銀時達は月詠に連れられ、巨大な排気ダクトの上にいた
「ここを通れば1日半かかるが外に出られるはずじゃ。
さっさとここから逃げろ、次来たら本当に殺す。」
「おいらたちを逃がすために芝居をうったのか?
百華の頭のあんたが・・・」
「わっちは吉原の番人
吉原を騒がす者は消す それだけじゃ。」
「悪いけど消えるわけにも消されるわけにもいかない!
おいらは母ちゃんに・・・日輪太夫に会いに来ただけだ!」
キセルを吹かしつ、月詠は淡々と告げる。
「だったらなおさら帰るがいい。ぬしらを逃がせと
言ったのは他でもない・・・その日輪じゃ。」
「日輪が?どういう事だ?」
「母ちゃん、おいらがここにいることを知ってるのか!?」
「吉原の楼主、鳳仙はぬしと日輪が接触することを恐れている。
ここにいればぬしの命はない。」
「何で!子供とマミーが会うのを
邪魔立てされる義理はないネ!!」
指差す神楽に構わず、あくまで冷静に続ける月詠
「日輪が吉原から逃げるかもしれんからじゃ。
8年前に主を吉原から逃がした時のように・・・」
「おいらを連れて・・・・・・」
「20年前、侍と天人の争いで一度吉原は地上から消えた・・・」
彼女に続くように、が言葉を滑り込ませる。
「聞いたことがあるな、天人が吉原に取り入って
この地下に再建設したんだよな。」
「そうじゃ。」
「お前よくそんな事知ってんな。」
「俺はスパイだぜ?これくらい調査済みさ。」
しばし黙っていたがやや眉を潜める
「殿がスパイ?」
「ああ、話してなかったな。実はな・・・・・・・」
第三話 晴れた日の傘は何か違和感
は自分の事を、出来るだけ簡単に話した
「何と、殿はこの江戸の人間ではなかったのか・・・・」
「知らないのも無理はないさ、教えるわけにも
いかない事情もあったし。」
「続けるぞ?ここは中央暗部に関わる幕府にも黙殺される
超法規的空間 しぜん公にできぬ政の秘事を語る場として
利用されることも多い。」
「月詠殿、いまいち分からぬのだが・・・・・・・・」
挙手したへは説明を加える。
「つまりこの場所は悪政を育む温床になっているんだ。
花魁ともなれば国を左右しかねない情報を持っている者もいる。」
「それ故ここに入った遊女は最後、二度とお天道様を拝む事は
できない。売り飛ばされた遊女は商品として扱われ・・・」
「使い物にならなくなるまで酷使されるんだろ?
価値がなくなれば野垂れ死にされて、逃げ出す者は
お前らに始末される。」
「・・・・・・・・よく知ってるんじゃな。」
「何度も見たことがあったからな・・・・・・」
苦笑し、月詠は寂しげに話を続ける
「ここが常夜の街と呼ばれるのは色里を指しての事じゃない
ここに売り飛ばされて、初めて知った・・・・・・・・」
その言葉に、が少しだけ顔を歪ませた
「お前・・・・・・ここの遊女だったのか・・・・・?」
「そうじゃ、わっちらには終わる事のない夜を
生きねばならないことを知った。
だがそんな絶望の中 たった一人だけ商品のような眼と
違う眼をした女がいた。」
彼女が語ったのは、幼い頃に初めて
日輪と会話を交わした時の思い出。
太夫に逆らい折檻されていた月詠へ
『死ぬだなんだわめいて逃げ回ってる暇があったら
檻ん中で戦いな 自分と。』
日輪は笑うでも叱るでもなく、強い言葉をくれた事
咎められる事をいとわず握り飯を差し入れた事
折檻した太夫と殴り合い、逆の立場となった
日輪へ握り飯を差し入れに言った事・・・
強い眼をして言ったその時の日輪の言葉は
みんなの印象に深く、残った。
「わっちが己が顔を傷つけ女を捨てたのは・・・
日輪を護るためじゃ」
そして、彼女は 日輪が晴太をここから逃がし
