「ジャック!」
管制室へと入った途端にパスの声が聞こえ
次の瞬間、待ち伏せした兵士が周りを取り囲んでいた。
「来たな雷電。」
高台となっている部分の奥からコールドマンが顔を出す
「だがもう手遅れだ。偽装データの準備は整った。」
「偽装データ?」
「そう、偽装データだ。」
ニヤリと彼は笑みを深くして滔々と語る。
「ピースウォーカーは抑止力としてのみ機能する兵器だ。
自らが自発的に攻撃を仕掛ける機能はない。
彼女が攻撃に目覚めるのは、あくまでも報復行動時のみ。
だからこそ平和の兵器、ピースウォーカーなのだ。」
「"平和の兵器"だって・・・?馬鹿げてる・・・!」
苦々しげなの侮蔑を無視し、コールドマンは
偽装データについての説明を続ける。
それはピースウォーカーに ソ連から米本土へ向け
発射された"架空の核兵器データ"の入力を差し
ママルポッドはそのデータの脅威を査定後
独自に報復モードを起動させ、予め予定されている
攻撃目標の中から最適な目標を選定するのだという。
今回はママルポッドが目標を"カリブ海洋上"に選定せざるを
得ないような状況を逆算した偽装データを仕込んであり
入力されれば そこへ向けて核を撃つ、と
コールドマンはそう示していた。
「本当に撃つつもりか?」
「まさにこの冷戦世界で最初で最後の報復行動は
ピースウォーカーがすることになる。
そして、これが平和へ近づく唯一の方法なのだ・・・」
言うその手には、アタッシュケース型のパソコンがあり
手錠でその取っ手と自分の腕とを繋ぎ合わせていた
「後はコードを入力するだけだ。」
不敵な笑みのままコールドマンはコードが入った
カードをパソコンへ差し込もうとし
「やめろ!」
阻止するべくは銃を向けて相手へ照準を―
「とまれ雷電。」
後ろから響いた声に、辺りの空気が凍りつく
第22話 人も命も…なめるなよ!
「遅かったな。」
振り返った彼が見たのは・・・悠々と歩いてくる
いるはずのない"教授"。
「・・・教授・・・?」
「先生・・・」
「予定より手間取った・・・"基地の制圧"にな。」
その一言に、コールドマンは途端に困惑の表情を浮かべ
後ろに控えていた兵士がコールドマンへ銃口を向ける。
「私が持ち出した技術と、お前が提供してくれた土地と資金
・・・我々ツェントル(KGB)だけではこうも早く結果は
出せなかったはずだ。」
同じように頭に銃を突きつけられ、は腕を下げ
横を通過する教授を睨みつける。
「ザドルノフ、裏切ったな・・・!」
「裏切る?そもそも我々は敵同士ではないか?
私の同志たちがカンパニー(CIA)のために働くとでも?
堕落しきった資本主義達に忠誠を尽くすとでも?」
「何をする気だ?」
足を止め、ガルベス・・・・・"ザドルノフ"は
にんまりと笑みを浮かべながら答える
「キューバに・・・核を撃つ。」
とんでもない発言に 二人は目を見開く。
「キューバだって!?」
「そんな馬鹿な!?貴様に何の得が!?」
キューバはソ連と親密な関係にある。
そんな所に撃っては 間違いなく国際問題になる。
(・・・こいつがソレを知らないはずは無い)
疑問に思う彼らの内心を読んだかのように
相手は不敵な笑みを崩さないまま言葉を紡ぐ。
「我々が核を撃つのではない。お前達アメリカ人が
我々の同志キューバに核を撃つのだ。」
「何だと!?」
「まだわからないのか?ここは親米政権が
お前達に与えた米軍基地ではないか。
・・・・・・国際世論はどうなると思う?」
ザドルノフはコールドマンのいる高台に足を運ぶ。
「反米感情に一気に火がつく!
中南米の共産化は止められなくなる。
抑止力をあえて起爆させる事で、時代の転換を狙う。
それがクレムリンの計画なのだ。」
ギリ、と悔しげに彼は歯噛みして唸る。
「貴様・・・」
「パス、こっちへ。」
義手でパスの身体を強引に引き寄せ
「こいつを撃て。」
言って、ザドルノフは彼女の手に拳銃を持たせる。
「ガルベス先生・・・?」
「私の名は、ウラジーミル・ザドルノフ。
ウラジーミルの意味は"平和を支配"だ。」
身体の向きを反転させ、彼はパスの手を握り
コールドマンへと銃の照準を合わせさせる。
「言うことを聞け、パス。」
「やめろ・・・」
「沿岸での陵辱を思い出せ・・・コールドマンが
君にしたことは・・・死の報復に値する。」
辛い記憶が蘇ったからなのか
手が離されてもパスは相手へ銃を向け続けていた
それでも・・・ガタガタと腕が震えている。
「パス・・・悪かった・・・!」
「パス!やめるんだ!!」
謝罪と静止とが呼びかけられるが、彼女は
銃を下ろそうとはしない。
は強く、思いを込めて叫ぶ。
「平和の使者が血で汚れるような事をしたらダメだ!
