が拠点を出た直後

再び、マザーベースからの通信が入った。





『ジャック、言い忘れていたがその無線機で
例の少女・・・パスと連絡が出来るようにしておいた』


「そうか・・・彼女は大丈夫なのか?」


『身の安全が保障された場所にいるようだ・・・
心配するな、あの娘は俺達が考えるほどヤワじゃない。』


「しかし・・・」





どこか不安を拭いきれない彼へ、割って入った
銀時達が答えを返す。





『あの海苔ジジイが一緒でも 遠くから
お前ら頼って江戸に来たくらいアルよ』


『そーいうこった、依頼してきたのはあくまで
あのお嬢ちゃんだ そうだろ?


「ああ・・・だが彼女はまだ子供だ。」


『だからこそ有益な情報が得られる時もあろう。』


桂の一言は、的を射たものだった





『銀時も言った通り、今回の真の依頼者は彼女
"平和の使者"だ・・・そうだろ?ジャック』


『そうですよ さんが
パスさんを信じないでどうするんですか。』


「・・・ああ、分かってる。」


『よし、じゃあ繋ぐぞ。』





カズの一言の後、通信にパスの側のものが加わる。





『ジャック。』


「君か。どこから通信を?」


『シウダード・コロンの校舎。先生が、落ち着くまで学校にいろって。』


先生?ああ、あいつは・・・・」





言いかけては口をつぐんだ。







"先生"・・・


ガルベスはKGBの人間だが、彼女の安全を
考えているということがその単語だけでうかがい知れた





「まあ、その方が安全だ。」


『うん・・・先生の部屋に無線装置があるから
いつでも連絡できるの。』


「無線装置・・・大した先生だ。」





普通なら、大学教授であっても無線装置など
そうそう用意できるものではないが・・・





彼女はまだ子供であるが故に疑いを持たないのだ


彼はそう考え、敢えて何も言わなかった。





ジャック、必ず平和を取り戻して。それと・・・』


「ああ、君の友達が見つかったら 連絡する。」


『ありがと。ジャック、コスタリカのことなら何でも聞いて
地理や気候、植物とか・・・歴史や法律も得意なの。』


「わかった。何かあったら君に聞こう。」











第4話 戦場カメラマンは口調も肝も据わってる











答えた後、やや間を置いてパスが口を開く。





『・・・あのね。』


「何だ?」


『学校で習ったの。「平和は人間の関係にとって不自然な状態
・・・他人との関係は、常に戦争に脅かされている」って。』


「ああ・・・」


『あれって 今でも当てはまるんじゃないかなって思って』


『どういうことですパスさん?』





訪ねる新八へ 彼女は言いにくげに答えを返す





『米ソの関係が良くなっても、SOPシステムが
なくなってもいまだに紛争があちこちで続いている・・・


長い歴史を見れば分かるけど 国と人とがある限り
戦争の危険からは・・・絶対に逃れられないの。』


『ったく、こっちとしちゃ迷惑だよなー
そういうのはお偉いさん方で勝手にやってろっつーの。』


全くネ 紛争だかフン転がしだか知らないけど
結局ぜーんぶ上にいるバカの尻ぬぐいアル。』


『ちょっと二人共!』


普段通りの掛け合いに、小さな笑い声が返る。





『いいの。だからこそ、平和という状態は
自分で創らなければいけないと私は感じてるわ。


・・・嘆いていても平和はやってこないし、続かない。
自分で向かっていかなければダメなの。』


『年頃の女子とは思えぬ、立派な心がけだなパス殿』





関心する気持ちは同じではあったけれども


無線に耳を傾ける"英雄"は・・・桂のように
前向きな思考を行えなかった。





「・・・平和には犠牲が必要だ。申し訳ないが
俺は平和が何かは解らない だから平和を感じた事もない。
平和の興味も薄れた・・・」


『・・・ジャック?』


『何て事言ってるんですさん!
それが一番平和に貢献してきた人のセリフですか!?






