神楽の元へ辿り着いたとの目の前には
信じられないような光景が広がっていた。
壁や床などが有り得ない形に抉れた室内
ダクトの上で月詠と戦っていた夜兎
そして、それに喜々として襲いかかる神楽
・・・いや目が据わり、普段の面影が消し飛び
まるで戦いを楽しんでいるような 神楽に似たモノ
「神楽!?様子が・・・」
「殿・・・あれは神楽ではなくなっている・・・
夜兎の血が 表に出てきてしまっている。」
呆然と見守る二人など気にせず、神楽と夜兎は戦う
両者の動きは人間離れしていて とてもではないが
常人に出来るそれを越えてしまっている。
「神楽ちゃんが・・・歴戦の夜兎と渡り合ってる・・・
神楽・・・ちゃん・・なのか・・?あれ・・・」
メガネを無くした新八の呟きが耳に届き
「新八君!!一体何があった!!」
とは、新八の元へ寄った。
「さんにさん・・・遅かった、ですね。」
「すまぬ・・・それより新八!神楽は一体・・・!?」
「あの夜兎が言うには・・・・人を殺める事を恐れ
自分の中で封印していた夜兎の血が 僕の危機に瀕して
理性と共に弾け飛んだって・・・・」
「夜兎の血の・・・封印が解けた?だが、今なら好都合だ。
そうでもないと奴には勝て・・・」
の言葉は 夜兎の肩へ槍の刃先を突き立てた
神楽の姿に奪われた。
「あんな、あんな姿は・・・神楽ではない・・・」
屋根の外へと夜兎を突き飛ばし、とどめを刺すべく
神楽は足を振り上げ 踏み潰そうと
「認めない・・・こんなの認めない!!」
瞬間 新八が神楽の元へと走った
「新八君!!!危険だ!!」
止める間もなく、たどり着いた新八が背後から抑え
その拍子に 間一髪の所で神楽の攻撃は外れた。
第六話 キレた奴の行動は時々ワケ分かんない
「・・・何の真似だ?」
「お前のためじゃない!!銀さんと約束したんだ!!
僕が神楽ちゃんを・・・僕達の知っている
神楽ちゃんを護るんだ!!」
「何をしている新八!!
今の神楽はお主にも危害を加えるかもしれんのだぞ!!」
「そんなの関係ない!
生意気で大喰らいで・・・でもとても優しい女の子。
僕らの、大切な仲間を護るんだ!!」
「新八君・・・・・」
二人が押し黙ると、代わりにもがく神楽の呻き声が響く。
「お前なんかのために神楽ちゃんの手を汚させはしない!
眼を覚ませ神楽ちゃん!!
僕らの敵はこんなチンケな奴じゃないはずだ!!
神楽ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」
新八の叫びによって 神楽の動きが止まり
その眼が・・・変わった。
「神楽の様子が・・・変わった?」
「夜兎の血が、引いたのだ・・・殿。」
「奇跡・・・・奇跡が起こったか・・・・」
「・・・つくづく甘ったれた連中だ・・・・
言った筈だ・・・戦場では迷った奴から死んでいくんだ。」
夜兎の呟きに呼応するように 屋根の瓦に亀裂が走り
あっという間に自重崩壊を起こし、三人もろとも落ちていく。
「新八君!!神楽!!」
とが駆け寄って見下ろした時
敵である筈の夜兎が、二人を建物の方向へ突き飛ばした。
「あの夜兎・・・二人を助けた?」
「言ったはずだ・・・・俺は・・・共食いは嫌いなんだ・・・!」
夜兎は底へと落ちて見えなくなり 突き飛ばされた
新八と神楽は少し下の屋根に乗っかった
「神楽!新八!!待っていろ、今助けに」
身を乗り出しかけるを手で止め、新八は言う。
「二人は先に行ってください!神楽ちゃんは僕に任せて!!」
「無茶だ!その怪我じゃ神楽でも・・」
「いいから早く行けって言ってんだ!!」
普段言いもしない事を怒鳴られ、両者はハッとなった。
「行こう殿・・・今の新八なら大丈夫だ。」
「・・・そうだな、先を急ごう!
