穏やかな日差しの降り注ぐ中南米の海岸沿いを
一人の男が足音を殺しながらひた歩く。
彼の持つ指向性の高い無線から、ボリュームを絞った
カズの声が聞こえてくる。
『しかしジャック よく依頼を受けてくれたな。』
木陰に一時留まり敵が周囲に見当たらないことを
確認するへ、無線機からの声は続ける。
『いやぁ・・・俺はありがたく思ってる、MSFの
事業拡大も可能になるからな。』
「何が言いたい?」
『当初乗り気じゃ無かったんで気になってな
・・・やっぱりあれか?あの人のためか?』
カズが差す"あの人"は ビッグ・ママの事だ
問われた当人は小さく首を横に振りつつ言い捨てる
「違う。パスのためだと言っただろ。」
『まあそれはいいとして・・・良かったのか?
アイツらを連れてきて。』
時間軸は少し前、彼がコスタリカへ行く依頼を
引き受けた所まで戻るが・・・
「やはり・・・あなたは
引き受けてくれると思っていましたよ。」
ホクホク顔で言うガルベスへ、銀時が
白々しいと言わんばかりの目を向けつつ呟く。
「よっく言うぜ、テメェで弱みにつけこんどいて」
「そうアルうさんくせーんだヨこの海苔オヤジ
顔についてる海苔全部剥がしちゃるネ」
「一部ネタを本気で信じて実行しようとしないで
神楽ちゃん頼むからっ!」
彼は自らに向けられる非難をものともせず
「では、あなた達にもご依頼しましょう。
万事屋銀ちゃん・・・ですね?」
銀時達へ向き直りながら、そう訪ねた。
「俺達の事知ってんのか?」
「ええ、あなた方にはMSFの洋上プラントで
彼らのサポートをしてもらいたいのです。」
その一言にしかし彼らの顔色は変わらない
「要するにこいつらの雑用やれってこったろ?
くっだらねぇ、誰が受けるかよんなもん。」
『中南米は遠いよね・・・どうする桂さん?』
「達の支援をするのは吝かではないが
生憎、オレ達にも大事な仕事があるのでな」
「お前にそんなモンねーアルだろこのなんちゃっテロリスト」
「これでも・・・駄目ですか?」
と、ガルベスがおもむろに小切手を取り出して
銀時の目の前へと示してみせる。
書いてあった値段は・・・
「ちょっ・・・何これ?百万円?」
「そんなモンじゃないわよ、百万ドル!」
「スイマセン 僕らそっちの金銭感覚については
全く分からないんですけど・・・」
「まー平たく日本円に単純計算するとすれば
一億円って所だな。」
カズがそう答えた 正にその直後
「「「「マジでかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
万事屋と桂が一斉に驚きを露に叫び
佇んでいたパスがその有様に驚きの余波を食らっていた。
「どうですか?引き受けt「「何なりと
お申し付けください!バンキシャのナレーさん!!」」
手の平返した銀時と神楽に一斉に詰め寄られ
流石のガルベスもやや身を引いた。
「あ、ありがとうございます・・・
あの・・・ナ、ナレーさんとは?」
「いや聞き流してくれて構わないから。」
第3話 核、ダメ、絶対!
つまり現在、コスタリカの洋上プラントを拠点として
MSFの部隊と共に万事屋トリオと桂とエリザベスが
滞在して活動しているワケである。
「全く現金な連中だな・・・それでカズ
"教授"が用意したプラントの具合はどんな感じだ?」
『着いた時には笑うしかなかったな。』
苦笑交じりでそのときの様子を楽しげに語る当人によれば
長い間使われていなかったからか、内部は海鳥だらけの
大きな巣箱のようになっていて
その雑然とした内部の有様に江戸からの面々は
早々に帰りたそうな様子を見せていた。
けれど、それを上手く扱うのも司令者の腕の見せ所
ガルベスの依頼金をなびかせて
なだめすかしてまんまと作業に取り掛からせた。
『サビと糞がひどかったが何とか落とした。
ありがたいことに基本構造は傷んでないようだから
手入れすれば十分使えるようだぞ。』
小さく笑んだの頭に、素朴な疑問が沸き起こる
「その洋上プラント・・・元々は何処の所有物だったんだ?
