彼は単に2人を追い出したのではない


パスはともかく、あのガルベスと言う男を
警戒し・・・少し距離を設けたのだ。







2人が外へ出て行って しばらく時間が経ったものの





・・・まだ居るわよ。」





雨に打たれながらも、未だに小屋の側を離れずに
佇んでいるのが窓から除き見ることが出来た。





「・・・そうか。」





別室でMSF隊員と銀時達がギャーギャーワーワー
やかましく騒ぎながらすき焼きをつつく声が雨音と重なり

室内の重苦しい沈黙を若干、緩和しているが・・・





「ジャック、悪い話じゃないと思う。根無し草の俺達に
落ち着ける場所を提供してくれるってんだ。

洋上プラントだぞ?これを機にMSFを拡大できる。」


耐え切れず、カズが口火を切る。





しかしはゆるく首を振って





「カズ、俺達に安住の地はいらない。
俺達はこれまで通り、ノーマッド(放浪者)でいい。」


「・・・紛争地帯を渡り歩いては、その都度
戦場に利用されるのが望みか?」


「何処かに居を構えたりすると、まさに
その戦争屋に成りかねない。」


「あの時も言ったはずだ、俺達は傭兵じゃない。
外人部隊でもない MSFは新しいビジネスなんだ。」






テーブルに肘を乗せてため息をつく彼へ、カズは
尚も熱心に言葉を連ねる。





「ジャック、奴らと戦争をしようというわけじゃない。

その警備会社とやらの正体を突き止めるだけでいい。」


「いや、調べるまでもない・・・
奴らの背後にいるのはCIAだ。」


そこで、カズも何かに感づいた。





待てよ?そうなると・・・」


「あの教授・・・恐らくKGBだ。」


「そうか・・・」


「俺達は・・・アメリカを敵に回すことになる。」


「後戻りはできなくなる、か・・・」





急に俯く彼らを交互に見やり、場の空気を和らげようと
おずおずは進言する。





「でも、愛国者達の力で何とかなるんじゃ・・・」


けれども 彼の表情は暗いままだ





「いくら平和維持組織でも、介入には限界がある。
CIAが絡んでいるとなるとなおさらだ。」


「迂闊に手を出せば・・・混乱は免れない?」


「ああ・・・」


「ああぁぁぁ!火が消えたアル!!」





唐突に神楽の叫び声が響き渡り、3人は肩を震わせた。











第2話 悪役キャラが多いけど、あの人の声
嫌いじゃないんだよなぁ












「あーこれガスが切れたみたいだね。」


ざけんじゃねーよ!肉が冷めちまわぁ!」


「参ったな・・・失礼だが、そちらの鍋の具を
少しばかり分けてもらえないだろうか?」


「無理ですよ、ちゃんと鍋ごとに配当が決まってます。
分けることは出来ません。」





チラリと室内を覗けば そこではMSF隊員達の
合間を縫って右往左往する江戸の面々の姿が





「っだああぁぁぁぁぁ!やっとイラつくチャッカマンから
解放されたと思った矢先これだよ!」



「ガスカセットの予備はあるけど・・・やっぱり
火がつけられないとどうにもなりませんね。」


「肉肉肉ぅぅぅぅぅ!!」


「少し黙っとけ大食い娘!!」





・・・あまりにも低レベルな争いを目の当たりにし
彼らは玉の汗をかいたまま顔を見合わせる。





「あの連中また騒ぎやがって・・・」


「生憎ライターもマッチも切らしてるのよね。
買ってきましょうか?」


「・・・・・・いや、その必要はない。」


「ジャック?」


、コーヒー淹れてくれ。
"教授"本人に聞いてみよう。」





そう言うと、は小屋の戸を開き

外で佇むパスとガルベスを招き入れる。







「雨に濡れて寒いでしょ?これで体を拭いて。」


「ありがとう・・・」





彼女が差し出したバスタオルを受け取って
僅かにパスが微笑んだ、その直後





「うがあぁぁぁぁ!もうムカ入ったネ!
このまま食ってやるアルぅぅぅぅ!!」



「駄目だって神楽ちゃん!
いくら牛肉だからってお腹壊すってば!!」



別室での騒ぎは最高潮に達していた。





眉間にしわを寄せて彼は呟く





「教授、早速ですまないが
あの騒がしい連中を黙らせてくれないか?」


「ええ いいでしょう。」





言うが早いがガルベスは別室へと足を向け





「ん?誰だお主は」


「客人だよ、失礼する・・・」


すき焼き鍋のコンロへ義手を近づける


途端、指先から仕掛けが飛び出して火がついた。





うわ!?指から火が!?」


『この真っ赤な手・・・仕込みの義手?』


「ええ、以前私はヘビースモーカーだった。

書記長閣下から勲章を貰った時にこの義手を
いただいたのだが・・・肺を患ってね。」


「うわばばばばばそんな大切な義手を
すき焼き鍋なんかのために申し訳ありません!!」






珍しげに見ていた新八が、ものすごくテンパって
土下座して謝りだすが 他の面々は既に鍋にしか意識が無い





「何してんだよ新八ぃ、さっさと食おうぜ。」


「食わないんなら根こそぎいただくネ!
オメェの分もうねーからぁ!!


