ラボへ到着したヒューイは、パソコンを立ち上げ
いくつかの画面を表示させながら説明を始める。
「この施設では無人兵器の開発が行われているんだ。」
「無人兵器・・・」
「月光とかが既に開発されているけど、あれとはまた違うものだ
さっきのはホバー移動型の『ピューパ』
飛行タイプの『クリサリス』、キャタピラ走行の『コクーン』」
言葉と共にキー操作で呼び出された一つの画面に
先程までの無人兵器とAIポッドが表示される。
「電子頭脳によって駆動制御、目標の探知、追尾、攻撃、捕獲や
移送をすべて管理している。だから人が乗って操縦する必要がない
単純な命令しか利けかないが・・・」
「随分時代逆行だな。それより何故そんなものをコスタリカで?」
「CIAさ・・・1年前にここに呼ばれたんだ。」
「さっきの男か。」
訊ねる
が頭に思い浮かべるのは、ヒューイを突き落とし
ピースサインを向けて去ったスキンヘッドの男。
「中米の支局長、自称熱き(ホット)・コールドマン。
冷戦最盛期の英雄・・・あの男がここで進めている計画が・・・
『平和歩行(ピースウォーカー)計画』だ。」
「ピースウォーカー・・・」
「中南米カリブ海沿岸に新型核兵器を配備する。
移動式無人核兵器をね。」
「無人核兵器?」
「最適な位置へ移動し、核ミサイルを発射する自動報復システム。」
モニター上の画面がアメリカ大陸の図形に切り替わると
中米を中心に、円状の波がレーダーのように広がる様子が示される
(これが システムの射程か・・・?)
「単独で移動が可能で、レーダーにも衛星にも捕捉されにくい
ステルスだから、先制攻撃で潰される危険の極めて低い。」
続くヒューイの言葉に連なるように、中米の図形が拡大され
そこに無数のモルフォ蝶のマーキングが表示される。
「REXと同じ理論だな・・・それが新たな抑止力となる?」
「だが、問題はその移動方法だった・・・カリブ海沿岸は
乾季も構わず一年中雨が降る。広大な湿地、熱帯雨林、
まともに道も通せない。・・・そこで僕は原点に還った」
「脚か?」
「よくわかったね・・・」
「グラーニンが考えた理論だからな。」
「グラーニンを知っているのかい?
僕は彼の下で研究していたんだ。」
「そうか・・・」
兵器を作り出す者同士 通ずるものがあるのかと考えつつ
ますますもってオタコンに似ているとも思い
一瞬だけ、
はやや複雑な顔をした。
第9話 不謹慎ながらも、この話や原作で
少しでも核の知識と恐ろしさが認知されますように
「とまぁ、お察しの通り目をつけたのは歩く力さ。
ソ連のRDS−220(ツァーリ・ボンバ)をも超える
大型熱核弾頭を積載できる自律歩行型核兵器。
それが『ピースウォーカー』だ」
映像が3機の無人兵器へと戻ると、その兵器からそれぞれ
伸ばされた線が下へと集まり・・・・
REXに似た 一つの兵器の画像に集約する。
その画像と 先程上空へと運び去られた映像と
バナナ工場で見た足跡が、彼の脳内で結びつく。
(チコが見たバシリスコは・・・
ピースウォーカー(こいつ)の事だったのか・・・!)
「僕らは組み立てと実地検証を、ここで行っていた。」
「また性懲りもなくこんなものを・・・」
「基礎アイデアは東側のパクリだけどね。」
「今じゃ二足歩行兵器なんて珍しくない。」
皮肉を込めて返す
へ、答える相手の笑みは
少し卑屈の色を浮かべているようにも見えた。
「かもしれないね・・・でもオリジナルじゃないものは
みんな所詮はパクリなのさ。そうだろう?」
「悪いがその辺りの議論に興味はない・・・・」
(・・・やっとメタルギアの恐怖が消えたと思ったら・・・)
苦々しげな胸の内を知ってか知らずか、ヒューイは
あくまで淡々とセリフを再開させる。
「だが実際は数十機もの配備が必要になる。
そこでコールドマンは予算確保のため、演習を兼ねて本部に
デモンストレーションを行うつもりなんだ。」
「"完全なる抑止力"を証明するために核を撃つだって?
