『MIRV再突入体、観測数5200、5300
まもなく終末段階に移行。』
無機質な機械音声が辺りへと響き渡り
『ジャック!頼む、何とかして止めてくれ!!』
カズの通信を耳に はピースウォーカーへ向け
パトリオットの引き金をひたすら引き絞り続ける
「止まれぇぇぇぇぇ!!!」
被弾した部分から爆発し、黒い機体は傷ついていく。
・・・・湖の対岸では
「早く引き上げてやれ!」
FSLNとMSFとが協力して、墜落した
リオレウスを陸地へと引き上げていた。
とはいえ核戦争へ突入する恐怖は拭えないのか
彼らの表情も一様に不安をまとい
「怖いよ・・・姉ちゃん・・・!」
震え上がったチコは、アマンダに抱きついていた。
「どうにもならないの・・・!?」
マザーベースでは、残された隊員達とセシール
ヒューイが成す術なしの状況にうろたえていた。
「もう駄目だ、おしまいだ!!」
「世界が・・・終わる・・・・」
「もう・・・駄目なの・・・?」
泣きそうになるサニーの肩を がそっと叩く。
「大丈夫、なら必ずやり遂げてくれる。必ず・・・!」
『止まれぇぇぇぇぇぇぇ!!』
ひたすらピースウォーカーへ攻撃を繰り返し
偽装データを止めるの様子は
無線を通して伝わっていた。
「さん・・・まだ戦ってる!?」
「いくらでも、どうにもならないアルよ!」
目を見張る二人の隣でパスは両手を合わせ
「ジャック・・・頑張って。」
ただただ、彼を応援していた
第26話 歌には必ず力が宿る
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
張り裂けんばかりの咆哮を上げ続け
もうどれだけ攻撃したか分からなくなった頃
・・・限界を迎えて、疲労しきったの手は
銃を取り落としてしまった。
「く、くそが・・・!」
再び拾おうとするものの
痺れた手は、転がったままの銃を握れず空を掴む
「、無理をするな!」
「もういい・・・もう動くんじゃねぇ」
桂と銀時が、彼の両脇へと寄り添い
『第一次爆発時まで200秒・・・195秒・・・190秒・・・』
停止したまま偽装データ送信を行い続ける
ピースウォーカーが、秒読みを開始する。
『185秒・・・180秒・・・・175秒・・・』
あちこちを爆発させ ガタガタと機体を震わせて
核着弾の秒読みが刻々と進んでゆき・・・
『170秒・・・165秒・・・160秒・・・』
彼らが固唾を呑んで見守る中・・・
ママルポッドが、不意に点滅を始めた
『1・・・55秒・・・・』
唐突に秒読みを行っていた音声も乱れ始め
『150、150・・・秒・・・ヒャクヨ・・・
ンジュウゴ・・・ビョ・・・』
そして動かなかったはずのピースウォーカーが
ひどくゆっくりと、立ち上がり
・・・・ママルポッドから メロディが流れ出す。
―流れたのは、大戦中のヒット曲 「sing」。
『sing・・・sing a、sing a song・・・』
「な、何だ・・・・?」
初めはたどたどしい電子音の繰り返しだったものが
徐々に、人間らしい声へと変わっていく
「ママ・・・・・?」
「この声は・・・?」
ママルポッドの光が赤から黄色へと変わると
ピースウォーカーは、重い脚を引きずるようにして
一歩ずつ歩き出す。
「何・・・?」
その歌は、ネットワークを通じて国防省にも届いており
「・・・何だ?」
「この歌は・・・」
議長も議員も・・・その一瞬だけは自分達の立場も
争っていたことすらも忘れていた。
「これは・・・・ママが・・・?」
「何故だ・・・?」
全員が呆気に取られる中
