"VICBOSS誕生"の熱気が幾分か収まると


MSFは基地の後始末を終えて、間髪入れずに
マザーベースへと帰還していく。





カズもまた新八と神楽、それと保護したパスを
輸送ヘリで送る所だった。





「パスは落ち着くまでマザーベースに」


「・・・教授は?」


「独房に入れておく。」


「あのハゲジジィはどうなんだ?」


「コールドマンは失血がひどい。助かるかどうか・・・」


「アマンダは?」


仲間と一緒だ、後で合流する。」





ほう、と桂が片眉を上げて感嘆の声を上げる。





「あ奴らもマザーベースに戻るのだな。」


「そうだ、もっと強くなりたいと言っていてな・・・
ジャック、お前は・・・」







は パトリオットを構え直して告げた


「まだやる事がある。」


「例のAIか?」


「あのままにはしておけない。
・・・・・ママの紛い物を、埋葬してくる。」





隣に並んだまま、桂と銀時も視線を合わせて答える





「俺達も立ち会おう。」


「ま、の母ちゃんには色々とがあるからよぉ。」





その様子にフッと笑んで、カズは輸送ヘリを浮上させた。





「戻って祝杯の準備をしておく。かりそめの平和を祝おう!


銀さーん!僕達待ってますからー!」


「早く戻ってくるアルよぉ〜!」











第23話 悪役は死ぬ間際もしつこい











離れて行くヘリを見送る彼らの左へワゴンが横付けされ


運転席のストレンジラブが、顔を見せる。





「ストレンジラブ・・・・」


あんだネェちゃん?投降しにでも来たのか?」


「そうだと言ったら?」


「・・・主は何故、あのような機械を開発した?」





問いかけに・・・一拍間を置いて彼女はこう言った





「彼女を蘇らせたのは奴らに強要されたからじゃない。

本当の気持ちを・・・彼女の最期を知りたかった。


「・・・ママは死んだ。」


「いえ、彼女はまだ生きている。」


「掘り返さない方がいい真実もある。」


駄目よ、正直になりなさい。あなたも知りたいはず
あなたが最期に見たもの、聴いたことが真実かどうか。

きっと彼女は真実を伝えてくれるはず。」







口を閉ざした彼に代わり、耳をほじりながら
けだるそうな顔つきで銀時が呟く。





「あんな機械にねぇ・・・源外んトコもそうだが
機械に関わってる連中にゃろくな奴がいねぇな。」


「貴様が言えた義理ではないだろう銀時。」





その軽口に、クスリとストレンジラブは笑った。





「止めてくれてありがとう。
・・・それに、ごめんなさい。」


「・・・大丈夫だ。」


「案外、優しいのね。」





そこに二人が手を振りながら割って入る。


騙されんなよ、こいつ女には大抵優しいからよぉ。」


よ、程々にしておかねば殿に嫌われるぞ?」





直後ムカッと来た当人が両発言者の胸倉を

ぐわしっ!と掴んで持ち上げ思い切りシェイキングしだす





「いっちいち揚げ足とるし・・・そんな気全然ないし・・・
それに女運ないし・・・ていうかそんな事逐一しつこく
口にすんなしこのアホ侍どもがぁぁぁぁぁ!!


