二月半ばにさしかかった江戸の街では
バレンタインセールのせいか、チョコレートを売る店は
専門店から量販店まで女性客の数が半端なく
「あ、あn「ホラどいて!チョコ取れないでしょ!」
「わ、私にm「あ〜!それ私が取った奴!」
「だ、だかr「ガキがうろつくんじゃないよ!!」
あちこちでチョコレートの取り合いが巻き起こり
身長が低いことも相まって、店に出向いていた
サニーは中々目当ての品を取れずにいた。
「うう、このままじゃチョコ売り切れちゃう・・・」
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
悩む彼女へ声をかけたのは青ヒゲ海賊d「誰が
青ヒゲ海賊団じゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
・・・もとい、かまっ娘倶楽部のママ「西郷特盛」
「あ、西郷さん。」
「あらサニーちゃんじゃない
どうしたの〜お店の前で立ち往生して。」
「あ、あの・・・お客さんが多くてチョコ取れないの。」
「あ〜、サニーちゃん小さいからねぇ。
ちょっと待ってなさい。」
片目をつぶってそう言うと、西郷は半ば殺気だった
客の群れを掻き分けて声を張り上げる。
「ちょっとあんた達、必死なのは分かるけど
チョコが欲しいカワイ子ちゃんに1個位譲ったげなさいよ。」
『じゃまかしい!化け物は黙ってろ!!』
満場一致のセリフが吐き出された直後
西郷は地面を思い切り殴り、衝撃で客と店員とを吹き飛ばす
「誰が化け物だって・・・・?」
睨みとドスの効いた声色にその場にいた全員が震え上がり
・・・そのおかげでサニーは無事にチョコを買えたのだった。
本来は、感謝を込めるのがこの日の慣わし
その後立ち寄ったかまっ娘倶楽部で他のオカマに
囲まれながら、彼女は西郷とチョコの話をしていた。
「さっきはありがとう西郷さん。」
「いいのよ、てる彦の遊び相手になってもらってるし。
こういう時はお互いさまでしょ。」
「それやっぱりさんに渡すの?」
「う、うん・・・」
「へぇ、さんにあげるんだそのチョコ。」
「う、うん。喜んでもらえると嬉しいなぁ・・・って。」
はにかむサニーへ、一人のオカマが力強く肩を叩いて微笑む。
「絶対喜んでもらえるわよ。自信持ちなさいサニーちゃん。」
「ありがとうアゴ美さん。」
「あ、あのサニーちゃん?あたしアゴ美じゃないから・・・」
「でも銀さんは「アレはアゴ美以外の何者でもない
それ以上でもそれ以下でもない」って言ってたから」
「あの天パいっぺんシバいたろうか!!」
地が出た叫びをスルーしつつも
サニーは彼らに礼をしてからアゴ美の叫びを
背n「お前もアゴ呼ばわりかコラァァァァァァ!!」
サニーはアゴ美の叫びを背に自宅へと急いだ。
「何で2回言ったんだよ!?」
・・・雑音はこの際無視をして
期待を胸に家路へと戻った彼女は
「ウマイなこれ!」
「そう?今年はカカオの豆からチョコを作ってみたの。」
「本格的だな・・・そういやアイツも豆から
作るとか言ってたけど、ひょっとして」
「そうなの お兄さんにあげるチョコで
悩んでたから相談に乗ってあげたんだけれど・・・」
がへチョコを渡す現場に遭遇してしまった。
「あ・・・」
「あらサニーちゃんおかえり。何処行ってたの?」
訊ねられて、咄嗟にサニーはチョコを隠す
「べ、別に・・・」
「あ、もしかして・・・チョコ買いに行ったのか?」
言い当てられて顔を赤くしたのを見て
はニコニコと笑って言葉を続ける。
「誰かにあげるのか?
