国防省では、モニターを前に緊張状態が続いていた





「接近中のMIRV、弾頭分割を確認!」


「残り時間更新、あと11分!」





強張った面持ちの議長の下へ、受話器を携えた
議員が物々しい様子で告げる。





「緊急電話です!」


「大統領か?」





戸惑う議員へ苛立ったように議長は声を重ね





「雷電と・・・名乗っています。」


雷電・・・!繋げ!


その一言により顔色を変え、彼は受話器を取る。







議長と通話可能になって 間を置かずは言葉を発した。





「議長、要点だけ言う。
今すぐソ連への核攻撃を中止しろ。


『何だと?』


「そちらのレーダー反応は全て偽物だ。
核は実際には発射されてはいない。」


『何故判る?』


「ある実験に使われた偽装データがそちらに漏れた。
レーダーに映っているのは、その実在しないミサイルだ」


『それが嘘なら、後10分で我々はお終いだ。
報復しなければ更に多くの国民が・・・』





煮え切らない態度に苛立ってか、突然銀時が
受話器を奪ってがなり立てる。





「頭の固ぇ連中だなぁ、素直に受け止めろって。
こういう時ぐれぇは馬鹿にならにゃいかんよ?」


誰だ貴様は!?日本人か?』


「そうだよ〜泣く子も黙るビッグボスを
傘下に加えた万事屋一家とか俺のことd」


即座に銀色天パを殴り、彼は受話器を取り返す。











第25話 諦めこそが人を殺す











『ビッグボスだと・・・!?』


話をややこしくするな!・・・ゴホン
その実験はCIA中米支局長が立案し実行した。」


『では彼を電話口に出せ。』


「・・・あいにく支局長は死んだ。
彼のフルネームなら言える。」


『交換手へのコード認証だけでは不十分だ。
貴様が本人である証拠は?





厳しく突き詰める相手に対し、は冷静に答える





「アンタがビッグボスの称号を知っているという事は・・・
俺が当時の大統領からビッグボスの称号を得た時・・・

恐らくあんたも、その式典の・・・あの部屋にいた可能性がある。」


『ああ、いたとも。』





と、他の議員が痺れを切らし横手から怒鳴る。


もう待てん!何を戯言(たわごと)を!』


ちょっと待て!・・・続きを聞こう。それで?』





彼は当時の情景を思い出し、慎重に言葉を選んで放つ。





「俺はあの時、CIA長官に握手を求められ
その握手を拒否した。あの部屋でも表彰は極秘事項だ。

・・・あの現場にいた、ごく少数しか知らない事実だ。


『そんな男の戯言は放っておけ!』


待ってくれ!・・・何故君は彼の握手を拒否した?』





問われて・・・は、強く答える。





「何に忠を尽くすべきか?それがわかったからだ。」









議長は受話器を下げると・・・声を張り上げた





「みんな聞け!ソ連からのミサイルは嘘だ!」


「何!?何故この男を信じる!?」


そうです!敵の妨害工作かも!」


「いや、彼は間違いなくあの時のビッグボスだ。」


「そうしてそう言える?」





疑念に満ちた議員へ、議長はハッキリと言った





「あの時、長官の横で彼の行動を見ていた
当時の陸軍参謀総長は・・・私なんだ。」






その言葉に、全員が言葉を失う。







『・・・助かったよビッグボス・・・いや、雷電。
こちらは警戒を解除する。





それを耳にしたは、笑みを零して すぐに姿勢を正す。





「感謝します。」


『電話では何だが、今度会ったら・・・握手をしてくれ。』


「・・・喜んで!





これで、最悪の事態が免れた・・・・・・・







しかし 次の一瞬


議長のこめかみに向けて銃が突き付けられた。


「何をしている!」


「駄目だ・・・解除はさせない!









