目覚めたに見えたのは、彼女にとって
とても見覚えのある光景だった。
咲き乱れる花畑の向こうに大きな川があり
対岸にはいつものように、の父親が立っていた
「・・・ 毎度お前やに苦労をかけるな」
「父上・・・私は、また護りたい相手を護れなかった
助ける事が・・・出来なかった・・・」
悲しげに歪んだ瞳から 大粒の涙が零れ落ちる。
「いいんだ、それはお前のせいじゃない
が一生懸命なのは皆が知っているのだぞ」
「けど・・・私は、何も・・・!」
「いい加減泣き止まぬか・・・お前はワシの娘だろう?
しっかりせぬか!」
父の叱咤に、彼女は涙を拭った。
「よし・・・それでこそワシの娘だ」
ニッコリと微笑むと 彼はへ続ける。
「あちらに戻る前に、会わせたい人がおる
少し 話を聞いてあげてくれ」
言葉が終わるか終わらないかで、父親の後ろから
一人の女性が近づいてきた。
はその女性の姿を、顔をごく最近に見ていた為
紹介される前に彼女の正体を知っていた。
「この人はお前の仲間、って奴の・・・」
「お主が殿の母殿か・・・本人には
初めてお目見えした。」
彼女は眼を丸くして・・・柔らかく微笑む
「ビッグ・ママよ、よろしく。」
「何だ知っておったのか」
「うぬ・・・一度だけ、殿の持っていた
フィルムにてお姿を拝見した」
過去に、最後のメッセージを残した映像フィルムだけが
にとって唯一つ残ったママの記録となった。
ごく稀に・・・思い出してはその映像を眺めていた所を
彼女は たまたま窓の外から眼にした事があった
「!何で勝手に・・・!」
「す、すまぬ・・・急ぎの用ゆえ不在を確認したく
窓から中を確認するつもりだったのだ
・・・・・・本当に、申し訳なかった」
刑執行直前の受刑者のように落ち込んだその雰囲気に
沸き上がったの怒りは、急速に萎む。
「・・・いや、反省してるならいいんだ
急に怒鳴ったりして悪かったよ」
室内にまだ流れる映像と音声に、恐る恐るは訪ねる
「殿 その方は・・・・・・」
「俺の大切な、母親だよ・・・」
寂しげな顔に 彼女はそれ以上何も追及しなかった。
その後、が他国に任務へ赴き とを
中心とした事件が起こるのはまた別の話だが・・・
ビッグ・ママはを真っ直ぐに見据えて言う
「は強くなった・・・でも今の彼では鳳仙に敵わない。
だから、あなたの力が必要なの。」
「しかし・・・怒りに身を任せ
ここに来てしまった私に、そんな資格は・・・」
戸惑うへ、彼女は首を横に振って答える。
「大丈夫、あなたはもっと強くなる。強くなれる。
だからその時は・・・を頼ってね」
父親も ママ同様優しげな眼差しで告げる
「この人は江戸の外での戦争を、終結に導いた人だ。
心身ともに強い方で その弟子であり息子の
君は信用に値する・・・案ずる事は無い。」
「・・・・分かり申した父上。感謝致します、母殿。」
「いいのよ・・・さ、早く行ってあげて。」
コクリと頷き 二人の顔がぼやけてゆく・・・
第八話 お水と母ちゃんは怒らすとヤバイ
再び眼を開けたの前にあった光景は
まさに己を砕かんと振り下ろされた鳳仙の傘を
両手で押さえたレーザーブレードで受け止めるだった
「殿!?」
「やっと起きたか・・・言っただろ!
