ふぅ、中々見つからないもんだな・・・」


「ええ・・・・あの戦いから
江戸に戻ってこない人が大勢いるのにね・・・・」





ソリダスとの戦いが終わり、俺達は新しい土地と
住処を探しに不動産を渡り歩いていた。





元々住んでいた家は戦火に耐え切れず


戻って来たらボロボロになってしまっていた





一応 応急処置を施してはあるものの
いつ崩れてもおかしくない現状に不安を感じ


この機会に新八君が住んでいるような
しっかりした侍屋敷に変えようと思い立って

行動に移してみたが・・・簡単に見つからんもんだ





「ねぇ、銀さんが言ってた"メシア"にでも頼んでみる?」


問うに、俺は緩く首を振る





「いや・・・・銀さんの話じゃロクなことがなかったらしい・・・」


「でも・・・もうここしかないよ?」





メシアの不動産屋を指すサニーの言う通り

他の場所はあらかた当たった後だった。





仕方ない・・・仮にも不動産屋だ


まともな物件の一つや二つ位あるだろ、と
腹を括って店へと足を踏み入れた。







「はあ、侍屋敷をお探しで?」


「ああ、別に建てれる位の土地さえあれば
屋敷がなくてもいいんだが・・・」





メシアこと不動三蔵と呼ばれたその店主は


メガネをくい、と上げて次の言葉を口にする


あれですか?1LDKの屋敷でよろしくて?」











引越し先と業者は慎重に決めとけ











「よろしくないわよ、どんだけ狭い侍屋敷?」





静かにがツッコミを入れる


こっちだって無駄に不動産歩き回ってた
ワケでは無いからな…簡単な専門用語くらい分かる





「大体屋敷で1LDKってあり得ないだろ
普通、2か3程度の広さだろ。」


「ああ〜すみません、実はウチの1LDKが
実家に帰ってましてね。」


1LDKが実家に帰るって何だよ!?
ていうかアンタ1LDKの意味わかってんのか?」


「そりゃもちろんですよ。日常的に使いますし」


「じゃあ言ってみろよ。」





返せばしばらくの沈黙を置いて、店主は言った。





「あれですよ、仕事から帰ってきて
風呂に入った時に・・・

『あ〜、やっぱ1LDKが一番だな〜』


「ぜんぜん違うわ!!何だよ1LDKが一番って!
我が家でいいだろ我が家で!!」



「我が家が1LDKってアパートでしょ
借り物でしょ。私達は侍屋敷を探してるんですって」


「いやーだからあれですよ、1LDKは今
実家に帰ってて「「それはもういいわぁぁぁ!!」」





意味不明すぎる台詞の羅列と繰り返しに
俺達は揃って頭を抱える


ああホント銀さんの言う通りロクな不動産屋じゃない







・・・もう侍屋敷に拘らなくてもいいか
心の中の妥協に折れかけたその時





「仕方ないですねぇ・・・屋敷そのものが
健在せずとも、土地があればいいんですよね?」



ふいに店主の口調が変わった。





「あ、ああ・・・あるのか?」


訊ねると さっきとは打って変わった
真剣な表情で彼は言葉を紡ぐ。





「ええ、一度江戸が襲撃された時があったでしょう?
その時・・・廃墟になった物件が一つあるんです。」


「廃墟?」


「はい、案内しますので付いてきてください。」





一つの資料を持ち出し、立ち上がる店主に
ついて行く形でその物件へと向かう。







そうして俺達三人がたどり着いたのは・・・





不動産屋から思ったよりも離れていない場所


建てられてから年月を越し、ボロボロの様相に
変わり果てた無人らしき屋敷の前だった。





「意外と大きいのね・・・」


「江戸にこんなお屋敷があったなんて・・・」





目を見張る二人へ、店主は一つ頷いて


「ここは元々、とある江戸の名家の屋敷でしたが