うわばばば!わ、わかったら下ろしてくれすまん!」


「ていうかこれデジャブ、誰かにやった記憶が・・・!」


「フフフフフ・・・アナタ達、本当に面白いわね。」





楽しげな笑い声を聞いて、彼は手を離して
やや乱暴に二人を降ろす。







「彼女に逢いに行きましょう。乗って・・・・ボス。





腰を擦る銀時と桂を引き連れて


は、ワゴンに乗りピースウォーカーの元へ行く









一方、輸送ヘリでは・・・





「慣れない銃は握るな。」


コールドマンに銃を突きつけていた事実を
知ったカズが、パスを叱責していた。





「構えるだけでは、抑止力にはならない。」







震えてただただ泣いているパスの様子に


彼は・・・声の調子を和らげて語りかける。





「銃は俺達に任せろ。
君は平和の使者だ・・・そういう契約だったろ?」


「そうですよパスさん、それにカズさん
これでコスタリカから・・・」


「ああ、軍隊はいなくなる 元の平和国に戻るはずだ。」


そうネ!だから元気出すアル!」





3人に目一杯励まされ、彼女は涙を拭うと





「・・・・ありがと」


笑顔を浮かべてピースサインを浮かべた。







その様子にホッと息をついて・・・彼らの視線が

隅に拘束されている"元・教授"に注がれる





「それにしても・・・ガルベスさん・・・・」


「ザドルノフだ。」


どうでもいいアル、よくもパスに銃なんか
持たせやがったなコノ変態ヤロー・・・!」





パキポキと指を鳴らし 今にも殴りかかろうと
近寄る神楽の肩を掴み、カズは首を横に振る。





「処罰はマザーベースでゆっくりする。我慢しろ。


「ちぇ・・・わかったアル。」


視線だけは鋭いまま、彼女は怒りの矛先を納め







・・・ふと かすかにキーを叩く音が響く。





パスとザドルノフ、新八、神楽が揃って
コールドマンの方を見た瞬間


PCから奇妙な音が聞こえてきた。





「フ、フフフ・・・フハハハハハ・・・」


「・・・何の音だ?」







直後・・・・・湖の側の格納庫にて停止していた
ピースウォーカーが 突然動き出した。





「坊主!操縦桿握ってろ!」


え!?ちょカズさん・・・!」


彼は新八にヘリの操縦桿を握らせると、すぐさま
コールドマンの持っていたPCを取り上げる。





「何をした・・・!」


「この死に損ないが・・・・・やりやがった!


「・・・NORADには悪夢の始まりだ・・・」


「・・・何だと?」





息絶え絶えに目を見開きながら、コールドマンは
腹の底から言葉を搾り出す。





「ピースウォーカーは・・・敵からの核攻撃のデータを
元に・・・報復目標を決定する・・・


この報復のための、偽装データは・・・
外部送信も可能なのだ・・・!





それを聞いた一同に緊張が走る。





「何だと!?」


「そ、それじゃあ・・・!」


「あの機械動き出したアルか!?」





カズはすぐに操縦に戻り、に通信を入れた。









『ジャック、まずい!
コールドマンが核発射スイッチを起動させた!』



何だって!?目標はキューバか?」


「往生際の悪いハゲだなオイ!」


『だがそれだけじゃない。あの野郎、えらい仕掛けを。』







瀕死のコールドマンが言うには





起動したピースウォーカーから北アメリカ航空
宇宙防衛司令部(NORAD)へと偽装データが送信され


送信データにはスペクトラム拡散方式の複合長波信号が
使われているため 電磁パルスを用いたとしても

データが妨害されず、司令部へと届いてしまう。





『データはレーダー上では本物と見分けがつかない。』





カズが言うように、NORADの人間はそれが
ピースウォーカーの創った幻影だと知らない


故に誰もが"ソ連からの真の核攻撃"だと誤認し


受け取ったその情報が国家軍事指揮センターへ伝えられ・・・







「アメリカは・・・報復の選択を迫られる。


「オイオイそれ色々とマズイんじゃねぇのかよ!?」


『ああ・・・このままだと・・・報復の連鎖が!


