江戸のある家で "伝説の英雄"と謳われるほど強い
異国からの金髪美丈夫が言いました。
「、俺とデートしてくれ。」
その家の住人の一人でもある彼女は、生来からの
無表情を一ミリたりとも変えずに
「買い物がある故断る」
「開始三秒で即答!?ってそこは譲れないんだ
頼む、一緒にデートしてくれ!!」
必死になり土下座までして頼み込む彼を傍目で眺め
答えたのは、やや青ざめた複雑な顔付きの
もう一人の住人―彼女のお兄さんでした。
「あの・・・さん頭上げてください。
てゆうか何がどう間違ってそんな頼みを?」
「いやまあ・・・不可抗力とはいえ
キチンと償いをしなくちゃならないと思ってな」
このような事態となったのも、一時期江戸を恐怖に
陥れた"ジャック・ザ・リッパー事件"から しばらく経った後のこと
成り行きで入院した彼女への
見舞いの折の話から発展したそうです。
「え?ちゃんにもお詫びしたい?」
「ああ、ホラ・・・お前にはハグで済ませたけどさ・・・
アイツにも何かしてやらないと・・・」
ばつが悪そうに俯くへ、彼女は優しく笑いかけます
「あの子は、きっと気にしてないと思うけど
どうしてもって言うなら・・・何か欲しいものを
プレゼントしてあげたら?」
しかし彼はソレで納得していないようでした。
一歩間違えれば本当に殺めていただろう出来事の償いが
物を渡す程度で収まると思っていないし
肝心の被害者自身、基本"物"にも
"過ぎた相手の過ち"にも執着しない性質なのです
どうすれば償えるか 皆目分からず頭を抱えるへ
「そうだ!デートに誘ってあげたら?」
・・・彼女は笑んでこんな提案を寄越しました
「デ、デート!?いいのかよ!!?」
「ええ、一回だけなら許してあげる。
あの子に思い切り楽しい一日を味あわせてあげれば
それで償いになるんじゃない?」
"以外の女子とデート"という状況に
やや罪悪感が募ってはいたものの
他でもない彼女からのお許しに後押しされて
彼はそれを決意し・・・・・・
「なるほど、そういう経緯でしたか・・・
けどアレは他国の方のせいだったのでしょう?」
お兄さんもまた 妹から事情は聞いているようです。
「ああ・・・でもアレはやはり俺がやった事でもある」
「・・・私などの為にそこまで義理立てせずとも」
「そうでもしないと気が治まらないんだ。頼む!」
再び真摯に頭を下げる相手を見かね 彼は微苦笑を
浮かべると隣のをチラリと見ました。
「・・・分かりました この子にとってもいい勉強に
なると思いますのでこちらからもお願いします。
君も、異論は無いでしょ?」
「むぅ そこまで言われれば致し方ない・・・・
不肖ながらお相手仕り申したい。」
言って彼女は、礼儀正しく頭を下げました。
初デートは無難に海か遊園地を、気分でチョイスれ
こうしてデートをすることにした二人は
翌日・・・大江戸遊園地の前で落ち合いました
「遅れてすまなんだ、殿。」
「いや・・・俺も来たばっかりだ。」
無意識ながら待ち合わせで在り来りな言葉を交わす
二人ですが、姿は流石にそれなりの装いをしておりました
特には普段の作務衣ではなく
兄の物らしき長袖の浴衣を借り 三つ編みの結びに
リボンをあしらって少し女の子らしくなってます。
今の彼女なら知ってる相手でも
十人中八人くらいは"可愛い"と言ってくれるでしょう
・・・目の下に出来ている濃いクマを除けば
「すっごいクマだな・・・大丈夫か?それ」
「心配無用、夜通しの仕事がおしただけ故」
「仮にもデートが控えた前日に徹夜って・・・
つーかそう言うコトを相手の前で言うなよな」
「嘘はついておらぬ」
率直過ぎる性格に将来色々心配になりながら
は、彼女と共に遊園地の敷地内へ入りました。
「ほら、手繋ごうぜ。」
「何故ゆえ?」
「ほ、ほらデートじゃ必ず手繋ぐからさ。
それに迷子になったりしなくていいだろう?」
「そう言うものか・・・わかり申した。」
差し出した手を取り、歩きながら彼は思いました。
(ホントにこいつ・・・やばい仕事してるとは
思えない位、柔らかい手だな・・・)
と、緑色の瞳がじっと見上げていることに気付き
「どっ・・・どうした?」
慌てて訊ねれば 相手は能面ながらも
穏やかな声でこう言います。
「お主の手は・・・・温かくてやさしいな」
「へ?」
「兄上ほどではないにしろ、思ったよりも
柔らかくて・・・・安心できる手だ」
「そっそうか!?それほどでもないけどさ・・・」
率直過ぎるその一言で不覚にも顔が赤くなるのを