また後でな 新八君!!」
二人は新八と神楽を置いて先を急いだ。
「血の臭いが・・・濃くなっていく・・・」
「どうやら、この先かららしいな・・・!」
駆けて行くうち 二人は広い空間に出た
回廊は吹き抜けとなっていて、中核部分の下には
傘を咥えた巨大な兎の石造がある。
下から唐突に悲鳴が聞こえ 吹き抜けへ
血に塗れた百華が降って落ちる。
「「何があった!?」」
降りた先には、晴太を背後に従えた神威の姿があった
但し 違うのはそれだけではなく・・・
「テメェ、俺達と別れてどれだけ殺した・・・?」
「あらら・・・?もう済んだのかい?」
「神威!?何でお主が晴太と共にいる!!」
「ひどい言い草だね、折角この子のお母さんに
会わせようとしてるってのに・・・ちょうどいいや。
君達も拝むといい、吉原で一番美しい太陽をね・・・」
笑う神威に案内され 三人はやがて
木で停められた扉が見える場所までやって来る。
「あそこに・・・母ちゃんが・・・・」
「行こう、晴太君。」
壁に寄りかかり、彼らの行動に対し見に徹する神威
扉の前までやって来た三人の足音を聞きつけてか
中から―日輪の声が聞こえてきた
「帰りな、ここにあんたの求めてるものはありはしないよ。」
「母ちゃん・・・母ちゃんなのか!?開けてくれよ!
おいらだよ!あんたの息子の晴太だよ!!」
「・・・私に息子なんていやしないよ。
あんたみたいな汚いガキ、知らないよ。」
「貴様っ・・・晴太を侮辱するな!!」
「待て、何であんた晴太君が"汚いガキ"だと分かった?」
黙り込む日輪に構わず は続ける。
「知ってるんだろ・・・晴太君がいつも下から見てた時
あんたも、晴太君を見てたんだろ?
何度叫んでも答えはしなかったが、ホントは
晴太君を巻き込むまいと・・・・・・
必死に声が出そうになるのを我慢してたんだろうが!!」
沸き上がる感情に任せ、が拳を扉に叩き込む。
その場所を中心に 少しだけヒビが入った
「やせ我慢してんじゃねえぞ・・・そんな半端な覚悟で
子供を産んでんじゃねえぞ!それでもあんた母親か!!」
険しい彼の眼差しに、は何とも言えぬ表情をする。
「殿・・・・・」
「母ちゃん、オイラ・・・何も知らなかった。
母ちゃんがこんなに苦しんでるなんて・・・
何でオイラばっかりこんな不幸なんだろうって・・・
じーちゃんと一緒に生活してた時も、じーちゃんが死んで
一人ぼっちになった時も・・・全部母ちゃんのせいにしてた」
泣きながら、晴太は扉に手をやり閂を外す
「オイラ・・・何も知らなかった。
何にも分かっちゃいなかった。
母ちゃんが・・ずっとオイラを護ってくれたなんて・・・
今度はオイラの番だ!」
晴太は扉に体当たりをし 無理やり開けようと奮闘する。
「今度はオイラが母ちゃんをここから救い出す!
今度はオイラが母ちゃんを護る!!
今度こそここから出て地上で一緒に暮らすんだ!!!
だからお願いだ!ここを開けてくれ!お願いだ母ちゃん!!」
ドンドンと、身体が壊れんばかりに繰り返される体当たりは
「やめとくれ!!!」
日輪が怒鳴った瞬間 止まった。
「あんたの母ちゃんはここにはいない、そう言ってるだろ・・・」
淡々とした一言は、とを憤らせるには十分だった。
「まだ・・・避けると言うのか!
晴太の気持ちを理解出来ぬ虚け者めが!!」
「だったら無理やり開けるまでだ!
二人ともどいてろ!!パトリオットで破壊して・・・」
「いや、そんな必要はあるまい?」
後ろから現れた気配と声に、三人が振り返ると
そこに立っていたのは・・・鳳仙だった。
反射的にパトリオットを向けたを意に介さず
鳳仙は言い放つ
「そんなに会いたくば会わせてやろう。このわしが。」
「ほ・・・鳳仙!?」
「あちゃ〜、見つかっちった。」
「連れて行くなら連れて行け。童、それがお前の母親だ。」
晴太の前に ひと束ほどの女の髪が投げて寄越される。
「ど・・・どういうことだ鳳仙!