ピースウォーカーは着実に・・・湖へ歩を進めていた
「機械の中の亡霊(ゴースト・イン・ザ・マシーン)・・・?」
機体の接触部によるショートにも構わず
ピースウォーカーは、湖の中心へ向けて進んでいく
「偽装データを止めるために・・・自らを沈めるというの?」
果たして―その効果は、すぐに現れた。
「見ろ!」
NORADのモニターに映っていたミサイルが
まるでロウソクを吹き消すように、全て消え去る。
「これ・・・一体どうなっているんですか?」
「機能代償だ。」
ヒューイの言葉は、新八の疑問に答えてるようであり
自ら独り言を語っているようでもあった。
「人間の損傷した大脳が、時間と共に回復する事がある
脳の他の部分が、失われた機能をカバーするんだ。」
「機械にそんな事できるアルか?」
「ママルもレプタイルも、人間の脳を模して創られている
アセンブルで、ひとつの脳になった事で
機能代償が可能になった・・・」
機体は静かに湖へと沈み始めて
ママルポッドの歌は・・・世界中へと流れる。
―それは江戸も例外は無かった。
「ん、オイ何だよこれ。」
真選組屯所のテレビに突然マークが映り
そこからママルポッドの歌が流れていたので
画面の前にいた土方と沖田とが眉をしかめる。
「なんでぇいきなり、ドラマの再放送はどうした?」
「ったく放送事故か?早くニートが家買うとこ見せろよ。」
「ちょっと待てトシ、総悟。」
ガンガンと遠慮なくテレビを叩く2人を止めて
神妙な面持ちで近藤は言う。
この声・・・聞き覚えがある・・・
もしかして君のお母さんじゃないか?」
「はぁ?何言ってんですかぃ近藤さん。
それじゃ心霊現象になっちまいまさぁ。ねぇ土方さ」
振り返った沖田と、ちょうど駆けつけた山崎が
置物の壷に頭を突っ込む土方を見て固まる。
「・・・何してるんですか副長?」
「いや・・・マヨネーズ帝国の逆襲が・・・」
「意味わかんないでさ。」
「オイオイまたか全く・・・・・
でもよ、いい歌声じゃないか・・・」
歌は機械を通して 街全体にも広がっていた。
「何だろコレ・・・聞いたことのない曲だね
言葉からすると別の国の歌かしら?」
頬に手をあて小首を傾げる兄の隣で
耳を済ませていた作務衣の少女の表情が、変わる。
「この声・・・」
「知ってるの?」
「・・・殿の・・・母殿の声・・・!」
吉原でも、遊女達のさざめきと目を見開く息子を見やり
「母ちゃん!街中から歌が流れてるよ!」
「知ってるよ、うちのテレビでも流れているだろ?」
「しかし・・・いい歌声じゃな。」
彼女達は顔を見合わせて頬を緩め
公園にてラジオを叩きながらも
「あれ、おっかしいなぁ・・・」
「どうしたの?」
首を傾げる長谷川の側を、テリコとヴィナスが
通りかかって声をかける。
「ああ、レースの結果を聞こうとしてたら
ラジオから変な歌声が聞こえてきてさ・・・」
「変な歌声?」
「あら?これ大戦中に流行ってた歌じゃない。
何でこんなものが・・・」
かまっ娘倶楽部へ、メリルとジョニーが
興味本位とトイレ目的で立ち寄っていて
「あら〜んかわいい坊やねぇ〜。」
「メ、メリル助けて・・・」
「別にいいわよ浮気しても、相手が相手だし。」
「そ、そんな〜!」
オカマ達に囲まれた彼がたじたじとなっていた
ちょうどその時
店のスピーカーからも"彼女"の歌が流れ出した。
「あらぁ?こんな曲かけた覚えないわよ?」
「ちょっと誰ぇ〜勝手に変えたの。」
「別にいいんじゃない?止めなくて」
スピーカーに伸びたオカマの手を止めて
「たまには、こういう歌も悪くないんじゃない?
