素早くかつ的確に、急所を狙うの刀が唸れば


その先を読み、銀時の木刀が攻撃を防いで

勢いを殺さぬまま反撃へと転じる。


刀と刀の交わり合いに応酬される力は凄まじく


端から見れば・・・いや、最早それは
人間同士の戦いでは無かった。





「ぜ、全然動きが読めない・・・!
これが銀さんとさんの本気・・・・!


「どちらも・・・・化け物じゃな。」


「でも、アイツは人格別人のハズなのに
あれだけ強いっておかしくなアルか?」


「それについては私から説明させてもらう。」





現れたビッグボスへ、彼らは驚きも露わに
来訪の理由を訊ねようとするが


短く断りを入れてから 相手は言葉を続ける。





「賢者達は、殺人鬼の残忍さとジャックの戦闘能力
双方を兼ね合わせようとした それがこの結果なのだ。」





語りの合間にも、共和刀の一突きが銀時を襲うが


それを木刀の腹で受け、彼は力の向きを逸らし


受け流しておいて逆袈裟に切り上げる


しかし寸前で退いたため切っ先は虚空を掠めるのみ。







「アンタの正体はさて置き・・・一体どういう事でぃ?


目を眇める沖田へ ビッグボスは顔を僅かに向けて





「単純な事だ・・・奴らは現代で最強の兵士である
ジャックと史上最悪の殺人鬼と組み合わせる事によって
戦場において、最強の兵士を築き上げようとしたのだ。」


強ぇモン同士足してやればより強くなるってか?
・・・それ、馬鹿の考えじゃねぇか。」





傷の痛みに顔をしかめながらも取り出した煙草に
火をつけ 煙と共に言葉を吐く土方。





「そうさ、何とも馬鹿な考え方だ。

いくら戦闘能力が高くとも、精神に異常がある
殺人鬼の人格を足して最強の兵士など誕生しない。


・・・最悪の"人間"が完成するだけだ。


「なるほど、それで得心がいった・・・・
あの男があのような事を抜かすはずもない。」


静かに頷く月詠の言葉に同意しつつも


ハッと、近藤があることに気付いて言葉を紡ぐ。





「だったら、君を元に戻せるんじゃないですか?
その殺人鬼の人格とやらを追い出してやれば・・・!





名案とも思える発言に周囲が俄かに明るさを取り戻す





が、緩く首を振りビッグボスはその希望を打ち壊す。


「申し訳ないが・・・現時点では何も方法は無いんだ


我々に出来るのはジャックが気絶した後、アメリカに連れ帰り
治療手段が見つかるまで 彼を幽閉する事だけだ。」











第八話 立場や年齢は横にどけといて
言動にある程度は責任と想像力を持とう












息を呑むほどの沈黙が 降りたのは一瞬





ちょっと待ってくださいよ!それって・・・」


「言わんとする事は分かるが・・・元に戻るまで彼を
外界から隔離するしか手段は無いんだ。」


「待ちなぃジーさん、万一旦那が元に戻んなかったら
アンタ・・・そん時ゃどーすんで?」


「方法が見つからなければ・・・やむを得んが
・・・相応の処置を、取るしかないだろうな。」


「何寝言抜かしてるねジジィ!?
それって・・・殺すってことアルか!!」






襟首を掴む神楽の仕打ちを 敢えて振り払わず
ビッグボスは淡々と言葉を述べる。





「仕方が無かろう、放っておけば彼は新たな犠牲者
望まずとも生んでしまう・・・そうなる前に」


「外野でざけた事言ってんじゃねぇぞジジィ!!」





六人の口が怒号を上げるよりも早く


相手と斬り結びながら、銀時が彼へと怒鳴った。





「もうボケが始まったのかジーさんよぉ
アンタの依頼はを止めてくれ。』そうだろ?」


その通りだ、しかし彼を救う方法はまだ無い。

相応の処置を取らねば・・・もっと多くの
罪無き人々が犠牲となる そうなっては遅いのだ。」


「高説ご尤も・・・だけどよぉ、テメェも結局
あのアホジジィアホ賢者とやらと同じで
頭ガッチガチに固ぇんじゃねぇのか?」





腕を斬り飛ばしかねない刃を寸前で跳ね上げ





「仮に犠牲者が出なくなるとしても・・・それだと
が新たな、最後の犠牲者になんだろうが。


続けられた銀時の一言が、ビッグボスの目を覚まさせた





「そうだ・・・私は・・・
また、同じ過ちを犯す所だった・・・!


