再び目を瞬かせたジャックの瞳には
母親ではなく・・・が映っていた。
「お前・・・・!」
苦しげに身を起こす彼へ、銀時達も警戒して
行動を起こすが
「待って 彼に聞きたい事があるの。」
彼女はその一言で周囲を差し止めジャックへ向き直る
「聞きたい事って・・・・何だよ?」
「あなた、私が母親に似てるって言ってたけど
・・・本当なの?」
「あ、ああ・・・まるで生き写したように似ている。」
言葉を途切らすも 先を促す視線に負けて
「カトレア、それが俺を捨てた母親(おんな)の名前だ。」
渋々呟いた彼の言葉を聞いた瞬間、彼女は目を見開いた
「カトレア・・・!ホントなの!?」
「ぬし・・・どうかしたか?」
「さん、カトレアって方に聞き覚えでも・・・?」
「聞き覚え所の話じゃないわ・・・カトレアは
私の・・・・お婆様の名前よ。」
『ええぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
一同から一斉に漏れた驚きの悲鳴が 宵闇を揺らす。
「ウソ!?マジで、ちょマジで!!?」
「そいつぁ流石の俺も予想外でぃ」
「ちょ、ちょっと待つネ!てことはは・・・!」
「殺人鬼と親戚だってのかよ・・・・!?」
唖然としている八人とは裏腹に
「やっぱりそうか・・・初めて会った時から
他人の様な気が、しなかったんだ・・・」
ジャックは納得のいった表情で呟いた。
「あなたの事は聞いていたわ、もちろんお婆様の話も
・・・・聞いた当時にはもう亡くなられていたけど」
「聞きたくない、どうせ俺の悪口だろ。」
「違うわ!」
ピシャリと言い切られ 彼はビクリと肩を竦ませる。
「詳しくは教えてもらわなかったけど・・・お母様から
聞いたの、お婆様があなたをどう思っていたか」
ゆっくりと夜の空気に溶けるように
彼女の当時の記憶が 柔らかく紡ぎ出される・・・
第九話 愛が無ければ憎しみも生まれない
でも本当の気持ちも見えない
それはの母親・・・サクラが生きていた頃
「お母様。」
「何?ローズ」
学校から帰ってきた当時・8歳の彼女が
円らな瞳で見上げながら、不安そうに訊ねる。
「何で私にお婆様がいないの?他の子達には
お婆様がいて、その話ばっかりするのに・・・」
サクラは困惑し 屈んで娘と視線を合わせると
出来るだけ優しく言い聞かせる。
「あ、あのね・・・あなたのお婆ちゃんは
私がローズ位の年の頃、病気で亡くなったの・・・」
「お婆ちゃん、死んじゃったの・・・何で?」
「その・・・梅毒っていう病気で・・・・」
「梅毒?」
彼女は"まだ教えるのは早かったかしら・・・"と
内心を後悔と焦りに満たしながら、言葉を選ぶ。
「お、大人になってから教えてあげるから、ね?」
「はい。でもどうしてそんな病気になったの?」
病気の追及を逃れた事に安心しながらも
サクラは、話を続ける。
「昔、イギリスが戦争で疲弊していってね・・・
そこで私のお母さんは悪い仕事をしてたの。」
「悪い仕事?まさか泥棒!?」
「違うの、これも「大人になってから?」
すかさず切り返され、彼女は頷くしかなかった。
こういう発言をすらっと言える辺り
やはりサクラと遺伝している証拠といえよう。
「お母さんは、その頃の事を後悔していたわ・・・
『私が無茶したせいで不幸になった子供がいた。』って。」
「子供?」
「実はね 私にお兄さんがいるの、ロンドンにね。
だけどお母さんは生活していけないからって
自分の子供を、施設の人に預けちゃったの。」
幼いながらも利発な彼女は、その言葉の根本を理解した
「それって、自分の子供を捨てたってこと!?
