それは彼が"ドラキュラ"の話題を耳にした際
決まってみる、いつもの悪夢のはずだった・・・
駐車場のような場所、制服姿の異形、手についた爪
もう何度と無く繰り返された代わり映えの無い光景
迫り来る奴らを次々と切り刻み 鮮血と
肉片とを撒き散らし、血の雨を浴びながら
作り上げた死体の山の頂上に立ち尽くす。
「・・・ククク・・・クキギハハハハ・・・・
ハァーッハッハッハァァァアァァァァアァ!!」
であったハズの何かは、辺りに響くような
狂った高笑いを楽しそうに上げる
・・・が前触れ無くそれはピタリと止んだ。
「・・・・・・足りねぇ。」
ボソリと、呟かれたそれは
「足りねぇなぁぁぁぁ・・・全っ然足りねぇよ
足りねぇ足りねぇ足りねぇ足りねぇ足りねぇ
足りねぇ足りねぇ足りねぇ足りねぇぇぇ!!」
次第に大きさを増して叫び声にまで発展する。
そうして、ひとしきり喚いた後
「やっぱり空想じゃ喰い足りねぇし満足しねぇ
・・・待ってろぉ?そっちに行ってやる」
"そいつ"は首を真横になるほど傾げながら
ゆっくりと近づき、何かを・・・"誰か"を
鷲掴みにしようと手を伸ばす。
(やめろ・・・!来るなっ・・・!
来るな!!来るな来るな来るなぁぁぁぁぁ!!)
上がる声音は恐怖の度合いを強めていき・・・
第三話 良くないモンはいつだって予告ナシに
土足でやってくる
「来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最高潮に達したソレは、跳ね起きたの
喉元からせり上がってきていた。
荒い息が整わぬままで汗だくの自分の身体を触り
彼は、何も起きていない事を確認する。
「な・・・・・何だったんだあの夢は・・・
いつもと、違う・・・」
以前のモノは例外なく、夢の中の分身が異型と
殺しあって終わるだけであった
けれど今回は・・・その自らの分身が
明らかに"自分"へと迫って来ていた。
『やっぱり空想じゃ喰い足りねぇし満足しねぇ
・・・待ってろぉ?そっちに行ってやる』
脳裏に甦る意味深な言葉にも、はどこか
不安感と空恐ろしさを覚えて
隣で気持ちよさそうに眠るの姿を確認し
「・・・・・大丈夫・・・だよな?」
答えを求めるように小さく呟く。
夢は夢でしかない、きっとこの不安は気のせいなんだ・・・
そうだ昨日ひどく驚かされすぎて動揺が残っていただけだ。
そう自らに言い聞かせると
彼は野戦服に着替えて、隊員の実地訓練の為
MSFの拠点へと向かった。
数日の時が流れ・・・・・・・
「ようやく俺達が追っていたヤマを追い詰めた
テメェらこっからが正念場だ・・・
ここで一気にしょっ引くぞ、準備はいいか!」
『おおっ!!』
廃墟の物陰に潜みながら 刀を手に
鋭気に満ちた声をあげる真撰組隊士達
彼らは過激派攘夷浪士の一斉検挙のため
潜伏先にて慎重に準備を行っていた。
「土方さんこそ、副長の座を
明け渡す準備はいいですかぃ?」
「テメッ何でバズーカの砲門向けてんだよ
この間の続きのつもりかコラァ!」
いつものようにメンチ切りあう二人を
慌てて周囲が宥めに入る
「沖田隊長も副長もケンカは後っす!