・・・一族がワケあって江戸を離れてしまった為
廃墟になってしまったモノなんです。」


「へえ・・・」







言われてもう一度よく見てみれば

なるほど・・・朽ち果て方が自然になったものと
異なっているのが分かる。





あの激戦で攻撃を受け、廃墟化が進んだとしても
不自然ではないかもしれない・・・





だが、その部分を差し引いたとしても


土地の広さと屋敷の外観は 申し分ない







「うん・・・決めた、ここにしよう。」


「え?いいんですか?」





戸惑ったように言ったのは、何故か
ここを勧めたメシア本人だった。





「何か問題でも?」


「いやあの・・・この物件は一時期
襲ってきた連中が使っていたものでもありますし」







なるほど・・・さっきから微妙に言い淀んだのは
その辺りが原因か。







「なら尚更、そんな場所だと他の者は買わんだろ?
なーに屋敷は直しさえすれば問題ない。」





確認するように二人へ視線を送れば


賛同してくれているようで、嬉しげに微笑み
こくりと首を縦に振ってくれた。







少し考え込んではいたようだが





「・・・分かりました、そこまで仰られるなら
ここはあなた方に譲りましょう。」



「ありがとうございます。」





店主は、満面の笑みで屋敷を譲ってくれた。









こうして無事に屋敷を手に入れた俺達は


次のステップとして補修工事の為に
腕利きの大工へ依頼をし





・・・程なく宇宙から小さな鬼に似た
二人組の男がカナヅチ片手にやって来た。







「本日はご利用ありがとうよ!俺達が
宇宙一の大工、ウンケイ・カイケイだ!」



「今回はこの屋敷が仕事場か・・・へっ
補修工事なんざ一晩でやってやるぜ!」


「へえ!すごいね、鬼さん達!」


「子供扱いするんじゃねぇ!!」





感心しつつウンケイの頭を撫でるサニーだが
当人は少し不満そうに返す。





「しかし・・・自分から依頼しておいて何だが
そんなにスゴい大工なのか?二人とも」


すると二人は 揃って小馬鹿にしたように笑う





兄ちゃん!あんまり俺達ナメてるとイカンぜ!」


「俺達はな江戸に聳え立っているターミナルの・・・
給油室の・・・お玉をひっかけてるアレを作ったんだぜ!!」


「絶対に落ちねぇんだぞ!すげぇだろ!」


「そんなの誰でも出来そうなんだけど・・・・」





だよなぁと頷きかけ、ふとある事を思い出す





「そういえば万事屋の補修工事もやったことが
あるって聞いた覚えがあるんだが・・・」


「ああ、あの時は大変だったな・・・」


「あの連中ときたら無理難題ばっかでよぉ

シャンデリアつけたり、屋根裏部屋作らされたり
外観パルテノンにしろと言われたり・・・」


「ちょちょちょちょっと待て!?
パルテノンって、あのパルテノン神殿!?」



「ああ、無理なら代わりに空飛ばせって
「「それ完璧天空の城じゃねぇか!!」」





しみじみ思い返す二人へ俺とのWツッコミが炸裂した。





「大変だったよなぁ・・・」


「ああ、でも茂吉に比べれば俺達なんて
まだまだヒヨッコだもんな。」


「誰だよ茂吉って・・・」







ともかく、"空を飛んだ"一件は事実として
周囲に知らされているから


技術だけは確かだろう・・・うん





何はともあれ、屋敷の修繕と改造とを
早速取り掛かってもらうことにした。





こちら側の要望は・・・


道場を射撃訓練場、武器装備倉庫への改造

自動車やハリアーの地下格納庫増設






後はそれぞれ個人好みの部屋をリクエストし







「金はこれだけ振り込んでおくから」


「・・・うぉぉ!すげぇな兄ちゃん!


