蹄を鳴らし崖から飛び降りたアンダルシアンの馬体が
真横についたのを見て
はその背に乗り、一気に崖を登っていく。
『いたぞ!まだ近い!』
ピースウォーカーはニカラグアへと進路を進めており
兵器を導くハインドには、十中八九コールドマンと
ストレンジラブ・・・そしてパスが乗っている。
彼は崖を下りながら歩行する機体へと追い縋る。
『ピースウォーカーの推定最高速度は平地で25マイルだ!』
「こいつならまだ30は出る!」
通信が、ヒューイからカズへと変わる
『ハインドにはパスも乗っている、頼む!』
「わかってる!」
『大事な依頼人だ。
ジャック、ピースウォーカーを逃がすな!』
闇に沈んでいた空は徐々に白み始め
同化していた黒い機体をくっきりと世界に
浮かび上がらせてゆく・・・
「夜が明ける・・・行け!」
夜通し駆けて、どうにかハインドからの呟きを
拾えるほど側まで近づくものの
ピースウォーカーは追ってくるに向けて
Sマインを発射してきた。
「ふんんぬおぉぉぉぉぉ!!」
アンダルシアンと息を合わせ、彼は降り注ぐ
クラスター爆弾を避けながら更に距離を詰める。
幾度となくSマインの攻撃を避けている内
前方の木々が、密集し始めていた。
『ジャック!森に入る、気をつけろ。
ピースウォーカーを追え!』
ピースウォーカーは森の木々をなぎ倒しながら進み
時折、道を塞ぐようにして立ち並ぶ木がこちらに向けて
倒れてきたが 馬速を全く落とさぬまま
アンダルシアンは倒木を軽快に跳びかわす。
「いいぞ!この調子なら追いつく!」
『帰れ!』
再びのSマインによる攻撃は広範囲だったが
彼らはクラスター爆弾の網目を抜いて、爆発を
前後にピースウォーカーへと接近する。
第20話 親しきモノの死は、切ない
唸り声を上げたピースウォーカーはスピードを上げ
ついて来る一人と一匹を振り切ろうとしていた
「くそ・・・あと少しだ・・・持ちこたえてくれ!」
懸命に励ますだが、アンダルシアンにも
流石に疲れが見え 緩やかにスピードが落ちてゆく。
「間もなく国境です。」
「ここまでだ、雷電。」
ハインドの窓から、にやついた顔でコールドマンが見下ろす
『まずい、見ろ!その先は国境・・・ニカラグアだ!』
カズの示す通り、ピースウォーカーは断崖絶壁をよじ登り
国境を渡ろうとしていた。
追って彼らも崖を駆け登る
「頑張れ・・・あと少しだ・・・!」
あと少しで壁の頂上へと到達する・・・・その直前
脚を踏み外し、アンダルシアンが崖から落下する
「ぐわぁぁぁぁ!?」
共に落ちたは、転がりながらも崖の途中で
どうにか踏みとどまって
痛みをこらえながらも自力で目の前の壁をよじ登る。
「くそ・・・!こんな、とこでぇぇぇぇぇ!!」
息を荒げながらも崖を登りきった先に 見えたのは
・・・川を渡り国境を越えていく、兵器の姿だった。
(間に・・・・・合わなかった・・・・)
失意に打ちひしがれたまま、佇む彼の耳に
無線の呼び出し音が鳴り響く
『ジャック・・・』
「カズ、ピースウォーカーが・・・。パスも一緒だった。」
それを耳にして、回収され帰還する途中の銀時達が
驚愕した声を上げる。
『な、何でパスさんが!?』
「分からない・・・」
『しかし、どうしてパス殿が敵側の大将の所に・・・?』
『パスは"教授"、つまりKGBの所にいたんだ。
CIAがそれを嗅ぎつけ・・・おそらくはパスと
KGBの関係を、奴は知ってしまった。』
推測に頷いて 言葉を続ける。
「奴は『ピースウォーカー計画』を妨害するKGBの動きを
パスから聞き出すつもりなんだ。」
『そんな!パスは何も知らないはずネ!被害者アル!!』
「だが奴は疑う。」
『・・・もしかして、"教授"はもう殺された・・・?
