「メイ・リン、帰るなら今のうちだぞ。」


「ここまで来て、誰が帰るもんですか。」







マザーキル作戦が終了した後、メイ・リンからの要請を
受けて俺は ある小国に潜入するために潜水艦にいた。







「大佐、いつでもいいぞ。」


『ああ、注水を開始する。2人とも、気をつけろよ。』


「「了解」」





俺達がいた空間に水が入ってくる。





スニーキングスーツ兼スキューバースーツを着用し、
俺とメイ・リンは海中からの上陸を始めた。







・・・空中からHELO降下という方法もあったが
あの国には高精度の対空兵器があるという報告を受けていた。


そのため、海中からの潜入が導入された







ハッチが開き、俺達は上陸を開始する。





周囲の監視などの警戒をしてはいたが、幸い何事も無く
思いのほか無事に上陸できた。







陸に上がってスキューバーを外しつつ、





「メイ・リン、スキューバーの装備は捨てていけ。
離脱はフルトン回収システムを使うからな。」







フルトン回収システム・・・気球のような乗り場と
風船があり、風船にあるフックに空中から機体が
それを引っ掛け 一気に脱出するという仕組みだ。







え?空中からの侵入は無理じゃなかったの?」


「大丈夫だ、俺がその基盤を狂わせる。その隙に脱出だ。」





そう言うと彼女は納得したようで 俺に習うように
スキューバーを外して捨てた。





それから俺達は陸地に沿って、しばらく森を歩く。


無論 近くに地雷が仕掛けられているだろうから、
探知機を使い慎重に進むうち


奥の方でトラックの音が聞こえてきた。





見てジャック、あのトラックに乗ってる兵士」


「・・・科学防護スーツ?何であんなものが必要なんだ?」


「まだ教えてなかったわね。実は・・・・」





そこで、俺は彼女から 今回要請を頼んだ理由を知らされた。







メイ・リンは情報分析のスペシャリストだ。


衛星写真の画像処理やあらゆる情報を分析でき、
シャドーモセスでは何度か世話になった。





その彼女の手腕により、衛星から捉えたこの国に
化学工場があることが判明した。





独自に開発された科学兵器をミサイルに搭載すれば
楽にアメリカを射程に収めることが出来る。


そうなればどんな脅迫が来るかわからない。





「報告したんだけど・・・上は取り合ってくれなかった。」





諜報部の上の連中は見向きもしなかった、と
彼女は悲しげな顔で呟いた。


"前世紀の遺物"と罵って。







・・・上もママがいなくなってから変わったものだ。







メイ・リンはこれらの証拠となる土壌サンプルを採取し、
分析にかけ検出された科学物質を 上に見せると言った。





「それがあれば上も納得するはず。」


「なるほどな、でも どうして君が直々に?」


「・・・実は一度 似たような事があったんだけど
その報告も無視されて、多くの難民が毒ガスで虐殺されたの」





俺も その話は聞いたことがあった。





「確かその時の報告を受けていたのは・・・・・・
シュルツ准将だったな。」





首を縦に振り 彼女は決意を秘めた眼差しを見せる





「あの時みたいな思いはもうしたくないの・・・だから
自分で出来る事なら 何でもしようと思って







・・・そうか、メイ・リンはその事を悔やんで
今回の行動に出たのか。











報われない努力はとどのつまり骨折り損











分かった。俺も出来る限り協力しよう。」


「ありがとう・・・事翕然に断ぜ寸ば
災いいたるに開けん
ってところかしら。」


「また中国の諺か・・・・・」





生い立ちからなのか、彼女は中国の諺にそこそこ詳しい。


彼女もFOXのメンバーらしいと言えるが、まあ他の奴と
比べれば彼女の方がまだマシだ。というよりタメになる。







「急を要する事態が発生したのにすぐに決断して
対処しないと事態が悪化し、すぐに破局が来るってことね。」


「つまり・・・・行動して正解だということか。」


「そういうことね。
それじゃ私、あの工場の写真を取って来るわ。」





軽く微笑むと、メイ・リンは勢い込んで走り出した。







おい待て!!ここには地雷が・・・・」





俺が言い切る前に 突然彼女の足が止まる







まさか・・・・・・・





「ジャック・・・・・ゴメンなさい、
地雷・・・・・・・・踏んじゃったみたい・・・・」





言った側からそのまさかかよっ!