ヒドイ!お婆様って最低!!」
「あなたが怒るのも無理ないわ・・・
けど、あの時は・・・あの頃では仕方がなかったの。」
貧富の差が激しいが故に、自分が食べるだけで
精一杯の状況はどこの国であっても変わりは無く
已む無くカトレアは 自らの子供を施設に託した。
・・・けれどどうにか暮らし向きに余裕も出て
相手にも恵まれ、後ろ暗い仕事からも抜け出せて
アメリカへと向かうその前にカトレアは
ようやく、子供の姿を見る為に施設を訪れた。
・・・その場で引き取るつもりもあったのだろう
けれど全ては遅く、ジャックはもうそこを
脱走し行方知れずとなっていて
カトレアは・・・その場で激しく泣き叫んだという
ひたすら、ごめんなさい・・・といない子供へ
何度も何度も謝り続けながら。
言葉を失う娘へ、サクラは優しく語り掛ける
「お母さんはアメリカへ渡って、すぐに子供を
産もうって決心したの。もう会えない子供の分まで
自分の子供を大事にして 離さないようにしようって
・・・そうして私と、あなたの叔父さんが生まれた。」
話を聞いていく内に の目から涙が流れた。
「お婆様・・・かわいそう・・・」
「私もね、お母さんを見習って子供を大事に
大切にしようって決めたわ。
だからローズ あなたも子供を産む時がきたら・・・」
「わかった、私もお婆様やお母様に負けない位
優しい母親になる!」
頷き、二人は"約束ね"と笑顔で交し合った。
彼女の話が終わった後・・・ジャックの頬にも
大粒の涙が筋を引いて流れていた。
母が自分を捨てたのはジンジャーだったからじゃない
子供の分まで食べさせていく自信が無かったから
食べさせていける様になるまでの間、ただ
施設に預けていただけだった。
けどその想いを知ろうとせず・・・擦れ違ったまま
彼は殺人鬼の道へと進んでしまった。
「俺は・・・ちゃんと愛されていたんだ・・・!
それなのに・・・それなのに・・・!!」
土壇場で知った 遅すぎる真実にジャックは
沸き上がる哀しみを抑えきれず慟哭する。
「あなたのお母様は人を愛する心を持っていたのよ
そして・・・あなたにもそれが受け継がれている。
こうして私や、皆が生きているのがその証拠。」
言われて彼らは気がつく
傷だらけでこそあるがの刺し傷は全て急所を外れ
深い浅いの差はあれど、彼に斬りつけられた
者達の傷はどれも致命傷ではない。
・・・無意識の内にブレーキが掛かったのだろう
「そうだ・・・本当は殺したくなかった・・・!
俺は誰も、殺したくなかったんだ・・・!!」
ひたすら懺悔の言葉を口にしながら泣き崩れる
ジャックを・・・は強く抱きしめる。
「大丈夫、私はいつでもあなたの事を想ってる・・・
もう絶対にあなたの事は忘れない・・・」
頬を伝う涙もそのままに 彼女はジャックと
顔を合わせて・・・笑った。
「だから・・・もう悲しまないで・・・伯父様・・・」
その笑顔は・・・ジャックの目には
母親のソレと重なって見えた。
「ありがとう・・・これで・・・俺は・・・・・」
段々と・・・目の色が紅から蒼へと変わっていき
「やっと・・・母さんの元に逝ける・・・
ありがとう・・・この世の唯一の、血の繋がった家族・・・」
その呟きを最後に ジャックは優しく微笑んで
ゆっくりと・・・・その眼を閉じた。
抱き合ったままの二人と、見守る面々の間に
しばらく沈黙が続いて・・・・・
「・・・・・・」
「・・・なの?」
「元に・・・戻ったのか?」
彼の眼はすっかり蒼に戻っており
完全に、" "としての自分を取り戻していた。
「の野郎、やっと元に戻ったのか?」
「ああ・・・迷惑かけてすまない。」
彼は近寄ってくる見慣れた面々に頭を下げた後
改めて、近藤達の怪我を目の当たりにして
悲しげに眉を下げる。
「みんな、ひどい怪我だ・・・これ全部
俺が・・・・やらかしたんだよな、やっぱり」
「今更だろ、ったくマジ死ぬトコだったわ今回」
「でもよかったよ、君が元に戻って。」
「ああ・・・これで一件落着じゃろ。」
和やかな空気を取り戻した事に、一気に緊張が緩んで
「・・・ホントに・・・よか・・・・た・・・」
彼女は 愛すべき人の身体へと倒れ込む。
『(さん・ちゃん)!!』
「、どうした!?」
「落ち着け皆・・・安心して気を失っただけだ。」
ゆったりと低い声が宥めるように流れて
そこでようやく彼は、伝説の英雄の存在に気付いた。
「ビ、ビッグボス・・・!?なんでこんな所に!?」
「詳しい話は後だよ。早く彼女を病院に連れて行こう。」
こうして・・・・人々を恐怖に陥れた
陰惨な事件は終わりを告げた。
ビッグボスの計らいによって今回の事件は
"過激派攘夷浪士同士が行った、共倒れの凶行"として
情報が操作され江戸へと公表された。
当人は「例え乗っ取られていたとはいえ、俺が
しでかした事の罰は しっかり受ける」と聞かなかったが
伝説の英雄や、事情を知った近藤達からの
弁護もあって"お咎めなし"となった。
・・・そして
入院が長引いたの病室へ、多くの人が
見舞いへとやって来ていた。
「無事に解決して本当によかったわ・・・でも
