普段定休日であるこの日を貸しきって





「それでは、ちゃんの退院、全快を祝して・・・」


『かんぱぁぁぁぁぁぁい!!』


店長の音頭を合図に、スナックすまいるで
キャバ嬢達の乾杯の声が唱和する。





店内ではを囲み 全員で彼女の退院&全快祝い
パーティーが行われていた。





「いや〜戻ってきてくれてホントに良かったよ。
ちゃん目当てで来るお客さんもいるから大変だったよ。」


「ご迷惑おかけしました店長。」


「いやいや、こうして元気に帰ってきてくれて嬉しい限りだよ。
明日からまたバリバリ頼むよ!


はい、ありがとうございます。」


「ささ、今日はアンタが主役なんだから飲んで飲んで。」


「そうやで、たくさん飲まんと勿体無いで。」





彼女らの笑顔に囲まれ、お良や花子らに
酒を勧められて祝われる主賓の傍ら







「いやぁ〜、のおかげで俺らはタダ酒飲めるってわけか。」


「ホント、お国の兵隊さんは羨ましいよ。」





既に出来上がったマダオコンビ・・・もとい
銀時と長谷川がとろんとした眼で彼を見ていた。





「あのな・・・おごってるわけじゃないんだぞ。
いつか絶対返してもらうからな。」


「わーってるって、後10年もしたら返してやんよ。」


「それ返す気0だろうが!!」


「まあまあそうカリカリすんなって君〜
愛しの彼女の全快パーティだぞ?派手に祝ってやらなきゃ。」


「派手に飲んでるアンタに言われたくないわ!!」


いいじゃんよぉこまっけぇことはよぉ!
愛しの彼女の全快パーチーなんだからよぉ。」





能天気極まりない言い草に、彼は若干プチっとくる





「・・・真面目に働け、この駄目大人代表どもが!」


んだとぉ!?目玉節穴じゃねぇの〜オメェよぉ
俺達ぁー常日頃から働いてんぞ!!」


そうだぜ心外だぞぅー!俺達ぁ真面目に
常日頃、自分の運を試す仕事してんじゃないかぁ!!」


「それは仕事と言わねぇんだよWニート!」


「「誰がニートだ誰が!!」」











最初っからハッピーじゃないからこそ
ラブストーリーだって面白い












その内に三人がケンカを始め、それを眺めながら
彼女らはため息をついた。





「あっちはあっちで賑やかね。」


「つくづく男ってバカよね〜ねぇ?」


「本当・・・昔のはああじゃなかったのにな。」





の呟きを耳にし、キャバ嬢達が一斉に集う。


「え、そうなの?さん昔は違ったの?」


「一体どないな人やったん?」


「それがもうひどかったのよ・・・随分な人嫌いで・・・」


「え、人嫌いだったのさん?」





信じられないと言いたげな彼女へ頷きながら





「そうなんですよお妙さん、告白した時
『俺なんかでいいのか?』なんて聞いてきたくせに。」


「で、どうだったの?聞かせなさいよ。」


「ええ、あれは付き合い始めてから
3ヶ月位だったかしら・・・・」





頬に手を当て 当事者は遠い日の記憶を遡る・・・









ジャック〜!遊びに来たわよ!」


「・・・・何だよ突然?」





当時のその日、手荷物を持って
の宿舎に遊びに来ていた。





素っ気無い返事も気に留めず





「晩御飯持ってきたの。」


言いながら彼女は夕飯の材料が入った袋を見せる。





「いや、もう食べちゃったし・・・」


「ええ〜せっかく持ってきたのに・・・いいわ
食べれる分だけでも作るから、キッチン使わせて。」





渋る相手の横をすり抜け、宿舎へ上がりこもうとするが


彼はその動きを阻むように立ちはだかっていた。





「お、おい勝手に入るな!」


「いいじゃない私まだジャックの部屋見たことないし。」


「そんな・・・見せるものなんてない!


「減るもんじゃないし、お料理くらいいいじゃない
・・・じゃ、入るわよ。」


「お、おい!」





無理やり部屋に押し入った


ぐるりと内部を見渡して・・・・・・呆然としてしまう





「え・・・何・・・これ・・・・・」







パイプで作られたスカスカのベッド 地味な色合いの机


少し扉の開いた隣室には銃が置かれているのが見えるが


それ以外には日用品や住む人間を思わせる小物など

余計なものは一切何一つとしてない


眠るためだけの・・・まるでそう、刑務所の独房のような部屋。





「・・・勝手に見るな!!」





立ちすくむ彼女の肩へ手を置き、こちらへ向かせようと
引っ張るだが


苛立ちが先立っていたせいか勢い余って
側の壁に叩きつけてしまった。


「うっ!」





へたり込み 拍子に落とした袋から材料の野菜が転がる。





「あ!す、すまない・・・大丈夫か?」





我に返ったを起こそうと手を伸ばすが


無言でその手を弾かれた。





「・・・・・そうだったの、それで部屋には
入れてくれなかったんだ・・・」


「い、いやそういうわけじゃ・・・」


「私・・・寂しかった・・・」


「それはあの時にも聞いた。」


「そうじゃなくて!」


「じゃあ何故・・・」





戸惑う青い瞳を見据えて、彼女は口を開く。





「あなたは私と眠ったことはなかった・・・」


「え・・・」


「私の部屋で愛し合ったあと・・・

あなたはいつも朝まで起きているか、帰っていくのかの
どちらかだった・・・何故なの?