その一喝に、彼は弱腰になっていた自らを奮い立たせた。





「あ、ああ・・・悪かった。」


『こちらこそスイマセン・・・怒鳴ったりして。』


「気にするな、新八君の言う通りだよ・・・
パス、君の考えは立派だ それが正しい事を祈るよ。」


『そう・・・だといいけど・・・。』


「じゃ、その平和の為に、君に・・・"平和"に協力を頼む」


『ありがとう。いつでも待ってる じゃあ・・・』





通信が終わると、すかさずカズが言葉を放つ。





『珍しいなジャック、あれほど平和を願って戦ったお前が
あんなこと言うなんてな・・・』


「・・・正直、俺が戦って平和になった試しなんてないさ
新たな争いはいつでも出来てしまう。」


そんな事ないですよ!実際江戸を襲ってきた連中
倒して平和になったじゃないですか!』


『あのアホジジイぶっ飛ばしたクセに
どこまでヘコたれてるアルか、情けないアルなー』


冗談でも弱気を吐くな、お主は英雄としても
俺の腹心としても頼られる立場にいるのだからな』


「・・・ああ。って腹心になった覚えは無いぞ」


よーし!この仕事終わったらキレイなネーちゃんのいる
おっぱいパブ行くか オメーのオゴリで』


『『「一人で逝ってこいエロ天パぁぁ!!」』』





無線越しの乱闘(フルボッコ)を想像して
は苦笑交じりにため息を落とした。









状況から見て、CIAの兵が核を持ち込んだ可能性は高い





重要なのは通信で出てきた"槍"が核であるかどうかと
用途についての確認だと判断し


CIAの本拠地を目指して搬送ルートを辿る事を目的に据えた後







『まずFSLNの司令官に接触し、その先の現地情報を得よう。』





そう指示を促し、現時点でのFSLNの状況を
無線にてカズは簡潔に説明した。





彼らが隠れ家としている拠点の小屋がこの先にあること


そして既にCIAの襲撃を受けて占拠されていること





『無事なんでしょうか?』


『行けば分かるさ。ジャック、拠点となった小屋に潜入
警備兵を無力化、FSLNの司令官を確保するんだ。


「了解。」







通信を切り、ジャングルを抜けて小屋へ辿りつくと

敵兵があちらこちらを警戒しつつひしめいていた。





確実性を増すため 死角から忍び寄ってCQCで
兵の一人の背後を取り、は訪ねる。





「FSLNはこの小屋にいるんだな?」


「そ、そんな事を聞いて何になる・・・奴らの仲間か・・・!





囚われている事が確定した瞬間、相手を首締めで気絶させ


ついで何人かも意識を飛ばした状態でフルトン回収し
敷地内を探索していくと







「あそこか・・・」





小屋の上から響いた物音に気づき、彼はそこへと
侵入して FSLNが押し込まれている部屋の扉を開ける





「来るな!」


「来るなぁ!!」



途端に中にいたFSLN兵が数人騒ぎ出したため


敵に気づかれる事を避けるべく、
銃を向けて黙らせる。





「誰だ?」


「・・・エル・チェ?


「まさか」


「どうする?」





拘束され戸惑いながらも身を寄せる面々に混じって
子供や女性の姿もあり、彼は内心少し面食らう。





「・・・FSLNか?

