「はああああ!!」
自室にては槍を操り、設置した
人の形の的を 急所へ的確に斬りつけていく
不意に襖が開き が訝しげに顔を出す。
「どうしたんだい?こんな朝早く・・・」
「おお兄上、起こしてしまい申し訳ない。」
「いや、ウチの中で稽古するのは
別に構わないんだけど・・・何この的?」
「これは殿から借りてきたものだ。」
的と妹を見比べ、渋い顔をする兄
「これ、本来銃の稽古のものじゃ・・・
まあいいか 何でかは分からないけど
張り切ってるみたいだし。」
寝直すに一礼し、は槍を構え直す
(強くならねば・・・・・
あの時 殿に助けられたのに何も出来なかった
・・・何もしてやれなんだ
私が、弱かったせいだ・・・)
彼女の中で、吉原で鳳仙と対峙した際の記憶が甦る。
『・・・・おい!やめろ!!』
『貴様に日輪殿を傷つける権利があるのかぁぁぁぁ!!』
辺りに眼もくれず、無謀な行動へ出たせいで
『殿っ・・・もういい!私に構うな!!』
『そういうわけにはいかねえんだ・・・・俺は・・・
もう・・・大切な人を・・・・
失うわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!』
に助けられ、彼を窮地へ追いやった事を悔やんでいた。
黙々と型を反復するだが これだけでは
ダメだと思い、万事屋へと向かう。
新八と神楽もまた 同じ気持ちだった。
(護られるばかりじゃダメだ
自分に負けないくらい。
強くなりたい)
ただそれだけを胸に、三人は銀時の前へ集う
「強く・・・」
「なりたいんです!僕達・・・!」
「銀時・・・ご教授願いたい!!」
その思いを十分にぶつけた・・・・・彼らに対し
「フーン、なればいいじゃん。頑張ってね」
戻ってきた返事はあまりにそっけなかった。
絵心と戦闘力は関係なし
「・・・・・あれ?見てなかったんですか?
さっきまでのかっこいい下り、今までにない強敵と
対峙して修行編に突入するみたいな・・・・
結構シリアスな展開だったんですけど・・・」
説明する新八だが、銀時の態度は毛ほども変わらない
「修行編って何?
そんなもんに突入するのお前達?大変だねぇ。」
「・・・いやそうじゃなくてなんか・・・
特訓とか・・・ねぇ?僕らに教えたりとか。」
「そうそう、大体銀ちゃんだって修行が必要ネ!
これから強敵いっぱいネ!」
「そうだぞ銀時、修行せねば鳳仙以上の敵が
出てきた時にどうするというのだ?」
熱意を持った言葉をかけて気を取り直し
「強く・・・・」
「なりたいんです!僕達・・・!」
「銀時・・・ご教授願いたい!」
三人の言葉が銀時へとぶつけられる。
そして・・・・・数ヶ月の時が経過した・・・
「いや〜、大変だったなぁ〜。修行。」
「流れてねーよ!ものの3行しか経ってねーよ!!」
「でもやっぱ我が家が一番だな。」
「何ナレーションで修行終えた感じにしてんだ!!」
全くやる気を感じさせない調子で銀時が
椅子ごと彼らに背を向けつつ続ける。
「心配いらねーよ、向こうとこっちじゃ時間の流れは違う。
向こうの100行はこっちの一行にも満たないからな。
3行でも向こうでは3か月分の行を得たってわけだ。」
「だから一歩たりともここから動いてねーんだよ!
何で精神と時の部屋で修行したことになってんの!!」
「いいだろ?もうこんな感じで、もう終わった事に
しとこうぜ?メンドくせーよ、修行なんてやりたくねーよ
そんなもんメンドくさい。」
「ジャンプの主人公にあるまじき事言ったよこの人!
向上心のかけらもないよ!!」
ひたすらぐうたらな銀時へ 前に出て叫ぶ神楽。
「ジャンプの三大原則を忘れたアルか!
友情・努力・勝利!!努力なくして勝利はないネ!!」
「その通りだ神楽、向上心なくして
強敵に勝っていくことは出来ん。」
真顔で同意するへ、銀時がもっそい嫌げな顔をする。
「いやだよ〜、メンドくせーよ。だってお前さあの・・・
メンドくせーよ、何がメンドくさいってあんさ例えばさ・・・
うわメンドくせーよ、もう例えるのもメンドくせーよ。」
「どんだけメンドくせーんだよ!!!」
「大体本編に存在しない余計な連中がいる時点で
友情・努力・勝利なんざ適合しねーんだよ。」
「何さん達のせいにしてんの!!!」
「そもそもんなスローガンなんて流行んねーの。
時代は流れてんだよ、茨木は死んだんだよ。」
「死んでませんよ!!