もうあんな無茶しちゃダメよ?ちゃん。」
「はい・・・色々ご迷惑おかけしてゴメンなさい。」
「ホントあんたタフだよねぇ・・・スケベな客に
耐えられる理由が分かったよ。」
「い、いえあまり関係ないんですけどお良さん・・・」
微苦笑で答える相手の様子を見て安心したか
「元気になったらスナックの皆で全快パーティー
やるから、楽しみにしててね?」
「さんと、ついでにいい男でも誘って来なよ?」
柔らかく笑って 妙とお良が病室を後にした。
小さく手を振って見送り、一息ついて彼女が
ベッドへと横へなった途端に
「〜!元気してるアルか?」
「お見舞いにきましたよ。」
「傷は痛まないか?」
万事屋トリオとカズ、も病室に入る。
「大丈夫よ、みんなありがとう。」
「さっきそこでキャバ嬢二人がやたらとこいつ
誘ってたけど、何か約束したの?3Pとか」
「そーいう発言控えてください・・・・
あら、あなたもいたのね?」
やや後ろに佇む作務衣姿の少女が、こくりと頷く
「そこで合流したのでな・・・して殿 3Pとは何だろうか?」
「聞き流せそして忘れろ、頼むから。」
「ふふん、それは大人の素敵な競技さお嬢ちゃん
何なら俺が詳しk「教えないでカズさんんん!!」
クワトロでどつかれるグラサン男を気にも留めず
「兄上から助言を貰ってメロンと・・・あと
勲殿達からも頼まれた品を受け取ってほしい」
差し出された可愛らしいカゴの中には
高そうなメロンとバナナ・・・まではいいのだが
隣のマヨネーズとタバスコ ついでに並ぶ
ミントンのシャトルは明らかに浮いている
「あの人達らしい・・・でも、ありがとうね。」
「落ち着いたら明日辺り サニーも
連れて来てやるから早く傷を治せよ?」
「サニーもお見舞いに行くの楽しみにしてたネ!」
「そう・・・楽しみだわ。」
嬉しそうに笑いかける彼女と対照的に
の顔は 入室してからずっと沈んだままだ。
「今回の事は・・・・本当にすまなかった。」
「もう・・・気にしなくてもいいって言ったのに・・・」
「そうとも、あれは殿では無かったのだ
少なくともお主が責を負うことは無い。」
あの後、事件の関係者という事で月詠と当人を
交えて全容を聞かされている為
彼女も"ジャック"の存在を認識している。
「分かってるじゃないかお嬢ちゃん・・・・しかし
病み上がりでも見舞いに赴くとは君も相当タフだな」
「甘いアルな〜銀ちゃんもどき、こいつにとって
三途行きと大怪我は日常茶飯事ヨ」
「おお、言い得て妙だな神楽」
「間違ってないけど否定して二人とも!ここ病院!!」
縁起でもないボケをかます二人へ新八のツッコミが
入るが それでも彼の顔色は冴えない。
「ホラよ。」
と、突然 銀時が腕を突き出して刀を差し出す
受け取り・・・・本人はそれが愛刀だと気付く。
「共和刀・・・銀さんが持っていてくれたのか。」
事件のゴタゴタの際、うやむやになっていた
その白刃は しばらく彼が預かっていたようだ。
「ああ、テメーがどうしても申し訳ないっつーなら
ついでにここで切腹しとけ切腹。」
「死ねってか!?ここで死ねってか!?」
「安心しろ、介錯は私が勤める故痛みは」
「お前も真に受けるなよ!許してくれたんじゃないの!?
ひょっとしてまだ恨んでる!?」
一貫して無表情な為、相手の発言が冗談か
本気か掴めず彼は本気で冷や汗を垂らす。
そんな二人の掛け合いを尻目に
「銀ちゃん、リア充始末するなら切腹より
もっと効率的で屈辱的なヤツのがいいアルよ。」
「始末すること前提なの神楽ちゃん!?」
ダークな顔した銀時と神楽が恐るべき計画を口にする。
「の家の玄関に大量の犬のウ○コ仕掛けて
素足で踏ませ続けるってのどうネ?」
「甘ぇな神楽、襖開けたと同時に上に
仕掛けた黒板消しを置いてチョーク粉まみれに・・・」
「小学生かアンタら!?」
「回りくどいな 始末するなら一息にバッサリ」
「アンタは空気読んで発言自重しろぉぉぉ!!」
ツッコミが冴え渡る中、は無言で
発言元のバカ二人をどつき倒す。
「全く・・・あいつらは見舞い先でも
騒がなきゃ気がすまないのかねぇ?」
溜息交じりのカズへ彼女はクスクス笑いながら答える
「それがあの人達ですから。
でも・・・どうしても償いたいの?」
「ああ、これじゃ収まりが悪い。」
真剣に頷く当人へ、そうね・・・とアゴに手を置き
「そうだ、あなたからここでハグしてくれたら
全部許してあげていいわよ?」
はそう言うと笑顔で手を広げた。
「な、なななな何でよりによってこんな人が多い所で
やんなきゃいけないんだよ!?」
「じゃあ許してあげない。」
「・・・退院してからじゃ駄目か?」
「駄目、今すぐ。」
顔を真っ赤にして狼狽しまくる彼に気付かれないよう
「おっしオメェらはやしたてっぞ。」
「ですね」
「準備はいいアルか?」
「無論だ カズ殿は?」
「OKだ、手はず通りにな。銀時。」
目配せし・・・全員が合唱を始めた。
『ハ〜グしろとはやしたて、ハ〜グしろとはやしたて
ハ〜グしろとはやしたて』
「何で"てんとう○のサンバ"!?