早くしないと逃げられますよ!?」
「っと、そうだったな。じゃ手筈通り
気づかれないよう裏から回るぞ。」
何班かに分かれ、それぞれ別方向から
入れるように準備をする。
「土方さん、こいつぁいくらなんでも
静か過ぎやしませんかね?」
「ああ、妙だな・・・罠かもしれん。
くれぐれも油断はするなよ。」
配置に着き、気を見計らって土方が
手で全員に合図を送り一斉突入を開始する。
「真選組だぁぁぁ!!御用改めであ・・・!?」
完全包囲した真撰組の面々が見たのは
・・・過激派攘夷浪士達であっただろう者達の
無残な、あまりにも無残な死体の山
身体はズタズタに切り刻まれ
首や腕、足といった部位が辺りに散らばり
原形を留めないものも幾つか見受けられて
「うっ・・・・ぐ・・・!」
隊士の一部が 吐き気を覚えて口元を覆う。
「な、何なんだこれは・・・」
「まさかとは思うが、あの時テロリストを
抑えた連中の仕業じゃねぇよな・・・・」
「そいつぁねぇと思いやすぜ土方さん
こいつらの傷は・・・一つ残らず刀傷でぃ。」
沖田の一言に全員が納得し
隊士の数人が、奥で震える誰かを見つけた。
「生き残りか?」
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
近寄った隊員が、生き残った志士らしき男の
その肩を軽く叩いた瞬間
「や、やめろ!殺さないでくれ!!」
相手は血の気の失せた顔で青ざめ
瞳にあからさまな怯えを宿して後退さる。
「落ち着け、俺達は真撰組だ。
抵抗をしない限りは無闇に命を取らん。」
諭すようなその一言に安心してか
男は、ため息をつき僅かに警戒を緩める。
「ここで何があったのか、屯所でゆっくり
聞かせてもらうぞ・・・立てるか?」
「は、はい・・・」
生き残った志士を連れて隊士達は屯所へ引き上げ
事情聴取の後、土方は近藤へと報告する。
「・・・それで、どうだった?トシ」
「生き残りのあの男の話じゃ、どうやら
いきなりの出来事だったらしい・・・」
唐突に音もなく入り込んだ相手は、浪士達が
反問をする間も身構える余裕も与えず
舌舐めずりをした途端 携えた刀を抜き
目にも留まらぬ早業で立ち並ぶ者達を
次々と切り刻んでいったという。
「惨い事をするもんだ・・・しかしそれなら
犯人の姿形を見ているハズだ」
「ああ、そいつの特徴なんだが・・・」
「どうかしたのか?トシ」
「白銀の刀を振るったそいつは・・・金髪頭に
見慣れない服を着ていて、眼が紅い男だった、と。」
聞きなれたフレーズに 近藤の顔面へ
一気に動揺が広がった。
「な・・・それは・・・!?」
「信じたくはねぇが・・・特徴からして
以外に当て嵌まる奴がいねぇ。」
「いや君は違う 彼は誰よりも血を流す事を
望んでいない・・・お前だって分かってるはずだ。」
短く頷くも、彼の胸にわだかまる疑念は消えない
「・・・念のため、捜査は続ける。」
「わかった。頼んだぞトシ」
一礼し、捜査へと向かう土方の背を見送ってから
「・・・君・・・君は、違うよな・・・?」
誰もいない部屋で呆然と 近藤が呟きを漏らした。
蒸し暑い夏の宵の刻限にて
「「「いっただっきま〜す!」」」
晩御飯のざるソーメンを囲み、とと
サニーは笑顔で手を合わせる。
「うーんおいし、やっぱり夏って言ったらこれよね」
「ああ、ここんとこ暑くて敵わんからな。
バリエーションを工夫すれば案外飽きも来なくていい」
「ねえジャック、私お箸の使い方うまくなったよ。」
「あら、いつの間にそんなにうまくなったの?」
「神楽に習ったの。
たくさん食べるには箸を制しろって。」
「いや、それ絶対間違ってるって・・・」
苦笑しながらも続いていた楽しい団らんは
玄関から鳴り響いた呼び鈴に、中断される。
「え・・・誰かしらこんな時間に?」
戸を開けた彼女の前に現れたのは
物々しい顔をした、制服姿の近藤と土方。
「夜分遅くすまんね ちゃん。」
「近藤さんに土方さん・・・どうしたんですか?」
「ああ、お前にとっちゃ酷な話なんだがな・・・」
渋面のままの土方が、懐からある用紙を取り出す
それは・・・ の逮捕状だった。
「え・・・!?な、何なのこれ・・・逮捕状!?」
「どうした・・・あれ、近藤さん?」
ひょっこりと現れたへ、近藤はやや
沈痛な面持ちと眼差しを向ける
「君、言いにくい事なんだが・・・
君に逮捕状が届いている。」
流石にやや驚きはしたものの、しばらくして
彼は冷静に切り返した。
「・・・罪状は?」
「数十人に及ぶ、攘夷志士の殺害容疑だ。」
「そんな!は無意味に人を殺さないわ!