電話口の議員の裏切りを理解し





「・・・くそっ!!」


『クズどもがぁ・・・!!』


とカズとが沸き上がる憤りを吐き出して





―微動だにしなかったピースウォーカーに 異変が起こった。





『ジャック・・・ジャック・・・』





突然ママルポッドが立ち、ハッチが開く。





「開いた・・・?」


・・・どういうことなのだ・・・!?」







ポッドの中から・・・無数のモルフォ蝶が飛び立つ





「彼女が・・・呼んでいる・・・」





ストレンジラブの呟きを背に、ピースウォーカーに
よじ登ってママルポッドへ到達すると





『ママルを破壊すれば、偽装データも止まる!』


「彼女を止めて・・・!」





は、再びママルポッドの中へと入っていった。









『待っていたわ・・・ジャック、ずっと・・・
あなたの誕生、成長、そして今日の決着を・・・


「・・・ママ・・・・」





・・・は ママルポットの記憶板を抜いていく





『お前を育てて鍛え上げたのも、私とお前が
闘い合うためにしたことではない。


我々の技術は仲間同士を傷つける為にあるのではない。


では敵とは何だ?時間には関与しない
「絶対的な敵」とは?そんな敵は地球上には存在しない』





淡々と語る彼女の話を聞きながら、一つずつ
確実に記憶板を抜いていくが





『なぜなら敵はいつも同じ人間だからだ。

「相対的な敵」でしかない。世界は一つになるべきだ。


『賢者達』を再び統合する。私は自分の技術をそこに投入する
賢者の遺産を取り返し・・・それを実現する。


かつての「コブラ部隊」のように。彼らという家族がいる。』





徐々に、そのスピードが鈍くなっていく。







『もう子供が生めないが、私には家族がいる。』





優しい・・・記憶と違わぬ彼女の声に躊躇いながらも


は、記憶板を抜くのを止めない





『すばやい茶色の狐はのろまな犬を飛び越える。』





データが減っていくからか、どんどん口調が
おかしくなっていく。





『殺して・・・私を・・・さあ・・・


その一言と共に、周りにオオアマナの花弁が舞い
・・・あの時の光景が蘇る。


けれども彼は腕を止めなかった。






『スペインで雨降る平地を歩行する?』





二列以降に差し掛かると、語りかける言葉も
支離滅裂な内容へと変わる





『円周率は、3.25463734898888888888888888・・・・』


「・・・何で円周率が?」


『ボスは二人もいらない・・・
英雄は・・・一人でいい・・・





後一列に差し掛かると、それはより顕著となった





『川西能勢口、絹延橋、滝山、鶯の森、 鼓滝、多田、平野
一の鳥居、畦野、 山下、笹部、光風台、ときわ台、妙見口・・・


円周率は・・・円周率は・・・・およそ3。







そうして記憶板が後数個を数えるまでになり





「ジャック・・・」


本来の名で呼びかけられて、の腕が止まりかける。


それでも数瞬置いて・・・再び記憶板が抜かれて行く





『ジャック・・・』





記憶板を抜く度に呼ぶ声も、徐々に掠れ





『ジャッ・・・ク・・・』


ゆっくりと・・・元の声音さえも失っていく





『ジャ・・・ック・・・』





そして最後の一つを残すまでになる頃には





『ジャ・・・・・・ック・・・・・』


最早 目の前の機械は彼女の面影を残していなかった







「・・・・これで・・・・終わる・・・」





残った一つへと手をかけるも、その手は震え

記憶板に伸ばされた状態で硬直していた





あの時・・・ビッグ・ママを殺した光景
脳裏へとフラッシュバックし


深呼吸し決意を固めた数秒を置いて





彼はついに・・・記憶板を抜いた・・・・





『ジャ・・・ッ・・・・ク・・・・』





今を持って ビッグ・ママは


・・・・・・・・・ママルポッドから消えた。









『有効記憶領域・・・ゼロ。』


『イグジット完了・・・』


ママルポッドからも、光が消えていく。





「止まった・・・・」





安堵の吐息をつくへ、しかしサニーから
慌てた様子の通信が入る。


『ダメ!レーダーからミサイルが消えてない!
偽装データが止まってない!!