『いや・・・』





動揺を浮かべる面々の会話に、弱々しく
コールドマンが割り込む。







「慌てる必要はない・・・つかの間の悪夢を見るだけだ。」


「どういう事なんですかそれ!?」





新八の疑問に淡々と答えたのは、ザドルノフだった。





「コールドマンの狙いは、機械であるピースウォーカーの
存在意義を政府の連中に思い知らせることだ。


人間の意志では核が撃てない事を この男は
政府自身に立証させようとしている。」


「そんな保障が何処にあるアルか!」


今にも掴みかかりそうな神楽を、瀕死の声が留める





「大丈夫だ、諸君・・・報復は出来ん、人である以上・・・


『カズ、大統領は何処に?』


「・・・確か、彼はいまウラジオストクで
SALTU会議の真っ最中だ。」







事態の理解に聡い桂が、沸いた疑問を口にする。





「それでは報復判断が出来ぬのではないか?」


「いや、こっちのシステムもうまく出来てるものでな。

大統領が不在の場合、核発射権限は次の人物
委譲されるはず。」


『いま副大統領は空席だから、その次は・・・』


『・・・大統領であろうが、なかろうが・・・

誰一人、スイッチを押す勇気はないはずだ。





破壊者として、歴史に記録されたくはない。


最期に人が守るものは・・・命ではなく、名声だ







血反吐を吐くような彼の言葉を無線越しに聴きながら





「政府の連中は報復出来ないかもしれない。


でも、ピースウォーカーは・・・彼女は
誰よりも任務に忠実よ。そして、核抑止には
報復の確実性が不可欠だと認識している。」





ワゴンを操縦するストレンジラブもまた、言葉を紡ぐ







震える唇を動かし・・・コールドマンは声を吐き出す





ピースウォーカーは完全なる抑止力となる・・・
キューバへの攻撃は不本意だが・・・平和に犠牲はつきものだ。」


「そんなの・・・!」


「無茶苦茶ですよ!」


「偽装データを受けたピースウォーカーは・・・
確実に報復を実行する。」





カズの顔から、完全に血の気が引いていく。





バカな!!
キューバだけじゃない、全面核戦争に突入するぞ!!」








「NORADの状況を知る事は!?」


ママルはNORADと繋がっている。
機材があればモニター出来るはず。」


『それなら、僕達に任せてくれ!サニー手伝って!


『は、はい!』





サニーとヒューイはマザーベースの機材を使い
NORADの回線に繋ぐ。


『NORADの回線を捉えた!』





無線からNORADで行われているやり取りが聞こえてきた









[追跡中の未確定目標、現遠地点より20度。]


[推定再突入時間、2250Z(ズールー)。]


[大統領と連絡は?]


[空中指揮所(カバーオール)繋がりません!]


[警報システムに異常なし、該当する
自然活動(シグネチャー)なし、信頼度高い!]









深刻な事態を想定し、は無線に向けて叫ぶ。





「偽装データの送信を止めろ!
政府が報復しないとは断言出来ない!」



『停止コードを知るのは・・・私・・・だけだ・・・』







死期が近いのか、コールドマンは意識が朦朧とし始めていた





私は死ねば・・・誰にも解除は出来ない・・・
仮に報復したとしても・・・私は・・・死んだあと


・・・私の理論が、私の平和が・・・証明されることを
・・・祈っているよ・・・」





狂気を孕んだ笑みを浮かべた彼は残った力を
振り絞って 腕を上げ





「ピー・・・・ス・・・・・・」


ピースサインを掲げた後・・・・息を引き取った。







沈黙する彼らを他所に、カズは冷静に命令を下す





「・・・デフコンを3に引き上げる。
戦略空軍を呼び出せ!


「こちらクリスタルパレス、緊急会議を招集する。
スタンバイ!


「・・・デフコン3だ!」







第2のキューバ危機が、ここに至って発生した。





「偽装データと核、根元は一つだ・・・
ピースウォーカーを止めろ!!











「壊すしかない・・・!」





スピードを上げ、ややドリフト気味に
ストレンジラブはピースウォーカーの側へ向かい


停止したワゴンから三人が飛び降りる。





発射態勢に入った!ピースウォーカーの裁断が下った!
目標は・・・キューバ!


『ジャック!核を撃たせるな!!』


「急ぐぞ!」


「ああ!」


彼らは歩き出したピースウォーカーを追いかけ走る





数歩闊歩し、立ち止まった機体が力強く足場を踏みしめ


核ミサイルコンテナを開き―発射態勢に入った。





『弾道計算が完了したら、お終いだ!』


『ジャック、機体を破壊し、発射を阻止するんだ!!』


「・・・行くぞ銀さん、桂さん。ここからが本番だ!


「承知している!あんな機械に
この世界を壊されてたまるものか!」



「おぉよ、こんな馬鹿げた事で江戸の連中も
巻き添えになるのは御免だ・・・

落し前はきっちりとつけさせてもらうぜ!!





全員が武器を構えて、ピースウォーカーへと向かう。





「俺のような子供が生まれないために・・・
核は・・・絶対に撃たせはしない!!








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後書き(退助様サイド)


退助「いよいよ核攻撃の緊張が高まってきました!」


銀時「今思ったけどよ、あんなミサイルに
んな破壊力あんのか?見た目しょぼそうなんだけど」


ヒューイ「何言ってるんだ!あのミサイルは1Mtクラスだ!
爆発すれば火球だけでも1.5キロもあるし
時速100キロの爆風、火災、初期核放射による大量被曝


・・・誰一人生き残れやしない!」


ストレンジラブ「彼女なら必ず核を撃つ。
何とかして止めないと・・・」


「そんなもの撃たせはするか、例え他国の者でも
見捨てるわけにはいかんしな!」



銀時「おっしゃ、次回は気張っていくぞヅラ!


新八「あの・・・僕らこれで終わりですか?」


神楽「そうネ、ここから銀ちゃん達しか
目立てない感じがプンプンするアル。」


退助「・・・・お疲れっした〜。」


新八「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」