お前は必ず・・・俺が護るって!!」
「フン、貴様もあの男と一緒か。眼まで一緒とは・・・
だが二人ともすぐ あの侍の元へ逝かせてやろう。」
万力のような力を込め、鳳仙がごとを
押しつぶそうとする。
「グ・・・ぅぅぅぅう!?」
「殿っ・・・もういい!私に構うな!!」
「そういうわけにはいかねえんだ・・・・俺は・・・
もう・・・大切な人を・・・・
失うわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!」
の眼が 瞬間的に豹変していく
『蛇眼』が・・・・・・発動したのだ。
「おおおおおおおおおおおお!!」
今までと比べ物にならぬ力で、が傘を弾き返す
「な!?何だと!?」
驚く鳳仙を蹴り飛ばし 彼は狂ったように
剣を振り回して攻めかかる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「何だ・・・・殿に、一体何が・・・・!」
槍を杖代わりに は身を起こした
傘で反撃する鳳仙を剣で受け止め、間髪入れず
腹を蹴り飛ばそうと の足が空を凪ぐ
寸前で、足を片手で受け止める鳳仙
「な!?」
「馬鹿め、その手は当に星海坊主との戦いで
見切っておるわ・・・てやぁぁぁぁ!!」
足を掴まれ 成す術もなくは投げ飛ばされ
近くの壁へとめり込んだ
「殿!!」
よろよろと詰め寄ったへ、蛇のような目のまま
は口を開いた。
「・・・・怪我はないか・・・・?」
「何故・・・・何故私などのために・・・!!」
苦しげな声が 静かに響く。
「言っただろ・・・・大切な人を・・・・
失うわけにはいかないって・・・・・
そうでもしなきゃ俺は・・・・
ママに会う資格がなくなってしまう・・・・」
千切れんばかりに首を振り、は泣いた
「私が・・・私が弱いばかりに・・・・・!!」
沈黙が辺りを支配し、夜王の声が轟く。
「フン・・・これで邪魔者はいなくなった
・・・・これで太陽を引きずり落とせる。
この手に太陽を手に入れる、それ以外に
この魂の渇きを癒す手はありはせん。
日輪、お前の全てをわしが手に入れてやるわ。」
天に叫ぶように、大声で鳳仙が吼えた
「我が下へ沈むがいい!お前はわしのものだぁぁ!!」
「・・・沈められるものなら、沈めてみろよ・・・」
微かな呟きに やや遅れて板が軋む音がする。
鳳仙が目線を上げると、そこに日輪を背負った
晴太が立っていた。
「お前が何度も空を曇らせようとも
オイラが真っ青に空を晴らす。何度でも。
お前が何度も母ちゃんを曇らせようとも
オイラが何度でも笑顔に戻す!!」
「童!貴様・・・」
「晴太!!放しな!!
アンタ大人一人背負ってここから逃げ切れるとでも!!」
「ギャーギャー騒げばいいや。
そうやってオイラも母ちゃんの腹の中で騒いでたんだろ。」
満身創痍の身体で、は呟く
「・・・・そうだ、赤ん坊は親に背負われ、大人に
なったら今度は親を背負う。それが・・・親子だ・・・・」
いつの間にか 眼は元に戻っていた。
同時に、の涙も止まる
「背負わせてくれよ、オイラにも。
自分ばっかり背負って終わらないでくれよ。
親子なら背負って当然だろ?
・・・この重さが嬉しくてたまんねぇんだよ。」
「そいつは頼もしい話じゃな!」
聞き覚えのある声が聞こえた瞬間
いくつものクナイが鳳仙の方へと突き刺さった。
「これは・・・・」
「ならば背負ってもらおうか
ここにいる皆を・・・貴様の母親、49人!!」
回廊の通路という通路にひしめく
百華を背負った月詠がいた。
「優しい息子を持って幸せじゃ。わっちゃ。」
「月詠か・・・・・随分遅かったな・・・」
「無事だったのか月詠殿・・・良かった・・・」
「貴様ら!何のマネだ、このわしに・・・
この夜王に謀反を起こそうというのか!」
怒鳴る鳳仙に、月詠は淡々とした表情で
「わっちらは知らぬ、悪い客に引っかかっただけじゃ。
吉原に太陽を打ち上げてやるなどと言う
大ぼらを寝物語で聞かされた。この者共も同じ口での。」
その視線は 下にいる銀時達に向いていた
「ホラ、あそこで伸びている奴らじゃ。
全く、強い奴らと信じて来てみればこのざま。
笑わせるではないか。偉そうな事を言って
なんだこの体たらくは、太陽など何処に上がっておる!
ぬしらに期待したわっちが馬鹿じゃった!」
月詠はと銀時 そしてにクナイを投げる。
「このぉぉぉ!!大ホラ吹き共めが!!!」
は拳銃で、は槍でクナイを撃ち落し
銀時は指でそれを止めた
「手厳しいな 月詠殿は」
「ホラなんて吹いちゃいねーよ・・・太陽なら
上がってるじゃねーか そこかしこにたっくさん。」
「全く、俺までとんだ扱いだよ。」
銀時とは立ち上がり 床に刺さっていた刀を抜いた。
「「眩しくて寝れやしねぇ。」」
「ぎ・・・・銀さぁぁぁん!!」
「ハハハ!立った立った!!まだやるんだ。」
晴太の叫びと神威の呟きが入り混じる
「これは悪いことをしたの。
てっきり死んでいるものかと思ったが・・・
だがそのザマじゃ役に立ちそうにないの。
立っているのがやっとじゃ。」
冷たい月詠の声音に 普段の調子で答える銀時
「ほざけアバズレ、そりゃこっちの台詞だ。
今更のこのこよく来られたもんだぜ。
紫煙を辿って地獄から這い出てきてきたのさ。
あんまり来んのが遅いからしゃぶっちまったぜ。
・・・おかげで命拾いしたがな。」
彼の目の前に転がるのは 血塗れのキセル。
「フン、何の話だ。
そんな汚いキセル・・・覚えがないわい。
わっちのキセルはそんな安物じゃない。」
声とともに 月詠と百華の一部が飛び降りてきた
「ブランドもの美恥。ここで手に入らぬ上物じゃ。
失くしたのなら買って返せ・・・地上でな。」
「ったくこれだから水商売の女は嫌なんだ・・・」
「たかりもいいトコだな・・・」
「勝っても負けても地獄だな・・・こりゃ。」
恐る恐る 不安げにを見上げる
「殿、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ・・・血は止まった。」
「ホントに大丈夫なのそれ?」
ひょっこりと メリル達が回廊の一角に現れた。
「やっと来たか、遅いぜ?」
「む 殿の知り合いか・・・」
「ちょっと建物の構造を把握するのに苦労したのよ。
これでも急いだ方よ?」
「大丈夫ジャック!?血だらけだよ!?」
「大丈夫よテリコ、ヴォルギンの拷問を
受けても反攻できたくらいだから。」
「それすごいわね・・・」
テリコとヴィナス 二人の会話の合間を縫って
ジョニーがひょろひょろと寄ってくる。
「ああ・・・・やっと腹の調子が・・・」
「アキバ!遅いわよ!!」
怒鳴るメリルの姿に、思わずから笑いが零れた。
「ハハハ・・・・緊張感のない奴らだ・・・」
「お主ら、夜王相手にその調子で大丈夫か?」
「心配無用よ いつでもやれるから。」
全員は 鳳仙を囲むようにして身構える。
「死に底ない共めが、うぬら雑魚が何匹集まろうと
何も変えられぬということが何故分からん。
何故死なぬ!何故立ち上がる!」
傘を引き抜き、順繰りに睨むは
銀時 の三者。
「何ゆえ・・・貴様らがその眼をしている!