『そんな・・・偽装データの送信は
ママルを迂回しているのか・・・?』


「んなのアリかよ・・・!?」







慟哭は、国防省内部でも巻き起こっていた





「銃を降ろせ!冷静にならんか!
世界が、地球が滅ぶのかもしれんのだぞ!!」






周囲の議員達による制止が原因で議長は
警戒解除を出来ず、焦りと苛立ちを募らせていた。









「何故だぁぁ!!」





どこにぶつけていいのか分からない苛立ちを

彼は止まったママルポッドに、拳でぶつける。





「俺には分からない!!答えろ!!教えてくれ!!

ママ!!!答えてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」



何度も、何度も力任せに拳を叩きつけ続け





「く・・・・クソォォォォォォォォォ!!!





しまいに力尽き・・・は両拳を打ちつけたまま
ママルポッドの前へ崩れ落ちる。











『あと6分です。』





議長のこめかみへ銃口を向けたまま、議員は口走る





「・・・そうだ。権限は私にある。報復を開始する!


「やめろ!!世界が終わってしまう!!」


「何でもいい!やられて死ぬのは負け犬だ!


「家族が死に・・・この国が滅びるのならソ連も道連れだ!!





やがて先程の男が、勝手な言い草を締めくくった。





「これでわかったろう!
抑止力など夢の産物だったんだ!!」










ポッドから外へと出たが、ピースウォーカーを
仰ぎ見ながら嘆くように声を上げる。





「なぜだ・・・・・なぜ止まらないぃぃ!!


「機体を破壊し、知能を壊しても
全てが無駄だと言うのか・・・!?」


呆然と呟く桂へ 信じられないと言いたげな
面持ちのストレンジラブの言葉が続く。





「大脳が損傷しても、生命活動が続くことがある。
ママの・・・ママルの仕業じゃない。





彼は、絶望的な気持ちになり 機体の前で膝をつく





「むしろ、もっと原始的な部分・・・」


『ママルの遺志が・・・
レプタイルに流れ込んでいる・・・?』


『本当に打つ手無しなんですか!?』


私達どうなるアルか!?このまま死ぬのなんて嫌ヨ!!』





抗えない現状が絶望と諦めの色を濃くして広がり





「どうしようもないと言うのか・・・!?」


今回ばかりは・・・
どうにも出来ねぇかもしんねぇな・・・」





侍達の顔色も、暗いかげりが見え―









「バカな・・・・・・・・・」







一言 まるで独り言のように呟いて


ゆっくりと立ち上がった





「止めろ・・・・・!
何としても・・・・こいつを止めろぉぉぉぉぉ・・・・!!





魂の底からの叫び声を上げてパトリオットを構え





「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


ピースウォーカーを止めるため、引き金を引いた。








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後書き(退助様サイド)


退助「ママルを破壊しても止まらない偽装データ
ここから先どうなるのか・・・」


銀時「ていうか本当にしぶてぇなあの機械!
逆にしつこ過ぎんぞ!」



ストレンジラブ「まさか偽装データが、ママルを
破壊しただけでは止められないとは・・・

一体 どうなっている!?


ヒューイ「この現象・・・何かに似ているような気がする・・・」


神楽「んなのどうでもいいアル!早く飯屋に行くアル!」


新八「ってこんな時でも食べるの神楽ちゃん!?」


カズ「世界が滅亡したら、最後に何をする?って
質問したら"死ぬまで食べ続ける"を選ぶ典型な奴だな。」


議長「そ、それよりもこいつらを何とかしてもらえないだろうか・・・
銃を突きつけられるのは 居心地が悪い・・・


退助「すんませんけど次回まで我慢してください。」