銃を下せ!パス!!」
「・・・・・・・・できない・・・!」
やがて・・・・ゆっくりとパスが銃を下ろす
それを見て彼が息をついたのも束の間
「流石はパス・・・」
無理やり下ろされた手を握り、ザドルノフは
コールドマンへ銃口を向けて引き金を引いた。
「んぐぉぁぁ!」
ズタ袋のように重い音を立てて相手が床に倒れこむ
「報復には、DEADHAND(死んだ手)が相応しい。」
その場でへたり込んだパスに見向きもせず
彼はカードを拾うと、コールドマンを見下ろす
・・・弾丸は 右腕に命中していた。
「貴様・・・わざと外したな・・・」
「お前の出番はまだある。コードの入力をしてもらう。」
嘲笑いながら 蹴り飛ばされ悶え苦しむコールドマンを
尻目に、彼は奥で作業していたストレンジラブへ指示を出す
「博士、目標をキューバにする。偽装データを変更しろ。」
手を止め グラサンの奥から反抗の眼差しが飛ぶが
「抵抗は考えるな?お前だけじゃない、お前の後で
お前の大好きな"彼女"も潰してやるぞ。」
そう脅され、直後彼女は怯えた表情を取る。
「それだけは・・・やめて・・・」
「報復目標をキューバに変更しろ。」
「・・・・・わかった。」
全てを終えて納得し ザドルノフはへ向き直る
「さて、雷電。お前の全てを見させてもらった。
彼らの司令官に相応しい理想的な振る舞いだった。」
「何だと?」
理解できないと言いたげな相手へ
もったいぶった言葉が投げかけられる。
「何故私がお前をコスタリカへ呼び FSLNに接触させたと思う?
・・・真の諜報活動とは直接介入せず、現地の組織を操り
間接的に革命を実現させる事」
彼の脳裏に一瞬にして 捕らわれていた
アマンダ達の姿が浮かんで消えた
「そうか・・・アマンダ、FSLNか!?」
「よくぞここまで彼らを訓練、組織して
まっとうな革命軍に育ててくれた。
あのバラバラだった、無垢な幼いゲリラ達を・・・
お前こそ、まさに"21世紀に最も完璧な人間"!」
ゆっくりと・・・語りながら、ザドルノフが降りてくる
チェ・ゲバラの再臨とCIAによる英雄の死
英雄は伝説のイコンとなり・・・彼を失ったFSLNは
報復に立ち上がり、親米政権は転覆
キューバへの核攻撃が決め手となって
ニカラグアは合衆国の手を離れる。
これが・・・目の前の男が描いたシナリオだった。
「ママルポッドへのデータ入力完了です。」
の隣へ到達したザドルノフは、楽しげに笑っている
「このままいけばお前は、ゲバラをも超える英雄になれた。
この歳でゲバラ以上の戦果を上げたのだからな。
惜しかったな・・・あと少しだったと言うのに・・・ククク」
抵抗しようにも彼は兵士に両腕を掴まれ羽交い絞めされている
「所詮、伝説とは虚実だ。お前もビッグ・ママのように
死して"永遠の偽り"となれ。」
ザドルノフがその身体へ銃を突きつけて
―撃ち殺そうとした 正にその間際
突如基地の警報が喧しく鳴り響いて
次の瞬間、扉が破壊された。
「な!?」
「GO!GO!GOォォォォ!!」
破壊された扉の奥から、怒号を上げてカズと
MSFの兵士がなだれ込んで銃撃を開始する。
すかさず室内の敵兵達も応戦を始めようと身構え
「ホアチャァァァァァ!!」
叫び声と共に壁を破壊しながら乱入した神楽と
FSLNの兵士、そして銀時達に面食らい
「ベンセレーモス!!」
「うぁぁぁぁぁぁ!!」
アマンダ、チコも戦闘に参加し、KGBの兵士を倒していく。
反撃態勢が整い敵の銃弾が飛来するも
アマンダ達を庇うように、パイソンが前へと出たため
銃弾は全て冷却スーツに当たって凍りつく。
「全く、一度死に追いやったFSLNを護るなんて・・・
とんだ皮肉だな。」
愚痴を零しながらも パイソンは接近して兵を薙ぎ倒し
「オラオラどきやがれぇぇぇぇ!!」
「!助太刀に参ったぞ!!」
「下らない理想で世界が壊されるのは
黙って見てられません!!」
「私ら殺ろうなんざ100年早いねオッサン共ぉぉぉぉぉ!!」
暴れ回る江戸の面々によって大半の兵士と共に
取り押さえていた兵士が吹っ飛ばされたため
「危な!ったく・・・回り見て加勢しろよ!」
もまた、拳銃を取り戦闘へと参入する。
彼らの援軍によってKGBの兵士達は見る間に沈黙し
アマンダ達は、ザドルノフを捕獲していた。
「動くな!」
「同志に銃口を向けるなっ!」
「私達はKGBのコマにはされない!
