が殺人容疑で連行されて数日・・・
何一つ情報が入らず、愛していた人が殺人を
犯したと突きつけられた事実も受け入れられずに
無気力になったは自宅でただうずくまっていた
仕事はおろか食事すら取る気力も失せて
やつれた顔には 涙の筋が幾つもついている。
「お邪魔します・・・ちゃん、大丈夫?」
断りを入れて、部屋に妙とお良が入ってきた。
「軽く食べるもの持ってきたから食べな
あんた、ここんとこまともに食べてないでしょ?」
「ご飯食べたら、一緒に面会にでも行きましょう?
きっとあの人も喜ぶと思うわ。」
何とかスナック仲間を元気付けようと献身に
励む二人の言葉にも、当人は口を噤むばかり。
「・・・さんが突然逮捕されてショックなのは分かるけれど、
そうやってあなたが燻ってちゃ何にもならないわよ。」
「何もわかってないくせに口出ししないで!」
顔を上げ、声を荒げて彼女が叫ぶ
「覚えの無い罪で愛する人が逮捕されて
それでも平気でいられるわけ無いじゃない!
もう・・・もう私のことは放っておいてよ!!」
引き絞るような声に、嗚咽と涙が次第に混じる
「あ、あんたねぇ・・・お妙がどれだけ
あんたの事心配してたと思ってんの!
そうやって悲劇のヒロイン気取るのもいい加減に」
「お良ちゃん!」
癇に触ったお良の檄を差し止めて
「・・・ちゃんの辛さは十分分かっているつもり
でもね、あなたがさんを信じないで
一体誰があの人を信じてあげられるの?」
泣き伏せる彼女の顔を覗きこむようにして
妙は諭すように言葉を紡ぐ。
「女たらしの金髪リーゼントでも機械オタクでも
筋肉女や下痢男なんかじゃない・・・あなたが
あなたが救わないで、誰があの人を救えるの?」
黙ったまま俯く相手へ 妙は優しく微笑みかける
「彼に"本当に"必要なのはあなたなのよ
・・・それだけは忘れないで。」
お良へ目配せし、二人は頷いて立ち上がると
「それ・・・置いておくから気が向いたら食べて」
「お店の方は私達が店長を言いくるめておいて
あげるから心配しないで 何かあったら連絡して。」
口々にそう言って 静かに屋敷を後にする。
「・・・私だって・・・信じたいわよ・・・・
けど、どうすればいいのか・・・分からない・・・!」
二人が帰り、再び一人取り残された空間に
空しく彼女の涙声が響く。
「お願いだから・・・帰ってきてよ・・・・・・!」
第四話 ヒロインは悲惨な目に合うのが通例
一方 脱走が起こってからも、情報を伏せつつ
の捜索を行っていた真撰組だが
状況は一向に進展しなかった。
「テメーらも知っての通り、相手は世界を救ってきた猛者だ
・・・注意して虱潰しに探せ
妙なダンボールなんかも要注意対象だ。いいな?」
『おおっ!!』
徹底した統制の元、どれだけ検問を敷いても
どれだけの人数を割いて街中を捜索しようとも
目当ての人物の情報すら得られず 時だけが過ぎる。
「くそっ・・・潜入のプロは伊達じゃねぇか・・・」
ぼやきながらも煙草を携帯灰皿に揉み消す土方へ
隊員の一人が 血相を変えて駆け寄ってきた。
「副長!!」
「どうした?」
「ホテル街でまた浪士が襲撃されました!!」
「何!?すぐに行くぞ!!」
彼らが真っ青になって取り巻く人溜りを
掻き分けて現場へたどり着くと・・・
あの時と同じ凄惨な殺人現場が 再現されていた。
「ぐっ、またかよ・・・!!」
現場保存と人払いの徹底を命じてから土方は
手がかりを求めて現場の周辺を見渡す
と、壁に血で書かれたらしき落書きが残されていた
「何だこりゃ・・・チッ、英語で書いてやがる。
これじゃ読めねぇな。」
とにかく落書きをメモし 彼はある所へ
持ってゆくことに決めた。
沈黙と、募り募った絶望に突き動かされ
「もう・・・生きているのも、辛い・・・・・」
は、握ったサバイバルナイフの刃を