「心配すんな、年食ったら頭固くなんのは当たり前ぇだ
それにこいつは・・・必ず救ってやっから安心しろぃ」


「死合の最中に何処見てやがんだ!さっきから
俺を省いてベラベラさえずってんじゃねぇよ!!」








苛立ちの募ったの蹴りをモロに受け


一瞬防御の遅れた銀時が、壁に叩きつけられる。





『(銀ちゃん・銀さん・万事屋・銀時)!!』





身を起こす彼の喉元へ白刃を突きつけながら

注がれるのは・・・怒りに満ちた紅い眼。


「俺を怒らせたようだな・・・
お前は体を細切れにして殺してやる!!


「そういやよぉ・・・テメェの事聞いたんだが
何だって売春婦ばっか殺しまわってたんだよ?」


「・・・何を今更?」


「ブサイクにでも引っかかったか?性病移されたか?
それともボッタクリで全財産巻き上げられたか?


んな事で殺してたら後で怖ーい兄ちゃんが
わんさかやってきてフクロにされんだぜ?」





口から血を流しながらも、ニンマリと笑う銀時


・・・対するの表情は更に強張るばかり。





「そんな安っぽいモンじゃねぇんだよ・・・

俺は・・・俺をジンジャーに産んだクソ女達を
この世から一掃してやりてぇんだよぉぉ!!








血を吐くような言葉に混じる聞きなれない単語に
馴染みの無い江戸の面々は 眉をしかめる。





「ジンジャー?」


「ま・・・まさか奴の母ちゃんって歌手なのか!?」


「いや、それ"シンガー"だから近藤さん」


「土方の首吊るのにうってつけの、赤い鳥居とか
あるトコでさぁ近藤さん」


「ぬし・・・それは"神社"では?」


「お前らボケ合戦もいい加減にするヨロシ
でジジィ、それ何処の戦隊モノアルか?」


脱力しそうになりかけながらも彼は答える。





「お嬢ちゃんも間違っている・・・

ジンジャーとはな赤毛に色白の肌、そばかすを
特徴とする 劣性遺伝の人に対する蔑称だ。」


「それ何処の赤毛の○ン?」





聞こえてたらしい銀時もボケ合戦に参加するが





「それ位 彼が明るく人生を過ごしていれば
こんなことにはならなかったが・・・」


ビッグボスと、発言者当人は見事なまでのスルースキルを発動した。







「そうさ、俺は売春婦だった母親に捨てられた

ジンジャーは病弱だから金が掛かる・・・それだけの
ただそれだけの下らない理由でな!!」


だったらテメェのお袋さんだけ殺せよ
他の奴ら手にかけんのはお門違いじゃねぇのか?」





突き放したように言い放つ土方を、彼は鼻で笑う





「言われなくても行動した・・・が実行する時に
あの女、アメリカの男の元に嫁いでいきやがってて
既に・・・国にはいなかったんだよ。


だから俺は、俺の様な奴らが生まれないよう売春婦を
ぶっ殺すと誓った!あいつらはこの世の癌なんだ!!



偏見としかとれないその言動に、月詠が答える。





「ぬしは勘違いしておる・・・遊女の中にも立派に
日々を生きるものがいる!日輪の様に子供を大事にする者がいる

全員をぬしの母親と一緒にするな!!


「売春婦に傾倒してる奴は黙ってろ!!」





あからさまな殺気を見せる


「オィ殺人鬼さんよぉ・・・黙って聞いてりゃ
ガキみたいに駄々こねて、いい加減にしとけよ。





より鋭く強い眼光で、銀時は睨みつけて続ける。





「テメェの母ちゃんがどんだけダメ人間かは
知ったこっちゃねぇけど・・・その腹いせで他の奴を
殺すってのはご法度だろ 違うか?


「・・・黙れや・・・・・!」


「そんなに売春婦がいるこの世が嫌ぇなら・・・
あの世で一人マスでも掻いてろマセガキが!!


「黙れ黙れ黙れと言ってるだろうがぁあぁぁ!!!」





首を斬り落とそうと横薙ぎに振られた刀は
寸前で、木刀に阻まれる。





お前に何が分かる!ジンジャーと馬鹿にされ続け
親にも捨てられた俺の気持ちがよおぉぉおぉぉ!!」



「分かるかよ・・・分かりたくもねーよ
殺す事しか能のねぇ下衆ヤローの気持ちなんざ。


瞬間、頭に血が上った彼が再び蹴りを見舞う。


横側の衝撃に耐え切れず吹っ飛んだ銀時を追いながら





「死ねや侍がぁぁぁぁぁ!!!」


共和刀を突き立てようとが迫る。





体勢を整える銀時だが、バランスは崩れたままで

とてもではないが回避が間に合わない。





「まず・・・!?」


「「銀(さん・ちゃん)!!」」







切っ先が身体へ深々と沈み込み、僅かに血が舞った







その刀の先には・・・・直前で銀時を庇い
前へ出たがいた。





「て、テメェ・・・!」


ぐ・・・うう・・・!
あ、ありがとう・・・同じ場所に刺してくれて・・・!」





まさかの出現に戸惑う相手を、彼女は脇腹へ突き刺さる
刀の痛みに耐えながら抑え込む。





さん!!」


あの女・・・入院してたんじゃねぇのかよ!?」


「いけない!ローズ君!その怪我では無理だ!!