自分達の勝利は自分達で勝ち取る!!」
「Hasta la Victoria siempre(勝利まで永遠に。)!」
「アマンダ!俺達は帰ってきた!ほらっニカラグアに!」
彼女はそう言ったFSLNの兵士へ顔を向け
相手は・・・感極まったように 言った。
「やったな!アマンダ・・・・
いや、コマンダンテ(司令官)!」
アマンダはその一言へ・・・静かな笑みを返した。
程なく全ての敵を制圧し、MSFの面々はパスと
負傷したコールドマンを確保した。
「ボス、怪我は・・?」
「大丈夫だ。」
隊員の一人へそう返したを見つけ
「VIC BOSS(勝利のボス)」
アマンダは、彼をそう呼んだ。
「え、ビッグボスって・・・さんは今・・・」
「いや違う。」
訂正しようとした新八を手で押し止めたのは、パイソン
「お前はこの勝利を呼んだ。お前こそ、勝利のボスだ!」
パイソンの、その一言を皮切りにして
「VIC BOSS・・・」
「VIC BOSS・・・!」
「VIC BOSS!」
「VIC BOSS!!」
MSF、FSLNの兵士全てが口々に言い合い
『VIC BOSS!VIC BOSS!VIC BOSS!
VIC BOSS!VIC BOSS!VIC BOSS!
VIC BOSS!VIC BOSS!VIC BOSS!』
やがて全員が口を揃え "勝利のボス"の誕生を称える。
「・・・まるでジャンヌ・ダルクだな。」
「やめて、英雄はアンタよ。」
「その英雄の命を救った君達こそ、本物だ。」
「へぇ、かわいいこと言うじゃない?」
「ハハハ・・・ありがとう、よく来てくれた。」
笑いながら彼は握手するために手を伸ばし
アマンダは・・・その手を掴み引き寄せて
を思い切り抱きしめた。
戸惑いながらも・・・彼も反射的に抱き返して
VIC BOSSコールに混じるようにして
派手な"シャッター音"が一つ 鳴り響いた。
「・・・・え?」
「「「ニタァァァァァァァァ。」」」
音の方を見やればその側で、銀時と神楽とカズが
ニタニタした顔でこちらを見返している。
「オイオイ、俺に負けず劣らずモテるなジャックぅ〜」
「いやいやそーいうアレじゃねぇからな!
てーか隣の二人は何してんだ?手に持ってんの何だ?!」
「撮れたアルか銀ちゃん?」
「おうバ〜ッチリ押さえたぜ。」
勿論銀時の手にあるのは、どこからともなく
取り出したカメラ(ヒューイ製)。
「銀ちゃーん、これでリア充が一ついなくなるアルか?」
「そりゃもちろん、動かぬ証拠があんだからよぉ。」
二人は勝ち誇った顔でガッツポーズを取る
「この世からリア充どもを倒す・・・
そう!俺達が真の勝利のボスだ!」
「カッケーアル銀ちゃん!リーダーは私にやらせてヨ!」
「どんだけしょっぱいVIC BOSS!?」
ツッコミを入れた後・・・不穏な気配に気付いて
顔を向けた新八が固まる。
「アンタららよぉ・・・・どうあっても
と俺を別れさせたいのかよ・・・!」
引きつった顔にどす黒いオーラを染み出させて
近づいてくる相手にようやく気付き
銀時と神楽も、後退りを始める。
「お前らがいたんじゃ世界のカップルは救われない・・・」
「ちょ、ちょっと待てって君〜・・・」
「カップルに代わって制裁じゃぁぁぁ!ママルポッドと
一緒にお前らも破壊してやるぞぉぉぉ!!」
「ぎゃああぁぁぁぁ!逃げるアル銀ちゃんんんん!!」
たちまち英雄VSリア充嫌がらせコンビの
追いかけっこへと発展し
「全く、相変わらず騒がしい奴らだ・・・なぁエリザベス」
『ま 平和な証拠だよね?』
「ハッハッハ、違いない!」
それを眺めていた兵士達は 大笑いをした。
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後書き(退助様サイド)
退助「さあピースウォーカーに数多くある
名場面の一つ、VIC BOSS誕生!」
銀時「ていうか紛らわしくねその名前。」
神楽「そうネ、それにそもそもダッサいアル
読み方も違うのにするべきアルよ。」
退助「できるわきゃねぇだろ。つかカメラなんて
いつの間に作ったんだよヒューイ」
ヒューイ「いや・・・彼らがどうしてもってしつこく
頼むもんだからつい・・・出番も無かったし。」
新八「まさかアナタが敵側だったなんて・・・」
ザドルノフ「お、名前表記が変わったか。これでいい。」
チコ「い、いいんだ・・・」
コールドマン「まだだぁぁぁ!まだ終わりじゃなぁぁぁい!!」
カズ「それリキッドの台詞だし、怪我してんだから
安静にしろ!ったく・・・」
狐狗狸「ハゲが元気だとロクなことねーなー」
全員『え!?何故いるし管理人!!』