晴太を護るため吉原に戻った事を最後に話した。
「そんな事が・・・・・・・・」
「わっちは主を死なせるわけにはいかぬ、帰れ。
ぬしが死ねば日輪の今までの辛苦が水泡に帰す。」
晴太が沈黙を噛み締めている合間、銀時達は彼の後ろから
近づいてきた存在に気付く。
「オイ、過分な心遣い痛み入るがね・・・
どうやらもう手遅れらしいぜ?」
視線の先には ゆったりした黒衣に身を包む傘を差した者。
「傘・・・・・まさか、あれ!?」
いる筈の無いモノの姿に神楽は驚きを隠せない
「あの傘・・・・・夜兎!?何でこんな所に夜兎族が!?」
「どうやらせっかく用意してくれたアンタの逃げ道も
手が回ってたらしいぜ?」
「・・・違う。」
「違うとは如何様な意味か?月詠殿。」
「あれは・・・鳳仙の回し者じゃない。あれは・・・・・」
惑う彼女を無視し、夜兎が口を開いた。
「ガキをよこせ。」
通りのいい低い声音に、月詠がクナイを持ち
銀時ともそれぞれの武器を取り出し身構える。
が壊れたAK−102の代わりに新しく取り出したのは
SAIGA12と呼ばれるセミオートマチック式のショットガン。
見た目はアサルトライフルにそっくりだが、散弾・空気弾・
スラッグ弾と弾の入れ替えが可能の強力なシロモノだ
もう一度、相手が同じ言葉をかける。
「そのガキをこちらによこせ。」
何かを感じ取った神楽が 少し震えた声で呟いた
「銀ちゃん・・・・ヤバイアル。あいつ・・・
ヤバイ匂いがするアル。
血の匂い、幾多の戦場を生き抜き染み込んできた血の匂い。
本物の・・・・夜兎の匂い。」
「本物の夜兎・・・・か・・・・・それはヤバイな神楽。
スラッグに替えておくか。」
言ってがライフルに手を加えた瞬間
向こうが足元を蹴って間合いを詰めてくる
放たれる大量のクナイも自前の傘を盾にして防ぐ。
月詠が反対に飛んで回り込み クナイを顔面へ投げるも
・・・なんと男は歯で受け止めた。
そのクナイを握ったまま彼女の頭を掴んで下に叩きつけ
刺し殺そうと振り下ろした刃を、月詠もクナイで受け弾く。
「月詠さんんんんん!!」
「月詠殿っ!」
駆け寄ろうとしたを眼で制し
「早く!今のうちに!!逃げろ!!!」
攻撃を防ぎ抵抗しながらも月詠が彼らへと叫んだ刹那
今いるダクトの下から弾丸が多数飛び出してくる
「下から!?」
槍と傘とで弾丸を弾きつつ、銃で下の相手へ
応戦するも手ごたえは無い
迫り来る銃弾を晴太を連れて避けようとした銀時だが
足場を突き破った傘の先端が腹にぶち当たり
衝撃で晴太を離してしまった。
「銀ちゃん!!」
「大丈夫か!銀時!!」
大きな穴を開けて、そこに晴太を掴んだ大柄の夜兎が現れた
「なんてことだ・・・・・・・夜兎が二人・・・・・」
新たに出現した夜兎にライフルを向け、が呟く。
「放せ!!」
「晴太ぁぁぁぁ!!」
もがく晴太を取り返そうと神楽が駆ける
「っ神楽逃げろ!!後ろから・・・・・・・・」
気配を察し、が忠告したが・・・遅かった
飛び来た第三の夜兎は包帯を顔中に巻いている。
「邪魔だ、どいてくれよ。」
神楽の動きが止まり 声のする方へゆっくり顔を向ける
「言ったはずだ、弱い奴に・・・用はないって・・・・」
「に・・・・・!?」
言いかけた言葉は、振り下ろされた傘に遮られた
神楽もろとも叩きつけた傘の衝撃により、拍子に
排気ダクトが崩れだす。
「神楽ぁぁぁぁぁ!!」
「ダクトが!?」
崩壊に巻き込まれ、落下する彼らは神楽を抱えた銀時を
一番下にそれぞれが咄嗟に手を繋ぎ合い
一番上となった月詠が投げ放ったロープつきのクナイにより
僅か一時の間落下を押し留められる
だが全員分の重量に耐え切れずロープが手から外れ