人を探している お前達の司令官を。


言いつつ事前に手にしていたFSLN司令官の写真を
取り出し、彼らへと見せる。





「父さん・・・」


「シッ!」





思わず口走った子供を咎めて、女性が答えを返す。





「・・・死んだ。父さんは殺された。」


「娘か?・・・・・君が代表者か?」


訪ねつつ写真をズラせば、その中に
目の前の女性が映し出されているものもあった。





「安心しろ、俺は敵じゃない。」





勤めてやわらかく言いながら、は葉巻を取り出し
FSLNの面々へと差し出す。





・・・当人はタバコの類を吸わないのだが


何故かカズに持たされ処分に困っていた代物だった。


だからこそ 安直ながらも物資を渡すことにより
警戒心を少しでも和らげようとしたのである





誰か吸わないか?葉巻だ。」


「チェ、葉巻か・・・」


「葉巻でも・・・何でも吸いたい気分なの。」





幸い敵の気配は無いようなので、FSLNの
拘束を解いて 彼は全員を外へと出した。







借りが出来たね。好みは紙巻きなんだけど。」





火をつけ、タバコを吸ってひと心地着いてから
"彼女"は少しだけ得意げに呟く。





どう?エル・チェみたい?」


「・・・葉巻だけじゃないか。」


「あなたもキューバ人?」





勿論本当のことをここで話せるわけも無いので


前もって準備しておいた偽装を使い、
自らの身分を語りだす。





コロンビアの写真家だ。
コスタリカの鳥を撮影しに来た。」


「鳥?」


「ケツァールだ。」


「そのカメラ・・・望遠レンズがないけど、撮れるの?」


「望遠には頼らない。写真はタイミングだ。」


・・・と心にも無い事を言いつつ 当人は同じく内心で

カメラを用意してくれたグラサンの友人に恨み言を吐く







幸い特に興味も無いのか、彼女は
それ以上ツッコまなかった。・・・と





「俺にもくれよ!」


先程の子供が、彼女の持つタバコを取ろうと
ジャンプしているのが目に入った。





「話はこれが終わるまでよ・・・チコ!