ジャンプSQの編集長として頑張ってますよ!!」
「茨木とは誰なのだ?」
「いや知らなくていいからねさん・・・・・・・」
「大体から小説で修行なんてやっても
読者に伝わらないし地味なんだよ。
んなこと出来んのはドラゴンボ○ルだけだよ。」
「最低だよこの人、自分が修行したくないばっかりに
とんでもないこと口にしてるよ。」
呆れたような新八の言葉へ 銀時が切り返してくる
「じゃあ聞いとくが、お前ら修行のプランとか
絵的より難しい文章で持つこと考えてんの?」
「ちゃんと考えてるもん!!
アレ・・・あの、まず山に行くアル。」
「へえ、山に登ってどうするの?」
「あの・・・・熊に」
「戦い挑んで野生の勘を身に付けますか。
古ぃんだよもうやり尽くされてるんだよそういう・・・」
「足持ってもらって腹筋とかするアル。」
「熊を有効に使えぇぇぇぇ!!
どんだけ熊の無駄使いしてんだよ!熊を活かせよ!!」
言われて神楽が手をポンと叩く。
「あ、そっか・・・じゃ熊の足押さえて腹筋させるアル。」
「どんな活かし方だぁぁ!何で熊の修行になってんだよ!!
んなもんそこらへんのスポーツジムでも出来るだろ!!
インストラクターで充分だろ!!」
怒涛のツッコミに天啓を得て、が手を上げる
「銀時、しからばインストラクター殿に熊の足を
押さえてもらい腹筋を」
「何でだぁぁぁ!それ最早お前ら何もしてねーだろ!!
山から帰ってきてるし!!」
「かなり斬新アル!!」
「斬新過ぎるだろうがぁぁぁ!!!」
室内にひたすら響き渡るツッコミの残滓が消える前に
「ウフフフ、最近どうも様子がおかしいと思ったら
そういう事だったのね・・・新ちゃん
やっぱりあなたは侍の子ね。」
「あっ姉上!」
玄関から上がりこんだ妙が ニッコリと笑った。
「そんな事ならどうしてもっと早く
私に相談してくれなかったの?」
「すいません、照れくさかったって言うか
内緒にしたかったって言うか・・・」
「気持ちは分かるけど、あんなダメな大人に頼ったら
ダメよ 劣化の一途を辿るばかりだわ。」
「目の前で言うんだそれ・・・・・・・」
淡々と呟く銀時を無視し、妙は三人へこう言う
「いいみんなよく聞いてね。どんな目標でも人は
ゴールのない道を走る事は出来ないけれど
ゴールがあれば長い道のりでも走っていくことが出来るの。
それが痩せたい事でも強くなる事でも一緒
自分が一体どういう風に強くなりたいか具体的に思い描く。
目的を設ける事で少しでも
そこへ向かっていく事が出来るのよ。」
説得力の高い意見に彼らは感心する。
「なるほど 女性ならではの観点ですね。」
「じゃあみんな
この紙に自分はどうなりたいか描いてみて。」
言って妙が人数分のスケッチブックを取り出し
テーブルの前に置いた。
「考えたこともないアル、結構難しいアルな・・・」
「絵は苦手なのだが・・・・・致し方ない。」
受け取った彼らが頭を悩ませ、思い思いの絵を描く最中
真っ先に銀時が『さらっさらヘアーになりたい』と
書いた紙を出した。
「何でアンタがいの一番に書いてんだよ!!
しかも強くなる気全くないし!!」
「私も出来たアル。」
続いて神楽が 描き終えた熊の絵を見せる。
「そいつはもういいって言ってんだろ!!
何でさっきから熊育てる事に夢中になってんの!!
ていうかその口の血は何!?インストラクターか!
さっきのインストラクターか!!」
新八がツッコミを入れている内に
「む、出来た」
も挙手しつつ、絵を皆へ発表する
「ってヒドっ何コレヒドくね!?