お前ら少しは謙遜しやがれぇぇぇ!
謝れぇぇぇ!床に頭擦りつけて謝れぇぇぇぇ!!」


勢いで側にいた銀時と神楽の頭を掴んで床に叩きつけ





「「あにしやがんだダメガネぇぇぇぇぇ!!」」


即効でボコボコにされていた。





青筋を立てるガルベスへ、ちゃっかり自分の分を
確保しながらも桂が声をかける。





「失礼をした客人、ともあれ便利な手を持っておるな」


「いやいや、煙草をやめてから使い道がなかったんだが・・・
役に立てて光栄だよ。」











すき焼きにがっつく江戸の面々を後にし、応接室へと
戻ってきたガルベスはへ顔を向け微笑む。





「ともあれ先程は言いそびれてしまいましたが
・・・伝説のビッグ・ボスにお会いできて光栄だ。」





軽いため息を共に返事が返る。





「止してくれ、そのコードネームはもう返還した。
それに・・・その名を口にされると嫌な事を思い出す。」


「では何と?雷電と呼べば?」


「俺には本当の名前はない 雷電もビッグ・ボスも
そんな名前は必要ない・・・ツェントル(KGB)から来た
あんたのことは何て呼べばいい?」





問いに、ガルベスは表情を不敵な笑みに変えた。





「それなら・・・話が早い。







不穏な空気を読み取り、はスカートの裾を絞る
パスへと言葉をかける。





「パスちゃん、お風呂沸かしたから入らない?」


「はい・・・」


頷き、バスルームへ向かう彼女





・・・・の後ろへ着いていくカズの後襟が掴まれた。





「カズさん、何処に行くつもり?」


「いや・・・ついさっきうっかり風呂の中に
サングラスを忘れたもんで・・・」


「その目にかけてるのは何かしら?」


怖い形相で睨まれ、彼はよからぬ下心を押さえ込む





「わ、わかったわかった・・・冗談だよ。」









空気が落ち着いた辺りで、気を取り直したガルベスが
淡々と言葉を紡ぎだす。





「鞭の如く痩せ細り、拷問の如く熱き土地。」


「チリの詩人・・・ネルーダの詩・・・?」


思わずと言った呟きに頷き、彼は言葉を続ける





「中米は北米大陸と南米大陸を繋ぐヘソの緒だ。
我々はここが欲しい。

ここに社会主義国を創り、南米アメリカを分断する。





初対面の時とは全く違った雰囲気に、は内心で

"やっと本性を現したか"と呟く。





「アメリカは・・・裏庭を失う。」


「その生産、流通、軍事戦略的価値全て失う。
そして同時に、我々は南北アメリカを射程に収める基盤を
手に入れることになる。


この中央アメリカを取ったものこそが『冷戦』に勝つ。」





米ソ間は、表向き同盟を結び直した体を成しているが

裏では未だに競争が続いている・・・


軍事に携わる達には周知の事実である。





「ますはニカラグア、親米派のソモサ政権を転覆させる。


その準備として・・・我々は反ソモサ世論に拍車をかけ
同時に反ソモサ勢力であるサンディニスタ民族解放戦線
(FSLN)
の支援を行っている。」


「FSLNが、ニカラグアの親米政権を倒すよう
仕向けるわけか。」





"サンディニスタ"の単語が出て、彼の目が強張る。





「革命が成功すれば、ニカラグアは社会主義化する。」


「しかしアメリカも黙ってはいないだろ。」


「まさに・・・だからこそCIAが動き出したのだ。」


「それがコスタリカの・・・武装集団の正体だと?」


「そうだ。ニカラグアでの我々の活動を妨害するため