動くな じっとしてろよ!すぐそこまで行くから!!」





他に地雷がある可能性を考慮し、慎重に彼女の側まで近づく。







「ジャック・・・・助けて・・・」


「大丈夫だ!絶対助けてやる!」





俺は青ざめている彼女の足元を 静かに掘り起こし





―程なくして、地雷を見つけた







「圧力がなくなったら起爆する仕組みか・・・・・
TNTベースの地雷、しかもシャープチャージか。」


「シャープチャージ?」


「爆発をワンポイントに集中する仕組みで、
威力が一点に集中する型だ。もし爆発すれば・・・・」


「下半身が確実に吹き飛ぶ・・・・・」





メイ・リンの声は 明らかに震えている。





安心しろ。必ず俺が助ける」







落ち着かせるように言ってから 地雷の解体に取りかかる。


刺激を与えずに細心の注意を払って解体を行い
起爆装置を固定し、万が一を思って何重にも固定する。





これで圧力が掛かったままになるはずだ。







「よし、メイ・リン。ゆっくりと体重を抜け。」


「だめ・・・・足が震えて・・・・」





仕方ない・・・彼女が寄りかかれるように後に立つ





「俺に寄りかかれ。3の合図で離すんだ。」


「「1・・・・2・・・・3!」」







メイ・リンがこちらに身体を預けてきて
俺は、そのまま後に倒れこんだ。









爆発は・・・起こらない







どうやら地雷は起爆しなかったようだ。良かった。







「ああ・・・腰が抜けちゃった・・・・・」


「俺もだよ。とりあえず少し休憩しよう。」





流石にこの状態では写真撮りはおろか、
土壌サンプルも取れない。





しばらく気持ちが落ち着くまで休もうとしたが・・・・・







森の合間を縫って、誰かの姿が近づいてきた。







見たところ現地のゲリラ少年兵らしい





まずい!よりによって少年兵か!」


「ジャック!どうしよう!!」


「落ち着け、とにかく撃つしかない。」





俺はそのままの姿勢で拳銃を取り出した。





「それ・・・・PSSじゃない!麻酔銃はどうしたの!?」


「今回は持ってきていないんだ。
大丈夫だ、消音弾を使っているから音は心配ない。」





弾自体に消音機能があるからサプレッサーが必要ないのだ


銃声を聞いて仲間が寄ってくる心配もない・・・







「駄目よ!」





狙いをつけた瞬間、彼女は俺からPSSを取り上げる。





何やってるんだ!返せ!」


「まだ子供じゃない!殺すなんて駄目!」


「そんな事を言える場合か!
少年兵がどれだけ残酷か 知らないお前じゃないだろ!」







ゲリラの少年兵は"殺すこと"を生きがいとして
育てられ、"どれだけ残酷に殺したか"を競い合う事を
日常とする狂った奴らだ。





見た目に騙され情に流され、そいつらの犠牲に
なった兵士を何人も見た。


あのパイソンも・・・・俺をかばって・・・・・・







メイ・リンならなおさら 何されるか
分かったものじゃない。





家畜にされ、最終的に殺されるだろう









それを理解していながら、彼女は俺の銃を
一向に返そうとしない。







すぐ近くまで少年兵が近づいてくる・・・!