馬鹿げた話だ・・・」
「核を撃たれたら、絶対に核を撃ち返す。」
言葉と共に滑るようにキーボードが打ち出されて
2分割された画面両方に、ミサイルの画像が映し出される。
「核抑止とは・・・『核によって核を制する』という考え方だ。
こちらが撃てば報復として相手も撃ち返すだろう。
そうすれば自国も滅んでしまう それ故にお互いに核を撃てない」
分かれた画面の片方からミサイル攻撃が行われると
直後に"報復"としてミサイルが発射され
交互に飛び交うミサイルが尽きると、分かれた画面の
どちらも放射能マークに覆い尽くされていた。
・・・目の前のソレがデータ上だけの出来事であっても
この現実でも、これと同じ事が起こりうる可能性が
十分あるのだと想像すれば恐ろしい光景である。
「そのおかげで大国同士が全力で
衝突するような事態は回避された。
核による抑止力が平和をもたらしたんだ。
少なくとも、世界規模の戦争は抑制された。」
「睨み合いであれ、やはり核抑止が一番効果的か・・・」
実際に被害を受け 核の恐ろしさを学んで来た
にとってその事実はやはり受け入れがたいものがあった
しかし・・・以前のようなSOPによる統括も
権力者によって掌握され、好き勝手される危険性を
孕んでいるため最善の策とも言いがたい。
「だけど・・・核抑止は、あくまで机上の空論だ。
実際には報復が完全に行われる保証はない。」
キーを叩きながらヒューイは簡潔に理由を三つ示す。
先制攻撃によって 全てのミサイル基地が潰される可能性
場所によってはミサイルを撃ち返せない可能性が
それぞれ発生しうる事
「そして何より脆弱なのは・・・報復の決定権を
行うのが人間だということだ。」
「どういうことなんだ?」
「現実的に考えてくれ。」
その一言と同じタイミングで撃ち込まれたキーにより
説明に合わせるようにして、片方の画面のミサイルが
もう片方へと流れていくのが見える。
「最初の一発を、どこかのだれかが撃ってきたとしても・・・
まともな人間なら 世界が死滅することを解かっていながら
核を撃ち返すことは出来ないはずだ。」
攻撃されても尚 反撃せず放射能マークまみれになる画面を
目の当たりにして、
は改めて目の前の博士に感心する
「・・・つまり抑止論の弱点は、報復の不確実さにあると?」
「そう。それこそが、そのどこかのだれかに最初の1発を
撃たせてしまう"隙間"を作っていることになる。
"だからこそ"の無人システムなんだ
・・・ピースウォーカーなら、絶対に報復する。」
キーを操作して新たに表示され直した画面の片方は
ミサイルではなく "蝶の群れ"が並んでいた
「人間の決定を待たずに報復すべき場所を判断して
確実に核攻撃を実行する。」
画面片側から発射されたミサイルを避け、群れ集った
モルフォ蝶から無数の報復が敵国へとなだれこむ。
「ピースウォーカーに向けて核攻撃を行うということは
・・・自分に向けて発射ボタンを押すのと同じだ。」
言い終えた後 表示されていたモニター画面では
蝶の群れ・・・ピースウォーカー側がほぼ無傷に対し
攻撃を仕掛けたもう片側は、報復により全滅していた。
「核抑止の隙間は塞がる。
どこかの誰かは確実に核を撃てなくなる。
そのために、コールドマンは機械による報復が
実行されるという事を実演する必要があると言うんだ。」
俯いた表情には 声音とは裏腹に苦悩がにじんでいた。
「あいつは撃つ・・・それで初めて
コールドマンの抑止論は成立するんだ。」
「それを信じたのか?」
「・・・僕は、核抑止による平和を信じたかったんだ。」
「何故だ 核を無くす事が一番の平和のはず・・・!」
「僕の父は、マンハッタン計画に参加していたんだ。」
"マンハッタン計画"・・・その単語の示す内容を
も概要ぐらいは聞き及んでいる。
「生涯を賭けた研究が産んだのは・・・抑止という
幻想の平和システム。そして・・・歩けない僕が生まれた。」
思い起こすような沈黙が続き
「僕は 核に向き合うしかなかったんだ。」
重々しく口を開いたヒューイの声音は、どこか
諦めにも似た響きを織り交ぜていた。
「でも・・・本当に核を使ってしまったら全ては水の泡だ。
あいつを、核発射を止めさせなければ・・・」
「あれは 何処へ運ばれたんだ?」
「国境沿いの基地だ。最終実験の決行は5日後。」
「その基地は何処に?」
「・・・計画を阻止するのか?」
頷いた彼に連なる形で二人はラボを出て、屋上へ向かう