は・・・ただ俯いたまま押し黙るのみ。





「何でなのジャック!」


「い、いや・・・・・」


何故なの!?私といると安らげないの!?」


「そういう意味じゃ・・・!」


「どうして心を開いてくれないの!?」


そうじゃない!ただ・・・」


「夢を共有したい、あなたと夜を過ごしたい・・・
そして朝を迎えたいの・・・ダメなの?」


語る内、涙声になってゆくに対しても

彼は何も言えずに顔をしかめる。





「・・・何で今まで部屋に入れてくれなかったの?」


「生活を、邪魔されたくなかったんだ・・・」


「邪魔だなんて・・・」


「いや、覗かれたくなかったんだ・・・


「・・・どうして、どうしてこんな殺風景なの?
何で 家族の写真が一つもないの・・・!?」


「君の写真を飾ってあれば良かったのか?」


「・・・・・・もういい。」





困惑したままの相手を置き去りに、
ゆっくりと立ち上がって玄関へと向かう。





「レシピもその中にあるから、適当に作って食べて。」


「お、おいローズ・・・」





玄関のドアを閉める直前 彼女の頬に一筋
涙が伝っているのが見えて



は・・・しばらくその場を動けなかった。







「おいこらそこのジゴロ男ぉぉぉぉぉぉ!!」


と、話の途中で阿音がものすごい勢いで
ケンカ中の彼の襟首を引っつかむと


無理やりキャバ嬢の輪の中へと引きずり出した。





おわぁぁぁ!?な、ななな何だ突然!?」


「あんたねぇ・・・の気持ちなんだと思ってんのよ!


せやせや!
あんた前々から女の子の気持ち踏みにじり過ぎやで!」


「どんだけ鈍感なら気が済むのよ!」


「少しはちゃんを大事にしてやりなさいよ!!」





唐突に罵声を浴びせられながらフルボッコにされる
英雄を遠巻きに眺めながら、マダオ二人はせせら笑う。





「おー散々だな〜の奴。」


「ホント、モテる男は罪だねぇ〜」


「よっし長谷川さん この隙に奴の名義
ドンペルィーノ追加しまくれ!」


「オッケー銀さん!!」





ボコられながらも不埒な会話は聞こえていたらしく
彼は思い切り二人に向けて叫ぶ。





「テメェらこれ終わったらタダじゃおかねぇからな!!」


「終わんのはテメェだ暴力バカ野郎ぉぉぉぉ!」





首根っこ掴んでを壁に叩きつけてから


妙は右腕にエネルギーをどんどん集中させてゆく。





「オイオイオイオイオイオイ!!
なんでキャバ嬢がそんな技使えんの!?」



「どーでもいいわそんな事・・・彼女が今まで受けてきた
ドメスティックバイオレンス、その身に受けるがいい・・・!