自らの首へとあてがった。
「もし・・・あなたが戻ってきたなら・・・
きっと・・・追いかけてきてくれるわよね・・・?」
虚ろに笑うその瞳は、どろりと胡乱に濁り
死人同然のモノとなっている。
「・・・みんな、ごめんね・・・さようなら・・・」
目を閉じ ナイフが首へと食い込んで横へと―
「ただいま。」
動きを止め、彼女は目を開き声のする方を見やる
そこには・・・待ち望んでいた姿があった。
「・・・・・・!」
ナイフを捨て 嬉しげな笑みを浮かべて
はに駆け寄り、抱きついた。
「よかった・・・戻ってきてくれたのね・・・!」
「・・・・・ああ。」
ほっと一息ついた所で鉄臭いニオイが鼻をつき
おかしいと思い身を離した彼女の視界に
血塗れの野戦服が、飛び込んできた。
「な、にこれ・・・!?何かされたの!?」
「いや。」
「じゃあ・・・何で血まみれなの・・・
まさか・・・!?」
「逃げ出した時じゃないさ。逮捕されたから
あまりに腹が立っちまってな・・・腹いせに
少し奴らが追ってた攘夷志士を皆殺してきたんだ」
「え・・・・今、なんて・・・!?」
「何だよ、あんな連中の一人や二人殺ったくらいで
そんなに驚くことはないだろ?」
楽しげに笑うその表情も、吐き出された言葉も
普段のの言動からはかけ離れていて
彼女を更に戸惑わせた。
「血が飛び交う中 踊り狂って死んでいくヤツ
逃げ惑うヤツに無謀にも向かってくるヤツに
命乞いをするのもいたなぁ・・・
笑かす虫ケラ共を悲鳴ごとバラバラにしていく
あの感覚・・・あれほど楽しいモンはねぇな。」
「殺した・・・!?ほ、本当にあなたが!?」
「ああ、俺はその為に生きてるようなもんだ
奴らを殺して当たり前だろ?」
「一体、どうしたの・・・?
あなた・・・いつものじゃ、ない・・・」
顔面蒼白のまま呆然と呟く相手をベッドへ押し倒し
「俺をそんな偽善者と一緒にするな。
俺は・・・ジャック・ザ・リッパーだ。」
そう名乗り""は無理矢理キスを交わした。
「副司令・・・真撰組の方が見えました。」
「ああ、通してくれ。」
彼の言葉から間を置かず、MSF拠点の司令室に
土方が大股で入ってくる。
「あんたがMSFの副司令か・・・
とっつぁんからある程度話は聞いている。」
「そうか まあ固くならずに、楽にしてくれ。」
促すカズと共に土方もソファへ腰かけると
「ど・・・どうぞ。」
目の前のテーブルへ、サニーがコーヒーを置く。
「悪ぃな・・・ん?何でこのガキがここに?」
「ああ、サニーはジャックが逮捕された後から
俺がこちらで預かっててな。」
「屋敷にゃアイツの女がいるのにか?」
「・・・知らないのも無理は無いかもしれんが
彼女、あれから部屋に引きこもったきりで
抜け殻みたいになっちまってな。」
「やむを得ず、って所か・・・」
俯くサニーの顔が 土方の表情を更に曇らせる。
「起こった事を言及しても仕方がなかろう。
ところで要件は何だ?」
質問に対し、彼は懐からメモを取り出した。
「現場の壁に殴り書きされてたモンだ。」
「これは・・・英語か?」
「ああ、俺達にゃ読めねぇけどな。」
端的なその一言で用件を把握し
「わかった、ちょっと待ってろ。」
カズはそのメモの字へ目を走らせ・・・息を飲む
「・・・何が書いてあった?」
土方の言葉に答えず、彼はサングラスの奥の瞳を
側にいたサニーへと向ける
「すまんサニー、ちょっと席を外してくれ。」
「は、はい・・・」
頷き とぼとぼと司令室から出る後姿を見送ってから
「・・・読むぞ。」
カズは書かれている英語を翻訳する
"俺は売春婦が嫌いだ。
それに関わる者を含め、全てをこの世から消してやる。
・・・次はその溜まり場の連中だ。"
「何じゃそりゃ、意味がわからねぇ・・・」
「文面からすれば売春婦への憎悪から出た殺人衝動って所か・・・?
