車でようやく辿り着いたのは、廃墟としか
言いようの無い和風の建物だった。





「ここがお登勢さんの言ってた温泉旅館「仙望郷」ね。」


「すっごいボロボロ・・・・」


「ねぇ、話には聞いているけど・・・
ホントにここ旅館として経営出来てるの?





不安げなさんに、無表情のまま
自信に満ちた答えを返す。





勿論です兄上!さぁ参りましょう
中でお岩殿やレイ殿が待っておりますぞ。」


「はあ・・・アレが出なけりゃいいけどな・・・・」





ため息をつきつつ俺達五人は階段を登る。







銀さん達が前に行ったという温泉旅館の話を聞いて


興味を持ったサニーが行こうと言い出し

お登勢さんのツテでこの兄妹と俺と
それにサニーの分、部屋を予約してもらった。





が、しかし・・・なんて薄気味の悪い場所だ

アレが潜んでいてもおかしく無さそうな所が
何とも嫌だ、口には出せないが。





「・・・あれ?そういえば銀さん達はどうしたの?」


「何でもマグロ漁船に行ったんだとさ。」


「あの人達がマグロ漁ねぇ・・・想像できませんね」


「まあ大方、借金払えなくて乗せられたんだろうさ。」





吉原で言ったあの余計な一言のせいで
ああなったんだ。いい気味だ。





はしゃいで先へ進む二人が先に入り口へ辿り着けば


そこに迎えの姿が・・・・姿、が・・・・





「いらっしゃい、よく来たね。」


『あら 久しぶり。』


「レイ殿も元気そうでなによりだ。」


「「「「えええ!?ゆ、幽霊!?」」」」





俺達四人の叫びが山中に木霊した。











裸の付き合いは心も裸に…なるかな?











「本当に透けてる・・・・・」


「銀さん達が話していたのは本当だったのか・・・」





唖然とする俺達へ 入り口の二人が笑いかける。





「話通り、いい男が二人もいるじゃないか
良かったねレイ。」


『温泉入る時はいつでも言っておくれ
背中流してやるから。』


「え、ありがとうございます
僕は構いませんけど・・・さんはどうします?





嫌味混じりに訊ねるこの人へ
平素の調子を取り戻して答える。





「俺だって別に構わないさ。」


「おや、怖くないんですか?
百物語の時は随分怯えてらっしゃったようですけど・・・」


「あれは・・・あるモノが出ないかと不安に
なってもいたからな。それ以外には何も問題ない。」


「そうだったんですか、ちょっと誤解してましたね」


「銀時から聞いたのだが殿はドr「ささ
早く荷物置いて温泉入るぞ!」



言葉を半ば無理やり遮りつつ皆を率いて
俺は旅館の中へと入る。





ワザとでは無いだろうが余計な事を言いそうに
なりやがって、あのKY娘・・・







戸惑いながらもお岩さんの案内であちこちを見て回る





荒れてはいるが 旅館として利用する事は
出来るみたいだな・・・・・







「泊まる部屋、和室と洋室の二つだけどどうする?」





何故、旅館に和室と洋室の二択が?





ちゃんはどこに泊まったの?」


「あの時は妙殿と神楽とで洋室だったので・・・
和室にしたいと思うのだが。」


「私も和室がいいな!」





女子三人組は和室と言う事で一致したらしい。





「じゃあ俺達は、洋室だな。」


「ええ・・・三人とも また後ほど。」







達と別れて案内された襖を開けた俺達は





「「え?」」





同時に首を傾げる。







フローリングでベッドの並んだ光景を
想像してたのに 目の前の床は畳敷き





「ええと・・・ここ洋室って言われてたよな?」


「そう聞きました、でもこの部屋には
それらしい物・・・何もありませんよね?」


「・・・まあこの際何でもいいか
荷物を置いて さっさと温泉に行こうぜ。」





言いつつ景色でも見ようかと何気なく
外に繋がる襖を開けた瞬間


首を吊っている半透明の外国人と目が合った。





わあああぁぁぁぁ!?なななな何だこれ!?」


首を吊った外国人でしょうね・・・失礼ですが
さんの知り合いか何かでは?」


こんな知り合いいてたまるか!本当に失礼だな!
まさか・・・洋室ってひょっとしてコレか!?」


「だとしたら向こうは・・・・」







まるで計ったかのようなタイミングで





「「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」」





とサニーの悲鳴が聞こえ、間を置かず
二人が部屋へ駆け込んで俺へと抱きつく。





!ここここの旅館どうなってるのよ!」


「くっ首つった子供がいたの!怖いぃぃぃ!!」


「首吊った子供!?」






縋る二人を落ち着かせてる所に、外側の通路から
襖を開けてお岩さんが現れた。





「どうしたんだいそんなに騒いで・・・
あらお邪魔だったかしら?」


違う違う!!首吊った子供がいたからって
飛びついてきたんだよ!」


「あああの子かい?まだ成仏してないのかい
困ったねぇ・・・よほど根に持ってるのかしら?」





え・・・・根に持つ?何を!?