隣国のコスタリカに軍隊を送り込んでいるに違いない。」





つまり、現在コスタリカに駐屯している軍隊は
CIA資本からのモノである可能性が高い


そう指摘して、ガルベスは次の句を口にする。





「だがCIAはそれだけにとどまらず、ここで
何かを始めているようだ。」


「・・・何をだ?」


「我々もそれが知りたい。ビッグ・ボス、あなたと
あなたの部隊にそれを突き止めて欲しいのだ。」


一歩身をせり出し 彼は図々しくも要求を繰り出す





「まずは、彼らの陰謀を調査するためパスが捕らわれていた
沿岸の施設に行き、各拠点の情報を入手

そして奴らを追い出して欲しい。







そこでは、鋭い一瞥を相手へと寄越した





「俺達に、KGBとCIAのイザコザに介入しろと?」


あの娘は?さっきのは作り話か?」





バスルームの方へグラサン越しの視線がチラリと向けられるが

ガルベスは鼻で一笑する。





「ふん、平和の話だな。彼女が捕まっていたのは本当だが
私がKGBであることは伏せてある。」





その返答はカズの顔をも強張らせるに十分だった。





「随分と舐められたものだな・・・
お涙頂戴の作り話で、引き受けるとでも思ったのか?


「いや、彼女に同行して貰ったのには理由がある。

彼女は何とか逃げ延びたが、彼女の友人はまだ生還できていない。
何故彼女が襲われたか?そのヒントがここにある。」





悠々と言い、ガルベスは懐からカセットテープと
専用の再生機を取り出す。





「恐らく、見てはいけないものを見てしまった・・・・
いや、聴いてはいけないものを聴いてしまった。


んだこりゃ?今更カセットテープかよ?」





そこに万事屋トリオと桂、エリザベスが割って入る。





「すき焼き食ってたんじゃないのかよ?」


「もう食い終わったネ。てーかS○NY製だと
3年か5年でリミット来るアルよ。」


「これは彼女、パスが施設から持ち帰ってきたものだ。
中米は発展途上でね まだこんなものしかないのだよ。」


「すみません、悪く言ったつもりはなかったんですが・・・」


「気にしなくてもいい。このテープはパスの友人が
偶然、録音したものらしい。


これを聞けば・・・あなたも気が変わるはずだ。」





カセットテープのスイッチが押されると、すぐさま
鳥の鳴き声が聞こえてきた。





「ふむ、何とも奇妙な鳴き声だな。」


「これは・・・ケツァール?


「コスタリカに棲む鳥か。」


「・・・パスの友人は鳥の研究をしていたようだ。
森で鳥の声を録音中 何かに出くわした。」







しばらく室内の全員がテープの音に集中するが


ノイズとケツァールの声しか聞こえないため
次第に周囲が苛立ってくる。





「さっきから鳥の声しか聞こえないアル。」


「これのどこが!?」


いきり立つカズをが無言のまま手で止める





その様子を見てガルベスは、テープを早送りする。


「って最初からやれよオッサン」


しっ!ここからだ。」





頃合を見て合間を飛ばされたテープから・・・不意に
英語で歌われた歌詞が流れてきた。





曲に紛れて、女性2人の声が混じる。





『・・・・・・追い返せない、凶暴な蛇だ。』


『・・・追い返す。』


『殺さなければ、あなたが咬まれる。』


『・・・帰れ!』


その一言がハッキリと聞こえ、が目を見開く。





「・・・ママ!?