銀時達は下にあった屋根に落下した。
「いたたたた・・・・・みんな、無事ですか。」
「神楽!しっかりしろ!!神楽!!」
「銀さん貸してくれ!すぐ応急処置を・・・・・」
「晴太君が・・・・アイツら一体・・・・」
「恐らく・・・奴らは春雨じゃ。」
「春雨!?あの宇宙海賊春雨!?」
新八へ頷き、月詠は言葉を続ける。
「吉原の遊女達は親に売り飛ばされた者が多いが
その多くは不当な人身売買によって吉原に流れ着いたもの。」
「親に・・・・・売り飛ばされて・・・・・・か。
薄情な親もいたもんだな。」
怒りの滲むの言葉にも無言で首を振る。
「その利権から古くから関わっているのが宇宙海賊春雨
いや・・・関わるどころか吉原の楼主、夜王鳳仙こそ
春雨で幹部を務めていた男。」
「まさか奴ら・・・・・春雨の第7師団じゃないだろうな。」
「さん、第7師団って何です?」
「後で説明するさ。」
「夜王鳳仙 奴がそう呼ばれているのは
常世の国の主であるがためだけではない。
光に嫌われた一族、夜を生きる者達、それを統べる者
夜を統べる者・・・
夜王鳳仙とは夜兎の王と呼ばれた男の事よ。」
「や・・・夜兎の王だって!?」
想像だにし得なかった敵の出現に驚く新八とは裏腹に
はどこか納得しているようだった。
「やはりそうか・・・・これで確信がついた。
あの星海坊主と対等に渡り合えただけの事はあるな・・・」
「ホントにぬしは何でも知っておるのだな。」
「こっちの情報網をバカにしてもらっては困るな月詠。」
「そうか・・・あのハゲと・・・・・・」
「俺はあまり会いたくないんだよね・・・・・・」
彼の渋い顔に 表情を変えずが訪ねる。
「何かあったのか?殿?」
「いや、ちょっとね・・・・・・・・」
「どうやら俺たちゃトンでもねー化け物に
喧嘩吹っかけたみてーだな。」
一拍の沈黙を置いて、神楽がようやく眼を覚ました
「・・・・銀ちゃん・・・」
「神楽ちゃん!」
「まだ動かない方がいい・・・骨を何本かやられてる・・・」
「本当に・・・やばいのは・・・・そいつじゃないネ。」
「・・・どういうことだ神楽?」
の言葉に答えてかは定かでないが
半ばうわ言のように、神楽は呟く。
「息子がいるアル・・・・そのハゲの・・・・・・
私の・・・馬鹿兄貴が・・・」
「兄貴!?まさかさっきのあれが神楽の兄貴だって言うのか!?」
「神楽にも・・・・兄上がいたのか・・・」
掻き乱された空気を和らげるべく、月詠が口を開く
「とにかく、一度わっちの隠れ家に行こう。
傷の手当てもあるじゃろう・・・話はそれからだ。」
銀時達はその意見に賛同し、月詠の隠れ家へ急ぐ
五人は無事に晴太を取り返す事が出来るのか・・・・・・
そして連れさらわれた晴太を待ち受けるのは・・・・?
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後書き(管理人出張)
狐狗狸:さぁ神楽のお兄さんも出て来て波乱を
含み始めました三話目でござい〜
銀時:はーい、後書きから上の本文下から七行目の
ちゃんの発言について質問
狐狗狸:なんでしょう?
銀時:神楽に兄貴がいた話はこっちの最初の長編二話目で
散々やってただろ、なのに知らないっておかしくね?
狐狗狸:本人が特に兄の事を話さないし、その時は
お兄さんに頭が一杯だったしで忘れたんじゃね?
新八:アバウトですねさん・・・
神楽:細かい事を気にしていたらデカイ奴になれないアル
狐狗狸:その通り!さんの武器の携帯時の収納場所とか
ダンボールの出所とか考え出すと夜も寝られなくなるよ?
新八:あっちのシステムについての発言は止めてぇぇぇ!