「基地は遠い それより確実な方法がある。
実は、ピースウォーカーは・・・まだ完成していない。」
「どういうことだ?」
「もう一つ絶対的な構成要素が欠けている。
人工知能の部分、つまりは大脳だ。」
「大脳?」
移動しがてらの説明によれば、ヒューイが
担当していたのは 電子頭脳『レプタイルポッド』
これは命令を受けての目的地の移動や目標の攻撃など
プログラミングされた行動を行うシステム
・・・大まかに言えば、人間で言う小脳を差すらしい。
けれど"核抑止"という高度な命令を実現するには
送られてくる膨大なデータを分析し
人間の指導者に変わり、各機が報復に適切な目標を
選択して決定する必要が生まれる。
必然として 大脳レベルでの高い判断力が求められる。
「機械の大脳・・・またSOPの二の舞だな。」
「言えてる 脳の構造を模したハードウェアは
僕のポッドと同じだけれど、役割はまるで違う。」
「それは何処で創られている?」
「ここから北に行った研究施設だ。
ストレンジラブ博士というAIのエキスパートが
極秘裏に開発を進めている。」
「Dr.ストレンジラブか・・・」
言葉を返せば、ヒューイはメガネを押し上げながら
苦笑交じりにこう返した。
「あいつもアメリカからスカウトされてきたらしい。
確かにAI部門では最高レベルだけど、イカれた博士さ。
・・・・・・酷い人嫌いでね。」
「それなら任せておけ、今まで散々イカれた連中の
相手をしてきたんだ。ソレぐらいならカワイイもんさ。」
「そ、そうかい?」
「ああ、そうさ。」
敵だけじゃなく味方も、と言いかけた
の言葉は
口に出される寸前でグッと押し留まっていた。
「とにかく、その研究施設に行って
ピースウォーカーの大脳を破壊するんだ。
AIの方はまだ最終調整が終わっていないはずだ。」
ヒューイは懐から取り出したカードを彼へと渡す
「僕のIDカードを貸そう。研究所のセキュリティを
パスしてくれる。それと・・・」
続けて、間を置かずに一通の手紙が差し出される。
「手紙?推薦状か?」
「ええと・・・これは僕からストレンジラブへの手紙だ。
・・・読むなよ。」
(やれやれ・・・こんな所までオタコンと似てるのか)
ため息をこぼし、彼は渋々手紙も受け取ると
両方を無くさないよう厳重にしまいこむ。
「ところで、これからお前はどうする?」
屋上にたどり着いて問う
へ、肩越しに振り返った
科学者は苦笑いと共に返す。
「僕は・・・僕は、もう科学を棄てる。
このままじゃ確実に地獄に堕ちるだろうから。」
「急ぐことはない・・・俺達の所に来ないか?
お前にはふさわしい場所"天国の外"、アウターヘブンだ」
「アウターヘブン・・・フッ、コスタリカよりは僕向きだ」
「じゃあ気球での旅をプレゼントしよう。
蝶になった気分が味わえる。」
「それは楽しみだ。」
フルトン回収の準備をする相手へ、ヒューイはふと
今更ながらも疑問に思った事を訊ねる。
「君は・・・昆虫学者じゃないよね?
何処のエージェントなんだい?」
「俺か?俺は・・・・・何処にも所属していない。
冷戦や陰謀に翻弄され続けた いずれは俺も
切り棄てられるだろう・・・ジャックと呼んでくれ。」
「ジャック・・・なんだか呼び慣れた感じがする。」
「そりゃ気のせいだ。」
口を微かに吊り上げてから、彼は眼前に広がる風景の中
一つだけそびえ立った山へ指差して言う。
「・・・見えるか?
熱帯雲霧林の向こう。遺跡があるだろう?」
「遺跡なのか あれ。」
「Dr.ストレンジラブの研究施設だ。
移動にはラバを使ってくれ。」
「わかった。ありがとう・・・
すぐに回収させるぞ、敵が来ないとも限らない。」
準備も終えて
はカズへと通信を送り
車椅子ごと相手はフルトン回収されて宙を舞い
若干驚いたような悲鳴を上げていた。
基地から敵兵士の目を掻い潜って離脱した後
ラバの馬小屋に着いた彼へ、通信が送られてきた。
『ジャック、博士の回収が完了した。』
「そうか・・・ヒューイ、調子はどうだ?」
『流石にアレはちょっとビックリしたけど
ここは快適だよ・・・凄い所だね。見直したよ、ボス』
「ジャックと呼べ。」
『そう言うけど、ここではみんな陰で
"ボス"って呼んでるよ?』
「はあ・・・」
似合わぬ大仰な呼び名が流行っている事に
ため息しか出ない当人へ、冷やかしが入ってくる。
『そう呼ばれるってこたぁ板についてきてんじゃねぇの?