ていうか、みんなしてはやしたてんな!!」
だが、はやし立てる彼らの合唱の制止は
全くと言っていいほど聞き入れられずに
仕方なく、覚悟を決めをハグしようと腕を伸ばし
「他の患者さんに迷惑なんだよ!病院で
騒ぐんじゃないよロクデナシ共がぁぁぁぁぁぁ!!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
―乱入した鬼の師長が、以外を蹴り飛ばした。
「ホントにあんたらいい加減にしないと
ブラックリストに載せるぞコラァァァァァ!」
「何するアルかババー!・・・あれ?どしたネ」
「い・・・今、川向こうの父上が手を振って・・・」
「おお!よく聞く臨死体験ってヤツか!
出来たらお袋にあって冥土の土産でも」
「アンタだけ冥界に帰れぇぇぇ!!」
病室で新たな事件が起こりかけているのをスルーし
「オイ馬鹿師長!騒ぎ起こしてた原因はそこの
バカップルだっつーの、なのに何でそいつだけ
蹴り飛ばさないわけ!?」
銀時が被害を免れた男を指差しながら糾弾すれば
師長は・・・女の顔で頬を赤らめ俯いて
「だって・・・いい男じゃないの・・・」
は直後に吐き気を覚えて首を前へ倒す。
「ウボェェェェェェ!
ちょ銀さん、何衝撃的な事実を発覚させてんだ!!」
「俺のせいじゃねぇぇぇ!むしろ二次被害!!」
こんなやり取りの後、笑顔で笑い出し
師長が暴れだしたり三途行き事件など
やたらと騒がしい出来事が目白押しとなったが・・・
「ねぇ、。」
「何だ?」
喧騒の納まらぬ病室で、彼女はそっと
愛しい人の手へ自らの手の平を重ねる。
「私達も子供産む事になったら・・・
ジャック伯父様の分まで大切にしようね。」
「・・・・ああ、わかったよ。」
彼は その手を両手で強く握り返した。
彷徨う殺人鬼の魂は浄化され、江戸に平穏が戻ったが
二人は 永遠に忘れないだろう・・・・
哀しい行き違いが原因で道を外してしまった・・・・
"ジャック・ザ・リッパー"のことを・・・
とは、彼の分まで懸命に生きることを・・・
人を愛することをやめないよう お互いの心に
強く固く誓ったのだった。
トゥー・ジャック編 完
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後書き(退助様サイド)
退助「さあ、ある意味夏なノリで始めてしまった
このオリジ長編も終結しました!」
全員『ご拝読ありがとうございました!』
新八「ジャックさんも結局、哀しい行き違いで
不幸になってしまったんですね・・・」
神楽「タイミングが悪すぎるアル・・・」
月詠「奴がもう少し・・・アヤツ程辛抱強ければ
まだ分からなかったかもしれんがな。」
カズ「結果はどうあれ、ジャック・ザ・リッパーの
魂は救われた。これでいいのさ。」
近藤「あのさ、俺達出してくれたのはありがたいんだけど
・・・これと言って見せ場がなかった気が」
退助「何言っちゃってんの、あったじゃん5話とか。」
近藤「いやそこ主にトシだよね!?」
沖田「ちゃっかりあのピーマン娘も参加してたから
出番少なかったのは俺だけでぃ。」
銀時「ちなみに俺も殆どねーぞ。」
土方「ラストの見せ場作ったクセになーに
抜かしてんだ天パが、あん?」
銀時「んだよ見せ場なくして拗ねてんの大串君?」
土方「誰が大串君だゴルァァァァ!!」
退助「最後の最後で喧嘩かよ・・・いい話台無し」
ビッグボス「ふ・・・若いとは、いいものだな。」
This story is dedicated to "two Jack" and the reader
―Thank you for reading!!