「あの、よければ詳しくお話聞かせてもらえますか?」


さん ナイス質問!







頬に手を当ててため息つきつつお岩さんは
淡々と言葉を紡ぐ。





「あの子ね、はしゃいで襖に穴開けたんだよ。
あまりに聞かないものだから小1時間説教して・・・」


それで首吊ったのか!?
どんな説教したんだよアンタ!!」


「本当、あんなに叱るんじゃなかった」


リアルに怖いわ!だからどんな説教」


「聞かない方がいいと思いますよ」





未だに俺にくっついたまま怯える二人を見て
ぐっと追求の言葉を飲み込んだ。





「悪いけど私、やっぱりこっちがいい〜」


「怖くてあそこで寝れないよ〜!」


「いや構わんけど・・・こっちはこっちで
これいるぞ?」


二人でさっきの外国人の霊を指差せば





「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」」





思い切り悲鳴を上げて、女二人組は
俺を突き飛ばして和室へとUターンしていく。







「な、何で俺がこんな目に・・・・」





そんな様子を眺め お岩さんは苦笑交じりに言った。





「ったく怖がりだねぇアンタら・・・わかった
アタシが何とかしてあげるから安心しなよ。」


「ご迷惑おかけします。
あの・・・あの子は何も言ってませんでした?」


「それは兄貴のアンタが一番わかってるじゃないさ」





しかし彼はキッパリと首を横に振る。





いえ、僕は時々あの子が何考えてんだか
本気で分からなくなる時があるんですよ。」


「「オイィィィ!!」」







ひと悶着はあったものの、俺達は
楽しみにしていた温泉へとやってきた。







「へ〜、思ったより結構広い温泉みたいですね。」


「日本の温泉は初めてだが いいもんだな〜
モセス温泉とは比べ物にならんな。」


「曲りなりにも温泉はこちらの文化ですから」





始めはどうかと思っていたこの外観も

慣れてくれば、味に見えてくるから不思議だ





「殆ど人がいないみたいで、まるで貸切みたいですね」


「あ、ああ・・・そうだな」





俺は曖昧に返事を返しつつ視線を逸らした


・・・・・・この人ホントに男か?





いや、裸の状態であるべき物は確認したが


肌の白さといい動作や風体が女らしすぎるし

オマケに素の状態で顔がいいもんだから
目のやり場に困る・・・





誤解なきよう言っとくが、俺はヴォルギンみたいに
どっちもいける変態じゃないからな!!







