真撰組屯所へ戻った土方へ、事件の洗い出しが
終わったらしい山崎が歩み寄っていた。





「山崎、奴らの共通点は?」


「はい!俺達が追ってた志士達と今回襲撃された
攘夷浪士達の情報を調べ回ったところ・・・

双方とも、ある方法で資金繰りをしていた事が判明しました。」


「やっぱり・・・奴ら女を売ってたか





その呟きに、彼は猫に似た目を丸くする


「よく分かりましたね・・・仰る通り売春婦使った
稼ぎと美人局であこぎにやってたみたいですよ?」


「俺もこのメモを解読してもらって分かった
どうやら奴さん 売春婦を憎んでるらしい。」


「え・・・おかしくないですか?売春婦を
憎んでるなら、大抵は直接女に手を下すもんじゃ」


「そこまでは分からん・・・だが、この件
はシロだろ あいつにそんな動機はねぇ。





それを聞き、山崎は少し安心したように笑う。


「ええ、旦那は母親に恵まれていましたからね。
そんな殺人なんて犯りませんよ。」


「ああ・・・全部振り出しに戻っちまったけど
あの女へ話してやれば、ちったぁ落ち着くだろ。」







一息入れて煙草を取り出した土方の前に


泡を食った様子の隊士が駆け込んでくる。





「副長!」


「今度は何だ?」


さんが・・・刺されました!


二人の顔色が、一瞬にして緊張を帯びる


「何!?容体は!?」


「一撃ながらかなりの重症らしくて
近くの病院へ搬送されたそうです!」





土方と山崎は すぐさま病院へと向かった。











第五話 殺人犯人は二度首を絞める











発見と処置、それと手配が早かったため
命に別状はなかったものの





病室のベッドに横たわったままの


未だに固く目を閉じ 意識が戻らぬままだ。







「どうして・・・・どうしてこんなことに・・・」





傍らにはカズとサニーの他に、事態を
聞きつけ駆けつけた妙が彼女の快復を待っている。





「あの角度・・・どう考えても自殺じゃない。
何者かに刺されたと思うのが妥当だろう。」


静かに呟く彼の 服の袖を握りしめ
黙ったままでサニーはベッドを見つめている。







「・・・・う・・・ん・・・」





瞼を震わせ、目を開いたへ三人は詰め寄る





「ローズ!」


ちゃん!よかった・・・!」


「大丈夫か?俺達がわかるか?」





見下ろす不安げな視線に囲まれたそのまま


彼女は辺りを見回し、何かを思い出すように
ぼんやりと天井で視線を固定させ





「私は・・・・・・・・・・!!」





焦点が定まってきた―次の瞬間


「イヤ!!イヤァァァァァァァ!!」





大きく目を見開き、引き裂かれるような
悲鳴を上げながら突然暴れ始めた。








咄嗟にカズと妙がその動きを押さえ込む。


「落ち着いて!
誰もあなたには危害を加えないわ!!」



「いかん、パニック発作だ・・・
サニー!ナースコールを!!


「は、はい!