いいなぁ〜絶対喜ぶぞ、相手は?」
特に他意も悪意も無かったのだろうが
それはサニーにとって無神経な発言であった。
「何でもない!」
たちまち機嫌を悪くし、サニーは外へと飛び出した
「もう、何でローズ以外には
気が回らないのよジャックは・・・もう!」
頬を膨らませ、不機嫌になりながら街を歩く彼女を見かけて
「どうしたサニー?」
背後からカズが声をかけてきた。
(そうだ、どうせだしカズさんにあげよう。)
そう思って後ろを振り向いたサニーは
絵に描いたような泥棒姿のごとく
風呂敷を担いだカズの姿を目にして固まった。
「カズさん・・・何それ?」
「ああこれか?いやぁお妙のキャバクラに行ったら
こんなにチョコもらっちゃって・・・まいったのなんのって・・・」
照れくさそうな、けれどどこか自慢げな笑みを見て
「あっそ。」
白い目で吐き捨てると、彼女はその場を立ち去っていった。
「・・・・・・え?何で怒ってたんだサニーの奴?」
見送りながら、彼は自覚ゼロのセリフを呟いた。
「ふぅ・・・・・・」
歩き疲れて休憩がてら公園のベンチに腰かける彼女へ
「お、サニーちゃんどうしたの?」
歩み寄ったのは 丸めたダンボールを押し頂く
略してマダオ
「無理やりすぎんだろそれ!!」
地の文にツッコミを入れつつも、気を取り直して
長谷川は再び問いかけを繰り返す
「サニーちゃん、どうしたそのチョコ?」
「あ、これ・・・」
「あーそうかそうかバレンタインチョコか。
やっぱ君にあげるの?それ」
グラサン越しに手にしたチョコを目で差すが
サニーは沈んだ面持ちで、首を横に振る。
「・・・・・ジャックにはあげない。」
「え?何かあったの?」
「別に・・・あ、よかったら長谷川さんいらない?」
差し出されたチョコに しかし長谷川は
軽くグラサンを上げると静かに言った。
「いや・・・悪いけどそれはもらえないよ。」
「え?」
「こんなマダオにあげるよりもさ、もっといい男に
あげた方が、そのチョコも喜ぶと思うよ。」
諭すような一言に サニーは手の中のチョコと
相手を見比べて、頷いた
「・・・うん、そうする。」
公園を後にして再び街を歩いていると
「よぉ。」
片手を上げて現れたのは後のドS皇帝
「バズーカの餌食になりてぇのかい?」
・・・もとい、沖田である。
「あ、沖田さん。」
「いいトコで会えたねぃ、手が空いてるようなら
ちぃと協力してもらえねぇかぃ?」
「空いてるけど・・・何を?」
彼は懐からあるモノを取り出して
首を傾げるサニーへと手渡した。
それは 一見すると何の変哲も無さそうな
可愛らしいラッピングの施されたチョコレート。
「こいつを、すぐそこにいる土方さんに
渡してきてくれやせんかぃ?」
「何で?」
「まあまあ理由はすぐに分かりまさ。」
その笑顔に若干の胡散臭さを感じながらも、彼女は
少し先でタバコを吹かしていた土方へと近づいていく。
「あ、あの・・・」
「うん?何だんところのガキか。」
「これ。」
「お!俺にチョコか?」
「う、うん。」
おずおずと頷いたのを見て取ると、土方は
タバコをもみ消してから珍しく微笑を浮かべ
「じゃあいただこうか?」
チョコを受け取り、ラッピングを剥がして
中から現れた物体を口に
しようとした瞬間
「・・・・・ってテメェの罠だってのは
とうにバレバレなんだよ総悟ぉぉぉぉ!!」
そのチョコを思い切り隠れていた沖田に向かってぶん投げた。
軽やかにかわし 地面へと叩きつけられたチョコが
爆音と共に粉々に砕け散る。
「チッ、感づかれたかぃ!」
「テメェはこんなガキ使って何してやがんだ!!
いつもの槍ムスメはどうした!?」
「ああ、あのブラコンバカ 兄貴の為に
カカオ豆取りに行くとかでどっか行方くらましたんでぃ。」
「だからってガキンチョを手先に使ってんじゃねぇよ!!」
唖然としたサニーを指し示す土方だが
それで動揺するほど、また一つの策が失敗に終わって
手を緩めるほど彼は甘くはなく
すぐにどこからともなく出したスピーカーで声を拡張する
『みんなぁぁぁぁぁぁ聞いてくれぇぇぇぇぇ!
たった今この土方十四郎は、純粋な女の子のチョコを
爆弾添えて本人に投げ返そうとしてたぜぇぇぇぇぇ!』
「おまっ、デマ流してんじゃねぇ!