「って・・・どうしたんだその痣・・・?」





湯に浸かったさんの首元に
うっすらと、痣のようなものが見えた。


色からして 随分と古いもののようだ





「昔色々ありましてね・・・普段はファンデで隠してるんです。
さんこそ、傷だらけですよ?」


ああこれ?ヴォルギンに拷問された時のだよ。」


「物騒ですね 銃弾で出来たものも多いですし
・・・あ、この切り傷みたいなのは」


「ヌルって少年兵に切られた奴だ、マチェットというナイフでな
こっちの脚のは ワニに噛まれた。」





言いながら俺は、湯の中から
傷ついた脚を出してみせる。





歯型がこんなに・・・よく無事でしたね。」


「助けてもらったのさ・・・母親に、ね」


「お強い方なんですね。その人は今
どうされてるんですか?」







少しだけ、その問いに胸が締め付けられた





「・・・・・死んだよ、いや
殺したと言った方が正確だろうな。」


「殺した・・・自分の母親をですか!?」





驚くのも、無理はないだろうな





「あの人は俺に全てを受け継がせ・・・最後は愛した国に、殺された。

"俺が抹殺する"という国のシナリオに踊らされて」





簡単に 俺はこの人へ説明した。


育ての親"ビッグ・ママ"は国の前大戦の英雄であり
オレの憧れた存在だった事


ヴォルギンの攻撃によって潔白を求められた政府が

スパイとして潜りこんでた彼女を 元凶として差し出した事を・・・・・・








「そんな・・・国を愛していた人が 国に殺されるなんて・・・」


「日本と違ってアメリカはシビアなんだ。
シナリオ通りにするにはどんな手でも使う・・・そんなものさ。」


「どうしてそんな国に従っているんですか!
そのままじゃ、いつかあなたも同じように・・・!」



「いや、魂まで国に売ったつもりはない。

俺は自分の思うままに戦う
国にではなく、己に忠を尽くす。それだけだ。






沈黙した空気が辺りに満ちて・・・・







彼は、首の痣を片手で擦って呟く。





「この首の痣・・・ご存知とは思いますが
昔、地方で起きた田足邸の事件でついたんですよ」


「事件については、から少しだけ聞いてる
・・・そんなに大変だったのか?」





瞬間 普段の微笑みが消え失せた


見慣れた緑眼には今までに見覚えの無い
深い闇が、満ちている





「決して、誰にも話さないでくださいね」





強く念押しした後 淡々と綴られたのは


戦争で親を亡くし、引き取られた二人が
田足達に受けた仕打ちと

あの夜起きた"田足事件"の真相・・・





絞殺されかけた彼と 救おうとしたアイツが
犯してしまった"赦されない罪"の全て








「・・・・・そうか・・・・」


「僕にはさんを非難する資格なんて無いんです

人を殺め あの子の手を汚させてしまった・・・
同じ穴の狢だ。」


「殺されそうになったんだ、無理もないよ。」





この一言を皮切りに お互いの会話が止まり
しんみりした空気が漂い始める。







・・・マズイな、せっかく温泉に来たのに
こんなんじゃダメだ


もっとこう 積極的に楽しまないと





よし、レイに背中流してもらおうか。」


「・・・そうですね、あちらも乗り気みたいでしたし
頼んでみましょうか。」





二人で呼んで 程なくレイが脱衣所からやって来た


・・・ついでに、皮一枚で首が繋がってる
落ち武者っぽいのと上半身骸骨男もセットで





「「うわあ」」





思わず声がシンクロしてしまったが
あっちは全く気にしていないみたいだ。







『兄ちゃん方色っぽいの〜』


「あ・・・ありがとうございます」


若いっていいなぁ、レイちゃん
終わったらこっちの背中も頼むな』


『ハイハイ しかしアンタ逞しいねぇ
背中の流し甲斐があるよ』


「ハハ・・・それはどうも・・・・・・」





・・・頼むから幽霊ミックスサンド状態
カンベンしてくれないだろうか。









ねぇ見て!サルがいるよ!!」


「サニーはサルを見るのは初めてか?」


「うん、実物をこんなに近くで見れるなんて
日本の温泉ってステキね!!」





楽しそうにはしゃぐ二人を微笑ましく眺めつつ
ある事が、胸に引っかかってた。





ちゃん・・・結構傷だらけね・・・」


「うぬ・・・心配には及ばぬ故
お主こそ、痣だらけで大丈夫だろうか?


「ええ平気・・・昔のものだから・・・」





この子の身体にも私と同じ・・・いえひょっとしたら
もっとヒドイ傷痕が、いくつも刻まれている








彼女になら 話してもいいかもしれない

FOXの皆としか知らないこの話を・・・





「唐突な話だけど聞いてくれる?実は私
・・・アメリカの航空会社の娘だったの。」


「おお所謂『箱入り娘』という奴か」


違うわよ ていうか
どこで覚えてきたのそんな言葉。」





まあ大方、神楽ちゃんからだろうけど・・・・・





「母は、会社を経営する傍ら
女手一つで私を育ててくれたわ」


立派な母上だ・・・ぜひ一度会ってみたいものだ」


「・・・紛争地帯に鉱石を取りに行った時に
殺されたの。」


「す、すまぬ 露知らず失礼なことを・・・」


「ううん、いいの。」





構わず微笑んで 話を続けた





母の死後、会社を乗っ取った叔父に無理やり引き取られ

過ごしていた虐待地獄の毎日


最近引き起こした凶行の果てに
会社が倒産した事も、簡潔だけど付け加えた。







「なんと外道な・・・・!」


ひどい!ローズのお母さんの会社を潰すなんて!」





聞いてくれてる二人の同調が嬉しくて





「でもね、これで良かったと思ってるの。
母は・・・平和な世の中にするために働いていた。


でも叔父は・・・戦争でお金を儲けようと
母が血が滲む努力で完成させた技術を 悪用しようとして・・・・」





けれども・・・語る内に溢れた悲しみが
涙となって頬を伝う。






「一時期は殺してやろうとまで思った
でも・・・それじゃ叔父と同じ穴の狢になってしまう。


駄目ね私・・・・もう吹っ切らなきゃいけないのに
心の奥底ではまだ・・・・!