コール用のボタンを押した後
対応した看護師が通話越しの絶叫を聞きつけ





『ただいま駆けつけますのでお待ちください!』


事態を把握し 宣言通り5分と掛からず
医師と共に病室へと入ってきた。





「すぐに精神安定剤を!」





ペン型の注射器を取り出した医師は、抑えられた
彼女の首へ慎重かつ迅速に注射する。





はあ・・・はぁ・・・は・・・・」


即効性らしく 興奮と同時に行動も落ち着いてゆく





「よかった・・・・」


サニーがほっと胸を撫で下ろす。





「流石に軍人さんだけあって的確な処置ですね
所で・・・パニック発作って?」





問われてカズは グラサンをちょっと持ち上げ





「ああ、パニック発作は脳の中に残った恐怖体験や
ショックが蘇って起こる症状だ。

最悪の場合、精神が崩壊しかねない。」


「お妙さん・・・カズさん・・・一体ここは・・・」


「病院よ。あなた、寝室で倒れてたのよ?」


「迅速な応急処置もそうだが、刺さったままの
ナイフが栓になっていた事が不幸中の幸いだった。」


冷静に告げる医師に、看護師も重々しく頷く





「そうでなければ今頃どうなっていたか・・・
考えただけで恐ろしいです。


「傷口が開いた様子も無さそうだし・・・・
それでは、私は失礼させていただこう」


「また何かありましたら呼んでくださいね?」





それぞれ一礼し、病室を出る二人を見送る彼女


精神安定剤の効果か塞ぎ込んでいた時より
落ち着きを取り戻しているようだ。







それを見計らい カズが改まって口を開く。





「ローズ、つらいだろうが・・・
何が起こったか話してもらえないか?」


「その情報、俺達にも聞かせてもらおうか。」


ピシリと言い放ち 病室へ土方と山崎と
沖田が足を踏み入れる。





張ってた相手の身内が刺されたとなりゃ
手がかりになる証言が拾えるかと思いやして」





男三人の前へすっと妙が出て、睨みを利かせる。





申し訳ありませんがご協力はできません

今、この子の精神は不安定なんです
なのに事件の話なんて出来るわけ無いでしょう?」


「そっちはそっちで何か分かってるんだろう?
なら今は帰ってもらえないかマフィア警察24時」


「誰がマフィアだ!チンピラじゃねぇのかよ!!」


副長!チンピラでもないですから!!」


「チンピラっつーかゴロツキですがね、土方が」


「上等だテメェェ!叩っ斬ってやるから
そこに直りやがれぇぇぇ!!」



場所を省みぬ二人のチャンバラがおっ始まるが





「みんなやめて!話ならするから騒がないで!!」


の叫びが 全てを止める。







「・・・ああ、すまんな。」


ばつが悪そうに刀を納める土方を横目に





「それで、一体何が起こったんでぃ?





問いかける沖田の言葉に俯き、彼女は
意識が途切れる直前までを語り始めた・・・











戻ってきたに無理矢理キスをされ





「や・・・・やめてよ!





強引に行為へ及ぼうとするその腕と身体とを

暴れながら、は引き離した。







「・・・なんでだ・・・」





呆然とする彼へ息を整えながら身を起こし





「さっきから何よ・・・!あなた、そんな人を
見下した事なんて一つも言ってなかったでしょ!!」



彼女は、距離を取りながら相手へ強く言葉をぶつける





徐々に強張っていくその顔を睨みつけ


「そんなこと言うあなたはじゃない!!
早く、出て行って!!






叫んだ瞬間、は首を掴まれ再びベッドへと押し倒された。





黙れぇぇぇぇぇ!!お前まで俺を拒むのか!!
そこまでして俺の存在を否定するのかぁぁぁぁ!!」



「何を・・・訳のわからないことを・・・・!」





首を絞める手は徐々に強さを増していたが、


「・・・・・・・・もういい。」





突然 その手があっけなく離され


「お前なら俺を理解してくれると思っていたが・・・
お前もあの女と同じなんだな。」


彼は、意味が分からない事を口にする。





「俺のものにならないなら・・・・・」







言葉が途切れると同時に腕が微かに動き


の脇腹へ ナイフが深く突き立てられた。





「な・・ん・・・で・・・・・!」







襲い来るあまりの激痛に意識を失う寸前





「お前はここで・・・死ね。


紅い眼で見下ろすの姿が網膜に焼きつき


その言葉を最後に、彼女の意識は途切れた。









話を聞いた全員は・・・信じられないと
言いたげに顔を強張らせていた。





誰よりもを大切にし


何者からも護ってきたが・・・・・


よりによって自らの手でその愛しい命を奪おうとしたから。





「ひどい・・・」


「あのジャックが・・・」


「正直驚いたが・・・これで容疑が固まった
やはり、奴はクロか。」





あるまじき発言を耳にし、発言者である土方の胸倉を掴むカズ。





「ジャックが・・・こいつを泣かせるような
真似をすると思ってるのか・・・!」



サングラス越しに睨みつけるその視線も
言動もまた静かではあるが


まといつかせた怒りは凄まじく大きい。





「ジャックは誰よりも人を愛している・・・
そんな奴が人を殺せると思っているのか!!


「ちょっとカズさん落ち着いてください!」


「土方さん・・・ちったぁ場所柄考えて
発言してください、アイツじゃあるめぇし」


こいつの証言が何よりの証拠じゃねぇか
最早、あいつ以外いねぇんだよ。」


「貴様はまだ抜かすか!!」


耐え切れずカズが拳を振り上げ





「もうやめてよ!!」





サニーの必死な叫びが、全員の動きを止める







「みんなジャックが殺したジャックが殺したって
・・・ジャックの事一つも心配してないでしょ!!





涙交じりの声に沈黙が落ちて


カズは、上げた拳も掴んでいた手も離す。





「少しはジャックの事を信じてあげられないの!?

ジャックは誰よりも優しかった・・・
私が指名手配犯に襲われた時も助けてくれた・・・


ジャックは無実よ!!ジャックは誰も殺してない!!






わっと大声で泣き出したサニーに、山崎と妙
それとカズが戸惑い始める。





「わかった、わかったよサニー 俺が悪かった・・・」


「謝るんならジャックに謝ってよ・・・!」







居た堪れない空気の中、土方は淡々と踵を返す





「・・・邪魔したな。」


副長!!少しは申し訳ないと思わないんですか!?」


「知るかよ、行くぞテメェら。」


呼び止める山崎の声も聞かず 彼は振り返らず
病室から出て行った。







スイマセンねぃ・・・あの野郎不器用で
あれでも旦那の事、心配はしてんですよ。」





嘆息しつつ言う沖田だが、はただ無言。







「ホントーにすみませんでした皆さん・・・
それじゃ俺達もう行きますので。」


ペコリと礼をして二人もまた病室を去る。





黒い制服姿が視界から消え、カズは小さく毒づいた


「何なんだ連中は・・・あれでも警察か・・・!?