これを期に缶コーヒーのCMでも出演してみろよ
』
「ボス繋がりってだけじゃねぇかよ銀さん。
ついでに、あのCMにはもう適任者がいるだろーが」
『あぁん?
がボスなら私はリーダーネ
リーダーの座だけは譲らないアルぅぅ!』
『いや、誰も狙ってないからね・・・』
的確かつ冷静な新八のツッコミが入った後
ヒューイが、真剣な面持ちで語りかける。
『ところでジャック、もしここの技術開発に
力を入れたいなら 是非僕を研究開発部門に配属してくれ。
きっと役に立てる。』
「そうか、サニーにも色々と教えてやってくれ。」
『お安いご用さ。資材や設計図なんかの準備が整えば
二足歩行メカの開発も始められるんだけど・・・。』
「それはありがたいが、いいのか?
科学が戦争に利用されても?」
一拍の間を挟んで、彼は問いに答えを出す。
『・・・自分の過去の過ちを抑制する為に、使うんだ。
僕の技術がピースウォーカー計画の阻止に繋がるならね。』
「それもヒューイ流の"抑止論"か。」
その返答に、ボスと崇められた"英雄"は満足げな笑みを返す。
『そういう事かな・・・ああそれから、もし敵の兵器や
電子頭脳に関して説明が必要なら僕に連絡を。
専用の回線を用意させたから。』
「わかった。博士、よろしく頼む。」
『ああ・・・何としても、あいつの計画を阻止してくれ!』
『おーい
。』
せっかくのいい雰囲気に水を差され、若干
彼の眉間にシワがよった。
「何だよ銀さん?」
『俺達いつになったら出番が増えんだ?
主人公なのにタコ部屋にぶち込まれてしばらく経つよ?』
『そうアル!私ヒロインなのに、いつも以上に
空気扱いな上に過剰労働強いられてストレス爆発寸前ネ!』
『何言ってんだ、前回働いて無かった分 MSFで使う
火器製造手伝いという形で活躍してもらってるだろ』
『いや地味過ぎて目立てないんですけど・・・』
『けど
、銀さん異様にツナギ似合う上に
作業が上手いの ノルマだけなら一番達成しちゃったのよ』
「マジでかぁぁぁ!?」
あのぐうたらでロクでなしのダメ人間が
最も苦手そうなライン作業で、一番達成・・・
信じがたいようなギャップに
は思わず目を見開く。
『もうビックリよね・・・・もしかして昔工場で
働いていたりしました?』
『当たらずとも遠からずネ
』
『やめてくんない、それ俺にとって黒歴史だから
あんまり思い出したくない人生の汚点だから。』
『銀時 今更お前が汚点を気にする立場か?』
『テメェが言うなグラサンリーゼントォォォ!!』
恒例になりつつある喧騒をどうにかなだめすかして
計画の中核をなす兵器、ピースウォーカーの完成を
阻止するために
機体の大脳部となる"AIの制止及び破壊"を行うべく
『ヒューイの情報によると、そのAIは
ストレンジラブ博士の研究施設で最終調整を受けているらしい。』
熱帯雲霧林にある研究施設に潜入し、AIの搬出を
阻止する指令を告げたカズに了解の意を示して
通信を終了した
は、ラバに乗って
熱帯雲霧林の奥へと進んでいった。
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後書き(退助様サイド)
※あくまで作品のテーマが"核防止"のため、被爆や
核弾頭などの話題が頻出しております
・・・ご気分を害されてしまった方がいましたら
この場を借りてお詫びいたします
[管理人:マエストロ狐狗狸]
退助「と、まぁテロップが管理人から流れた所で
さあこれでようやく第1章が終了です。」
カズ「それはあくまで"ゲームの中で"だろ?」
退助「そりゃそうだけど・・・一応節目ってことで。」
銀時「あ〜つまんねぇ・・・単調作業ばっかしで
マジ肩こってきたしよぉ〜」
神楽「いつになったら私達暴れられるアルか?
もういっそここで暴れようかな〜」
新八「新手のテロ予告?頼むから止めてね
・・・でもホントに僕らこのまま脇役端役なんですか?」
退助「いや・・・それは・・・・・・・管理人補正でお願い」
全員『働け馬鹿作者ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』