気にくわぬ・・・気にくわぬ!!
その眼!!その眼をやめぬかぁぁぁぁぁ!!!」
鳳仙の叫びが三人を貫くが、怯む事無く
彼らは腹の底から声を張り上げた。
「「「いけぇぇぇ!!晴太ぁぁぁぁぁ!!!」」」
「銀さん!!兄!!姉!!月詠姉!!」
百華に抑えられ、日輪と晴太が遠ざかる。
「アキバとテリコはその子の援護!
ヴィナスと私で奴の相手を!!」
「「「了解!!」」」
命令を下しながら メリルとヴィナスも下に飛び降りた
「「うおおおおおおおお!!」」
挟み撃ちで飛びかかる銀時と月詠だが、傘と素手で防がれる
「「はあああああああ!!」」
と、百華が間を空けず正面から
攻撃を仕掛けるが
鳳仙は月詠を投げ飛ばし達を足止めした。
唾せり合いの状態から刀を流し、銀時が柄で
鳳仙のアゴを殴ったが 手刀で刃が折られ
銀時は腹を蹴り飛ばされた。
が、彼が離れた事により一斉放射のチャンスが出来た
「撃てぇぇぇぇ!!」
百華はクナイを投げ、メリルとヴィナスは銃撃を
鳳仙へと浴びせる。
振り下ろされた傘が 土煙を巻き起こす
「・・・やったか!?」
足を止めた刹那、塵の中から開かれた傘が迫り
メリル達をまとめて吹き飛ばした。
・・・それでも 何度でも銀時達は立ち上がり
鳳仙に向かっては弾き飛ばされていく。
(渇く・・・・どうしようもなく渇く・・・・・
何度地にひれ伏させても・・・何度希望を断ち切っても・・・
何度でも立ち上がる・・・)
浮かぶ思考を振り払うが如く 傘を振る鳳仙へ
四方から月詠と百華、とが詰め寄ってくる
(同じだ・・・・・・・あの眼・・・・
この気高い魂は・・・日輪と同じ)
「おおおおおおおお!!」
同じように傘で殴るように吹き飛ばし、彼らは
床へと叩きつけられる
「いらぬ・・・この常世に・・・このわしに・・・
太陽などいらぬわ!!!」
銀時の木刀を見つけ その場所まで這いずる月詠へ
「貴様らが如きか弱き火など、わしが残らず
かき消してくれる!!」
鳳仙が傘を振りかざしながら迫る。
「その忌々しき魂と身体を、引き裂いてな!!!」
硬直する月詠へ 傘が振り下ろされた
夜王に勝てるのか・・・・・
そして常世に街に太陽が蘇るのか・・・・・
それはまだ誰も知らない
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後書き(管理人出張)
狐狗狸:定番の三途行きで、まさかの人々の登場!
そして色々クライマックスに近づきつつあります!
銀時:の親父との母ちゃんまではまだいいよ!
でも何でピーマン兄貴の名前も出てくんのぉぉ!?
狐狗狸:そりゃまぁ 様々な都合がゴニョゴニョ・・・
テリコ:ていうかジャック、ママの映像見てたりするの!?
ちょっと想像出来ないんだけど・・・
ヴィナス:甘いわよテリコ ジャックに限らず
男って意外とナイーブなんだから
銀時:んだよ、ブラコンだけじゃなくマザコンも
混ざってんですかコノヤロー
狐狗狸:それ言ったらぶん殴られるよ?さんに
月詠:・・・田足篇の下りも混ざっておるようじゃのぅ