思わず顔を覆いかけた両手が、片方ずつ取られる





「ローズは何にも悪くなんてないわ!
悪いのはその叔父さんよ!!」



「そうとも、そんな男の為に流す涙など
殿には必要ない・・・!!」






包み込むそれぞれの手の温かさと真剣な眼差しに
少し 救われたような気がした。





「ありがとう・・・・でももういいの。
過ぎたことを今更・・・・・・」







ああ・・・なんでこんな事を言ってしまったんだろう

哀しい雰囲気にさせるつもりなんて無かったのに
これじゃ、せっかくの温泉が台無しだわ。





やや自己嫌悪に陥りつつ温泉を出て


三人で髪を乾かしてた時 ふと閃いた。





「そうだちゃん、髪結ってあげようか?」


「心配無用 自分で出来る故」


「・・・そうじゃないの、座って?





鏡の前に無理やり座らせ やや湿った
柔らかな黒髪を手に取った。





女の子はね、もっとキレイにしないといけないの。
アナタはあまり興味ないかもしれないけど 大切な事よ」


「そうか・・・・・」





しばらく黙ったまま、この子は鏡を通して
私が髪を結う様子を見つめていた。







「・・・ほら、前よりかわいくなった。」


本当だ ねぇ私も結ってローズ」


「ええサニー」





席を離れた彼女は ちょっぴり頬を赤らめていた。





ありがとう・・・・その・・・お主の方こそ
・・・・女性らしくきれいな体をしてると思う」


え!?い、いやそんなことないわよ・・・・
私エヴァさんやテリコみたいに胸大きくないし


・・・・くびれもそんなにないし
「ザ・FOX色気大会」で最下位だったし・・・」


とかいいつつ満更でも無かった気分は





「しかし兄上にはほど遠いが「ちょっとちゃん、
こういう時はあのお兄さんを引き合いに出さないで」



空気を読まないこの一言であっさりぶち壊された





初めて、そんなこと言われたから嬉しかったのに・・・





「す、すまぬ。」


「フフフ・・・でもありがとう、嬉しかったわ。
さ、早くご飯食べいこう。」


「はーい!」


「うぬ。」





元気なサニーちゃんの返事に釣られたのか


彼女は珍しく、笑顔らしい表情を浮かべてた。







出入り口で女子組と合流して廊下を歩いてると
ドンドンと何かを叩く音が聞こえてきた。







「え!?何もしかしてラップ現象!?」


「・・・あの部屋からだな?」





と二人で、音のする部屋の襖をそっと開ければ





「ブッコロス!バーバー!」


「「誰ええぇぇぇぇぇぇ!!?」」





隙間から見えたのはヘンな頭した
ブリーフ一丁のオッサン。





おい誰だよあれ!?何だよバーバーって!!」


「む・・・なんだザビエル殿ではないか
まだ成仏出来ておらなんだか。」


ザビエル!?それキリスト教を伝来してきた
イタリアの伝道師のことよね!?」


「らしい レイ殿によれば何でもあの髪型が
流行らなんだからこの世に未練が残っているとか。」





なんつーしょうもない理由でこの世に残ってんだ
潔く成仏しろよザビエル!!







・・・・・・所々珍道中があったものの
日本の温泉を満喫する事が出来たし





二人とも より打ち解けられた気がする。







意外にも兄妹ペアVS俺達のコンビの
ピンポン対決で惨敗した事は、悔しかったが









「またいらしてね。」


「お世話になりました。」


『またね。』


「レイ殿もお体に気をつけて。」


「いやいや、霊に"身体に気をつけろ"って
言っても仕方ないだろ。」





ツッコミを入れればレイはクスクスと楽しげに笑う





幽霊ギャグが上手じゃないか、漫才のコンビに
案外合いそうだねぇアンタら。』


「何だよ幽霊ギャグって・・・・・・カンベンしてくれよ」





笑って俺達は、仙望郷を後にした。







・・・・しかし霊が出やすい土地と聞いてたから
もしかしたら、と期待していたが


あの二人には 結局逢えずじまいだったな・・・・・








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後書き(管理人出張)


狐狗狸:スタンド温泉!共演!そしてWペアー's!
三拍子揃った予想外の短編を頂きました〜


銀時:って主人公の俺が何で出てねぇんだぁぁぁぁ!


神楽:アイツらだけ温泉行っててズルイね!
奴等の過去のせいで話がkb的にも無駄に重く


新八:色んな意味でその発言アウトぉぉぉぉぉ!!


狐狗狸:はーい、色々ツッコミ所はあれど指摘通り
容量がデカイので後書き閉店しまーす


三人:ちょっ、まだしゃべり足りな(強制終了)