叱られ、"チコ"と呼ばれた少年は帽子の乗った頭を
がくりと落としてその場を離れていく。


それを少しだけ眺め、彼は気を取り直して訪ねる。





「状況を教えてくれ。」


「・・・このへんは兵士だらけ。

市民警備隊じゃない、どう見ても雇われ兵ね。
世界中の最新装備をジャラジャラさせてる。」


「開発公社が雇った警備員と聞いたが?」


「そんなの嘘に決まってる。彼らは・・・UCLAよ。」


「UCLA・・・ラ・シーア(CIA)か。」





前もってその情報は知っていたが、
場に合わせて話を続けた。





「町で奴らの看板も見かける。
ここもチレみたいに掻き回す気だ。」


「そうだとして、奴らの目的は?」


「少なくとも・・・あたし達じゃない。」


「君達をニカラグアに追い返すのが目的では?」


そうは思えない 資材運搬や拠点の数も尋常じゃない。
見た?バカでかいヘリや戦車まで、まるでダナン。

・・・きっと何かあるわ。」


「この辺りにも拠点が?」





問いかけに、彼女は目の前に出された地図を
指で指し示しながら言う。





「吊り橋を渡った北に、工場がある。」


「吊り橋を渡った北の工場だな・・・ハーデ川で
傭兵達が同乗した大きな輸送用ボートを見なかったか?」


「ああ、あの艀(ハシケ)ならもっと上流の・・・
イラス(山岳)の方よ。」


「あのボートに何か積まれているか知ってるのか?」


あっちの同志を紹介する?
でも山入りは勧めないよ 沢山やられてる。」







一拍の間を置いて、言葉を口にした彼女の顔は強張っていた





「あいつらはさらった同志から仲間の場所をゲロさせて・・・
殺すんだ、豚みたいに・・・」






こうして二人が話す合間にも FSLNの兵士が
武器を探し回り、いくつか見つけて喜ぶ声が聞こえてくる。





「・・・ここは最後の隠れ家だった。祖国(ニカ)から
「平和の楽園コスタリカ」へ追われたあたし達
フレンテ(サンディニスタ)のね。でも怪物が襲ってきて・・・」


「怪物?」


「それで父さんは・・・」


悲しみに暮れている相手の表情に、彼もまた
何も言えずに口をつぐむ。





葉巻を一服して 彼女は淡々と口を開く。





「父さんは、あたし達の希望だった。」


「今は父さんに代わって、姉ちゃんがその司令官さ。」


「やめて!」





遠巻きに見ていた"チコ"へ返すと、葉巻を口に咥えながら
懐から彼女が取り出したのは・・・"父親"の写真。





「・・・父さんはサンディーノと共に戦った英雄よ。
私はその娘ってだけ・・・指導者になるには特別な能力が要る
同志を束ねるための偉大な力がね。」


「口を挿むつもりはないが言わせてくれ・・・

英雄も指導者も自分から名乗るもんじゃない。
希望を継げば必ずみんなついてくる」


そう?信頼されても誰もあたしを
コマンダンテ(司令官)とは呼ばない。」


「アマンダ!」


「ほらね?」


背後からの叫びに"アマンダ"はふっと笑んで―







「コリブリ!!」





少年・・・チコの叫びに、異常を察して振り返る。





『ラーンランラーラララーラララー・・・
ラーンランラーランラーラララー』






・・・もまたあの時に見た巨大兵器が
空を覆っているのを視認する。







驚いて、アマンダが落とした葉巻が水の中へと
沈んだのを合図に 兵器の機銃が唸りを上げた。






「うわぁぁぁぁ!」


「逃げろぉぉぉ!!」





何も出来ずに逃げまとうFSLN達の只中

アマンダはLAWを構えると、巨大兵器に銃口を向ける。


だがこちらの発射よりも早く兵器が発砲したのを見て取り





「伏せろ!!」


がアマンダに飛びつき、弾を避けた。





「クソッ!」





ひとしきり弾丸の嵐が去ったのを見て取ると、彼は
LAWを手にとって 巨大兵器に向けて放つ。


・・・が、着弾の直前で弾頭が逸れていく





「何!?」


「あれはオンブレ・ヌエボ(新しい人間)、無人のロボットよ!」


無人兵器・・・アレが?今まで遭ったものとは
比べ物にならない程大きいぞ!?)


「うわぁぁぁぁ!?」





我に返り、悲鳴が聞こえた上空を見上げれば


少年が円盤にさらわれていくのが見えた。





クソッ!油断した・・・」


「チコ!」





咄嗟に拳銃を取り出し、円盤を撃とうとする
アマンダの動きを彼は手で静止する。





「あの高さでは死ぬぞ!」


「撃たせろ!!」


「自分の弟を見殺しにする気か!!」


「拷問されるくらいなら・・・同志に殺された方が幸せ・・・」





そうしている合間に 無人兵器はチコをさらったまま
どこかへと飛び去っていく。







「ここにいて、命があるうちに・・あなたに借りを返す。





銃を構え直してアマンダは、周囲のFSLN達を
引き連れてその後を追って走って行く。





「チコを追う!ベンセレーモス(勝つぞ)!!」







・・・ジャングルの奥へ彼らが消え、一人残された





「・・・・・だから、ゲリラは嫌いなんだ・・・・
パイソンを殺したあいつらなんか・・・!


静かに 吐き捨てるようにそう呟いた。








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後書き(退助様サイド)


退助「FSLNと合流と、謎の無人兵器の介入まで行きました。」


銀時「ていうかの奴、めったクソ演技下手だなオイ
そんな写真家がいてたまるか。写真家に謝んなさい。」


神楽「そーアル 私だったらもっと辻褄の合う偽装するネ!」


カズ「ほう、参考までに聞かせてもらおうか?」


神楽「俺は・・・どこの誰でもない
生血を求めて戦場を彷徨う ただの旅人さ。」



銀時「やめろよぉぉぉその中二設定!」


新八「そこ重要じゃないからオメーらぁぁ!!」


桂「協力を仰ごうとした者達が の戦友を殺した
組織だったと言うのだから・・・もう少し緊張感を持て」


銀時「んな後付くせぇ設定なんざどうでもいいんだよ。」


神楽「吸引力の変わらないただ一つの戦友ってか?
それで万事屋キレイになるなら考えるアルけど。」


新八「それダイソンんん!パイソンさんに謝って!
もう鬼籍の人だろうけど謝って!!」


退助「・・・フッ、今にそんな事が言えなくなるぞ〜。」