感じながら、はリードを取り戻そうと考えます
「そ、そうだ!まず何か飲もうか、うん
ええとドリンクコーナーは・・・あっちか。」
簡素な作りの売店窓口で二人に応対したのは
「いらっしゃいませ・・・ん?」
「え・・・な、何で・・・!?」
売り子の制服を着た 桂とエリザベスでした。
「おお、桂殿とエリザベス・・・このような場所で
会うとは奇遇だな。」
「や・・・やはりか、何 世の中を変えるにも
先立つものは必要だからバイトをしておるが・・・」
『二人共・・・もしかしてデート?』
若干の動揺を見せる二人と同じくらいの動揺振りを
発揮しながらも、彼は平静を装います
「あ、ああ・・・色々ワケあってな」
即座に手馴れた手付きで注文のコーラとウーロン茶が
彼らへと渡されました
・・・が、二人がその場を離れる間際
「あ、足元に気をつけろよ。そこに段差が」
思い出した桂が忠告をしますが時既に遅く
慣れぬ雪駄のせいか、足を取られて段差に引っかり
もんどりうつの前頭部に
これまたジャストの位置にあったデッパリが直撃しました
「うわああぁぁぁぁ大丈夫か――――――!?
てゆうかもう少し早く教えろよ桂さん!!」
少々額は切れていましたが、の迅速な治療により
彼女はすぐに復活を遂げました。
「のっけから災難だったな・・・もう平気か?」
「心配ご無用、少しばかり父上と世間話ついでに
この姿を見せようとしただけ故「余計心配だわぁぁぁ!
完璧三途渡りかけてるってそれぇぇぇぇぇ!!」
眉一つ動かない彼女の受難は コレだけに留まりません
お化け屋敷でも寝不足から足を滑らせて
ハリボテの井戸に頭から突っ込みかけたり
コーヒーカップでは遠心力で飛んできた携帯が
後ろ頭へ直撃し、衝撃で傷口開いたり
「お、おじょーちゃん…おぢさんとこれから
イイトコにいかない?」
「断る 連れがいる故」
「そんなこと言わないでいこーよぉぉ〜
安心して、イタイのはさいしょだけだかr」
「とっとと失せろペド野郎」
トイレに中座した僅かな隙を突いて、彼女を
連れ去ろうとした変態を追っ払ったりと
立て続けで様々なトラブルに見舞われましたが
それでも彼はめげる事無くエスコートに努め
遊園地の定番かつ目玉とも言える乗り物
"ジェットコースター"の列へと二人で並びました。
「このような乗り物は初めてだな。」
「素早さと派手さがここのコースターの売りだしな」
「・・・頂上からなら兄上にも「見えません。」
ズレた返答に思わずツッコミを返していると
「アレ?とじゃねーか」
「珍しい組み合わせアルな、何してるアルか?」
ナナメ後ろ辺りから非常に聞き覚えのある声を
二つ捉えたので、振り返ってみれば
三体分の遊園地マスコットが佇んで二人を見てました。
「げ・・・一番見られたら嫌な奴らに見られた・・・」
思い切り顔を歪めるの、隣の彼女は全くもって
動揺一つ浮かべておりません。
「その声、銀時に神楽・・・お主らもバイトか?」
「いやあの僕もいます バイトについては
正にその通りなんですけどね。」
「しっかし何その格好・・・もしかしなくても
二人っきりでデートってヤツですか?」
「入院中に他の女と二股なんて不潔アルぅ〜
にロリ疑惑としてチクっちゃるネ!」
「誤解してるようだが違うぞ!これは
他でもないの案でもあってだな・・・」
「え、どういう事です?」
ジリジリと詰められる列の合間を縫いながら
彼は三人へ、ここまでの経緯を説明しました・・・
「そういうワケか・・・つかまだ気にしてたの?
生真面目もほどほどにしねーとハゲるぞ」
「放っといてくれ性分なんだよ!」
「理由は分かりましたが・・・でも二人とも
今からコレに乗るんですか?」
「うぬ。この場所のオススメらしいからな」
万事屋トリオの脳内で瞬時に計算が積み立てられます。
片や高さも早さも半端ない改良が施され、下に
設置された池スレスレの捻りも凶悪なジェットコースター
片や・・・死神からのお声も高い歩く死亡フラグ
答えは直ぐに出たようです。
「ヤバすぎアル、これ絶対三途直行ルートね。」
「悪いこと言いませんから止しません?乗るの」
「いや・・・逆に絶叫系の方が客の安全を考慮してるから
かえって安全だと思うんだ・・・でも万が一があるから
絶対お前シートベルト締めろよ?絶対だぞ?」
「いやいやコイツの死亡フラグ舐めちゃダメだろ
つけたシートベルト取れて弾き飛ばされんじゃね?」
「頼むから不吉なこと言うなよ銀さんんん!
