大人の姿になって外に出た私は、特に行くあても
無いまま広い公園にやってくる。
少し疲れたな・・・とベンチに腰掛けたら
「チクショー!どうせ俺はマダオなんだよぉ〜!」
「きゃあっ!?」
唐突に後ろから 聞き覚えのある叫び声がして
驚きのあまり飛び上がった。
顔を向ければ・・・あ、長谷川さん?
「ど、どうしたんですか・・・?」
「あれぇ?サニーちゃんが大人に見える・・・」
え!?もしかしてバレてる!?
慌てて顔色を確かめるけれど、サングラスだし
表情がよく・・・あれ?
よく見れば酒ビン片手に持ってる・・・あ、飲んだ
なんだ、酔ってるだけか・・・
「まあいいや、聞いてくれよぉ〜!
求人で『志高き猛者求む!』ってQ人雑誌に
書いてあったから面接にいったらよぉ〜・・・」
「うんうん・・・・・」
「そこの面接官が君だったんだよ!
驚いたのなんのって・・・」
ってこの人・・・MSFの入隊試験に行ったんだ・・・
「面接終わったらよぉ、実技試験するって言うから?
外出たらさぁ〜『ボスに3分CQCを受けて
耐えられたら合格だ!』って言ったんだよあの人!」
長谷川さんは更にロレツの回らない口調で続ける。
「君に勝てるわけねぇだろ!
10秒と持たなかったよ!」
「そ、そうなんだ・・・」
「手加減してくれてもいいだろうよぉぉぉ!
君あの時『いくらでも紹介してやる。』って
言ってたのによぉ〜!あんまりじゃないか!?」
「え・・・ど、どうなんだろ・・・それ・・・」
「くっそ〜!
君まで俺をマダオ扱いかよぉ〜!!」
「ハ、ハハハハハ・・・」
私は泣き寝入りし始めたマダオ・・・
じゃない長谷川さんをそっとしておいて歩き出す。
よく分かんないけど、大人って大変なんだな・・・
ぼんやりとそんな風に考えつつ歩いてたら
何だか怪しい雰囲気の場所についてしまった。
正しい大人より楽しい大人になりましょう
「ここ・・・確か前にテリコが"絶対行くな"って言ってた場所・・・!」
たしか、ホテル街って言ってたっけ・・・
とにかく早くここを出ないと・・・
回れ右して足を踏み出した矢先
「よう姉ちゃん!俺とお茶しない?」
「え・・・?」
目の前を塞ぐようにして変な男の人が二人
私に話しかけてきた。
「ここらは初めて?もしかして道に迷ってる?
だったら俺が案内してやるよ。」
「え、遠慮します・・・」
「いいからいいから、ついてきなって。」
言いながら力強く腕を掴まれて
「やめてください!」
驚いて咄嗟にその腕を振ったら、軽く
撥ね退けるつもりだったソレは
何の拍子か分からないけれども
結果的に 腕を掴んだ人を壁に叩きつけてしまった。
「痛ってぇぇぇぇ!?」
「な、なんつう馬鹿力なんだこの女!?」
「あ!?ご、ごめんなさい!そういうつもりじゃ・・・」
謝りながら 自分でも内心首を傾げてしまう
なんでここまで力が強いんだろ・・・これも
大人の姿に変わった影響?
けれど、壁に叩きつけてしまった男の人は
「こ、このアマ・・・!よくもやりやがったな!!」
むくりと身を起こすと懐からナイフを取り出す。
「ひっ!?」
「お、おい・・・!いくらなんでもやりすぎ・・・!」
「んなの関係あるか!
この俺に傷付けるたぁいい度胸じゃねぇか!!」
怖い顔をしながら男の人が、私へ
ナイフを向けて近づいてくる
殺される・・・!
思った瞬間 自然と足が動いて
「待ちやがれ!!」
低い叫び声に震えながら私は逃げ出した。
辺りに散ったMSFの捜索員のうち
折りしもホテル街付近で、カズと隊員の一人が
サニーの捜索に当たっていた
「う〜ん、何処にもいないなぁ・・・・
おーい!サニー!」
呼びながらカズはおもむろにポリバケツのフタを
開けると、ためらわず中を覗き込む。
「・・・あの、副司令。
そんなところにサニーは入りませんよ。」
「そうか?子供はかくれんぼが好きだろ?