聞き間違うはずも無く・・・・・叫んだ女の声は

もうこの世を去ったはずの"ビッグ・ママ"その人だった。







「今の、マジでの母ちゃんの声アルか?」


「声紋分析の結果、ひとりの音声が伝説の英雄であり、
犯罪者である『ビッグ・ママ』と一致した。」


「何だって!?」


「ちなみにもう一人は不明だ・・・判明しているのは
30代の女性、イギリス訛りがある。コレくらいか」


「おいオッサン、こいつが本当にそのどこだか
撮られたっつー証拠でもあんのか?」





訝しげな銀時の問いに、しかし彼は動ずる事なく答える。





「・・・先程の鳥の鳴き声に関してもそうだが、
背景に聞こえている曲は当時の大戦中のヒット曲でね

ビッグ・ママ存命中にも、よく巷で流れていたものだ」


「つまり"捏造ではない"と言いたいわけか。」





返すカズの言葉もどこか苦々しさを含んでいる。







『国に忠を尽くすか、それとも私に忠を尽くすか?
国か、恩師か?任務か、思想か?』


『私は・・・自分に忠を尽くす・・・』







頭の中に彼女の言葉が蘇り・・・はガルベスを問いただす





「ママが・・・コスタリカで生きているとでも?」


「そんなはずないわ!
は自分でお母様をお墓に埋めたのよ!」



「・・・私は知る限り、彼女はあなたと共にいた唯一の息子

そして、CIAの命令を受け あなたが殺し・・・
あなたは・・・英雄ビッグ・ボスへと昇格した。」





淡々と結ばれた言葉の終わり、脳裏に
ビッグ・ママを撃った光景と銃声とが蘇る





「・・・さん、さん、大丈夫ですか?」


「あ、ああ・・・大丈夫だ。」


新八に指摘され、彼は自分が息を荒げ
冷や汗を掻いていた事を自覚した。







丁度 着替え終えてパスが戻ってきたのを見計らい





「さあ・・・どうします?引き受けてもらえますか?


再度ガルベスは依頼の受諾を迫ってきた。





「ジャック、これは罠だ!」


「そうとも、貴様は自らの手で母親を埋めたのだろう
こんな男の戯言など放っておけ!」







強く周囲が否定する中、彼は口を吊り上げ





「やはり、祖国に背くことは出来ませんか?
では・・・これはもう、いらない?


義手の人差し指に灯した火へカセットを近づけていく。





少しずつ火に炙られてカセットが焼けかけ・・・





「待て!!」





直前で、殴り飛ばすようにして
カセットを彼の手から奪い取る。





「ジャック?」


こんな手の込んだ嘘を信用するの!?」





信じられないと言いたげな彼らを代弁した
当人は、戸惑いながらも口を開く。





「あ、あの娘のためだ・・・!
パスの・・・平和のためだ・・・!


その様子を見届け、火を消したガルベスが
ピースサインを向ける。





「なるほど・・・平和のために・・・」


「ありがとう・・・」





掛け値の無い微笑みを浮かべ、パスは
その言葉に感謝を示していたので


他の者達はそれ以上何も言えなくなってしまった。







・・・死んだはずのビッグ・ママが

南米で、コスタリカで生きている。


信じがたいその出来事の 真実を知るために


は・・・・・コスタリカへと飛ぶ。








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後書き(退助様サイド)


退助「さて、前座も終わりいよいよこっからが
コスタリカでの行動ですよー準備OKですかー」


新八「謎多すぎませんか初っ端にしても!?
そもそもどうしてさんのお母さんが生きてることに」


ガルベス「さぁ・・・それは私にも分かりません。
しかし、彼なら必ず引き受けてくれると思っていました。」


カズ「まさか教授・・・その情報を切り札にしていたのか?」


ガルベス「ええ・・・ビッグ・ママを敬愛していた彼を
動かすには十分な材料なのでね。」


神楽「すっげー腹の中真っ黒アル、まぁ
正体バレてる時点でドS王子には負けるけどな。」


桂「にしても何故あやつは客人の素性を疑ったのやら・・・」


銀時「ていうか、こんな調子で俺達の出番あんのか?」


退助「あるにはあるけど・・・
展開上の都合であんましないかも・・・」


銀時「ちょっおま、マジでかぁぁぁぁ!?」