現実になったら笑えねーからぁ!!」
余計に不安を煽られながらも、二人は当初の予定通り
ジェットコースターへと乗り込みました。
「ちゃんとシートベルトしてるよな?」
「勿論だ殿、流石の私もこれ以上
迷惑かけるにはいかない故。」
「自覚してんのなら普段から気をつけてくれ・・・」
軽い溜息を吐く彼の、すぐ側にスタンバイしていた
スタッフが腕を振り上げ合図をします。
「それではコースタースタートしまぁぁす!」
軽快な声に合わせて乗り物がゆっくりと動き出し
徐々に上へ運ばれ・・・頂点へ到達した途端
一気に降下しながら加速をつけてレールを奔ります
『ぎゃあああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!』
乗客達の派手な悲鳴と吹き抜ける際の風音との摩擦音
更にはバシャリと上がる水柱の残響が耳を打ちます
「うわ流石に改良が施されただけあってすご・・・・
って水しぶき冷たっ!大丈夫か・・・・アレ!?」
ふとが隣を向けば、彼女が座っていたはずの座席が
当人ごと、見事なまでに消えうせていました。
どうやら先程の水柱は演出じゃ無かったようです
「―――――――――――――――!!?」
地上で一部始終を見ていた万事屋トリオも
血の気が一気に引いたようで慌てています。
「今、頭から落下したんですけど!?
ヤバくありませんかアレぇぇぇぇぇ!!」
「ていうか何で座席ごと外れんだよぉぉぉ!
死神から熱烈アプローチされ過ぎじゃね!?」
「の死亡フラグ、マジ半端ないネ!!」
目の前で起きた一大事に駆けつけようとした三人より早く
危険を顧みず、が安全ベルトを無理矢理外し
走行中のコースターから池へと飛び込みました。
そして座席に固定されたまま沈む彼女を見つけると
彼はベルトをナイフで切り、抱えたまま
水面へと顔を出しました。
「ったく、お前ぇも大概無茶すんなぁ」
ちょうど到着した銀時が先に彼女を近くの床に
横たわらせますが その身体はピクリともしません
「おいっ、大丈夫か!?!!」
「お客様っ・・・大丈夫ですか!?」
着ぐるみ三体の合間を縫って歩み寄ってくる
何人かのスタッフに対し、真っ先に
「何で座席が外れるんだ」と怒りたかったのですが
それよりも返事をしない彼女を何とかする方へ
優先事項を置いたは人を止め
軌道を確保し、心臓マッサージを開始します。
しかし・・・数分経っても顔色は死人のままで
脈拍も止まりそうな程弱まっていきます
「死ぬな、こんな所で死ぬなよ・・・
これじゃあ償いの意味が無いじゃないか!!」
人工呼吸を施すべく 唇が宛がわれ・・・
万事屋トリオが息を呑んだ瞬間
同時にが口から水を勢いよく吐き出しました
「ぶふぉっ!?」
反射的に、少しばかり口に入った水を吐き出しながらも
「けほっ・・・・殿・・・?」
軽く咳き込んではいたものの蘇生した彼女を見て
はようやく落ち着きを取り戻しました。
「全く心配かけやがって・・・」
「む・・・すまぬ、迷惑をかけた」
安堵の雰囲気が周囲へと浸透し・・・・
「「見いぃちゃったぁぁぁぁぁ〜・・・」」
どことなくイヤらしい声で、着ぐるみ銀時と神楽が
彼の両サイドへとついて言います。
「な、何だよ?」
「いやー英雄色を好むってのは名言だねぇ
とうとうこのバカ娘の初めて奪っちゃったか〜」
「しかも役得で胸まで触って・・・これは
責任取んないと訴えられるアルよぉ〜?」
「んなコト言ってられる場合じゃなかったろ!?