お前コレ人のつもり!?幼稚園のガキの落書きレベ」
指差して指摘した銀時が 槍底攻撃で昏倒させられた
「絵は苦手と申したはず、それにこれは兄上と私が
鍋を食べている所ゆえ 侮辱は許さん」
表情が変わらないだけに の緑眼に満ちる殺気が
尋常じゃなく恐ろしい。
「何で鍋!?つーかその隅っこのもしかして熊の首!?」
「うむ、山で出くわした凶暴な熊を仕留めたからな
持ち帰って兄上に調理していただき夕食に」
「リアルに怖ぇよ!そもそも何で二人で
食物連鎖完成させてんのぉぉぉ!?」
頭を掻きつつ、新八が妙を振り仰ぐ
「姉上からも何か言ってくださいよ!」
「うーん、みんないまいち踏み込みが足りないわね。
照れが捨て切れてないわ。」
「そういう問題なんですか!?」
「いくらゴールを設けても手が届かなきゃ
ゴールがないのと一緒よ。ちゃんと現実を見据えて
地に足の着いた目標を立てなきゃ。」
言葉と共に妙が出したのはリアル目な天使の絵だった
「足がつくどころか飛んでんですけどぉぉぉ!
何になろうとしてんですか姉上ぇぇ!!
全く別人・・・ていうか別の生き物に
なってるじゃないですか!!」
そこで新八は 絵の左下部分に気付く。
「あれ?ていうか・・・・・・・おいぃぃぃ!!
何でこんな所にまたインストラクターがいるんだよ!!」
「熊に襲われている所を見かねて
助けに来てくれたのよ。」
何故か誇らしげに親指を立てる妙。
「何でさっきの奴と話繋がってんだよ!!
何で紙芝居になってんだよ!!」
「絵が上手いのだな妙殿、ぜひ兄上の絵をお願いし」
「何頼んでんのさんんんんんん!!」
ノリに任せ 新八が彼女の頭を叩いた所で
「オイオイ、お絵かき教室なんてやってても
永遠に強くなんてなれやしねーぜ。」
長谷川が玄関から室内に入ってきた。
「長谷川さん!?」
「「マダオ(殿)!」」
「俺に任せな、ぱっつぁん、嬢ちゃん方。」
自信に満ちた台詞で取り出した絵には
火の海になり『全テ灰ニナレ』と書かれた街が
「つーかあの人さり気に
超怖い絵描いてんですけど!!なにアレ!?」
「俺は確かに非力だが 人生の先輩として
迷える子羊達を光に導くことはできる。」
「いやなんですけどぉぉ!!光っていうか
地獄の業火の光に導こうとしてるんですけどぉぉ!!
絵が全てを物語ってるんですけどぉぉ!!」
新八の魂からの叫びに構わず長谷川は語りだす。
「てっぺんからどん底に落ちた俺だからこそ
見えるものがある。いいか?
世の中デカイヤマを狙おうとか一発で
形勢を逆転してやろうとか、そういう雑な生き方を
している奴は必ず転ぶ。
そりゃあ一度位いまくいくかもしれん。
だがそういう奴は調子に乗って同じ大穴に大金をかける。
幸運は二度と続かない、気づいた時は素寒貧だ。」
並んだ言葉の背景に 紙吹雪のような券が
舞い散る人込みの只中で頭を抱える長谷川の姿が仄見える
「いやアンタ競馬に負けただけじゃん
競馬に負けただけで世界燃えろとか言ってんの!?」
もっともなツッコミを無視し、彼はこう切り出した
「結局堅実に地道に
コツコツ努力している奴らには敵わない。」
三人の顔つきがその一言で引き締まる。
「たった一発で強くなろうなんて考えてる連中は
しょせん何年も何十年も日々地道に鍛錬を繰り返す奴らに
勝つことなんて出来はしないんだ。」
先程までの言動を考慮に入れてもなお、長谷川の
その一言には切り捨てられない重みがあった。
「修行ってのは明日からとかそういうもんじゃねーんだ。
この世に産まれ出た時からもう始まってんだ。
小さなことでもいい。いかに日々の生活の中に溶け込ませ
繰り返しコツコツ続けていくかが重要なんだ。」
タバコを吹かす長谷川の語りに、三人は何時しか
真面目に腰を据えて耳を傾けている。
「こんな話を知っているか?」
口が開き 語られるその話の内容は・・・?
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後書き(管理人出張)
狐狗狸:後日談のこの話まで出張のターンなので
前編も後編も張り切って編集しました!
新八:かっ飛ばし過ぎぃぃぃ!さん達の話なのに
なんで今回出てきてないんですか!?
狐狗狸:後編でがっつり来るし、それに出たじゃん回想で
神楽:てゆうか育てた熊食べるなんてひどいヨ!
その鍋丸々よこすヨロシ!!
銀時:ひどいとか言っときながら食う気満々かよ
神楽:生きとし生けるもの、おしなべて腹が減るアル
銀時:オメェは年中空きっ腹みてぇなもんだろが
このバキュームカー娘
妙:私、あんなにスケッチブック持ってたかしら
狐狗狸:・・・細かい事は気にしない方向で行きましょう