コールドマンは、パスに俺達を見せつけることで・・・』
『依頼人押さえ込んだから 手ぇ引けってコトか?』
銀時の発言に、カズは悔いを露にした。
『そうなってしまうな・・・迂闊だった。
パスとの連絡が途絶える前に気付いてやるべきだった。』
「カズ、悔んでる時じゃない。」
『・・・ジャック、行くのか?』
「ああパイソン。」
『そうだ、もうビジネスは関係ない 先を急ごう。
奴らの行き先がわかったんだ。』
「本当か!?」
この絶望的な状況でわずかな光が見え、彼は目を見開く。
『ああ、アマンダが調べてくれた。今代わる。』
入れ替わり様にアマンダは言葉を紡ぐ
『ジャック、あんたがバシリスコを追い込んだのは、サン・ファン河。
その対岸はあたし達の祖国・・・ニカラグアよ。
その先の足取りを、ニカラグアの同志に追って貰った。
核路線も長期人民戦争派(GPP)だから、あまり
付き合いがないんだけど・・・』
「奴はどこへ?」
『バシリスコは西へ。国境沿いにラゴ・コシポルカまで。』
国境沿いにあるラゴ・コシポルカでは
2年前の地震で被害を受けて以来、合衆国が一体を占有したため
南東に米軍の補給基地が存在する。
そこへバジリスコ・・・ピースウォーカーが逃げ込んだとの
返答が、彼の問いへ返された。
「わかった。だがどうやって国境を超える?」
『パスポートとか・・・いるんでしょうか?』
『そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろう
強硬手段に出るしかない・・・』
弱々しい新八の言葉を否定するカズへ、彼女は言う
『待ちなよ、国境越えに使ってるルートがあるの。
その船長を紹介する 小さいボートだけど』
『おお、そうしてくれるか』
「・・・悪いな。」
『ヤツを止めたいのは、こっちも一緒だからね
二度と祖国を・・・よそ者の好きにはさせない。』
アマンダのその一言には 強い意志が込められていた。
『ジャック、コールドマンはその基地で核を撃つ。』
目標は言うまでも無くMSF
ヒューイによれば発射準備にあと2日かかるとのコト・・・だが
『決行日の指定には、他の理由があるらしい。』
『他の理由・・・それはどのような事だ?』
『明日から、ウラジオストクで米ソ首脳会談が行われる。
その開催に何か関係があるとか。』
には、何か思い当たる節があった。
「確か、第二次戦略兵器制限交渉(SALTU)の
会談が行われる予定のはず・・・」
『んだそりゃ?』
「簡単に言うと、自分の国はこれだけ兵器を減らすから、
そっちもそれ相応に減らしてくれと交渉するんだ。」
『コールドマンは、その交渉の席をぶち壊そうと?』
「あるいは、その交渉の切り札にする?」
『パスのこともある・・・。
とにかく、もうあまり時間がない。』
「ああ、なんとか食い止めてみせる。」
無線を切ったはルートを進み
ほどなくして、アマンダの紹介してくれた船長と合流する
『ゴンドラで川沿いに西へ、北の岸に上がったら
そこはもうニカラグアよ。基地の側まで案内を頼んである。』
「ああ、ありがとうなアマンダ。」
『・・・ジャック。』
「チコ、どうした?」
交代した彼は、無線越しに寂しげな声で呟く
『あの馬、残念だったね。きれいな馬だったのに・・・』
「・・・・ああ。」
『でも・・・本当に良かったんですか・・・あれで・・・』
『怪我くらい治せば済む事ネ。あんな崖でくじいたぐらいで』
『いや・・・・あの場でのジャックの行動は正しいんだ』
不思議そうな新八と神楽へ、カズは答える
『馬は、脚を骨折したら様々な病気にかかり苦しむ。
・・・馬として誇りを護れないのなら、あの場で殺した方が
馬も誇りを失わずに済む。』
『でも・・・殺すのなんてあんまりだよ・・・!』
『サニーちゃん、一番つらいのはなのよ。
わかってあげて・・・』
しばしその場に押し殺すような静寂が広まり
カズが、それを破るように呼びかける
『ジャック、基地までは時間がある。今のうちに休んでおけ。』
「だが・・・」
『大丈夫よ、同志は寝込みに盗みを働くほど愚かではないから。』
『お主ここにきて一睡もしてないではないか。
体を壊しては元も子もないぞ。』
「ああ、わかった。」
船に乗り込み は二人の忠告に従い眠りへとつく。
・・・・闇を抜け、三度オオアマナが咲き誇る場所で
「綺麗でしょ?生命の終わりは・・・切ないほどに・・・」