こういうところに隠れていても不思議じゃない。」
「いや・・・大人の体になったから それはちょっと・・・」
「そうか・・・?以前ゴミ捨て場のタンスの
引き出しに納まってた女の子はいたけどな・・・
ここにはいなさそうだな・・・他をあたるぞ。」
白けたような隊員の視線を受けつつ、カズが
路地裏へ入ろうとしたその時
「キャッ!?」
一人の女性が彼にぶつかってきた。
「うお!?大丈夫か?」
「ごめんなさい!」
咄嗟に身体を支えるカズへ謝りながらも
女性は、わき目も振らずに走り去っていく。
「あのプラチナブロント・・・ロシア人か?」
「ロシア人が何故こんなところに・・・?」
「おーい!誰かそいつ取り押さえてくれ!!」
再び進行方向から聞こえた声に反応し顔を向ければ
カズの眼前に、ナイフを構え強張った形相で走る
男の姿が迫ってくる。
「どけ!!あのアマ殺してやる!!」
「副司令!危ない!!」
行く手の邪魔になるカズを刺すつもりで
男はナイフを振りかざし―
その腕は瞬時に掴まれ、後ろ手へと回されて引き倒される。
「痛たたたたたた!!」
「おい坊主、美しき淑女の命の灯を
かき消そうなんざ・・・無粋ってやつだぜ?」
腕からナイフを取り落とさせたままの状態で
カズはグラサン越しに、男へ睨みを利かせる。
「俺の目の前で人を殺せると思うな?」
「す・・・すみませんでしたぁぁぁぁ!!」
「お、おい!待ってくれ!!」
解放された男と、少し離れた場所にいた
もう一人とが面食らって元来た方へと逃げていく。
土埃を払うカズへ 男が取り落としたナイフを
回収しつつ隊員は誇らしげに言う。
「副司令、流石です。」
「全く・・・最近の若者はキレやすいと聞くが
・・・殺意までむき出しにするとは嘆かわしいな」
怖くて、怖くて怖くて仕方が無くて
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
どこをどう走ったかは覚えてないけれども
とにかく歩けなくなるまで足を動かして
息を吐きながら、ようやく辺りを見回す。
あの男の人はいない・・・何とか逃げ出せたんだ
でももう走れない、どうしたらいいんだろう。
逃げ込んだ先、どこかの廃墟の一室は
まだ夕方でも無いはずなのに薄暗く不気味で
ふと壁や床を見渡して・・・気付いてしまった
夥しく辺りに散る血痕に
「ヒッ!?」
口元を覆って悲鳴を上げると、誰かが部屋に入ってきた。
「だ、誰だ!」
「え・・・あ!?」
現れた男の人の顔は とてもよく知っていた。
最近のニュースに"連続婦女暴行殺人の容疑"で
指名手配されていたから・・・!
「ちょうどいいや・・・
見たところかなりの上玉だ・・・!」
ぺろりと舌なめずりをして男が出したのは
また・・・ナイフ・・・・・・!
「や、やめて・・・!来ないで・・・!」
「大丈夫だって、殺しはしないさ。
ただちょーっと俺と遊んで欲しいだけだからよぉ」
後ずさりで逃げても、相手がジリジリと近づいてくる
恐怖で動きもままならないまま
私の背中に壁が当たり 逃げ場を完全に失う。
「さあ・・・おじさんと楽しもうぜ・・・!」
「いや・・・・助けて・・・!誰か・・・!」
伸びた腕が、襟元を掴もうとした瞬間
どこからか鳴り響いた銃声と一緒に
目の前の男が吹き飛ばされた。
「大丈夫だったか?サニー。」
声の元を辿れば、そこにいたのは・・・ジャックだった。
「ジャック!」
「やっぱりサニーだったか・・・
ここに入り込んだのが見えたからな。」
「何で・・・私、大人の体になったのに・・・」
「オルガに似てるからだよ。すぐに分かった。」
「て、てめぇ・・・!」
よろよろと立ち上がりかける男へ
「黙れ。」
すかさず鬼の形相を向けたジャックが
ゴム弾式の2連水平ショットガンを撃ち込み
「が・・・あ・・・・・」
命中した2発の弾丸によるあまりの激痛に
顔を歪めて、相手は気絶する。
それを見届けてから ジャックは柔らかく
微笑みながら問いかける。
「サニー、怪我は?」
「ジャック・・・!」
思わず 私はジャックへと抱きついた。
「サニー・・・?」
「怖かった・・・・怖かったよ・・・!」
「そうか・・・でも、もう大丈夫だから。」
「これが、大人になるってことなの・・・?