いくらボロくても、造るとなると相当の金が必要だろ」
『どうやらこのプラント、アメリカの大学が
海洋温度差発電の研究用に造ったものらしい
・・・サビだらけの発電タービンに名前が残ってた。』
名前で詳しく調べれば、大まかな由来は推測できた
建造に政府や企業の援助があったものの、熱効率の問題を
解決できずに研究は中止
廃棄されたままだったプラントを
KGBのフロント企業が安く買い叩いた・・・
「恐らくはそんな所だとしても、よくKGBが
アメリカ資本のプラントを買えたな。」
『ああ・・・あの教授、相当のやり手だ。』
同意の後、一旦言葉を切ったカズの次のセリフは
やや熱意がこもったものに変わる。
『それとな、このプラント
どうやら同規格のプラントと連結できる造りになってる』
「なるほど・・・元々は増築していくことを前提に
計画して建造されたものだったんだな。」
『だろうな、何にせよ俺達にしてみれば好都合だ
俺達でそいつをやってやろうぜ?人を集め
物をつくり、MSFの拠点としてプラントを拡大するんだ』
「熱心だな」
『とはいえまずは補修を終えるのが先だがな
本格的に始動した暁にはよろしく頼むぞ、ボス。』
一旦無線を切り、海岸から森の中へと入り
幾分か進んだ辺りで人影に気づいたは
近くの倒木へ身を伏せ 影から様子を覗き込む。
森林を縫うようにして黄色のジャケットを着た
兵士が巡回しているのが見える
再びカズからの無線が入る。
『いたぞ・・・CIAの傭兵だ。
ジャック、無駄な戦闘は避け見つからないように潜入するんだ。
お前が見つかると・・・混乱は免れないぞ。』
「わかってる、ジャングルでの潜入任務には慣れている。
天人相手に潜入任務をこなしてきたんだ、どうとでもなるさ」
通信を終えて足音を殺し、は敵の目を
掻い潜りながら先へと進んでゆく
ジャングルを抜けて程なく
ガルベスが指示していた拠点へと到着する。
『拠点敷地内に入ったな・・・警備が多い、油断するな。』
「わかってる。」
麻酔銃「Mk−22」を撃ちこんで付近の見張りを
眠らせながら内部へと潜入し、彼は司令室を目指して進む
奥まった一室で通信を交わすやり取りが聞こえ
身を潜めながらは相手へと接近する。
「・・・捕虜が自白した。目標500の潜伏場所を特定。」
覗き込んだ先に、血まみれの捕虜が見えた
拷問を受けたらしい形跡があり 微動だにしない
様子からすると恐らく死亡しているのだろう。
顔を僅かに歪めながらも彼は油断無く歩を進める
『了解。』
『TJ−chrysalis 6000 目標500確保に向かう・・・』
復唱する通信相手は、何処か機械的でぎこちない声だ。
『槍(スピア)の積み替え完了、艀は地点Bを通過。』
「了解、通信終わり(アウト)」
兵が通信を切ったのを見計らっては掴みかかる
敵も気づいて向かってくるものの、彼は
その動きをいなしながら押し切って相手を拘束する。
「動くな!
積み荷はどこに向かっている?中身はなんだ!?」
「・・・山岳のイラス・・・」
「そこに何が・・・・・・!?」
何かが飛んでくる音を耳で捉えて
は敵を側に積まれたダンボールに向けて投げ飛ばす。
「クッ・・・!」
起き上がる直前にスタンロッドの電撃が浴びせられ
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
兵士が完全に沈黙したのを見計らい、彼は
素早く物陰へ身を隠す。
『TJ−chrysalis 6000 目標500確保に向かう・・・』
音が徐々に遠ざかってゆくのを聞きながら
何とかやり過ごせた・・・と心の中で呟き
「ん?これは・・・」
は、ダンボールから散らばった物体と
敵が身に着けているものとに気がつく。
眺めていたそれを確かめようとして
外から歌声が聞こえ、扉を開けた彼の目に
見たこともない飛行物体が飛び込んできた。
『ラーランラーラララーラララー』
「一体あれは・・・・うん?」
左へ視線を逸らせば、港らしき場所でトラックが
動いているのが見えて
すかさず無線を使い カズへと呼びかける。
「カズ、拠点地図を見つけた。
奴ら湿地帯から西のイラスへ向かっている。」
『さすがだな、ジャック。』
「それと・・・この拠点にフィルムバッジがあった
それも大量にだ。」
『フィルムバッジ?放射線の被爆量を測定する?』
「ああ、通信兵の服にも同じものがついている。」
気絶したままの相手を見やって、は言葉を続ける
「直前の通信を耳にしたが・・・通信相手は
物資のことを『槍(スピア)』と」
その単語にカズの言葉に驚愕の色が混じる。
『待て、じゃあそこには・・・』
「・・・・・核だ。コスタリカに核が運び込まれている!」
「・・・・なんてこった・・・!」
コスタリカの武装集団は・・・核を持ち込んでいる。
この事実に2人の顔が強張る。
『それでジャック、入手した地図は使えそうか?』
「奴らの各拠点の位置は分かるが、記されているのは
拠点のポイントだけだ・・・ルートまでは判らない。
現地の詳しい情報が欲しい。」
かすかにため息をついて、答えが返る。
『ジャック、KGBの教授はFSLNに協力を取り付けていると
言っていた・・・奴はFSLNの司令官にコンタクトを取れと。』
「・・・FSLNは、バックにKGBがいる事を知っているのか?」
『いや、彼らは純粋に革命を信じて戦っているはずだ。
KGBはあくまで裏支援 彼らに自覚があるかどうかは疑わしい』
物憂げに表情を曇らせるだが、事態に対し
四の五の言える状況で無いこともまた理解している。
「それにしても・・・このコスタリカに核を持ち込むとはな。」
『ああ、嘆かわしい限りだな』
キューバ危機への反省として結ばれたトラテロルコ条約を
批准しているコスタリカ国内では
核兵器の実験も使用も輸入も配備も全面的に禁止されている
・・・無論それが明るみに出れば国際問題として
OPANAL(ラテンアメリカ核兵器禁止機構)が動き
ただでさえ火種の多い中南米に第2、第3のキューバ危機が
誕生しかねない程の一触触発の事態となる
それが分かりきっていながら よりにもよって
米州機構の中心たるアメリカが条約を反故するような行動に
出ている事に、両者は疑問を感じている。
『しかし一体何故・・・何かの実験か?アピールか?