ねぇお嬢ちゃん達?」
ウィンクした西郷へ、メリルも笑んで返す。
「・・・そうね、それにこの歌・・・」
スナックすまいるの店内は貸切となっていて
「いや〜んお爺さんったら切実〜!」
「あ、ど、どうも・・・」
「うろたえなさんなって、ここはそういう店ですからぁ〜」
江戸に視察へ来ていたビッグボスは
将軍と共に松平にここへ連れられ、キャバ嬢に囲まれ
想定外の状況にしどろもどろになっていた。
「・・・片栗虎、いくら何でもこんな所で
話をしなくてもよいのでは?」
「いいんだって将ちゃ〜ん、男だけの
むさっ苦しい所じゃ話が弾まんってぇ。」
「おほん、じゃあ早速本題に・・・」
咳払いし ビッグボスが話を切り出そうとして
店内に・・・ママルポッドの歌声が流れ出す。
「んん〜?何でぃこの歌はぁ?」
「こんなのステレオに入ってたかしら?」
「ほう、これは外国の歌だな。」
怪訝と驚きと興味が入り混じった面々の中
妙とビッグボスだけが、声を聞いてハッとする。
「あの、この声もしかして・・・」
「・・・ジョイ・・・君なのか・・・!?」
・・・護衛として外に控えていたオセロットだけは
すぐに、声の主に気付いた。
「フッ、平和の歌か・・・・いいセンスだ。」
―世界中に"彼女"の歌が、溢れていた。
「彼女の記憶が・・・遺っていた・・・?」
ストレンジラブの瞳からも 涙が止め処なく零れる。
「これが・・・彼女の答えなの・・・・?この歌が・・・」
『これは・・・明らかに論理的思考ではない・・・
頭ではなく・・・・こころ?』
重なるようなヒューイのセリフの後
彼女は・・・沈み行く機体を見つめて、言った
「これが、彼女が望んだ最期なのね。」
ヘリにいた新八や神楽、カズにも歌声は聴こえていた
「ビッグ・ママの潔白が証明された・・・
ジャック、聴こえるか?・・・彼女の唄が。」
パスは窓にを描き
そこから 2人と並んで外を眺めていた。
「・・・よかった。あなたは・・・本当に観たのね。
宇宙から・・・戦う以外の美しさを・・・」
「これは・・・本当にの母上が・・・?」
「今目の前で起こってんだろ、その現実が。」
どこか切なげな目で、銀時と桂も機体を見つめ続ける
「・・・わかったわ。あなたは最期に・・・
自分から銃を棄てたのね・・・初めて・・・
唄うことを 選んだのね・・・」
涙混じりに語るストレンジラブに呼応するように
ピースウォーカーは湖へと飲みこまれてゆく。
「聴こえるはず、みんなにも・・・
遺るはず・・・彼女の意志が・・・
それが・・・全てを棄ててまでも彼女が求めたもの。」
そうして、ピースウォーカーが完全に沈むと
が水面に広がっていった
「そして・・・やはり叶わなかったもの。そうでしょ?
それでも、唄うしかないのね?」
は、消えゆくママルポッドに敬礼をする。
「平和は、何処にも存在しない。
だからこそ・・・願うしかないのね。」
そして、ゆっくりと下げた手で
頭へ巻いていたバンダナを外し
湖へ・・・・放り投げた。
「平和という、幻想を・・・」
「平和は何処にも・・・か。」
同じように湖の底へ消えた形見の一つを
見つめる彼の肩を 銀髪の侍が叩く。
「幻想だろうと何だろうと俺らが創るまで、だろ?
の母ちゃんが望んだ以上に・・・な。」
「・・・ああ。」
力強く頷いては再び敬礼をし
「ママ・・・・ありがとう。」
涙を流しながら、ビッグ・ママへ感謝の意を示す。
こうして・・・・・・全面核戦争の危機は免れた
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後書き(退助様サイド)
退助「ついにきた感動のフィナーレ!」
銀時「あえて言わなかったけど、何て攻殻機動隊?」
ストレンジラブ「それを言ってはおしまいだろう。
けど、ママルには間違いなく彼女が宿っていた。」
カズ「そういえば、彼女ともそんな関係だったのか?」
ストレンジラブ「当たらずとも遠からず、だな。
・・・まぁそれに関しては近いうちに話そう。」
パス「これでやっと、平和になったのね・・・」
桂「そうだな。パス殿。」
銀時「って待て待て?もう終わったみたいな
面してっけど、色々ほったらかしてて収集つくの?」
退助「さあ?」
新八「え゛ぇぇぇぇぇ!!」