しかし、は周りの声を無視したままで彼を見据える。





「離せ・・・!」


「い、嫌よ・・・!」


「離せ、離せ!離せ離せ離せ!!


「絶対離さない・・・!」


「だったら今すぐ殺してやるよ!!」





紅い眼を血走らせたがナイフを取り出し

その左肩へと刀身を沈み込ませる。





「うあああぁぁ!!」


新たに鮮血が吹き出るが、その細腕は離れない。





「「!!」」


「もういい、俺の事はいいから
そこから逃げろ・・・このままじゃお前が!!


「ぜ、絶対離さない・・・助けられてばかりは
もう嫌・・・今度は、私がを救うんだ!





根元までナイフを潜らせながらも、対峙している
彼の顔はどこか苦しげでさえあった。





「お前が一番気に食わなかった・・・俺を捨てた
あの女に似てる、その面が気に食わねぇんだよ!!」



「そんなのこっちは知ったこっちゃないのよ・・・!
早く、の体から出て行きなさい!!







引き抜かれたナイフが新たに身体を傷つけるより早く


が、右手に握り締めた注射器をその首へ刺す。





「グ・・・な、何を打った・・・!


慌てて刀から手を離し 首を押さえながら
後ろへと下がるが・・・既に投与は終わっている。


同時にへたり込んだ彼女の元へ全員が走り寄る





「大丈夫ですか!?」


無茶苦茶ネ!女の身体に傷がついたら
取り返しつかないアルよ!!」


「ごめんね・・・余計な心配かけて」


「にしても、あの深手で病院抜け出すたぁね」


「おまけにこんな無茶しやがって・・・
急所に刺さったらどうするつもりだったんだ!?


「で、でも・・・これで・・・」


「喋らなくていい!すぐに止血するんだ!」


「傷はそう深くない、ここで一旦血を止めるから
ぬしは体が動かぬように固定しなんし。」





彼女を取り囲む面々へ斬りつけようと踏み出して


が、頭を抑えて苦しみ出す。


「な、何だ・・・!頭が・・・割れる!!
何をしたんだ・・・お前ぇ・・・!!」






か細い息を吐きながらも 相手は答えた。





「ドレビンさんからもらった、人格データを消すため
ナノマシン注射よ・・・これでアナタはまもなく
の身体から、消えるのよ・・・!」





ビッグボスが、驚かされたように左目を見開く。


あの男、そんなものを作っていたのか・・・・!」







足元をふらつかせながらも





「こ、こんな所で消えてたまるか・・・!

俺は・・・俺は俺は俺はっ、この世の腐敗物である
売春婦を根絶やしに・・・!!



ナイフを振り上げて迫る彼の眼前に躍り出て





「腐敗してんのはテメェだ イカレ殺人鬼。」





木刀を大上段に振りかぶった銀時が、





「汚物を消毒してぇんなら・・・まず自分を
消毒してからにしろや、このドラキュラ野郎!!」



そう叫び、渾身の力を持ってを・・・いや

殺人鬼ジャック・ザ・リッパーを叩きのめした。





倒された彼は立ち上がる力を失って 仰向けになる





(俺は・・・自分を捨てた、あの女を・・・
殺したかった、それだけなのに・・・・・・)


ぼんやりと宙を仰ぐジャックの頭の中に・・・

子供の頃の記憶が 蘇ってきた。









彼女の母親は他の男を連れて家を出て行った。





『私にジンジャーの子供なんていらないわ
何処にでも・・・好きな所に行きなさい。』


別れ際言い放った顔はにそっくりだったが


その瞳は、とても腹を痛めて産んだ子へ注ぐ
モノではなく・・・汚物を見るかのモノだった。





引き取られた孤児院も、安息の地とは成り得なかった


『ジンジャーとは遊んでやらねえよ!あっち行け!


『ジンジャーと遊ぶとバカがうつる!』





他の孤児からの苛めと軽蔑が年を追うごとに
酷さを増し・・・耐え切れず彼はそこを脱走した。







浮浪児となったジャックは強盗等を繰り返しながら

ゴミ溜めばかりのスラムに紛れて生き繋いでいた。





(なんで俺が、こんな目に合わなきゃならない・・・

どうして・・・外見だけで見下されなきゃならない・・・


こんなことになったのは・・・あの女のせいだ・・・!