ちょっと待て!?ああ見えて結構受けてるから!
俺じゃないけどたくさん受けてきたからアイツ!!
それ食らったら確実に死ぬよ俺!!」



「だったら前の男の業も手前が背負いなさい」


一点の曇りもないドス黒い笑みに、彼は今だかつて
体感したことのなかった恐怖を覚えて打ち震える。





「おい!なんだか分からんが
誤解を早く解いてくれ!!頼む、お願いします!!」






必死で呼びかける恋人の声に苦笑して





「お妙さん、あの話にはまだ続きがあるので最後まで
聞いてください・・・聞いてそれでも彼が許せないなら
必殺技でも何でもお見舞いしちゃっていいですから」





彼女が言えば、妙は纏っていたドス黒オーラを収めて





「・・・わかったわ。それを聞いてから
リングディンディンドドン波の威力をどれだけ軽減するか考えるわ。」


軽減!?それもうやられること前提だよね!?
ていうかお前まで何で悪乗り!?」






ツッコむその一声を睨みで封殺してから


キャバ嬢組は 想い出話の続きへ耳を傾ける。





「あの時本当は・・・の部屋に押し入るつもりだったの。
心配だったから・・・でも、怖くなって・・・」


「分かるで、あないな理由で暴力振るうなんて
ホンマどうかしとるもんな!」


「いいえ、私が怯えたのは彼の暴力じゃないの。
彼の部屋・・・心の中・・・」







あの後宿舎の、自分の部屋へと戻った彼女は

ベッドに潜り込んだまま・・・ただ泣いていた


愛しい人の部屋はあまりにも寒々しすぎて


人間味が全く感じられないその室内を眼にして

彼のことが分からなくなって・・・





暗くなっても尚、枕を涙で濡らしていると


誰かがノックする音が外から響いてきた。





「ぐすっ・・・誰、こんな時間に?」


目元を拭ってドアを開ければ





「よ、よお・・・・」





そこには、気まずそうなが立っていた。





すぐさまドアを閉めようとしただが

彼が間一髪でドアを掴んで阻止した為、かなわなかった。





「お、おいおい せっかく来たのにそれはないだろ。」


「・・・・何しに来たの?」


「あ、その・・・・・・・さっきはごめん。
どうかしてたよ俺。」


「・・・・その手にあるの、何?」


「あ、そうだ・・・晩飯まだだろ?だから・・・」





が掲げたタッパーの中には・・・

彼女が作るはずだった、カレーが入っていた。





「これ・・・」


「レシピ見て作ったんだ・・・お前ほどうまくは
作れなかったけど・・・食べろよ。」





初めは断ろうとしただったが


相手の手が傷だらけなのに気がついて、一口だけ
味見をしてみることにした。





タッパーのフタが開けられて カレーのルーが
ゆっくりと口へと運ばれる・・・





「ど、どうだ?」


不安げなの問いに、やや遅れて小さな声で





「・・・・・・・・・まずい。」


「や、やっぱりか・・・」


「野菜と肉に火が通ってない、ルーも薄い
そもそも皮も剥いてない それにジャガイモの芽も取ってない
極めつけはロクに食材も切ってない。


・・・・カレーで失敗する人がいるなんて信じられないわ。」


「そ、そこまで言わなくてもいいだろ・・・」





ガックリと落ち込んだその姿がおかしくて





「・・・直してあげる。」


「え?」


作り直してあげるって言ってるの。

あなた、人間らしい生活できてないし・・・・
食事位まともにしてもらわないと・・・」





は顔を上げると、頬を赤らめながら微笑んだ。


「ホント私がいないとあなた、ただの野獣ね。」


「・・・・・・・ああ、そうかもな。









キャアキャアと、黄色い声が店内を埋める





「で、その後カレーもおいしくいただいて・・・」


夜もおいしくいただかれたってわけ?」


「い、言わせないでよ阿音さん・・・・」


「このこの〜、その後一緒に寝たの?」


お良がヘラヘラした顔で笑みながら彼女を肘で突っつく。





「え、ええ・・・の部屋もキレイにして・・・」


「アンタもやるときゃやるんやな〜!」





和気あいあいと盛り上がるキャバ嬢達を見つめつつ


二人も、ボロボロで戻ってきた彼へ笑いかける。





 オメェも中々気が利くマネが出来んじゃねぇか」


「ま、まあな・・・つかさっきのアレはマジ
忘れてねぇからな二人とも」


「それはともかく君、大切にしてやれよ?彼女
特に一時のテンションに身を任せて
取り返しのつかないことになったら駄目だぞ。」


「それ長谷川さんが言ったらすっげー怖いんだけど。
心が折れそうなくらい重いんだけど。」






言い終わるか終わらない内に


「では、さん。裁きの時間です





妙が彼の襟首を掴んで再び引きずってから
笑顔のままで重々しく宣言する。





「自分の非を認め、関係を持ち直そうとした
努力は認めます。よって・・・・」


「・・・・よって?」


「リングディンディンドドン波、3割減で叩き込んでやるわ!」


たったの3割かよ!!?俺結構頑張ったぞその時!
文字通り血が滲む努力でカレー作ったんだぞ!?
それでもたったの3割!?」



「問答無用よ!
リングディンディンドドン波ぁぁぁぁぁぁ!!」






身構えた妙のリングディンディンドドン波(3割減)が
店を物理的にも揺るがした。





「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」







惨状・・・というか末路を目の当たりにして
マダオコンビは震えながら首をすくめるのみ。





「うっわ散々だなぁ・・・ホント。」


「あいつ以外は女運ないからな。くわばらくわばら」





流石に可哀想に思ってか、彼女が助け舟を出す





「お妙さん、でも仕方がないんです。
彼が人嫌いだったのも理由があって・・・」





聞いた瞬間、思い当たる節があってか

妙は事情を察してハッとした。





「そうだったわね・・・ゴメンなさいさん
リングディンディンドドン波は帳消しね。」


「・・・・・・・・叩き込んでから言うなよ・・・・・・・」





必殺技をまともに食らって壁にめり込んだ


しばらく、立ち上がることすらままならなかった。








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後書き(管理人出張)


狐狗狸:さー皆でパルりましょう、ワレ妬ミ申ス
目標「リア充!!」目標「リア充!!」


妙:好き勝手ギャーギャー言ってんじゃ無いわよ
コノヤロウが(リングディンディンドドン波 発射)


狐狗狸:ぎゃああああぁぁぁぁ・・・(デッド)


銀時:デストロイされたー!つーか本文や後書き
マイナーネタも盛り込み過ぎじゃね!?


長谷川:まーいいじゃん、ついでとはいえ俺ら
便乗して酒飲めたんだし


阿音:アンタらは後でおつまみ代請求するから


おりょう:座席代と追加代も上乗せね?


花子:あ、もちろん取り立てはお妙ちゃんが
やるから逃げられへんで〜?


二人:いやあぁぁ!リアルぼったくりバーぁぁぁ!!


店長:・・・本当たくましくなっちゃって
ウチのキャバ嬢達ったらもー(涙)