本当あの連中とは大違いだぜ!
まぁ仕事は金じゃねぇが もらった以上はしっかりやるさ!」





手続きを済ませ、工事を始めてもらえば





・・・驚くことに大工二人は宣言通り
"たった一日"で全ての工事を完成させた。







「わぁ!」


「本当に要望通り出来てる・・・」


「なるほど・・・宇宙一に恥じない腕前だ」


あたぼうよ!けど俺らは宇宙二だ」


もちろんよ!本当の宇宙一は」


「「茂吉ぃぃぃぃ!!」」


「だから誰だよ茂吉って!」









住居も確保し修繕も済んだから、後は

前の家にある荷物を運び出すだけ・・・なんだが





おほぉ〜いいモン持ってんじゃん
これあの化け物ネェちゃんの雑誌の新作だろ?」


「ケッ、結局テメェもムッツリアルか
男って奴はマジキモイアル。」


二人共!サボってないで仕事してくださいよ!
さんの荷物、武器やら何やらでやたら物入りなんですから。」


「あん?んなもん運ぶ気しねーよ、重いし
危ないし、メンドくせーし。」


「結局それが本音じゃねーか!!」





万事屋三人組がこんな調子で作業が中々進まない


まったく・・・ちゃんとした依頼だっつのに
サボってばっかりだよ・・・





「二人共、ちゃんと仕事してください。」


「まー眉間にシワ寄せずちゃんもさぁ
コレ見てみろよ ほれこの豊満な胸。


もこれ位育てばのムッツリも
解消されるんじゃねーアルか?」


「いやいや、そりゃーねぇって
バリッバリの貧乳フェチだし・・・」


「ああ、それもそうアルな。」


「言いがかり止めろやそこのバカ共ぉぉぉ!!」





ギャイギャイ騒ぐ二人へ、しかしアイツは
冷ややかな視線で至って冷静にこう返す。





「・・・・・ふ〜ん・・・頑張ってくれたら
すき焼きを御馳走しようかな〜って思ってたんだけど
・・・残念ね、サバの塩焼きにするわ。」


ってどんだけランク下げてるんですか!?
ていうかなんでサバ!?いやおいしいけど!!」


「おっしゃぁ!さっさと仕事片付けるぞぉ!!」


「さっさとすき焼きにありつくぞぉ!!」



急にやる気出したぁぁぁ!
しかも神楽ちゃん本音ダダ漏れ!?」


「うるさいネダメガネ。
サボってないで仕事を済ませるヨロシ。」


「さっきまでサボってたオメーが言うなぁぁ!!」







現金なまでに動き出し、当たり前に新八君が
ボコられつつも仕事してる面々はよしとして





「よくないでしょ!?」





何とか日が暮れる前には荷物を屋敷へ運び終え

引越しの一段落がついた。







「皆さんお疲れ様。」


「ふぅ〜、やっと一息つけるぜ。」


「二つでも三つでもついてなかったか?」


「流石ね、ダメガネのダメ屋敷なんかと
比べ物にならない位デカイアル。」


「ダメとか言うなぁぁぁ!!」





畳に足を伸ばしてくつろいでた銀さんが

不意に真顔で問いかけてきた





「でもよぉ、何でまた屋敷なんて買う気になったんだ?」


「ああ・・・今ある家が壊れたのもあるけど
・・・将来の事も考えて買ったんだ。」


・・・・」


「何?将来ラグビーチームが出来る位
子供が欲しいってか?」


「やっぱりシッポリする事しか
頭にないアルかこのバカッポー共が。」


「・・・・・もうツッコむもの疲れてきた」


「ていうかラグビーチームって
どんだけ子だくさんにさせる気よ。」





聞いておいて真剣な空気をぶち壊すなよ・・・

まぁ、この人らしいっちゃらしいが。







そして細かな整理などを終わらせ
夜も更けた頃合に・・・





「はーい、出来ましたよ!」





煮込まれたすき焼きの匂いと湯気に包まれた
座卓を囲み、俺達は心を躍らせる。





ウォッホホーイ!!
やっとすき焼きにありつけるアルよ!!」


「今回は特別にA5ランクの肉を用意させた
たくさん食べてくれ。」


A5ランク!?最高級じゃないですか!?」


マジでかぁぁぁ!?何でんなモン用意した
まあ家計ピンチだし有難いんだけどさ・・・」





驚く銀さんへ、俺は静かに告げる。





「色々世話になってるからな、それに・・・

俺に侍の心と魂を教えてくれたのは