これが晴太の母親とは・・・!!」
「簡単な話だ、お前の母親は日輪ではない。
とうの昔にこの世におらん。」
「まさか貴様!!」
「勘違いするな、童の母親は衰弱し、お前を
産み落とすと同時に死んだ。
花魁が人知れず子を孕むことが出来るわけあるまい。」
告げられた言葉に、驚きと共に男二人はどこか納得する
「8年前、一人の遊女が子を孕んだ。
だが吉原で子を孕むと腹の子ごと殺される。
そこで一部の遊女たちがその遊女を庇い、人知れず
その腹の子を取り上げた・・・・・それがお前だ童。」
「そんなの関係あるか!!
血が繋がらなくてもな!親子になれるんだよ!!」
の言葉を、鳳仙が首を振って否定する。
「それは違うな、母に憧れながら母になることも叶わない。
そこにいるのは母親ごっこに興ずる ただの哀れな遊女だ。」
か細い声が 扉の奥から晴太の胸を刺す
「どうして・・・・こんな所に来ちまったんだい、
何でこんな所に・・・ほっときゃ良かったんだ・・・・
私の事なんて・・・
私達の分まで地上で元気でいてくれりゃそれで良かったんだ。
あんたが命張って護るモンじゃないんだよ私ぁ。」
悲しげな晴太へトドメを刺すように 鳳仙が嘲笑う
「お前の母親などこの世のどこにもおらんわ
わかったらその形見だけ持って消えろ。
それとも冥土で母親に会いたいと言うのなら別の話だが・・・」
とが同時に・・・口の端を笑みの形に歪めた。
「殿、こやつはよほど眼が悪いらしい。」
「そうだな、年はとりたくないもんだねぇ。」
「・・・何?」
「母親ならいるさ・・・俺達の後ろにな。」
の一言よりもやや早く、再び繰り返される体当たり
「オイラの母ちゃんならいる・・・ここに!!
常夜の街からオイラを地上に産み落としてくれた!
命を張ってオイラを産んでくれた!!
血なんか繋がってなくても関係ない!!
オイラの母ちゃんはこの人だぁ!!!」
扉をこじ開けようと粘る晴太へ目を向けて
「だとよ、悪いが彼女を連れて返らなくちゃな」
「貴様の戯言になど興味はない 消えろ」
言い放った二人の言葉に、鳳仙の顔から笑みが消える
「諦めの悪い連中よ・・・仕方あるまい
三人仲良く、黄泉で本物の親と対面するがい・・・!?」
手をかざし 距離を詰める夜王の後ろから木刀が飛来する
咄嗟に身を捻り、かわされたそれは二人の間を縫って
晴太の頭上・・・扉のど真ん中へと突き立った。
「な!?木刀が!?」
「これは・・・・もしや!?」
「オイオイ、聞いてねえぜ?
吉原一の女がいるっていうから来てみりゃよぉ・・・」
刺さった木刀を中心に扉に穴が開き
眼から涙を溢れさせた 日輪の姿がそこから見えて
「どうやらコブツキだったらしい
そいつが何よりの証拠だ。」
木刀の軌道の先には・・・銀時がいた
「店長、新しい娘頼まあ
どきついSMプレイに耐えられる奴をよ。」
「貴様・・・・誰だ?」
「なぁに、ただの女好きの遊び人よ。」
――――――――――――――――――――――――
後書き(管理人出張)
神威:あーあ、止めて欲しいっつったのに
意外と役に立たなかったなぁ〜あの二人
狐狗狸:Σうわ最初の一言盗られた!
てか今回の後書き、夜兎族二人しかいないの!?
阿伏兎:俺の名前、最初から最後までないの?
狐狗狸:だって神威しか呼んで無いじゃん あんたの名前
神威:がんばれば いつか阿伏兎も有名になるよ
阿伏兎:・・・何で俺、こんな団長の部下なんだろ
狐狗狸:神威さんの手綱を取れるのがアンタぐらいしか
いないからでないの?実力的な意味でも
神威:にしてもさ あのって子は面白いね
夜王に「消えろ」なんて言う辺りサイコー
阿伏兎:・・・そいつぁスゲェ嬢ちゃんだな
俺としちゃって兄ちゃんが気になるんだがな
狐狗狸:・・・とても怖い夜兎に見えないですね(両方)