何かの間違いよ!!」
「俺達も何かの間違いだと思いたいさ。
しかし調査の結果、君に行き着いたんだ・・・」
「万一抵抗した場合、テメェを叩っ斬るしかねぇ。
・・・頼むからそんなことはさせるな。」
煙草を吹かしながら 土方は彼へ真剣な眼差しを送る
「・・・・・わかった。話は聞いてくれるんだよな?」
「ああ、事情は屯所で・・・」
こくりと頷き、差し出したの手に手錠がかけられ
彼は真撰組のパトカーへと連れられていく。
耐えられず、彼を追おうとするを
周りにいた隊士達が取り押さえる。
「待って!彼はそんなことしない!!
近藤さん達もそれはわかってるはずよ!!」
「落ち着いて!」
「離してよ!!
は無実よ!連れて行かないで!!」
パトカーの前で立ち止まったが、彼女へ
優しい笑みを向けて呟く
「・・・俺は大丈夫だ。必ず帰ってくるよ。」
彼の姿を飲み込んで、パトカーはサイレンを
鳴らしながら屯所へと消えていった。
「――――!!!」
へたり込んだの悲鳴が暗い空へと消える・・・
留置所へ収容したへ、取調べが一通り行われ・・・
「記憶がない?」
「ああ、どうやらあの虐殺が行われたのは
初耳だったみてぇだ。」
廊下にてそう告げる土方へ 沖田が眉を跳ね上げる。
「記憶喪失って・・・
いつぞやの近藤さんじゃあるめぇし。」
「だが君が嘘を付いてるとも思えない・・・やっぱり彼は
「近藤さんよぉ、今更甘ぇことぬかしてる場合じゃないだろ。」
言葉を遮り、厳しい発言を下す土方。
「前まで善人だった奴が悪人に代わる事なんざ
日常茶飯事だろ。今回はがそうなっただけだ。」
「・・・トシ、今まで陰で戦争を食い止めてきた
君が突然そうなると思うのか?」
「それは・・・」
近藤は確固とした自信を 眼差しに込めて言う。
「俺は君を信じる。
彼は、絶対に理由なしに人を殺しはしない。」
強いその発言に土方と沖田、両者が納得しかけ―
「局長!!」
顔面蒼白の隊士が一人 そこへ飛び込んできた。
「何だ騒々しい。」
「容疑者が・・・脱走しました!!」
「何だと!?武器は全て没収したはずだろ!!」
「それが・・・ナイフを隠し持っていた様で・・・
看守が刺されて重傷です!
容疑者は現在 武器を奪い返して逃走中です!!」
信じられない、と言いたげな二人を他所に
冷静さを取り戻した土方が命令を下す。
「・・・非常事態発令だ、奴を江戸から逃がすな!!」
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後書き(退助様サイド)
退助「最悪な展開ですが、こっからどんどん
持ち直してよくなる予定ですのでご安心を。」
土方「全然よくなってねーし、つか不穏しか感じんわ
これバ管理人の影響モロ受けてんだろ。」
沖田「チッ、早めに土方を送り込んどきゃ
同じ運命を・・・」
土方「またテメェはそれを言うか総悟ぉぉぉ!!」
近藤「喧嘩してる場合じゃないだろトシ、総悟!
ていうか君に何が起きてんのこれ!?」
退助「それは後2,3話位に説明するんで。」
???「クックックックッ・・・
せいぜい足掻いているんだなぁ・・・!」