上等だ今度こそ叩っ斬ってやるぞ総悟ぉぉぉぉぉぉ!!」
何度目かも分からない斬り合いが繰り広げられて
利用された少女は、何も言わないままその場を抜け出す
・・・家を出た時には高かった日も暮れ始め
薄闇漂う路地裏でサニーは 嗚咽交じりに歩いていた。
「もう・・・どうしてみんな自分の事しか考えてないのよ
・・・私はただチョコを渡したいだけなのに・・・!」
うつむきがちに歩いていたせいか 彼女は
向かいから来る侍に気づかずぶつかってしまう。
「痛っ貴様どこを見て歩いている!」
「ご、ごめんなさい!」
「謝っただけで許してもらえると思っていたか!」
いきり立った侍が刀を抜き
驚いた拍子にサニーはその場で腰を抜かす。
「童と言えど攘夷志士に無礼をするとどうなるか
その身に思い知らせてくれるわ!」
「い、いや・・・!」
僅かに後退りしながら手を前に掲げるも間に合わず
侍が大上段に振りかぶった刀を下ろし―
「おい。」
刹那、かけられた声と共に奔った横からの斬撃が
その刀を粉々に砕き散らした。
「な、何・・・!?」
「子供に手ぇ出す奴ぁ志士って言わねぇんだよ。」
両腕を高く上げたままの侍の喉下へ刀をあてがったのは
「膾(なます)に刻まれたくねぇなら失せろ。」
―高杉だった。
「た、高杉か・・・くそ!」
舌打ちをして尻尾を巻いて逃げ出した侍を歯牙にもかけず
鞘に刀を収めた高杉は、へたり込んだままの
サニーへと視線を向ける。
「怪我はねぇか?お嬢ちゃん」
「あ、ありがとう・・・」
「ここらは見境のない連中も多い・・・
余計な怪我したくねぇならさっさと離れた方が利口だ。」
「う、うん・・・あ、そうだこれ。」
立ち上がり、土ぼこりを払った彼女は
持っていたチョコを目の前の相手へと差し出す。
「これ・・・お礼・・・」
「そいつぁ、巷で流行ってる贈り物じゃねぇのか?」
「うん、でも もらってくれる人がいないから・・・」
「ふぅん・・・お前さん
そいつを最初、誰にやるつもりで買ったんだ?」
やや間があって、サニーはもごもごと口を開く。
「これ・・・ジャックにあげようと思って・・・」
「・・・にか。」
「でも、もう好きな人からもらってて・・・
だから・・・・」
「そいつぁお門違いってヤツじゃねぇのか?」
「え・・・?」
我知らず伏せていた顔を上げれば、高杉は
片目で手の中のチョコを示して続ける。
「そういうモンは気持ちさえ伝わりゃ
早い遅いは関係ねぇモンだろ・・・違うかぁ?」
その一言で サニーは思い出した
始めからこのチョコはへあげるために用意したのだと
大事な相手の喜ぶ顔と、感謝の気持ちとを
示したくて買いに走ったのだと
チョコへ目を落とす少女へ キセルを取り出しつつ
高杉は低く静かに語りかける。
「もうすぐ夜になる・・・ガキはとっとと家に帰りな。」
無言のまま、サニーはペコリと頭を下げて
路地裏を抜けて自宅へと走り去る。
その後姿を眺めながら吸い口を放し
「クク・・・柄にもねぇ事言っちまったモンだ
・・・・精々大切にしてやれよ、。」
細く煙を吐き出すと、愉快そうに高杉は笑った。
家路へ帰り着いたサニーを待っていたのは
からのお叱りだった。
「もう、こんな遅くまで何処行ってたの!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まあまあ今日位はいいって。さ、飯にしよう。」
しっかりと反省した後に夕食を食べ終えて
「おやすみジャック、ローズ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい サニーちゃん」
声をかけてから サニーは寝室の目立つ所に
チョコを置いて眠りへとついた。
・・・静かな夜更け、彼女はへと語りかける。
「、今年は何個もらえた?」
「お前からの1個だけさ。ていうか一番ウザかったのは
カズのドヤ顔だ・・・30はもらったらしいからな。」
「そういえばあの人、すまいるで結構人気あったのよね。」
「やたらと自慢しててイラっと来たな
全く、隊員が稼いだ金で何してんだか・・・」
ちゃんと眠っているかどうか、ふとサニーの寝室を
覗いた二人があるものを見つける
「ん?これは・・・・チョコか?」
「サニーちゃん・・・バレンタインなのに
どうしてチョコ渡さなかったのかしら・・・?」
首を傾げつつも箱を裏返せば、そこには
メモ用紙のような手紙が貼り付けられている。
書かれていたのは ただ一言
『ジャック、大好き』
「・・・・・、今年は2個だ。」
「え?」
「これでカズに自慢できる。
最高のチョコを、2個ももらえたんだからな。」
「・・・・そうね。」
二人は顔を見合わせて、嬉しげに笑った。
――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)
退助「久しぶりのバレンタインネタで行ってみました
原作とリンクはいつものこt・・・どわぁ!?」
西郷「さあ覚悟はいいかしら?」
アゴ美「ついでに後書きにもアゴ美と書いた
落し前もつけてもらおうかしら・・・?」
沖田「俺も狂言回しに担ぎ出された報復を
たんまり食らわせてやりやすぜぃ。」
土方「待て、それより今回は特大のツッコミ所があんだろ
・・・何でテメェがこのネタに混ざってんだ高杉ぃ!!」
高杉「構わねぇだろ?たまにはこう言うのも。」
退助「いやー他の人々じゃ頼りなかったモンで
何となく言いそうなキャラでチョイスしました」
カズ「なんだよ、俺がそんな頼りになんないか!?」
また子「なるワケねぇだろタラシグラサン野郎が!
しかも晋助様にチョコ渡そうとするとか
どんだけ恐れ多いガキっすか!!」
武市「何故だ・・・・
何故私にチョコが1個も来ないんだ・・・!」
退助「何で地球滅亡する勢いで絶望してんの
ていうか来るわけないだろ、図々しいなアンタ。」