大人ってこんな人達ばかりなの・・・!」
「みんながみんなそうじゃない・・・・大丈夫だ。」
「こんなことなら・・・
大人になんてなりたくない・・・!」
首を振る私の頭へ そっと温かな手が置かれる
「サニー、大人になるということはな、
自分で生き方を決めるということなんだ。」
そのまま優しく、ジャックが頭を撫でながら
静かに語りかけてくる。
「体が大きいからって大人になれるわけじゃない。
だから・・・お前だけでも、間違った生き方はしないでくれ。」
「ジャック!うええぇぇぇぇ・・・・」
私は・・・抱きついたそのままで・・・泣き崩れた。
どうにかサニーの保護を完了させた後
指名手配犯はMSFできついお灸を据えてから
警察に連行してもらった。
そして家に戻ると・・・いつの間にか
戻っていたと万事屋トリオが出迎えてくれた
「サニー!しばらく見ない内に大きくなったネ!」
「何その親戚みたいな発言は・・・神楽ちゃん・・・」
「へぇ〜お前ぇがあのサニーだなんてな・・・
なかなか別嬪さんじゃねぇか。」
「おっと、手を出そうとするなよ?銀時。」
「出さねーよ、つかんトコの知り合いだか
知らねーが俺と同じ声で喋んないでくんない?」
「んだとぉ!?」
銀さんとカズが顔面超絶接近させてメンチを切り合う
「おいおい二人共・・・」
「サ、サニーちゃんに負けた・・・」
「あ、あんまり見ないでローズ・・・恥ずかしい・・・」
サニーの胸を見て悔しがるへ、当の本人は
赤くなりながら胸を両手で隠す。
その辺は・・・オルガの娘だからしょうがないって
「あの・・・そろそろサニーちゃんを戻さなあきまへんで。」
和気藹々(?)とした空気の中、おずおず話しかけてくるのは
ネコえもんとか名乗ってたオッサン。
「どういうことです?ネコえもんさん。」
「ネコえもんちゃう言うとるやろうが!!
・・・ま、とにかく、早くこの赤いキャンディ
舐めてんか。そうしないと・・・」
「そうしないとどうなるアルか?」
「一生そのままの体になってまうで。」
『え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?』
流石にそれは初耳で 皆が驚きを露にする。
「ちょっアンタ何でそれを
早く言わないんですか!?ねぇ!!」
「だって、さっきから除け者にされとったさかい
・・・時間制限まで後5分やで。」
「早っ、制限時間早っ」
「もうそれだけしか残ってないのね・・・」
じっとサニーを見つめていたカズが
「そうだ、記念写真を撮らないか?」
ニコリと笑って切り出した。
『写真?』
「ああ、せっかくサニーが大人の姿になってるんだ。
こんな機会はまたと無いだろうから、何らかの形で
残しておいた方がいい思い出になるだろ?」
けれどサニーは沈んだ顔で首を横に振る
「・・・私・・・そんなの残したくない・・・」
そう思うのも仕方ないか、と口にしかけて
サニーの肩をそっと叩いたのは 銀さん。
「怖がる必要はねぇぜサニーよぉ。嫌な事も
時が過ぎりゃ 皆で笑いあえる思い出になんだ。
そーいう思い出はな、大事な宝になるんだぜ?」
「・・・本当?」
「おう、だから記念ぐらい残しとくのもいいんじゃねぇか?」
緩く微笑む銀さんに釣られて、サニーも
安心したように笑い返してみせた。
「ほう・・・初めてまともな事言ったな、銀時。」
「だっから俺と同じ声で喋んないでくんない?
髪の色も金髪だし 対抗してんのかコノヤロー」
「だから何でそうなる!!」
ああまたこの二人は・・・・
とまぁ色々ごたつきはあったものの、MSFの
隊員が構えるカメラの前に勢揃いし
「では行きますよ!」
「行くぜてめぇら!イチゴ+スポンジは〜?」
『イチゴケーキ!』
とワケの分からない呼びかけながらも
記念写真を撮り終え、サニーは無事に元へ戻った。
色々怖い目にもあったようだが
サニーはまた、大人の階段を一歩進んだ・・・
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後書き(退助様サイド)
退助「さあ2編に分かれた大人サニーの話も終結です。」
神楽「くっそマジでサニーばっかズルイアル!
私にもキャンディよこせヨォォォ!!」
ネコえもん「ああアカン、アカンて。
これ食べたら食べるだけ年齢が変化するさかい。」
退助「そうそう、元ネタでもそうと知らずに
小学生が一気に婆ちゃんになっちゃったからね・・・」
銀時「おまっ、ホントに20代前半?」
退助「再放送見てたんだから仕方ないでしょうが!!」
カズ「そういやお前、前回このネコえもんの
扱いの悪さを有耶無耶にしてたな。何でなんだ?」
退助「・・・そりゃそうだろうがよ・・・
あのふてぶてしい風体で元ネタドラえもんって・・・
原作者と同じ地元県民として放っておくわけにゃ」
ネコえもん「ほっとけ!全部アニメスタッフの
悪ふざけや!!ワシ悪かないやろうが!!」
退助「・・・管理人さーん、暗殺の仕事を一人
頼みたいんですけどいいでs」
新八「殺そうとすなぁぁぁ!!!」