銀さん、アンタだからさ。






瞬間 目の前の顔はふわりと緩く微笑んだ





「フッ・・・・そんな大層な事じゃねぇよ。」


「じゃあ、いただきましょうか。」







いただきます、と合掌しかけたタイミングで





「お邪魔するぞ。」





何処からとも無く桂さんと『こんばんは!』
書かれた立て札片手にエリザベスが乱入する。





「か、桂さんいつの間に・・・!?」


「んだよヅラ、たかりにでも来たのか?」


ヅラじゃない桂だ。
それに貴様が言えた口ではなかろう。」


「桂さん、また真撰組から逃げてきたんですか?」


「いや・・・が屋敷を買ったと聞いてな
俺も祝いに来たのだ。」





言う彼のその後ろから、お登勢さんとキャサリンも現れる。





、アンタいい屋敷見つけたもんだねぇ。」


「オ祝イノ肉持ッテキマシタヨ。」





笑いかけるキャサリンの手には
牛肉が入っているであろうビニール袋が





「残念だけど婆さん、んとこの肉はA5ランクだそうだぜ?」


「・・・・・え?A5ランクって・・・・あの・・・」


最高級品ッテヤツデスカ?」


「なんと・・・英語ランクとは・・・?」


『違うよ桂さん、A5ランク。
牛肉の中でも最高級品ってこと。』





親切にも立て札で教えるエリザベス


・・・毎度思うが、何なんだろう?コイツ







「まあみんなも食べていってくれよ。」


「大勢で囲んだ方が食事もおいしいですし
いっぱいありますから遠慮なさらずに・・・」





と、その言葉を聞いた次の瞬間





「「でぇいやぅあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


目を光らせたお登勢さんとキャサリンが
ものすごい形相で鍋に食らいついて・・・って


「ホントに遠慮してないよこの人たち!?」


「ヤバイですよ銀さん!鍋レオンの再来です!!」


「何なの鍋レオンって・・・・」


しかし問いかけに答えは返らず





「ババァ共だけにやらせるかぁぁぁ!!」


「最高級の肉をこの手に勝ち取る!
ゆくぞエリザベス!!


『合点!!』


銀さん達も手に手にハシを取り跳躍し





サニーと私の肉もよこせヨ!!
育ちざかり優先ネ!!」


「普段からいっぱい食べてるでしょ神楽・・・」


「うるせーよ、早いモン勝ちじゃーい!!」





程なく仁義もへったくれもない鍋戦争
卓上で勃発した・・・ていうか・・・





「「祝う気あんのかアンタらぁぁぁぁぁ!!!」」





との魂からのツッコミが室内に響き渡った。







・・・しょうもないイザコザはあったものの

この後、ちゃんと全員ですき焼きを楽しめた。





これからはこの屋敷で 新しい・・・


何ものにも縛られない生活のスタートだ








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後書き(退助様サイド)


退助「さあ、無事シリアスな長編も終了したので
こっから短編も着実に」


銀時「進んでねえよ、就活とかPWとかで
のべ3カ月は止まってたろーがあん?」


退助「あのそれ、言わないでくんない?
結構キツいのよオレも・・・」


新八「PWやってる時点で説得力皆無です・・・」


神楽「A5ランクの肉よこせヨぉぉぉぉぉ!!」


お登勢「アンタ結局肉5キロも食っといて
何ぬかしてんだい!!」


キャサリン「アツカマシインダヨ酢昆布娘ガ!!」


退助「いやお登勢さん込みでアンタら全員
あつかましいよ・・・・慎みもてよマジで」


メシア「いやぁ〜あの物件が売れてホッとしましたよ。
ホントは屋敷の一族全員 呪いで皆殺しとなった
物件だったのでバレやせんかと思わず冷や汗が」


銀時「オイィィィィィ!!やっぱり
とんでもないモン売りつけてるよこのオッサン!!」



ウンケイ「茂吉ぃぃぃ!今日もいい仕事したぜ!!」


カイケイ「オレ達ちょっとでも近づけたかな!
アンタにちょっとでも近づけたかな茂吉ぃぃぃ!!」


ウンケイ・カイケイ「「茂吉ぃぃぃぃぃ!!!」」


退助「茂吉茂吉うるせぇぇぇぇ!!」