言い合いをしている余裕は もう無い







「メイ・リン 銃は返さなくていい。こっちに寄れ。」





そう言うと、俺は彼女を抱き寄せる。





「ちょ、ちょっとジャック!こんなときに何を・・・・」


「黙ってろ!」





非難の声を小声で差し止め、俺は懐にしまってあった
機械を作動させた。







少年兵が ほとんどスレスレまで近づいてきた




息詰まるような沈黙が続く中・・・・・・・・・







・・・・相手は、そのまま気付かずに通り抜けた。







俺は安全を確かめ、機械のスイッチを切った。





「どうなってるの?何であの子私たちに・・・・」


ステルス迷彩だ。
フィアーから受け取った奴をオタコンが改造した。」





まさか 早速役に立つとは思わなかった・・・・









気を取り直して、俺達は土壌サンプルと
写真を撮るために工場の前までやって来る。





辺りを探るが どうやら見張りはいない。


よほど見つからない自信があるということか。







メイ・リンが採取をしている合間に、俺は
システムに時限爆弾を仕掛け





そして、写真撮影、サンプル採取、解析が終わり
回収ポイントで合流する。







「よく頑張ったな。」


「ええ、ごめんなさいジャック。
危ない目に合わせちゃって・・・・」


「いいんだよ。過ぎたことは・・・・・
そろそろ来るころか・・・・」





ミサイル発射施設から爆発音が聞こえ、
それと同時に空中からの迎えに回収された。







何はともあれ、作戦完了だ・・・・





これで 前回のような被害は出ないだろう・・・・
少なくとも俺は、そう思っていた。













本部から戻ったその途端、シュルツ准将が
メイ・リンから今回の情報を取り上げ


それを利用しホワイトハウスに武力制裁を要請した。







正確な情報が仇となり 要請はあっさり承認されて
巡航ミサイルが・・・発射された。







「何故こんな勝手なことした!!」


「君は上官に対する礼儀を知らんのかね?
まあCIA長官の握手を無視するくらいだからな・・・」


「貴様・・・・・!」


「しかし、君には感謝しなくてはならないな。
今回の情報のおかげで 私は少将に昇格だ。」


ふざけるな、誰のおかげだと思ってんだ!!
大佐とメイ・リンのおかげだろうが!!」





俺はシュルツの胸倉を掴み、殴りつけようとするが





ビッグ・ボス!!そこまでにしてください!!」





近くにいた兵士が俺達の間に割って入った。







奴は侮蔑を含んだ眼でこちらを見やり、
作り物の笑みを浮かべる。





「今のはなかったことにしよう。
しかし、次にこんなことがあれば軍法会議モノだぞ?


「何処まで腐ってるんだ・・・・・貴様は!


「ビッグ・ボス!!」


「いい。私は罵声を浴びるのには慣れている。
さして痛くも痒くもない。」





これ以上この場にいると、何をしでかすか自分でも
分からなかったから


俺は、奴を一瞥して 走り去った。











メイ・リンは ずっと海岸に蹲っているままだ。







・・・彼女の心の傷の方が深い。


そう感じているにも関わらず





遠くで見ることしか出来ずにいる俺の隣に、
メリルが寄って来た。







「ジャック、シュルツのことは私も聞いたわ。
落ち着いてね・・・」


「これが落ち着いていられるかよ・・・・・
メイ・リンがどんな気持ちで・・・・!」


「落ち着いて!一体何があったのよ?」


「メリル。鼻垂れの子供が武器を持って
こちらに近づいてきたらお前なら・・・どうする?」





メリルは当たり前のように答える





「私なら撃つわ。そう訓練してきたんだから。」


「彼女は・・・・撃たなかった。」


メイ・リンが?嘘でしょ?」


「俺のPSSを取り上げて撃たせなかったんだ。
ステルス迷彩のおかげで何とかやり過ごせたけど・・・」





それを知ってメリルは驚いたようだったが
俺はこれ以上、何も言わなかった。







しばらく間を置いて 彼女は尋ねる





、メイ・リンを励ますわけ?」


「そのつもりではいるが、なんて言っていいか・・・・・」


「そうね・・・・今の彼女に強く効くもの
言えばいいんじゃないかしら?」


「そうか?」


「じゃ、私は用があるからこれで。」





そう言って メリルは去っていった











深呼吸を一つして 俺はメイ・リンに近づき、話しかける。







「メイ・リン・・・・・・その・・・・・・」


「いいの、ごめんなさい。
あなたまでこんなことに巻き込んでしまって・・・・」





うつむいたまま言う彼女の顔は、暗い。





「いいんだ、俺は何とも思ってない・・・
まさかシュルツがあそこまで腐った奴だと思わなかった。」


「私・・・ホントに多くの命が救えると思ってたのに・・・
結局 誰かが傷ついてしまう・・・・」





彼女はゆっくり立ち上がると 俺へと寄りかかる。







「ジャック・・・・なんで・・・なんで巡航ミサイルなんか!
他に方法があるでしょう!!








俺の胸を叩く手は震え、悲痛な声は鼓膜を・・・心を打つ







「ねえ!私たちのしたことは無駄だったの!?教えてよ!!


落ち着け!自分を責めるな!!」


「あの子も・・・きっと・・・・・」


「大丈夫だ!あれだけの騒ぎだ、避難してるさ!」


「嘘!嘘よ!!みんな・・・・みんな死んじゃうんだわ!!」





俺は 彼女の肩を掴み自分の身体から引き離す







止すんだメイ・リン!もうしゃべらなくていい・・・・・」





ようやく彼女は口をつぐむ・・・けれど、いまだに
うつむいてぐずり声をあげたままだ。







・・・・・・巡航ミサイルが発射された事は 悔しいし悲しい。





だが、過ぎたことを悔やんでもしょうがない。







実際俺も・・・・・
取り返しのつかないことをしたからだ・・・・・・・









俺は彼女を励ますために あの諺を言うことにした







『尽力を尽くして天命を聞く』という諺は・・・
知ってるな?」





頷いた彼女と俺は、同時にその意味を言った。





「「一生懸命に努力し、最後の判断は運命が決める」」







そう、と短く呟いてから俺は 彼女の頭を
片手で抑えるように抱き寄せる。





「君は充分努力した。それは誰よりも俺が知っている。
だから・・・もう自分を責めるな。」


「ジャック・・・・・・・・・・・
うわあああああああああぁぁぁぁぁん!!