生きる糧として募らせていた恨みの念はいつからか
彼の中で立派な"殺意"として芽生え


ジャックは自分をこんな人間へと貶めた母親を
殺そうと決意し その日を生きていた。






しかし、成長しいくら探してみても母親は見つからない。





昔 母と遊んだらしい男をようやく探し出し
その行方を尋ねてみれば


ああ、あいつならアメリカに渡ったらしい。
なんでも足を洗って航空会社の社長と結婚したとさ。」


お気楽な調子で言われ、彼はしばし目の前が暗くなった





"自分ばかり幸せになりやがって・・・!"





標的の喪失と 己を忘れ幸せになった相手への怒り


そして何処にもぶつけようの無い殺意が

ジャックの中で蟠り・・・歪んだ結論を生み出した。







・・・・・・そうだ、母と同じ人間を殺して回ろう


そうすれば自分の様な子供が生まれてこない


そう、これはジンジャーを無責任に作り出す
女達へ対する、俺達の復讐なんだ!








彼は成人した後 路地裏に屯している娼婦を
見つけると・・・言葉巧みに誘い出した。





ねぇ、何からして欲しい?」


「そうだな・・・」


色っぽく絡みつく腕や視線に笑いかけながら
ナイフを取り出したジャックが





「二度と子供を産めなくしてやる!」


彼女の腹を悲鳴が途切れるまで滅多打ちに切り刻んだ。





怒りの赴くまま、何人もその凶刃にかけ

そして何人殺したかも分からなくなった頃・・・





彼は何者かに捕らえられて、奇妙な機械を取り付けられ


そこからの記憶がふつりと途切れた。









長いようで短い思考の後、彼の意識は現実へと戻る





「俺は・・・単に母親が憎かっただけなんだ・・・

なのに・・・なのに・・・何で俺はこんな身体
こんな、辺境の地にいるんだよ・・・?」


呟かれたその声は、今までとは比べ物にならないほど
ひどく哀れで弱々しかった。





応急処置を施されて横たわっていたの側


振り返り、ビッグボスがその疑問へと答える。





「お前は賢者達に捕らわれ、精神をナノマシンに
移植された・・・人格を戦争に利用する為にな。」


「じゃあ、本物のジャックさんは・・・?」


「用済みとして消されたか 廃人同然で放り出されたか
・・・・どちらにしろこの世にはおるまい。





ジャックは、ただ上を向いたまま表情を変えずに問う。





「なぁ、俺は・・・どうなるんだ・・・?」


「人格データを削除するためのナノマシン注射を
打ち込まれたのだ・・・直にお前は消えてなくなる。」


「そうか・・・・まあ、どうでもいいか。
あの女がいない世界なんて・・・生きる意味がない・・・


諦めたように、ジャックはそっと目を瞑った。







気付けば 彼は一人暗い空間に蹲っていた





(俺は一人だ・・・ずっと一人でいるんだ・・・


俺の欲しかった家族は・・・何処にもいない・・・

・・・最初から、ありはしなかった・・・・


闇の中の彼さえ眼を閉じ そのまま眠りへと就こうと―







『ジャック・・・・ジャック・・・・』





刹那、自分を呼ぶ声が耳に入って

目を開けたジャックの視界に飛び込んだのは


笑顔を浮かべた、捜し求めていた母親だった。





「・・・母、さん・・・!?」








――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)


退助「殺人鬼との人外な戦いも終わり、彼の
暗くも切ない過去も明かされ・・・」


銀時「おいコラジーさん、救いてぇっつっときながら
何しれっと殺そうとしてんだよ あん?」


ビッグボス「本当に申し訳なかった・・・・
自分でも、あの時はどうかしてたとしか思えん。」


退助「まあ仕方ないじゃん、あの時点じゃ他に
方法がなかった認識なんだから。」


新八「いやいやいやいやちょっとぉぉ!!
アンタ作者なのにそれで主人公殺す気ですか!?」



退助「あ・・・・・」


カズ「今気付いたみたいなツラしたぞこいつ
よし、やっちゃってくれジャック・ザ・リッパー。」


ジャック「任せときな、俺が最高と思える殺り方で
ころs・・・あれ?作者何処行った?」


神楽「いつの間にか行方眩ましたアル・・・でも
ホシはまだ遠くには行ってないハズよ!!


退助(は、早くどっかに行ってくれ・・・!
ステルスマント持ってる手がもう痺れてきた・・・!)