あるいは反米勢力への牽制か・・・』
「そうだな。何の為に核を持ち込んだのか
俺としてもそれが気になる。」
いずれにせよガルベスの本来の依頼―
『CIAがコスタリカでしている"何か"を阻止する』
その"何か"の内容を調べる必要があると彼は確信した。
「とにかくまずは準備を整えるべきだな。
・・・カズ、そっちの補修状況はどうなっている?」
『急ピッチでやっているさ、今は痛みがひどくて
地獄さながらだが ボス次第で天国にだって出来る』
語りかけてくるカズの声に力がこもってゆく
『誰にも邪魔されない。どの国家にも縛られない
避難所(ヘイヴン)になる。俺達MSFのマザーベースだ!
ここを足がかりとすればお前の支援ももっと強化できるってもんだ
ぜひともこのポンコツを拡大しよう!』
「ああ、わかったよ。」
『コルァァァァ!
テメこっちの仕事押し付けてどこで遊んでやがんだぁぁ!!』
唐突に無線から響いた銀時の怒鳴り声に、思わず
耳を押さえてから彼は叫び返す。
「遊んでねぇよ!俺は俺の仕事をしてるだけだ!」
『仕事って常夏の島でバカンスすることアルか?
土産の一つも持ってこないと後でボコボコにしてやるかんな。』
『神楽ちゃんここ常夏の島じゃないから!
ていうかホントに遊びに来てるわけんじゃないからね!』
『もう少し静かに出来んのか・・・それはそうと
コスタリカという国はどういう所だ?。』
桂の問いに、周囲の風景を見回して答えを返す。
「・・・きれいな国さ。
中米にこんな自然が残っているなんて不思議だよ。」
『そうか・・・後ほど色々とキャメラで風景などを
収めてきてもらえるか?他の攘夷志士達のいい土産になる』
「・・・・まあ、写真程度ならいいけど。」
『ついでにご当地スイーツ買ってこいよ。
金持ってんだからケチったりすんじゃねーぞ?』
『私はご当地酢昆布で勘弁してやるネ。』
「『だから遊びにきたんじゃねぇって
言ってんだろうがぁぁ!!』」
冴え渡る新八とのWツッコミは、距離が
離れていても見事なシンクロを見せた。
『なあ・・・ジャック・・・』
「どうしたカズ?」
『激しく日本に送り返したいんだが・・・こいつら』
思わず同意してしまいそうな意見に、彼は
申し訳なさそうな声音でこう返すしかなかった。
「すまん・・・・辛抱してくれ・・・」
――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)
退助「さあ舞台も中南米に移ったことだし
最初からどんどん飛ばしていくよ〜!」
銀時「飛ばし過ぎて失速してんだろうが。
ワンパターンな上に早漏は総じて嫌われんぞオィ」
神楽「そうネ、ついでに言うならこれ書いたの結構前アル
もうPWなんか見向きもされてないネ。」
新八「だからそういう内輪なネタは控えてくださいよ!」
パス「ねえ、この人たちっていつもこうなのミラーさん?」
カズ「普段はな・・・けど安心してくれ
やる時にはちゃんと成果を見せるからこいつらは。」
サニー「カズさん・・・言いにくいんだけど
食糧備蓄率が50%切っちゃったの」
カズ「なん・・・だと・・・!」
ガルベス「それがやりたかっただけなのでは?」
カズ「そんなワケあるかぁぁ!つかテメェらぁぁぁぁ!!
勝手にMSFの食糧消費してんじゃねぇぇぇ!!」
新八「カズさんが銀さん化したぁぁぁぁ!?」