メイ・リンは 大声を上げて泣いた。







俺も一緒に泣いてやりたいが・・・・あれから涙は出ない。


精密検査も全く反応を示さなかった。





だから、泣けない代わりに 泣き止むまで
彼女の頭を撫で続けていた。













そして、とうとう江戸に帰る日が来た







、遺産の積み込みは終わったぞ。」


「ありがとう大佐。」


「その・・・・メイ・リンのことは私にも責任がある
・・・・あまり気負わないでくれ。」


「いいんだ、メイ・リンも分かってくれたから。
・・・で、彼女はどうしてる?」





オタコンが浮かない顔で口を開く





「それが・・・部屋に行ってもいなくって・・・・・」


そうか・・・・無理もないか。」


、そろそろ行くわよ。」





が機体の入り口で搭乗を促す。





「わかった。」







結局 見送りにメイ・リンは来なかったようだ。


やはり内心では・・・・・・







「待って!!」





歩き出そうとした俺の背中に声をぶつけて
走りよってきたのは・・・・メイ・リンだった





「メイ・リン!?」


「忘れ物!!」





そう言って投げたものは・・・・・あの時のPSS





「あのまま持ちっ放しだったから
間に合わなかったらどうしようかと思ったわ!」


「もういいのか?」


「ええ、私もう前を向いていくことにしたわ・・・
ありがとう。さん。


「え?」


「だって江戸に帰るんでしょ?
だから、これからはそう呼ぶことにしたの。」


「そうか・・・・・・ありがとう・・・メイ・リン。


、早く乗って!!」





の声が もう一度入り口から響く。





分かった!!じゃあ、江戸の土産でも送るから。」


「ええ!」







離陸する機体の窓から外を見ると メイ・リンが
こちらを向いて、ずっと手を振っていた。







「頑張ってね!!さーん!!!」





何か言っていたようだが、良くは聞こえない・・・





けれど彼女の笑顔を見て もう大丈夫だと確信した。







、メイ・リンが元気になってよかったわね。」


「ああ、そうだな・・・・」


あれー?まさかメイ・リンに?」





からかうようにつつくに、俺は少し強めの口調で答える。





「何言ってんだよ。彼女は仲間。それだけだろ?」


「冗談なのに・・・・」





よくこんな時に冗談なんて言えるな、誰かさん
影響を受けてるんじゃないのか?


・・・と思ったけれど あえて心の中で留めておいた









これから何があってもメイ・リンは大丈夫だ。





飛行機の中で、安堵と共に新たな懸念が沸き起こる。







・・・シュルツ。


こいつだけは軍に留めて置く訳には行かない。







実際、巡航ミサイルのせいで37人の犠牲が出た。
その中に・・・ゲリラの少年兵がいたとか。





メイ・リンはこのことを知らない・・・
知ってしまえばまた落ち込むだろうから。







一刻も早く 今作戦の真実を伝われねばならないだろう。





また新たな犠牲者が出る前に・・・・・・・・


何としてもシュルツのような人間を出させないように・・・








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後書き(管理人出張)


狐狗狸:今回の話はシリアスでしたねー・・・あ、
こちら後書きにコメントが無いのでまた出張して参りま


銀時:俺達 話題にすら出てねぇェェェ!!


狐狗狸:いやーだってコレさんが国に戻る前の
シリアスっぽい話ですし〜


新八:一番最初の長編以来じゃないですかぁぁ!
仮にもコラボなのに何この暴挙!?


狐狗狸:まー正直アレではあるんですが、芙蓉篇とか
オリジ小説やる上で必要な話っぽいからコレ


神楽:オッサンのミサイルとか興味ねーヨ


新八:神楽ちゃんんんん!
そーいう誤解を招きまくる発言やめてお願い!!


銀時:もっと言ってやれ神楽ぁ ついでに調子こいた
アームストロング砲へし折ってやれー


新八:さん関係ねーし!それただの逆恨み!!


狐狗狸:・・・この話のシリアスさ、ここで全部
ぶっこわしてるよ君ら(苦笑)