だとすればジャックにそんなもの、あるはずがない。」
「おい待てよ そうだとしても一体誰が
これまでの事件を引き起こしてたって・・・・」
遮るようにけたたましく携帯が鳴り出して
相手を確認し、土方は通話に応じる。
『副長!そっちは進展ありましたか!?』
「ボチボチな・・・で、どうした山崎」
『今回殺害された攘夷志士には、どうやら
共通点があるみたいです!』
「丁度いいな・・・俺も大方見当がついてきたところだ
今から屯所に戻る。」
通話を終え、彼はすっくと立ち上がる
「忙しいトコわざわざすまなかったな。」
「いや・・・こちらも役に立てなくてすまない。」
「いいさ、それじゃ。」
MSF拠点を出て、パトカーで屯所へ戻る土方と
入れ違うようにしてサニーが部屋へ戻ってきた。
「ねえ・・・カズさん。」
「どうした?」
「私、ローズが心配。様子見に行ってもいい?」
「そうか じゃあ俺も行こう。」
「・・・落ち込んでるからって口説かないでね?」
「まさか、ボスの愛人を寝取るほど無謀じゃないさ。」
冗談を言い合い、ようやく小さく笑った二人は
車に乗っての屋敷へと向かった。
・・・・室内は 物音一つなく静まり返っていた
「ローズ!・・・いないのか?」
「まだ寝室にいるのかしら・・・」
「かもな、サニーは先にそこへ行っててくれ
俺は他の場所を探してみる。」
首を一つ縦に振り、カズと二手に分かれ
「何かしらこのシミ・・・それになんか鉄臭い・・・」
床に残るシミと うっすらと立ち込める臭いに
疑問を持ちながらも寝室へとたどり着き
「ローズ、いるの?・・・・・・!!」
顔を覗かせたサニーが・・・その場で凍りつく
そこにあったのは脇腹にナイフを刺され
自らの血で赤く染まったベッドに倒れる
の、変わり果てた姿。
「キャァァァァァァァ!!」
悲鳴を聞きつけ、血相を変えて寝室に駆けるカズ
「どうしたサニー!?」
「ローズ!しっかりして!ローズ!!」
泣きながら意識の無いを揺さぶるサニーを目にし
「サニー!落ち着け!!」
彼は、その手から彼女を引き離す。
「ローズが・・・ローズが死んじゃう!!」
「落ち着くんだ!揺さぶれば出血がひどくなる!!」
ぐしゃぐしゃに泣きながらへたり込むサニーの背を
擦りながら カズは無線で拠点へと連絡する。
「緊急事態だ!救護班を呼び出せ!」
『副司令・・・何があったのですか?』
「いいからすぐに寄越せ!場所はボスの屋敷だ!!」
『は・・・はっ!すぐに向かわせます!!』
通信を負え、彼は応急処置を施して
完全に血が止まった頃合で到着した救護班へ
簡潔に事情を説明した。
「流石にここからは病院に連れて行かなくてはな。」
「既に運搬車両を用意してあります。
すぐに運びましょう。」
「ああ頼む・・・サニー、もう大丈夫だぞ。」
明るい声音で励ますカズだが 彼女はずっと
しゃくりあげているばかり。
「・・・サニー、一緒に行こうか。」
彼は小さく頷いたサニーを抱きかかえ
担架に載せられたと共に病院へと向かう。
一体 彼女の身に何があったのか
真実は・・・・まだ闇の中・・・・・・
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後書き(退助様サイド)
退助「ここから物語は確信へと進んでいきます。」
土方「いや、グロ率が急激に上がってんじゃねぇか
オメェ・・・本当に管理人に毒されてんな。」
退助「管理人のせいやあらへん、世の中が悪いんや。」
お良「何で関西弁?」
妙「ていうか、ついにちゃんにも
肉体的苦痛を味あわせちゃったわね・・・?」
退助「いや、展開的に仕方ないかと・・・
それに次回アイツもヒドイ目に合うので釣りあいが」
山崎「取れませんからそれぇぇぇぇ!!」
武市「そんな事ぁーどうてもいいんですよ・・・
そこの殿方、ポジションを代えてもらえませんか?」
カズ「断る!ジャックから話は聞いてるぞ
こんのロリコン浪士が!」
武市「ロリコンじゃありません、フェミニストでっす。」
退助「いいから失せろやロリコンが。」