…良かった…」





その様子を見ては、自分の闘神士であるが、
の多大な心身の疲労に一役かっている事に、
少々複雑な気分になってしまう。









「それに、いたらいたらで、少し警戒した所で、なら
直ぐに見付かってしまうんじゃないのか?」





は“ヤクモ様”関係の事なら、どんなに小さい気配でも、
直ぐに感知してしまう節がある。


当然、ヤクモの幼馴染であるは、
そんな彼女にとって、ヤクモ情報の宝庫な訳であって、
見逃すはずもない。









「あ、そう言えば…てレベルの話でもないけど…」


「ん?」





が何かを思い出したような表情をする。
いったい今度はなんなのか?と思い、
不思議そうな表情をする。





「え〜と…、見た所は大丈夫そうだけど、
やっぱり少し怪我してるよね。」


「ああ、これぐらいなら、俺は平気だよ」


「駄目だって、ほっとく訳にはいかなよ」





は闘神符を1枚取り出す。


勘違いで攻撃しておいて、謝るだけと言うのも気が引けるので、
手当てぐらいはしようと思ったのである。


元から強い力を持つには、目立った外傷は見られず、
怪我と言えば少し擦り剥いている程度だが、
お人好しの傾向のあるには、それは
どうにも心苦しい光景らしい。







「じゃあ、宜しくたのむ」


「うん、じゃ…
『ちょっと待ちなよ!』


「なっ!?いきなり何…?ツルヤッコ…」





の怪我を治そうと、“癒”と書かれた
闘神符を近づけると、なんの予告も無しに、ツルヤッコが割り込む。


他の2体のの式神も、なんとか
止めようとしている。何故だろうと不思議に思っていると、
ツルヤッコが説明する。







『ほ、ほらさ、闘神符なんかで直すよりも、あたいが
治してやった方がいいだろ!?…アンタ達もそう思うだろ?』


『う、うんうん、そっちの方がいいって』


『私もそっちの方がいいと思うわ』


「お前等、みんなしてどうしたんだ?」





ツルヤッコが、が闘神符での怪我を治すよりも、
自分が治す方が良いと申し出る。
ネネとライザも、続いてそれを押す。


も、どうしたものかと不思議がるが、


真相はただたんに、が自分以外の
女性の怪我を治す、と言う構図を
3人が阻止しようとしただけである。







強く出られると、断る事の出来ないは、
言われた通りにツルヤッコを降神する。









「ふぅ、危ないとこだったよ」


「いや“危ない”って何がだよ」


「それはこっちの話だからさ、気にしないでおくれ」





ツルヤッコに傷を治してもらいながら、
怪訝そうな表情をする。


何故に怪我を治療しながら、『危ないとこだった』と言う言葉が
飛び出すのか、は理解していない。





もっとも、それはも同じなのだが。
彼も、自分の状況を把握しつつも、イマイチ恋愛関係には
疎い傾向がある。









そんなこんなのうちに、元々ただの擦り傷だったこともあり、
の怪我はあっという間に治ってしまう。











「あ、確かちゃんは道に迷ってたんだよね。
僕達もそろそろ帰ろうと思ってたし、
のトコまで送って行こうか?」


「ああ、頼むわ。このままじゃいつ帰れるかも
危ういとこだったしな」


「ははは…、そうだね」









の『いつ帰れるかも危うい』と言うセリフが、
とても切実に聞こえた事に、は苦笑する。











「じゃあこっちだから、しっかり付いて来てね。」


「いくら俺でも、道案内されてるのに迷ったりはしないよ」





は「ならいいけど…」と漏らすと、歩き始める。









余談であるが、2人の間には、の式神達が
霊体の状態で待機していたという。















その後











「ちょっ!?ちゃん!?どこ行ったの!?」










一方その頃







「ヤベェ…と逸れた…。
…つーか此処は何処だよ?」







2人が無事にの元に辿り着くのには、
相当の時間を要したという。







Fin.










アトガキ


マエストロ狐狗狸様の夢主さんとの共演夢でした〜。
さん大好き!キツネ自体も好きです!


さんはかなりの方向音痴だそうで、
その設定を利用させて頂きました。





と言うかゴメンナサイ!!いきなり闘神符で攻撃したりして!
(謝るくらいならそんな事言うなよ私)







あと、さんは“ヤクモ様”大好きな人な設定なので、
きっとは出会えば即、倒れるまで
ヤクモトークをさせられるんだろうなと(笑


何はともあれ、リクエストしてくださったマエストロ狐狗狸様!
有り難う御座いました!


ここまで読んでくださった皆さんも、有り難う御座います(ペコリ








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感想


狐狗狸:希沙斗様 一度ならず二度までもありがとうございます〜
こんな素敵な共演夢を書いて頂いたにもかかわらず
私の書いた方は 本気でヘチョくて申し訳ない


何かもう キャラクターがいい味出しまくっちゃってますし
ウチの特性を生かしきってます


くんや式神三人娘の掛け合いが凄く面白いし

読んでてニタニタしっ放しになります(←キモい)


素敵共演夢本当にありがとうございました〜