ビッグ・ママはあの時のように、そこにいた。
「待っていたわ・・・ジャック、ずっと。」
「ママ・・・・・・・」
倒れたままで・・・けれどやさしい顔をした彼女を見下ろす内
「もう私から与える物は、何もない。
後は私の命を、お前が奪え、自分の手で。」
その姿が、横たわるアンダルシアンと入れ代わる。
「どちらかが死に、どちらかが生きる。勝ち負けではない。
生き残った者が後を継ぐ。
生き残った者がボスの称号を受け継ぐ。」
は無言でパトリオットを・・・彼女へと向ける
「殺して・・・私を・・・」
銃口を向けたその先が、同時にアンダルシアンへ
向けたものへと立ち代わって映し出される
「ボスは、2人もいらない・・・・
英雄は・・・一人でいい・・・・」
引き金が絞られ、アンダルシアンへ銃弾が撃ち込まれ
間を置かずそれがビッグ・ママを撃った光景へ代わり
銃声と共に辺りは暗く沈んでいく・・・
『・・・ビッグ・ママの亡命はアメリカ政府が仕組んだ
偽装亡命だったの・・・ただ、思いもしない事態が起こった』
闇の中で突然、エヴァの声だけが響き渡る。
『ヴォルギン大佐がソコロフ設計局に向けて
アメリカの核弾頭を撃ち込んだ。
作戦のシナリオは大きく加筆、修正させられた。
アメリカ政府の潔白を証明するために、ビッグ・ママは
抹殺されなければいけない・・・』
それは、中南米へと赴くよりも更に以前
エヴァから送られたテープに録音された音声だった。
内容は、マザーキル作戦を終えた後
ママの墓前で語られた話の―詳しい概述
声に耳を傾ける内、の脳裏に・・・
幼い頃ビッグ・ママと過ごした日々
『生還は許されなかった。自決も許されない。
あなたに・・・愛した息子によって命を絶たれる・・・
それが政府の望んだ、遂行されなくてはならない・・・
彼女に与えられた責務だった。』
突然の別れと 思いもしなかった再会
『彼女は、汚名を着せられたまま葬られる。
後の世紀まで、彼女は語り継がれる。
アメリカでは恥知らずの売国奴として・・・
ソ連では核兵器を撃ち込んだ凶人として・・・
表の世界史に、犯罪者として永久に記録される・・・』
ザンジバーランドで対峙した際、ビッグ・ママの悲しげな瞳
『それが・・・ビッグ・ママの最後の任務。』
そして、彼女の墓の前に立つ自分の姿が・・・次々と映し出される。
『ジャック、これは歴史には記録されない。
誰にも伝えられる事のない。
あなたの心だけに残す・・・彼女の・・・・!帰還報告。
全ては国のため、祖国のため、名誉も命も捧げた・・・
彼女こそが英雄よ。彼女こそが・・・真の・・・愛国者。』
は涙を流しながら敬礼をし、彼女への忠を示す・・・・・
「・・・・・・・だ・・・・旦那、着いたぞ旦那。」
呼び声に・・・ゆっくりと蒼い瞳が持ち上がる
「あ・・・・・・」
「随分うなされてたけど・・・大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。」
「あそこだ。」
船長が指差す方向に、ピースウォーカーが
向かったと思われる基地があった。
「あそこがラゴ・コシポルカだ。気をつけてな。」
「ああ、すまない。」
船を降りて船長と別れたは
ピースウォーカーを破壊するため、基地へと潜入を開始する。
――――――――――――――――――――――――
後書き(退助様サイド)
退助「重た過ぎる回想を経て、いよいよ
最終決戦に近づいてまいりました。」
銀時「おい何だよこれ?最初の長編と全然内容違ぇぞ?」
退助「いや正直・・・あんまりいいトコ説明出来てなかったな〜
と思って。あ、でもここのシーンは
ゲームでもあったので原作再現です。」
神楽「やっすい再現ネ。」
桂「これのせいで管理人が困惑していたぞ?」
退助「ああ あれは・・・・・・PW編前にエヴァから
帰還報告の詳しい話をテープで聞いた・・・・・・
ってことにしといてもらえませんかね?」
新八「後付け臭さハンパないですけど・・・
けどあの馬・・・本当にかわいそうですね・・・」
カズ「ジャックが一番つらいんだ、わかってやってくれ。」
ストレンジラブ「馬の最期としては、いい走りだった。
連れてきた甲斐があったというものだ。」
チコ「そういえばさ、リオレウス何処行ったんだ?」
神楽「あの時から からっきしアル。
どうせスポット参戦に決まってるネ。」
退助「さあ?どうなるんでしょうかねぇ・・・・」