てゆうか心マも人工呼吸もエロに入りません〜」
「入りますぅ〜!お前んトコの下痢男だって
それでゴリラ女落としたろーが」
「アレだって人命救助第一ですぅ〜!!」
「アンタら低レベルかつメタ過ぎるわ!!」
何はともあれ騒ぎも収まって、二人はデートを再開し
それからは特に主だったハプニングも無く
最後にと取っておいた観覧車へ乗り込みました。
向かい合ったまま・・・彼女はしみじみと呟きます
「今日は迷惑をかけて、誠に申し訳なかった。」
「い、いやいいんだって・・・ちゃんと償いも出来たし
・・・楽しかったか?」
「うぬ、とても・・・・ありがとう殿」
言葉は相変わらず簡潔かつ淡白ですが、表情は
嬉しげに和らいだ"笑顔"で
照れくさそうにが外の景色へ視線を逸らせば
落日の輝きが黄昏色に江戸の街並みを照らしていました
「キレイだな・・・こんな夕焼け久しぶりかもな・・・」
「む・・・そうだ・・・な・・・」
「うん?」
不自然に途切れた会話が気になり、視点を戻せば
は座席に身体を預け 眠っていました。
「・・・寝ちゃったのか・・・まあ色々あったからな」
は微かに笑みを浮かべて呟き、手を伸ばして
小さな黒髪をやさしく撫でました。
背におぶった際の身体の軽さと細い腕に驚きながらも
彼は遊園地を後にして・・・・・・数日後
「だから誤解なんだって!本当にあの時は
アイツが溺れてたから それで仕方なく・・・!」
「ふ〜ん、どうだか・・・あわよくば救命に
かこつけてディープキスまでしかけたそうじゃない」
「いやいやいや人工呼吸でそこまでしないだろ!?
つーか触れたかすら定かで無いんだよマジで!!」
九割方(悪意ある)改変をされた目撃談を耳にし
すっかりお冠になった彼女へと謝り倒してました。
・・・の名誉の為に二つだけ言いますが
あくまで当人の行動は"人命救助"だけであり
おまけに唇が触れる、本当に寸前で水を吐いたので
主張の通り"触れていない"可能性も残されています
ともあれ殆どが事実なので完全否定も出来ず
情報発信源の銀時と神楽を恨みながらも
の機嫌回復に苦心している所へ
見舞い客として、兄妹が病室へやって来ました。
「お見舞いに参りました、お加減良さそうですね」
「あ、ああ・・・すまないな二人共。」
「気にせずともいい、お互い助け合わねばならぬ。」
「そ、そうか?」
戸惑うと相変わらず素っ気無い様子の病人を
交互に見やって状況を把握した彼は
「この子から話は聞きました。お二人のお心遣い
本当に感謝しております・・・」
慇懃に礼をして、二人の耳元へ顔を持って行き―
(大丈夫ですよお二人とも・・・真偽の程はともあれ
はそういうの、気にしませんから)
小声で囁きニコリと笑って見せました。
その一言と表情とが両者のギスギス感と毒気を
すっかり抜いてしまい
「殿が殿に惚れた理由・・・分かる気がする。」
「え?」
「先日の"デート"で理解した・・・強さもそうだが
この者のやさしき心に惹かれたのだろう?」
微笑みを向けられたは・・・・・・
すっかり生来の晴れやかな笑みを取り戻していました
「でしょ?私の自慢の彼氏よ。」
「そうですね・・・大切に思われて羨ましいです」
「うぬ、兄上待っていてくだされ
いずれ必ずあのような楽しき一日を捧げます!」
握りこぶしを作って自信たっぷりのこの発言に
折角の穏やかな空気がぶち壊され
「「・・・いや、お兄さんじゃなくて
違う男の人見つけて行いなさいね。」」
二人は固まったお兄さんに代わって
彼女へ同時に釘を刺したそうです。
――――――――――――――――――――――――
後書き(管理人出張)
狐狗狸:共演後日談、またも結構長いのもらったっす
遊園地も危険がいっぱいだ・・・とにかくあざーっs
桂:災難に遭い易きは知っていたが、流石にここまでは無いだろう?
狐狗狸:まーウチの子の死亡フラグも一種の芸風ですし
「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいな
銀時:竜ちゃんんん!?それはもう新八だけで
間に合ってんだよ正直!!
新八:苗字ネタもいらないですよ!てゆうか原文から
いらんとこ変えまくってません?
観覧車の下りも、アレ本当は同じ座席に並んで
座ってたのに・・・何で変えちゃったんです?
狐狗狸:・・・バランスが悪いから(ボソ)
桂:ちょっと待て、どういう意味だ?
狐狗狸:別にくっ付いて座るのを否定してないですよ!
でもあの観覧車の席で、片側に重心かけて座るなんて
考えただけでも死亡フラグ級に恐ろしいじゃないすか!!
銀時:100%オメーの主観かよ!
神楽:重度の高所恐怖症はコレだから・・・
狐狗狸:高所恐怖症バカにすんなグォルルアァァ!
形あるもの皆壊れるんだから、陸橋とかも気を抜けば
崩れたりバランス崩して下に落下して脳味噌
新八:グロ発言自重ぅぅぅ!!