「柄が悪いのは元からですけど、ストーカーゴリラより
性質が悪くなってしまうなんてね。」


「ストーカーゴリラ?何のことだ。」









病院の門の前で煙草を吹かす土方へ歩み寄り

開口一番、言葉を発したのは沖田。





「土方さん・・・あんたついに
人間としての尊厳も忘れちまったんですかぃ?」


「知らねぇよ。」


「副長、それでこれからどうするんですか?」





彼の脳裏に 先程のサニーのセリフが木霊する。





『ジャックは誰よりも優しかった・・・』


誰よりも優しかった・・・か・・・」


「副長?」





首を傾げる山崎に答えず、土方は地面に捨てた
煙草の火を踏み消して


「俺ぁあいつみたいに優しくなれねぇが・・・
あいつを、止めることは出来る筈だ。


「土方さん・・・それじゃ・・・」





短く頷き 淡々と言う。





「オメェら・・・の奴を止めに行くぞ。」


「でも、旦那が何処にいるのかも・・・」


「検討は付いている。」





彼には・・・強い確信があった。





「奴が次に行くのは・・・売春婦の溜まり場
・・・・・・吉原桃源郷だ。」












地下の色街へと続く 人気の無い通路で





よぉ、いいトコロで会ったな」


声をかけられ、振り返った作務衣姿の少女は

珍しく面に驚きを浮かべ立ち止まる







原因は血塗れの野戦服でも
薄くまとった不穏な気配でもなく


理由の分からない 強烈な違和感のせい





殿・・・か?どうしたその姿は」


「なぁに、少し腹いせにうっとおしい
攘夷浪士どもを全員ぶち殺してただけさ」


ニマリと笑うその顔はどこか歪んでおり





"彼女"はすぐさま表情を固くし距離を取る


「・・・・・・お主は、誰だ


「誰ぇ?オイオイ何言ってんだよ
どっからどう見ても だろ?」


冗談めいた仕草で首を傾げる彼だが





相手は 闇を宿らせた緑眼を眇めるのみ





「嘘だ・・・よく似てはいるが言動と
何より、気配が違う


「・・・まぁあんな偽善者と俺は違うからな
俺の名前は「黙れ下衆が」





相手へ容赦のない言葉を投げつけ





「小賢しい猿真似を今すぐ止めぬなら
私の手で貴様の化けの皮を剥がして―」


彼女は信玄袋から取り出した槍を組み立て





まさにその直後


凄まじい勢いで伸びた手が喉元を圧迫しながら

彼女の身体を、手近な壁へ押し付けた






「こふ・・・っ!?」


「俺は俺としてここにいるんだ!
今更俺の存在を否定するんじゃねぇぇぇぇ!!」



ギリギリと容赦のない圧力が首へとかけられ


見下ろす血のように紅い双眸には

あからさまな殺意が宿っている





「ぐっ・・・が・・・・・・っ!」


もがく"彼女"を眺めるは愉悦の笑みを浮かべ





―刹那 思いもしない方向から自らの首へ
伸びてくる槍に気付いた


それは、加減をして打ち込まれる槍底ではなく


完全に殺傷を目的とした 刃の一撃







「っつ!」


咄嗟に飛びのくものの首の皮を浅く切り
僅かな鮮血が、彼の首から滴った





地に落とされ解放された瞬間に


咳き込みながらも相手は槍を構えつつ立ち上がる





「偽者め・・・息の根を止めてくれる!」


"眼前の相手への殺意"以外の気配を取り払い


人としての感情を一切合財捨てた彼女は

もはや情無き"亡霊"と化していた





「俺に傷をつけるとは・・・面白ぇなお前!」


白銀の刀を抜き放ち ""もまた
まとう気配すら変えて飛びかかる








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後書き(退助様サイド)


退助「えー記憶にある中で一番のシリアスに
突入したと思います。何気に首絞め二回入ったし」


妙「かわいそうにちゃん・・・ていうか
いつさんがああなったかって分かるの?


退助「たたた多分後2、3話後です。」


カズ「…前回も聞いたぞそれ?」


土方「ていうか俺をどんだけ人でなしにさせてんだよテメェは!」


沖田「なんてこった、土方が殺されちゃった!


カズ「この人でなし!」


土方「おまっ、死んでねぇし何気にタッグ
組んでんじゃねぇぞテメェらぁぁぁぁ!!」



退助「ていうか何でサウ/スネタ?」


銀時「おーいテメェら、主人公ハブかコルァ。
何気にアイツ共演かましてんのにあり得なくね?」


土方「黙っとけしばらくテメェの出番はねぇよ。」


カズ「そうだ、大人しく
夜のテレフォンショッピングでも見てるのだな。」


銀時「ざけんな極悪警察24時に変態馬鹿軍隊が。」


土方・カズ「誰がどぅぅあぁぁぁるぅえぇぇが
(極悪警察・変態軍隊)だぁぁぁぁぁ!!」